健診結果に「糖尿病予備群」「境界型」「要保健指導」といった言葉があると、「まだ病気ではないから大丈夫」と受け取る方と、「もう手遅れなのでは」と受け取る方に分かれます。どちらも正確ではありません。予備群は、「糖尿病になる確率が高い状態」であると同時に、「もっとも介入の効果が大きい段階」でもあります。この記事では、予備群とは何か、なぜ今が大切なのか、何から始めればよいのかを説明します。
予備群(境界型)とは
血糖値が正常より高いものの、糖尿病の診断基準には届いていない状態です。日本糖尿病学会の分類では「境界型」と呼ばれます。
| 検査 | 正常型 | 境界型 | 糖尿病型 |
|---|---|---|---|
| 空腹時血糖 | 110 mg/dL 未満 | 110〜125 mg/dL | 126 mg/dL 以上 |
| 75gOGTT 2時間値 | 140 mg/dL 未満 | 140〜199 mg/dL | 200 mg/dL 以上 |
| HbA1c(目安) | 5.5% 以下 | 5.6〜6.4% | 6.5% 以上 |
特定健診(メタボ健診)では、空腹時血糖100 mg/dL以上、HbA1c 5.6%以上で保健指導の対象になります。境界型より少し手前から声がかかる設計です。
境界型には、空腹時の血糖だけが高いタイプ、食後の血糖だけが高いタイプ、その両方のタイプがあります。食後だけが高いタイプは空腹時採血の健診では見つかりにくく、HbA1cがやや高いことで気づかれることがあります。
なぜ「今」なのか:予備群からの進行と、戻せる可能性
放置すると、年に数%が糖尿病に進みます
境界型の人が糖尿病に進行する割合は、年間およそ5〜10%と報告されています。10年で見ると、およそ半数が糖尿病になる計算です。しかも、境界型の段階から動脈硬化はすでに進みはじめており、糖尿病型に至らなくても心筋梗塞や脳梗塞のリスクは正常型より高いことが分かっています。
生活の調整で、発症を大幅に減らせます
一方で、この段階での介入の効果は非常に大きいことが、複数の大規模研究で示されています。米国の糖尿病予防プログラム(DPP)では、境界型の人が体重を約7%減らし、週150分の運動を続けたところ、3年間の糖尿病発症が58%減少しました。これは薬(メトホルミン)による予防効果(31%減)を上回っています。日本でも同様の研究があり、生活指導によって発症が減ることが確認されています。
「予備群」という言葉は、「まだ病気ではない」という意味だけでなく、「今ならもっとも効く」という意味で受け取ってください。
最初にやること
すべてを一度に変える必要はありません。効果が大きく、続けやすいものから順に挙げます。
1. 体重を「今より3〜5%」減らす
境界型からの進行を防ぐうえで、もっとも影響が大きいのは体重です。標準体重を目指す必要はなく、今の体重の3〜5%(70 kgなら2〜3.5 kg)を減らすだけで、インスリンの効きが目に見えて改善します。体重が増えると内臓脂肪がインスリンの働きを邪魔する物質を出し、これが境界型の主な原因の一つになっているためです。
2. 食べる「量」より「順番」と「時間」を整える
極端な糖質制限は続きません。まず取り組みやすいのは次の3つです。
- 野菜・海藻・きのこ、たんぱく質、最後に主食の順に食べる(食後の血糖の上がり方が緩やかになります)
- 夕食を遅くしない。寝る2〜3時間前までに済ませる
- 甘い飲み物(清涼飲料、缶コーヒー、果汁飲料)を水かお茶に替える
甘い飲み物は液体なので吸収が速く、血糖を急激に上げます。「食事は変えていないのに」という方の中に、飲み物だけで改善する人は少なくありません。
3. 週150分の「少し息が弾む」運動
DPPで効果が示されたのは、週150分の中等度の運動(速歩など)です。1日30分を週5日、あるいは1日20分強を毎日、という配分になります。運動には、その場で血糖を下げる効果(筋肉がブドウ糖を使う)と、続けることでインスリンの効きを改善する効果の両方があります。
食後30分〜1時間に歩くと、食後の血糖の上昇を直接抑えられます。通勤や買い物の歩きを少し長くするだけでも、積み重なれば意味があります。
4. 睡眠を削らない
睡眠不足はインスリンの効きを悪くし、食欲を増すホルモンを増やします。1日5時間以下の睡眠が続く人は、糖尿病になりやすいことが疫学調査で示されています。生活習慣というと食事と運動に目が向きがちですが、睡眠も血糖に直接影響します。
5. 年に1回は必ず検査を受ける
境界型と言われた方は、少なくとも年に1回、できれば半年に1回、血糖値とHbA1cを確認してください。変化に早く気づくことが、次の一手を打てるかどうかを決めます。
医療機関を受診したほうがよい場合
予備群の段階は「生活を見直す時期」ですが、次の場合は早めに受診して相談することをおすすめします。
- HbA1cが6.0%以上、または空腹時血糖が115 mg/dLを超えている
- 血圧や脂質(コレステロール・中性脂肪)も同時に指摘されている
- 親や兄弟に糖尿病の人がいる
- 妊娠中に血糖が高いと言われたことがある
- 体重が急に増えた、または減った
- 自分で生活を変えようとしたが、数値が下がらない
受診したからといって、予備群の段階で薬が始まることは基本的にありません。今の状態を正確に把握し、何を優先すればよいかを一緒に決めるのが受診の目的です。医療機関によっては管理栄養士による栄養指導も受けられます。
まとめ
- 予備群(境界型)は空腹時血糖110〜125、OGTT2時間値140〜199、HbA1c 5.6〜6.4%程度が目安
- 放置すると年に5〜10%が糖尿病に進行し、心血管病のリスクも上がります
- 体重3〜5%減と週150分の運動で、発症を約6割減らせたという研究があります
- 最初にやるのは、体重・食べる順番と時間・甘い飲み物・運動・睡眠
- HbA1c 6.0%以上や、ほかの数値の指摘がある場合は早めに受診を
「予備群」は、「まだ大丈夫」ではなく「今ならもっとも効く」段階です。
参考文献
- Knowler WC, et al. Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin. N Engl J Med. 2002;346:393-403. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa012512
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」 https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
- 日本糖尿病学会 糖尿病診断基準に関する調査検討委員会「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)」糖尿病 55(7): 485-504, 2012 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/55/7/55_485/_article/-char/ja/
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000194155_00004.html
- 厚生労働省 健康づくりサポートネット(旧 e-ヘルスネット)「糖尿病」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-02-001
