厚生労働省は、令和8年9月30日に「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会」を開き、創薬などを含めた薬剤師の多様なキャリアに対応する専門性の在り方を議題にしました。掲載された資料は、現状のデータと論点を並べたものです。制度として決まった事項は、資料から確認できませんでした(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 議事次第」令和8年9月30日開催)。

第1回の資料は別の記事で扱いました。本記事は第2回の資料のうち、資料2「薬剤師のキャリアについて」と資料3「Pharmacist-Scientist の育成に向けた論点整理」に絞って読みます。議事録は、確認した時点で掲載ページに見当たりませんでした。そのため、会議の席で何が語られたかは本記事では扱いません。

第2回の懇談会では、何が話し合われたのか?

議題は「創薬などを含め、薬剤師の多様なキャリアに対応する専門性の在り方」でした。開催は令和8年9月30日(水)15時30分から17時30分、場所は厚生労働省の専用第21会議室と、議事次第に書かれています。

配布資料は、資料1(第1回での主な意見)、資料2、資料3、参考資料1(薬学教育協議会の就職動向調査結果報告書)、参考資料2(開催要綱)の5種類です(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 議事次第」令和8年9月30日開催)。議題の文言に「創薬などを含め」とあるとおり、第2回は創薬を含むキャリアの専門性が焦点です。

薬剤師は、どの業態で働いているのか?

資料2のグラフでは、薬局に勤める薬剤師の割合が昭和63年の32.0%から令和6年の60.0%に上がっています。資料は、薬局の割合が年々高まる一方で、大学や医薬品製造販売業・製造業は減少局面に入っていると整理しています。

区分 昭和63年 令和6年
薬局 32.0% 60.0%
医療施設(昭和63年は病院・診療所の合計) 26.7% 病院17.5%、診療所1.7%
薬局と医療施設の合計 58.7% 79.2%

昭和63年の「医療施設」は、病院と診療所を分けない値です。令和6年は薬局60.0%・病院17.5%・診療所1.7%の合計が79.2%になり、資料の記載と一致します。出典は「医師、歯科医師、薬剤師統計」と資料に書かれていますが、グラフの調査年の記載は確認できませんでした(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料2 薬剤師のキャリアについて」)。

薬剤師の需給は、今後どう見込まれているのか?

資料2に載っている需給推計は令和2年度時点のもので、「※今年度再算出予定」と注記されています。したがって、以下の数値は最新の推計ではなく、再算出前の数字です。

項目 資料の記載
推計の時点 令和2年度時点(令和2年〜令和27年の推計)
供給推計 43.2〜45.8万人
需要推計 33.2〜40.8万人
注記 ※今年度再算出予定

資料の結論は、薬剤師の総数としては概ね今後10年間は需要と供給が同程度で推移するが、将来的には、需要が業務充実で増えると仮定しても供給が需要を上回る、というものです。需要側の推計は、業務量が現状のまま推移する前提と、薬局・医療機関の業務が充実する前提の2通りがあります(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料2」)。

この資料の数字は、全国の総数についての推計です。地域や業態ごとの偏りは別の指標で見る必要があり、薬剤師偏在指標は薬剤師偏在指標の読み方で整理しています。

薬学生は、卒業後にどこへ進むのか?

資料2は、6年制学科卒の82.8%が卒業後すぐに就職し、4年制学科卒の76.9%が大学院に進学したと示しています。6年制の大学院進学者は全体の2.3%、4年制で大学院に進んだ人のうち約30%が博士課程に進んだとされています。

これらは薬学教育協議会の「就職動向調査結果報告書」を引いた数値です。ただし、本記事はその原報告書(参考資料1)を開いていません。また、資料2では6年制と4年制の数値が並んで配置されており、どの数値がどちらの区分に対応するかは、版面からの読み取りに基づきます。調査年度も確認できませんでした。数値を引用する場合は、参考資料1で原典を確認してください(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料2」)。

資料2はこのあと、創薬に関わる段階を、基礎研究、応用研究、臨床研究・治験、審査・承認、保険適用、製造・販売・監視指導、安全対策と並べています。そのうえで、創薬人材の輩出が求められているか、大学院(特に博士課程)への進学が各段階を支える人材育成につながるか、薬剤師のキャリア全体のどこに焦点を当てて仕組みを考えるか、という3つの問いを示しています。これらは問いであって、結論ではありません。

Pharmacist-Scientist とは、何を指すのか?

資料3は、Pharmacist-Scientist を「いずれの環境においても、臨床力と研究力の両方を備えて活躍できる薬学人材」と説明しています。臨床力と研究力のバランスは人によって異なり、活躍の場は創薬から臨床まで幅広いとされています。研究力の比重が高い人材は、創薬・研究開発の分野での活躍が期待されています。

背景として、臨床力と研究力を兼ね備えた人材の育成の重要性が、日本学術会議から複数回指摘されてきたことが挙がっています。資料3は、第1回の議論などを踏まえ、まず「研究力」の育成に関する議論を進めることを提案する形で書かれています(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料3 Pharmacist-Scientist の育成に向けた論点整理」)。

資料3は、研究力の育成にどんな案を示しているのか?

資料3が示しているのは、薬学教育の中で研究力を育てるための5つの案で、いずれも「提案」や「考えられる」という書き方です。前提として、薬剤師は6年制の薬学部で養成され、学修時間の7割程度は薬学教育モデル・コア・カリキュラムに基づく教育、残りの3割程度は各大学が3つのポリシーを踏まえて行う自主的・自律的な教育とされています。

案は次のとおりです。第一に、創薬に必要な卒前教育の充実です。臨地実習での臨床研究・治験のデザイン設計や、治験現場での患者モニタリングとデータ分析、企業と連携したGMP/GCTPなどの製造・品質管理の研究開発が例に挙がっています。第二に、研究キャリアへの接続です。第三に、研究開発現場での学習機会の確保です。第四に、各大学が編成する3割程度の学修時間の活用です。第五に、大学教育では難しい部分を学生時代から学べる機会の提供です。

第二と第三の案には、大阪大学の事例が参考として示されています。大学院博士後期課程との連続性を確保しつつ大学院課程を6年制教育課程に組み込む例と、未来医療センターでの実習などで卒業前から治験などの臨床開発を実地で学ぶ例です。資料は、これを他大学にも求めるとは書いていません(出典:厚生労働省「第2回 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料3」)。

この資料の内容は、制度として決まったのか?

決まっていません。資料3に「決定」という語はなく、全体が論点整理として書かれています。懇談会の資料を、すでに決まった制度のように読まないことが重要です。

区分 内容
現状・前提(資料に記載) 薬剤師の養成は6年制。学修時間は7割程度がモデル・コア・カリキュラム、3割程度が各大学の自主的・自律的な教育
統計・推計(資料に記載) 業態別の薬剤師の割合、令和2年度時点の需給推計(今年度再算出予定)
検討中(提案・論点) 卒前教育の充実、研究キャリアへの接続、研究開発現場での実習、3割時間の活用、大学外での学習機会
決定事項 資料からは確認できない

今後、懇談会がまとめを出したり、薬学教育の制度が改められたりする場合は、別の資料や通知で示されます。本記事の執筆時点では、そうした発出を確認していません。

薬剤師や薬局・病院は、この資料をどう読めばよいのか?

採用や育成の判断に直結する内容は、まだありません。ただし、資料が示す方向は、薬局に勤める薬剤師が中心という現状に、研究や創薬に関わるキャリアという選択肢の議論が加わった、という点です。

薬局や病院の経営者・管理者にとっては、新卒の薬剤師が学生時代に研究や治験の現場にどの程度触れているかが、今後大学ごとに変わる可能性を頭に置いておく程度が現実的です。個々の薬剤師にとっては、臨床の経験を積みながら研究や創薬に関わる道がどう整えられるかが、今後の論点になります。いずれも資料からは決まった内容ではないため、方向性を見極めながら、続報を確認する姿勢が適しています。

よくある質問

Pharmacist-Scientist になるための資格や制度は、できたのですか。

いいえ。資料3は育成に向けた論点整理で、資格や認定の制度を設けるとは書いていません。

薬剤師が過剰になると決まったのですか。

決まったわけではありません。資料2の需給推計は令和2年度時点のもので、「今年度再算出予定」と注記されています。再算出後の数字は、本記事の執筆時点で確認していません。

薬学部の学修時間の7割・3割は、新しい決まりですか。

新しい決まりとは読み取れません。資料3は、現状の前提として、7割程度がモデル・コア・カリキュラム、3割程度が各大学の自主的・自律的な教育であると書いています。

議事録はありますか。

掲載ページには、議事次第と資料のみが載っており、議事録へのリンクは確認できませんでした。会議での発言内容は、議事録の公開後に確認する必要があります。

参考資料

※本記事の個別調査の数値(業態別の統計、薬学教育協議会の就職動向調査)は資料2の記載を典拠としており、「医師、歯科医師、薬剤師統計」と就職動向調査結果報告書そのものは参照していません。資料に印字された作成日表記は、懇談会の開催日と整合しないため採用していません。需給推計は令和2年度時点の再算出前の数値です。

参考・一次出典