本記事について
特定の医療機関を推薦する記事ではありません。また、「あなたの肌の悩みならこちらの科です」「この施術は受けるべきです」という判断をする記事でもありません。 2つの科名が制度上どう位置づけられ、健康保険や説明・広告のルールがどう違うのかという、受診行動のしくみの説明にとどめています。
診療科名の根拠は厚生労働省の通知、美容医療の特徴と課題は厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書と、それを受けた通知、法改正の内容は厚生労働省の社会保障審議会資料を出典にしています(末尾に一覧)。
はじめに
ニキビがなかなか治らない。シミが気になってきた。湿疹が出たついでに、毛穴のことも相談できたらいい——肌の悩みで検索すると、「皮膚科」と「美容皮膚科」の両方が出てきます。看板に「皮膚科・美容皮膚科」と並べて書いている院も多く、違いが分かりにくいところです。
外来では、「美容皮膚科のほうが肌にくわしいのでは」「皮膚科でシミも保険で取ってもらえると思っていた」という声をよく聞きます。どちらも肌を診る科なのは確かですが、何のための治療かによって、健康保険が使えるかどうかも、守られるルールも変わります。
皮膚科は、湿疹・アトピー性皮膚炎・ニキビ・水虫・皮膚がんなど、皮膚の病気を診断して治す科で、多くの診療は健康保険で受けられます。美容皮膚科は、シミ・しわ・脱毛など見た目を整えることを目的にした治療を行う科で、こうした美容目的の治療は健康保険が使えない自由診療です。 ただし、同じ院が両方を行っていることも多く、科名より「その治療が病気の治療か、美容目的か」で考えるほうが確実です。
実際に探すときは
現在、以下のエリアで皮膚科の記事を公開しています。エリア記事は、病気の診療(保険診療)を中心に扱っています。
「美容皮膚科」は、皮膚科に「美容」を組み合わせた科名
医療機関が看板やウェブサイトに掲げられる診療科名は、医療法施行令で決められています。皮膚科は、内科・外科とは別に単独で掲げてよい科名のひとつです。一方、「美容皮膚科」という名前の科が単独で決められているわけではありません。 厚生労働省が2008年(平成20年)に科名のルールの改正を通知した文書では、単独の科名に事項を組み合わせた例として、「美容皮膚科」が挙げられています。つまり「皮膚科」+「美容」という組み立てです。同じように、外科に「美容」を組み合わせたのが「美容外科」です。
ここから分かるのは、美容皮膚科はあくまで皮膚科の名前の一種だということです。科名は医療機関が自分で掲げるもので、「美容皮膚科」と書いてあることが、特定の資格や設備があることを意味するわけではありません。
皮膚科と美容医療は、目的がどう違う?
違いの核心は、治療の目的にあります。
日本皮膚科学会が一般向けに公開している「皮膚科Q&A」には、アトピー性皮膚炎、湿疹・かぶれ、じんましん、ニキビ、水虫(白癬)、イボ、やけど、帯状疱疹、脱毛症、メラノーマ(ほくろのがん)など、皮膚の病気が幅広く並んでいます。皮膚科は、こうした病気を診断し、治療する科です。
一方、厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書(2024年11月)は、美容医療を次のように整理しています。
- 一般的な医療は、傷病の予防や治癒、症状の軽減や機能回復を目標として行われる
- 美容医療は、傷病の治療の必要はないが、容貌への不満を持つ人に対して、身体の形や表面をより美しくすることを目的に行われる
同じ「シミ」「ニキビあと」「毛穴」でも、病気として治療が必要な状態なのか、見た目を整えたいという希望なのかで、どちらの医療になるかが分かれます。その線引きをするのは、診察した医師です。
美容目的の治療に、健康保険は使える?
この目的の違いが、そのまま費用の違いになります。同じ報告書は、美容医療を「保険適用されない自由診療」として提供されるものと位置づけています。
- 保険診療……国が決めた診療報酬のルールに沿って行われ、料金は全国共通の点数で計算され、窓口では原則としてその一部(1〜3割)を払います
- 自由診療……治療内容と価格を、医療機関と患者が契約で自由に決めます。全額が自己負担で、同じ名前の施術でも院によって料金が大きく違うことがあります
報告書は、自由診療の美容医療は、保険診療と比べて行政による指導・監査の範囲が限定的であり、診療や契約の内容が標準化されていないため、不適切な診療があっても表に出にくい、という課題も指摘しています。
相談を受けて治療を決めるのは、医師でなければならない
美容医療の現場では、医師や看護師の資格を持たない「カウンセラー」が最初の相談を受けることがあります。検討会では、患者がカウンセラーとだけ相談して決めた治療を、医師がそのまま行っていた事例や、治療後に問題が起きても、その院で対応しない・他院も紹介しないという事例が報告されました。
これを受けて厚生労働省は2025年(令和7年)8月に通知を出し、医師法上の考え方を整理しました。通知は、患者の要望(たとえば「一重を二重にしたい」)や希望する処置を聞き取ったうえで、具体的な治療方法を選んで提案したり決めたりすることは、医学的な判断を伝える行為=医行為にあたるとしています。料金の説明という体裁をとっていても同じだ、とも明記しています。つまり、治療の中身を決める相談の相手は、医師でなければなりません。
さらに、2025年(令和7年)12月に成立した医療法の改正では、美容医療を行う医療機関に、定期的に行政へ報告する義務が設けられました。検討会の報告書は、報告内容として安全管理の実施状況、医師の専門医資格の有無、合併症や後遺症が起きたときに患者が相談できる連絡先などを挙げています。施行の時期は政令で定めることになっています。
自由診療の広告は、費用とリスクの説明までがセット
美容医療の情報は、インターネットやSNSで集める人がほとんどです。厚生労働省の2025年8月の通知は、医療広告のルールとして、たとえば次のような広告を問題のある例に挙げています。
- 自由診療で行う治療を広告していながら、治療の内容、費用、リスク・副作用などの詳しい情報が示されていないもの
- 患者の主観や伝聞にもとづく、治療内容や効果についての体験談の広告
読む側から見れば、料金と、起こりうる副作用やリスクがきちんと書いてあるかが、その院の情報の出し方を見る手がかりになります。医療機関のサイト全般の読み方は医療機関のホームページ、どこを見れば実態が分かる?で整理しています。
よくある誤解
誤解1:「美容皮膚科のほうが、肌の病気にもくわしい」
科名は医療機関が掲げるもので、どちらが専門的という序列を示すものではありません。湿疹やニキビ、ほくろの変化など、病気としての診断・治療が必要なものは皮膚科の守備範囲です。医師の専門性は、科名ではなく資格や経歴で確かめます(「専門医」「指導医」「認定医」の違いって?)。
誤解2:「皮膚科なら、シミ取りや脱毛も保険で受けられる」
見た目を整えることが目的の治療は、皮膚科で受けても自由診療です。保険が使えるのは、病気の治療として医師が必要と判断した場合です。どちらになるかは、受ける前に確認しておくと安心です。
誤解3:「カウンセラーさんと決めたプランなら、それで治療が決まる」
厚生労働省の通知では、具体的な治療方法を選んで提案・決定するのは医行為にあたり、医師が行う必要があります。治療内容、副作用、合併症の説明は、医師から受けるものです。
こう考えて選ぶとよい
肌の悩みで医療機関を探すときに、手がかりになる軸を挙げます。
- まず「治したい」のか「整えたい」のかを分けて考える——かゆみ・痛み・急に増えたほくろなど、病気が心配なものは皮膚科で診察を受けるのが出発点です
- 保険か自費かを、受ける前に確認する——同じ院で両方を行っていることが多いため、その日の治療がどちらにあたるかを聞いておきます
- 治療内容の説明を、医師から受けられるか——副作用や合併症、うまくいかなかったときの対応まで含めて、医師が説明してくれるかを見ます
- 料金とリスクが事前に示されているか——自由診療は院ごとに価格が違います。ホームページや見積もりで、費用と副作用の説明がそろっているかを確かめます
- その場で契約を急がされないか——検討会では、「今日契約すれば割引」と言われて想定より高額な契約をした事例も報告されています。持ち帰って考える時間を取ってかまいません
いずれの場合も、最終的にどの医療機関を選ぶかは、ご自身で判断してください。 本記事はその前段階の、制度と役割の違いの説明にとどまります。
監修者からのひとこと
「シミだと思って美容のクリニックに行こうとしていた」という方の肌を診ると、ときどき、病気として調べたほうがよいできものが見つかることがあります。見た目の悩みに見えても、まず皮膚の病気がないかを確かめておくことには意味があります。
美容目的の治療を選ぶこと自体は、ご本人の自由です。そのときに大切にしてほしいのは、医師から直接説明を受けること、料金と起こりうるリスクを聞いてから決めること、そして何かあったときにどこへ相談できるかを確かめておくことです。迷ったら、普段かかっている皮膚科で相談してください。
よくある質問
Q. 皮膚科と美容皮膚科は何が違うのですか。
A. 皮膚科は、湿疹・アトピー性皮膚炎・ニキビ・水虫・皮膚がんなど、皮膚の病気を診断して治す科です。美容皮膚科は、シミ・しわ・脱毛など見た目を整えることを目的にした治療を行う科で、科名としては「皮膚科」に「美容」を組み合わせたものです。同じ医療機関が両方を行っていることも多くあります。
Q. 美容皮膚科の治療に健康保険は使えますか。
A. 美容を目的とした治療は、健康保険が使えない自由診療で、全額が自己負担になります。病気の治療として医師が必要と判断したものは、保険診療になります。どちらにあたるかは、治療を受ける前に医療機関で確認してください。
Q. 自由診療だと、なぜ院によって値段が違うのですか。
A. 保険診療は国が決めた診療報酬のルールに沿って料金が決まりますが、自由診療は治療内容と価格を医療機関と患者が契約で決めるためです。同じ名前の施術でも料金や内容が院ごとに違うことがあるので、費用と副作用・リスクの説明を事前に確認することが大切です。
Q. カウンセラーとの相談だけで治療を決めてもよいのですか。
A. 厚生労働省は2025年8月の通知で、患者の要望を聞いて具体的な治療方法を選び、提案・決定することは医行為にあたり、医師が行う必要があると整理しています。治療内容や副作用・合併症の説明は、医師から受けてください。
Q. ニキビやシミは、どちらの科に行けばいいですか。
A. 本記事では一律にお答えできません。ニキビは皮膚の病気として皮膚科で治療されるものです。シミのように見えるものの中には、病気として調べたほうがよいものが含まれることもあります。見た目を整える治療を考えている場合でも、まず皮膚科で病気がないかを確かめるという進め方があります。
Q. 具体的にどの医療機関に行けばいいですか。
A. 本記事では特定の医療機関をおすすめしていません。病気の診療については、上記の「実際に探すときは」からお住まいのエリアの記事をご覧のうえ、ご自身で判断してください。
