「糖尿病と言われたら、ご飯もパンも甘いものも一生我慢しなければならない」。この思い込みが、受診をためらわせ、治療の継続を難しくしています。実際の食事療法は、禁止のリストを増やすことではありません。この記事では、日本糖尿病学会の考え方に沿って、何を優先して整えればよいのかを、根拠とともに説明します。
食事療法の目的は「血糖の波を小さくすること」です
食事のあとに血糖が上がるのは正常な反応です。問題は、上がり幅が大きく、下がるのに時間がかかることです。食後の高血糖が毎日繰り返されると、HbA1cが上がり、血管が傷んでいきます。
食事療法の目的は、この波を小さく、なだらかにすることです。そのためには「何を食べないか」より、「どう食べるか」の影響のほうが大きいことが分かっています。
優先順位の高いものから:4つの調整
1. 食べる順番:野菜・たんぱく質を先に、主食を最後に
同じ献立でも、野菜や海藻・きのこ(食物繊維)、次に肉・魚・卵・大豆(たんぱく質)、最後にご飯・パン・麺(炭水化物)の順で食べると、食後の血糖の上昇が緩やかになります。食物繊維とたんぱく質が先に胃に入ることで、炭水化物の消化・吸収が遅くなるためです。日本の研究で、この順番を守るだけで食後血糖のピークが明らかに下がることが示されています。
費用も手間もかからず、今日の夕食から始められます。もっとも取り組みやすい調整です。
2. 主食の量:抜くのではなく「適量」にする
炭水化物を極端に減らすと、短期的には血糖が下がりますが、長続きしにくく、脂質やたんぱく質の摂りすぎを招くことがあります。日本糖尿病学会は、炭水化物を総エネルギーの40〜60%の範囲で、個人の状態に合わせて設定することを推奨しています。
目安として、ご飯なら1食あたり茶碗に軽く1杯(150 g程度)、食パンなら6枚切り1枚程度から始め、血糖や体重の変化を見ながら調整します。「主食を半分にする」より、「おかわりをしない」「大盛りにしない」のほうが続きます。
3. 食事の時間:夕食を遅くしない、朝食を抜かない
同じ内容でも、夜遅くに食べると血糖は高くなりやすく、下がりにくくなります。夜は活動量が少なく、インスリンの効きも日中より落ちるためです。夕食は寝る2〜3時間前までに済ませるのが目安です。仕事で遅くなる日は、夕方に主食を軽く食べておき、帰宅後はおかず中心にする「分食」が有効です。
朝食を抜くと、昼食後の血糖が跳ね上がりやすくなります(セカンドミール効果の逆)。朝は簡単なものでも構わないので、抜かないことが大切です。
4. 飲み物:甘い飲み物をやめる
清涼飲料水、缶コーヒー、果汁飲料、スポーツドリンクは、液体なので吸収が速く、血糖を急激に上げます。500 mLのペットボトル1本に、角砂糖10個分以上の糖が含まれているものも珍しくありません。「食事は変えていないのに血糖が高い」という方で、飲み物を水・お茶・無糖のコーヒーに替えただけで改善する例は多くあります。
果物のジュースも同様です。果物そのものは食物繊維があり適量なら問題ありませんが、ジュースにすると繊維が失われ、糖だけが速く吸収されます。
よくある誤解
「糖質ゼロ」なら食べ放題ではありません
糖質を含まない食品でも、脂質やエネルギーは含まれます。体重が増えればインスリンの効きが悪くなり、結果的に血糖は上がります。
果物は「体によい」ので多めに、は誤りです
果物には果糖が含まれ、食べ過ぎれば血糖も中性脂肪も上がります。1日に握りこぶし1個分(みかん2個、りんご半分程度)が目安です。
玄米・全粒粉なら量を気にしなくてよい、も誤りです
白米より血糖の上がり方は緩やかですが、炭水化物の量は同じです。量の目安は変わりません。
お酒は「適量なら」と「飲まないほうがよい」の間にあります
アルコールそのものは血糖を上げませんが、飲酒中は肝臓がブドウ糖を作る働きが抑えられ、薬を使っている人では低血糖の原因になります。また、おつまみや飲んだあとの食事で摂取エネルギーが増えがちです。飲む場合は、ビールなら中びん1本、日本酒なら1合程度を上限とし、休肝日を設けることが勧められます。
「続く」ことが最優先です
食事療法でもっとも多い失敗は、「頑張りすぎて続かない」ことです。最初の1か月は完璧にできても、3か月後に元に戻れば、HbA1cも元に戻ります。糖尿病の食事は何年も続けるものなので、100点の食事を1か月続けるより、70点の食事を10年続けるほうが、はるかに合併症を防ぎます。
外食が多い、家族と同じものを食べたい、料理をする時間がない。そうした事情は、我慢の対象ではなく、調整の前提です。管理栄養士による栄養指導では、その人の生活に合わせた現実的な調整を一緒に考えます。医療機関によっては保険診療で受けられますので、主治医に相談してみてください。
まとめ
- 食事療法の目的は、食後の血糖の波を小さくすることです
- 優先順位は、①食べる順番 ②主食の適量 ③食事の時間 ④甘い飲み物をやめる
- 炭水化物は極端に減らさず、総エネルギーの40〜60%の範囲で個別に設定します
- 糖質ゼロ・果物・玄米・お酒には、それぞれよくある誤解があります
- 70点を10年続けるほうが、100点を1か月続けるより合併症を防ぎます
「何を我慢するか」ではなく「どう食べるか」から始めてください。
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」(食事療法) https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
- Imai S, et al. A simple meal plan of 'eating vegetables before carbohydrate' was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes. Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20:161-168. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21669583/
- Shukla AP, et al. Food Order Has a Significant Impact on Postprandial Glucose and Insulin Levels. Diabetes Care. 2015;38:e98-e99. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26106234/
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
- 厚生労働省 健康づくりサポートネット(旧 e-ヘルスネット)「糖尿病」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-02-001
