
年次有給休暇のうち年5日は、使用者が確実に取得させなければならない——この義務は2019年4月から始まっており、パートや非常勤の職員を抱えるクリニックも対象です。厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、年休の取得率は全体で66.9%、医療,福祉は68.4%でした(令和7年1月1日現在の調査で、数値は令和6年1年間の状況)。取得率が高くても、誰に・いつまでに・何日取らせるかの管理が院内で決まっていなければ、義務違反は起こりえます。この記事では、条文と厚生労働省の資料にもとづき、クリニックが確認すべき点を整理します。
まず年休の付与の仕組みを確認します。労働基準法第39条は、雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した職員に10労働日の年休を与えるよう定めています。その後は継続勤務1年ごとに日数が加算され、厚生労働省のQ&Aでは最高20日とされています。直前の期間の出勤率が8割未満なら、次の1年間は付与しなくてよいとされています(業務上の療養や育児・介護休業などの期間は出勤とみなします)。
義務の中心は同条第7項です。10労働日以上の年休が付与される職員に対し、使用者は、年休が発生した日(基準日)から1年以内に、そのうち5日について時季を指定して与えなければなりません。たとえば4月1日に入職した職員なら、6か月経過した10月1日が基準日となり、翌年9月30日までに5日を取得させる、という考え方です。
| 確認項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 対象 | 年10労働日以上の年休が付与される職員。パート・非常勤・管理監督者を含む | 労働基準法第39条第7項、厚生労働省Q&A |
| 期限 | 基準日から1年以内 | 同上 |
| 義務の内容 | 5日について、使用者が時季を指定して取得させる(本人請求などで取得済みなら不要) | 第39条第7項・第8項 |
| 繰越分 | 前年度から繰り越した年休を取得した場合も、当年度の5日に含まれる | 厚生労働省Q&A |
| 罰則 | 30万円以下の罰金 | 労働基準法第120条第1号 |
| 施行 | 2019年4月1日 | 厚生労働省Q&A |
なお、年休の請求権は2年間有効で、使わなかった分は翌年度に繰り越されます(厚生労働省Q&A)。繰越分を取得した日は当年度の5日に含まれるため、繰越分と当年度分のどちらから消化するかを院内で決めておかないと、管理簿の記録がずれます。
5日の取得は、次の3つの方法を組み合わせて満たせば足ります。厚生労働省の資料は、すでに本人の請求や計画的付与で5日以上取得している職員には、使用者による時季指定は不要で、行うこともできないと整理しています。
| 方法 | 時季を決める人 | 条件・ポイント | 5日に数えるか |
|---|---|---|---|
| 本人の請求(第39条第5項) | 職員 | 使用者は請求された時季に与える。ただし「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、別の時季に変更できる(時季変更権)。取得の目的を理由に断ることはできない | 数える |
| 計画的付与(第39条第6項) | 労使協定 | 5日を超える部分についてだけ、時季を協定で定められる。一斉の休業、班別・部署別の交替取得、個人別の計画表などの例がある | 5日を超える部分のみ |
| 使用者の時季指定(第39条第7項) | 使用者(本人の意見を聴いたうえで) | 5日に満たない分を、使用者が時季を指定して取得させる | 数える |
数え方で間違えやすい点が2つあります。第一に、半日単位の取得は5日に数えられますが、時間単位の年休は数えられません。時間単位年休は、労使協定を結べば年5日以内の範囲で導入できる制度ですが、5日の算定からは外れます。
第二に、計画的付与は「5日を超える部分」にしか使えません。年休が10日付与された職員に5日を計画的に付与しても、残りの5日は本人が自由に使える日数として残さなければなりません。
労働基準法施行規則第24条の6は、時季指定のルールを次のように定めています。使用者は、年休を時季指定により与えることを職員に明らかにしたうえで、あらかじめその時季について職員の意見を聴かなければなりません。聴いた意見は、尊重するよう努める必要があります。指定は基準日からの期間の初めに限らず、途中で行うこともできます(厚生労働省Q&A)。
実務では、次のような流れが一例です。なお、これは運用の一例であり、法令が定める手順ではありません。
基準日が職員ごとに異なると管理が煩雑になるため、年休を前倒しして付与し、基準日をそろえる方法もあります。施行規則第24条の5は、基準日より前に10労働日以上を与えた場合の「第一基準日」と、その後さらに与えた場合の「第二基準日」の扱いを定めています。前倒しは付与日数や出勤率の判定にも影響するため、社会保険労務士など専門家に確認してから決めてください。
また、時季変更権が使えるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。診療枠が重なる日に断れるかどうかは個別の事情で判断されるため、一律の基準は示されていません。
パート・アルバイトにも年休は発生します。厚生労働省のQ&Aによれば、週の所定労働時間が30時間以上、または週5日以上(年間217日以上)の職員は、一般の職員と同じ日数が付与されます。それ未満の職員には、労働基準法施行規則第24条の3の比例付与が適用され、週の所定労働日数(または年間の所定労働日数)に応じた日数になります。
| 週の所定労働日数 | 年間の所定労働日数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 4日 | 169〜216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 3日 | 121〜168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 2日 | 73〜120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 1日 | 48〜72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
この表から、義務の対象になる時期が読み取れます。週4日勤務の職員は勤続3年6か月で10日に達し、週3日勤務の職員は5年6か月で10日に達します。この日から、年5日の取得義務が生じます。一方、週2日・週1日の職員は、表の範囲では最大でも7日・3日のため、年5日の義務の対象にはなりません。ただし年休そのものは付与する義務があり、本人が請求すれば与えなければなりません。
受付や看護補助のパート職員は、シフト変更で所定労働日数が変わりやすい職種です。区分の判定は個別の事情に左右されるため、社会保険労務士や労働基準監督署に確認してください。パートの雇用ルール全般は、パート・有期職員のルール改正の記事で整理しています。
施行規則第24条の7は、使用者が年休を与えたときに、時季・日数・基準日を職員ごとに明らかにした「年次有給休暇管理簿」を作成するよう定めています。厚生労働省のQ&Aによれば、管理簿は労働者名簿や賃金台帳に必要事項を追記する形でもよく、山口労働局の案内では、必要なときにいつでも出力できればシステム上の管理も認められます。
保存期間は、規則上は年休を与えた期間中および期間満了後5年間です。ただし労働基準法附則第143条の経過措置により、当分の間は3年間とされています(厚生労働省Q&A)。管理簿は労働基準監督署の臨検監督で確認される法定書類の一つとされているため、
罰則は、労働基準法第120条第1号に定められています。第39条第7項に違反した場合は30万円以下の罰金です。罰則の有無にかかわらず、取得させるべき日数に不足がないかを、基準日の期間が終わる前に点検することが重要です。
制度を守るには、次の4点を院内で決めておくと運用しやすくなります。
自院の水準を測る材料として、令和7年就労条件総合調査の数値を示します(令和6年1年間の状況。付与日数に繰越日数は含みません)。
| 区分 | 平均付与日数 | 平均取得日数 | 平均取得率 |
|---|---|---|---|
| 全体(調査計) | 18.1日 | 12.1日 | 66.9% |
| 医療,福祉 | 17.7日 | 12.1日 | 68.4% |
| 企業規模30〜99人 | 17.4日 | 11.3日 | 64.9% |
| 企業規模100〜299人 | 17.8日 | 11.7日 | 65.5% |
この調査は常用労働者30人以上の民営法人が対象のため、小規模なクリニックにそのまま当てはまる数値ではありません。自院の取得状況と見比べる目安にしてください。承継時の職員の年休の扱いは、承継時のスタッフの労働条件の記事で整理しています。
週3日勤務では、勤続5年6か月で付与日数が10日に達します(施行規則第24条の3の表)。それまでは10日未満のため、年5日の義務は生じません。10日に達した日が基準日となり、そこから1年以内に5日が必要です。
よくありません。第39条第7項は、使用者が時季を指定して与えると定めています。本人にその旨を伝えて意見を聴き、尊重するよう努めたうえで、日付を決めます。
数えられません。半日単位の取得は数えられますが、時間単位の取得は5日の算定に含まれません。両者は分けて記録します。
数えられます。厚生労働省のQ&Aは、繰越分を取得した場合も当年度の5日に含まれると説明しています。
様式は決まっていません。時季・日数・基準日を職員ごとに記録し、労働者名簿や賃金台帳に追記する形でも構いません。必要なときにいつでも出力できれば、システム管理も可能です(山口労働局の案内)。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の職員への年次有給休暇の付与・時季指定の要否や、就業規則の内容を保証するものではありません。実際の運用にあたっては、社会保険労務士等の専門家および所轄の労働基準監督署に必ずご確認ください。数値・制度は2026年11月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年11月2日/最終更新日:2026年11月2日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身