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クリニック 採用 労務
開業準備 2026.07.23

クリニックの採用・労務整備の初手2026|開業時にまず押さえる就業規則・社会保険

開業準備で診療圏や資金に目が向きがちですが、採用と労務の設計は開院初日から法的義務が発生する領域です。準備が遅れると、内定辞退・早期離職・行政指導といった形でコストに跳ね返ります。本記事では、開業を控えた勤務医が最初に押さえるべき採用・労務の勘所を、一次情報にもとづいて整理します。

この記事の要点

  • 常時10人以上を雇うクリニックは就業規則の作成・届出が義務。10人未満でも整備が実務上の防波堤になる。
  • 2024年4月から労働条件の明示ルールが変わり、雇用契約書に「変更の範囲」などの記載が必要になった。
  • 社会保険の適用拡大(2024年10月〜51人以上)や最低賃金の過去最大改定(2025年10月)など、採用条件に直結する制度が動いている。

クリニックの採用・労務は、いつから準備すべき?

採用・労務の準備は、内装や医療機器の選定と並行して「開院の6か月前」から動き出すのが現実的です。看護師・医療事務の求人は充足まで時間がかかるうえ、採用が決まってから就業規則や雇用契約書、社会保険の手続きを整えるには相応の期間を要するためです。開院準備の全体像はクリニック開業スケジュール完全ガイドもあわせてご確認ください。

開院直前に人事だけが空白になると、労働条件を口約束で走らせてしまい、後のトラブルの火種になります。診療体制の設計と同じ精度で、雇用のルールも文書化しておくことが求められます。

就業規則は必ず作らないといけない?(10人ルール)

就業規則の作成・届出が法律上の義務となるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場です(出典:労働基準法 第89条)。パート・アルバイトも人数に含めるため、常勤医のほかに看護師・医療事務を数名雇うクリニックでも、規模によっては対象になります。

10人未満で義務がない場合でも、就業規則の整備には実益があります。労働時間・休暇・賃金・懲戒のルールが明文化されていれば、スタッフとの認識のズレを防ぎ、いざという場面での判断基準になるからです。厚生労働省は条文例と解説を掲載した「モデル就業規則」を無償で公開しており、これをたたき台にすると作成の負担を抑えられます(出典:厚生労働省「モデル就業規則」)。

雇用契約書には何を書けばいい?(2024年改正の明示ルール)

労働条件の明示ルールは、2024年4月1日施行の労働基準法施行規則改正で拡充されました。すべての労働者に対し、雇入れ直後だけでなく「就業場所・業務の変更の範囲」を明示することが新たに義務づけられています(出典:厚生労働省/労働基準法施行規則の改正/2024年4月施行)。

有期契約で採用する場合は、さらに「更新上限の有無と内容」、無期転換申込権が発生するタイミングでの「無期転換の申込機会」と「転換後の労働条件」の明示も必要です。医療事務を有期で採用するケースは多く、契約更新のたびに確認すべき項目が増えた点は見落としがちです。

区分主な明示事項
従来からの必須事項契約期間、就業場所・業務、労働時間、賃金、退職・解雇に関する事項
2024年4月からの追加(全労働者)就業場所・業務の「変更の範囲」
2024年4月からの追加(有期契約)更新上限の有無と内容、無期転換の申込機会・転換後の労働条件

パート職員も社会保険に入れる必要がある?

短時間労働者への社会保険の適用は、2024年10月から従業員51人以上の企業に拡大されました(出典:厚生労働省/短時間労働者に対する社会保険の適用拡大/2024年10月施行)。対象は、週の所定労働時間20時間以上・月額賃金8.8万円以上・2か月を超える雇用見込み・学生でない、という要件をすべて満たすパート職員です。

医療業は社会保険の適用業種にあたり、個人経営の診療所でも常時5人以上を雇う場合は健康保険・厚生年金の強制適用事業所となります(出典:日本年金機構)。パート採用を「保険料の負担が軽い働き方」として設計していると、要件を満たした時点で加入手続きが必要になるため、募集時の労働時間設定から逆算しておくと安全です。

賃金設定はいくらから?(2025年最低賃金と36協定)

賃金の下限は最低賃金で決まり、2025年10月の改定で全都道府県が時給1,000円を超えました。中央最低賃金審議会の目安は全国加重平均で前年度比+63円(1,118円)とされ、地方審議会の答申を経た全国加重平均は約1,121円と、過去最大の引き上げ幅となりました(出典:厚生労働省/中央最低賃金審議会答申/2025年10月〜順次発効。2026年7月時点)。改定は毎年秋に行われるため、募集時の時給は最新額を必ず確認します。

時間外・休日労働をさせる場合は、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)を労働基準監督署に届け出る必要があります(出典:労働基準法 第36条)。診療の準備や急患対応で残業が発生しやすい医療現場では、開院前に締結・届出を済ませておくのが安全です。あわせて、育児・介護と仕事の両立支援を強化する育児・介護休業法の改正が2025年4月・10月に順次施行されており、就業規則への反映が必要です(出典:厚生労働省/育児・介護休業法の改正/2025年4月・10月施行)。

開業時の採用・労務でよくある質問(FAQ)

Q. スタッフが10人未満なら就業規則はいらない?

A. 作成・届出の法的義務は生じませんが、労働条件の明確化とトラブル防止のため整備をおすすめします。厚生労働省のモデル就業規則を土台にすると効率的です。

Q. 雇用契約書と労働条件通知書は別に必要ですか?

A. 明示すべき事項を満たしていれば、労働条件通知書を兼ねた雇用契約書の形でも差し支えありません。2024年4月改正で追加された「変更の範囲」などの記載漏れに注意します。

Q. 個人経営のクリニックでも社会保険は必要ですか?

A. 医療業は適用業種のため、常時5人以上を雇用する個人事業所は健康保険・厚生年金の強制適用となります(詳細は日本年金機構・年金事務所にご確認ください)。

Q. 採用は開院のどのくらい前から始めるべき?

A. 看護師・医療事務の充足に時間がかかるため、3~6か月前を目安に募集を始め、内定後に契約書・就業規則・社会保険手続きを整える流れが現実的です。

Q. 労務手続きを院長ひとりで回すのは難しいのでは?

A. 診療と並行しての労務管理は負担が大きい領域です。社会保険労務士や事務長機能の外部活用で、院長の時間を診療に集中させる選択肢があります。

今すべきこと(開業前チェックリスト)

  • 開院6か月前を目安に、看護師・医療事務の採用計画とシフト前提の労働時間を設計する。
  • 就業規則(10人以上は届出必須)と、2024年改正に対応した雇用契約書のひな型を用意する。
  • パート職員の労働時間・賃金設定を社会保険の適用要件と照らして確認する。
  • 最新の最低賃金(2025年10月改定)で時給を点検し、36協定の締結・届出を準備する。
  • 診療動線を含めた開院準備は内装・動線設計の記事コラム一覧もご参照ください。

採用と労務は、専門知識と開院準備の同時進行が求められる負担の大きい領域です。株式会社ENでは、クリニックの開業支援から事務長代行までをワンストップで支援し、労務体制の設計や日々の運用を代行することで、院長が診療に集中できる体制づくりをお手伝いしています。開業準備の採用・労務でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の就業規則・社会保険・税務の判断にあたっては、社会保険労務士・税理士など専門家にご確認ください。


公開日:2026年7月23日 / 最終更新日:2026年7月23日

著者プロフィール

鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7医院運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶応義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身

参考・出典

  • 厚生労働省「モデル就業規則」 リンク
  • 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」 リンク
  • 厚生労働省「社会保険の適用拡大(短時間労働者)」 リンク
  • 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」 リンク
  • 厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」 リンク
  • 日本年金機構「適用事業所と被保険者」 リンク
  • 労働基準法(第36条・第89条)e-Gov法令検索 リンク
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