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糖尿病の三大合併症|網膜症・腎症・神経障害はどう進み、どう防ぐのか

2026 9/16
臨床医学
2026年9月16日

糖尿病が怖いのは、血糖が高いことそのものではなく、高い状態が何年も続くことで全身の血管が傷んでいくことです。この記事では、糖尿病の合併症がどこに、どういう順番で、どのくらいの期間で起こるのかを整理し、それらが「血糖を保てば防げる」ものであることを、研究の根拠とともに説明します。

目次

合併症は「細い血管」と「太い血管」に分けて考えます

高血糖は血管の内側の壁を傷つけます。傷み方は血管の太さによって異なり、合併症も大きく2つに分かれます。

  • 細小血管障害:目・腎臓・神経の細い血管に起こる。糖尿病に特有で、「三大合併症」と呼ばれる
  • 大血管障害:心臓・脳・足の太い血管に動脈硬化が起こる。糖尿病がなくても起こるが、糖尿病があると2〜4倍起こりやすい

細小血管障害は血糖の高さと期間に強く比例します。大血管障害は血糖に加えて、血圧・脂質・喫煙などが重なって進みます。

三大合併症の進み方

三大合併症には、進みやすい順番があります。一般に「し・め・じ」(神経・目・腎臓)の順で現れると言われ、神経障害がもっとも早く、腎症がもっとも遅く症状として表れます。

神経障害:もっとも早く、もっとも多い

糖尿病の診断から5年ほどで現れることが多く、糖尿病患者のおよそ3〜4割に何らかの神経障害があるとされます。細い血管の障害と、神経細胞そのものの代謝の異常の両方が原因です。

症状は足の指先から始まり、左右対称に広がります。ジンジンする、砂利の上を歩いているような感じ、靴下を履いているような感覚の鈍さ、こむら返りが増える、などが典型的です。進行すると痛みを感じにくくなり、靴ずれや小さな傷に気づかず化膿させてしまうことがあります。糖尿病で足を切断する原因の多くは、この「気づかない傷」から始まっています。

神経障害は自律神経にも及びます。立ちくらみ、便秘と下痢を繰り返す、発汗の異常、勃起障害などが、糖尿病の神経障害として現れることがあります。

網膜症:自覚症状がないまま進み、失明の原因になります

網膜の細い血管が傷み、出血やむくみが起こります。日本では成人の中途失明の主要な原因の一つです。

網膜症の厄介な点は、かなり進行するまで視力に影響が出ないことです。初期(単純網膜症)から中期(増殖前網膜症)までは自覚症状がなく、視力が落ちたときには進行期(増殖網膜症)に達していることが少なくありません。この段階になると治療をしても視力の回復は難しくなります。

糖尿病と診断されたら、症状がなくても年に1回は眼科で眼底検査を受けることが推奨されています。血糖を保つことに加えて、早期に見つけてレーザー治療などで進行を止められるかどうかが、視力を守る鍵になります。

腎症:透析導入の原因の第1位です

腎臓の糸球体という細い血管の塊が傷み、まず尿にたんぱく(アルブミン)が漏れ出します。進行すると腎臓の濾過機能が落ち、最終的には人工透析が必要になります。日本で新たに透析を始める人の原因のうち、糖尿病性腎症は約4割を占め、長年第1位です。

腎症は5段階に分けられ、第1期・第2期はまったく症状がありません。しかし第2期(微量アルブミン尿)の段階なら、血糖と血圧を厳格に管理することで進行を止めたり、正常に戻したりできることが分かっています。そのため、糖尿病の定期検査では「尿アルブミン」を測ります。通常の尿検査(尿蛋白)では検出できない、ごく早期の漏れを捉えるためです。

大血管障害:心筋梗塞・脳梗塞・足の血流障害

糖尿病があると、心筋梗塞や脳梗塞のリスクは糖尿病のない人の2〜4倍になります。動脈硬化は高血糖だけでなく、高血圧・脂質異常症・喫煙・肥満が重なることで加速します。糖尿病の人の多くがこれらを併せ持っているため、糖尿病の治療では血糖だけでなく血圧と脂質も同時に管理します。

足の太い血管が詰まる「末梢動脈疾患」も見逃せません。歩くと足が痛くなって休むと治る(間欠性跛行)という症状で始まり、進行すると安静時にも痛み、傷が治らなくなります。神経障害と重なると、痛みを感じないまま重症化することがあります。

そのほかの影響

  • 歯周病:糖尿病があると歯周病が悪化しやすく、逆に歯周病があると血糖が下がりにくくなります。相互に影響する関係です
  • 感染症:免疫の働きが落ち、肺炎・尿路感染症・皮膚感染症にかかりやすく、治りにくくなります
  • 認知症:糖尿病があると認知症のリスクが約2倍になることが疫学調査で示されています
  • 骨折:骨の質が低下し、骨密度が保たれていても骨折しやすくなります

合併症は「血糖を保てば防げる」:研究が示していること

ここまで読むと不安になるかもしれませんが、重要なのはここからです。これらの合併症は、血糖をよい範囲に保っていれば、発症を防いだり進行を大きく遅らせたりできることが、長期の臨床研究で確かめられています。

日本で行われた熊本スタディでは、HbA1cを7.0%未満に保った群で、網膜症・腎症の発症と進行が明らかに少ないことが示されました。英国のUKPDSでは、血糖の厳格な管理によって細小血管障害が25%減少し、さらに長期の追跡で心筋梗塞や死亡も減ることが分かりました。これらの研究が、「HbA1c 7.0%未満」という治療目標の根拠になっています。

さらに、血圧を下げること、LDLコレステロールを下げること、禁煙することは、それぞれ独立して合併症を減らします。糖尿病の治療が「血糖だけ」を見ないのは、このためです。

合併症を防ぐために、定期的に確認すること

検査目的頻度の目安
HbA1c・血糖血糖の管理状態1〜3か月ごと
尿アルブミン腎症の早期発見年1回以上
血清クレアチニン(eGFR)腎機能年1回以上
眼底検査網膜症の早期発見年1回(眼科)
足の診察・神経の検査神経障害・足病変年1回以上
血圧・脂質大血管障害の予防受診のたび

まとめ

  • 合併症は細い血管(神経・目・腎臓)と太い血管(心臓・脳・足)に起こります
  • 神経障害がもっとも早く、網膜症は無症状で進み、腎症は透析の原因第1位です
  • 心筋梗塞・脳梗塞のリスクは2〜4倍。血圧・脂質・喫煙が重なると加速します
  • HbA1c 7.0%未満を保つと合併症が明らかに減ることが、日本と英国の研究で示されています
  • 眼底・尿アルブミン・足の診察を定期的に受けることが、早期発見の要です

合併症は「なってから治す」より「ならないようにする」ほうがはるかに確実です。血糖を保つことと、定期検査を続けることが、その両輪になります。

参考文献

  • Ohkubo Y, et al. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study (Kumamoto Study). Diabetes Res Clin Pract. 1995;28:103-117. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7587918/
  • UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33). Lancet. 1998;352:837-853. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9742976/
  • Holman RR, et al. 10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008;359:1577-1589. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa0806470
  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」 https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
  • 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」 https://docs.jsdt.or.jp/overview/
  • 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター https://dmic.ncgm.go.jp/

この記事の監修者

鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は医療法人社団季邦会(首都圏7拠点)の理事長として、糖尿病・高血圧・脂質異常症など生活習慣病の診療にあたっています。法人内には糖尿病専門医が院長を務める巣鴨クリニックがあり、日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。

専門科目

救急・地域医療

所属・資格

日本救急医学会
日本災害医学会所属
社会医学系専門医指導医
日本医師会認定健康スポーツ医
国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
ICLSプロバイダー(救命救急対応)
ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
FCCSプロバイダー(集中治療対応)
MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01

基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016

メディア出演

フジテレビ 『イット』『めざまし8』
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