
令和8年(2026年)10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります。厚生労働省のリーフレットによると、雇い入れ時の労働条件明示に新しい項目が加わり、同一労働同一賃金ガイドラインと雇用管理指針も見直されました。外来の受付、看護補助、医療事務などにパート職員や有期契約の職員を置くクリニックは多く、従来の労働条件通知書の様式を使い続けると、明示すべき事項が抜けるおそれがあります。この記事では、厚労省の資料で確認できた改正点と、院内で何を確認すればよいかを整理します。
正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」で、一般にパートタイム・有期雇用労働法と呼ばれます。正社員とパート・有期雇用の労働者との間にある不合理な待遇差を解消し、働き方に応じた公正な待遇を確保するための法律です。クリニックで言えば、常勤の看護師・事務職と、短時間勤務の受付スタッフや契約期間のある看護補助者との待遇のバランスが対象になります。
今回の見直しは、厚労省が公表した資料によると、大きく3点にまとめられています。厚労省Webマガジンの整理では、①労働条件明示事項の追加、②同一労働同一賃金ガイドラインの改正、③雇用管理の改善等に関する措置(指針)の内容変更、です。いずれも令和8年10月1日に施行・適用されます。
| 見直しの項目 | 内容(厚労省資料の整理) | クリニックでの関係 |
|---|---|---|
| ①労働条件明示事項の追加 | 雇い入れ時に、待遇の相違の内容・理由等の説明を求めることができる旨を明示する | パート・有期職員の労働条件通知書の様式 |
| ②同一労働同一賃金ガイドラインの改正 | 住宅手当、夏季・冬季休暇、賞与・退職手当などの考え方が整理された | 手当・休暇・賞与の設計と就業規則 |
| ③雇用管理指針の見直し | 待遇差の説明方法、過半数代表者、正社員への転換措置などが整理された | 説明の手順、職員代表の選出、転換制度の有無 |
なお、パート・有期雇用の職員を一人も雇っていないクリニックは、当面この改正の直接の対象にはなりません。ただし、パート職員を新たに採用する、非常勤の事務スタッフを置く、といった場面は開業後に生じやすいため、制度の概要は知っておく価値があります。承継開業の場合は、引き継ぐスタッフの契約形態を確認する際にも関係します(クリニック承継でスタッフの雇用と労働条件はどう引き継ぐ?も参照)。
最も実務に直結するのが、雇い入れ時の労働条件明示の追加です。厚労省の資料によれば、施行規則第6条第1項の明示事項に、「事業主に法第14条第2項の規定による説明を求めることができる旨」が加わります。労働条件通知書の記載例(厚労省公表)でも、改正後の新たな明示事項として「待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨」のチェック項目が示されています。
一方で、相談窓口(待遇について相談できる窓口の部署名・担当者・連絡先)は、記載例の「現行の明示事項」にすでに含まれています。今回新しく加わったのは説明を求められる旨のほうで、相談窓口の欄は従来どおり必要です。
| 区分 | 明示事項 | 今回の改正 |
|---|---|---|
| 従来からの明示事項 | 相談窓口(部署名・担当者の職氏名・連絡先)など | 変更なし |
| 新たに加わる明示事項 | 待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨 | 令和8年10月1日から必要 |
通知書の様式を改めるタイミングは、新たにパート・有期雇用の職員を雇い入れるときです。既に在籍している職員の契約更新時に通知書をどう扱うかは、今回確認できた厚労省資料からは読み取れませんでした。更新を迎える職員がいる場合は、管轄の都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))や社会保険労務士に、自院の運用を確認しておくと安心です。
厚労省のリーフレットには、この明示義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象になる旨が記載されています。過料は刑罰とは別の行政上の制裁ですが、様式の更新漏れで起こり得る点は押さえておきましょう。電子カルテや勤怠システムのひな形から通知書を自動出力している場合は、ひな形が改正に対応しているかの確認が必要です。
「説明を求めることができる旨」を明示するだけでなく、実際に職員から求められたときの説明の仕方も、雇用管理指針で整理されました。厚労省の資料では、待遇の相違の内容・理由などの説明は、次のいずれかの方法で行うとされています。
資料の交付が難しい場合でも、労働者からあとで求められたときに、資料を閲覧させるなどの工夫をすることが望ましい、とされています。つまり、院長や事務長がその場の記憶で口頭説明するだけでは足りず、あらかじめ説明用の資料を整えておくことが前提です。
説明の対象は、待遇の相違の内容と理由、そして法第6条から第13条までの措置を講じる際に検討した事項です。クリニックでは、常勤職員とパート職員とで、基本給、賞与、通勤手当、休暇などに違いがあるなら、その違いと理由を職務内容・配置の変更範囲といった観点から説明できる状態にしておくことになります。
待遇差の説明を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないことは、法律上の従来からのルールです。今回の改正で通知書にその旨が明示されることで、職員が説明を求めやすくなる側面があります。説明を求められた際の窓口を、院長・事務長・外部の社労士のうち誰にするかを、あらかじめ決めておきましょう。
ガイドライン(同一労働同一賃金ガイドライン)は、どのような待遇差が問題となるかの原則を示す告示です。今回の改正で、厚労省は新たに触れた待遇項目として、賞与、退職手当、無事故手当、病気休職、夏季・冬季休暇、褒賞、家族手当、住宅手当、福利厚生施設などを挙げています。このうち、リーフレットで具体的な記載を確認できた項目は次のとおりです。
| 項目 | 厚労省リーフレットの記載の要旨 |
|---|---|
| 夏季・冬季休暇 | 正社員と同一の夏季・冬季休暇を、パート・有期雇用労働者にも付与しなければならない |
| 住宅手当 | 転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給される手当は、同じ条件のパート・有期雇用労働者にも同一に支給する |
| 賞与・退職手当 | 労務の対価の後払い、功労報償といった目的と、職務内容などの違いに応じて、バランスの取れた支給が求められる |
また、厚労省の資料では、「正社員人材の確保・定着」という目的があるだけで、待遇の相違が当然に合理的と認められるわけではない、という考え方も新たに示されています。人手が足りないから正社員だけを優遇する、という理由づけだけでは、待遇差の説明として成り立たない可能性があります。
クリニックでは、家族手当や住宅手当、賞与の支給を常勤職員にだけ設けているケースもあるでしょう。ガイドラインは「この手当を出さなければ違法」と一律に決めるものではなく、手当の趣旨と、職員ごとの職務内容・配置の変更範囲を踏まえて考えるものです。自院の手当を一覧にし、それぞれの目的を書き出してみると、説明の準備になります。
雇用管理指針では、パート・有期雇用労働者の意見を反映させる仕組みについても整理されました。厚労省の資料から確認できる主な内容は次のとおりです。
就業規則の作成や変更の際に意見を聴く過半数代表者は、パート職員を含む全職員の過半数を代表する者である必要があります。少人数のクリニックでは、院長が事実上の指名で済ませてしまう例も見かけますが、選出方法そのものが指針で整理されている点は意識しておきたいところです。就業規則や賃上げ原資の考え方は、クリニックの人材定着・賃上げ原資・評価制度でも整理しています。
ここまでの内容を、クリニックの運営に引き直すと、確認の順序は次の3段階になります。
社会保険の適用拡大や最低賃金の改定とあわせて、人件費の設計を見直す必要が出てくる場合もあります。パート職員の社会保険についてはクリニックの人件費、2026年10月の最低賃金と社会保険の影響を参照してください。
なお、事務長代行などの外部サービスに労務管理の一部を任せる場合でも、事業主としての明示義務や説明義務は院長(開設者)側にあります。外部に任せる業務の範囲は、事務長代行の判断基準と費用もあわせて確認してください。
令和8年10月1日です。厚労省のリーフレットでも、施行日は令和8年10月1日と案内されています。同日以降にパート・有期雇用労働者を雇い入れる場合は、改正後の明示事項を含めた労働条件通知書が必要になります。
いいえ。厚労省の労働条件通知書の記載例では、相談窓口は「現行の明示事項」に含まれています。今回新たに加わったのは、待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨の明示です。
書面だけとは限りません。厚労省の資料では、資料を活用して口頭で説明する方法、または理解しやすい資料を交付する方法のいずれかとされています。資料の交付が難しい場合でも、あとで求められたときに閲覧させるなどの工夫が望ましいとされています。
厚労省のリーフレットには、明示義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象になる旨が記載されています。具体的な適用の判断は個別の事情によるため、不安がある場合は都道府県労働局や社会保険労務士に相談してください。
厚労省のリーフレットでは、就業規則や労務管理に関する相談は働き方改革推進支援センター、同一労働同一賃金に関する相談は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)とされ、受付時間は8時30分から17時15分(土日・祝日・年末年始を除く)と案内されています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の労務判断や手続きの要否を保証するものではありません。労働条件通知書の様式、就業規則、待遇の設計にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家および管轄の都道府県労働局に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年10月5日/最終更新日:2026年10月5日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身