2026年5月1日、改正薬機法(令和7年法律第37号)の一部が施行され、これまで施行規則上の「濫用等のおそれのある医薬品」だった市販薬が、法律本体に規定された「指定濫用防止医薬品」になりました。対象は8成分に広がり、販売時の確認と情報提供は法律上の義務です。一方、施行直前の実態把握調査は、従来からある販売ルールでも項目によって遵守率が6割台にとどまることを示しました。告示・局長通知・調査結果の原典から実務論点を整理します。
「指定濫用防止医薬品」とは何が変わった制度で、対象は何成分か?
2026年5月1日から、薬機法第36条の11に「指定濫用防止医薬品」が置かれ、販売時の情報提供と事前確認が薬局開設者・店舗販売業者・配置販売業者の法律上の義務になりました。対象は8成分(いずれも外用剤を除く)で、従来の6成分にジフェンヒドラミンとデキストロメトルファンが加わっています。呼称が変わっただけではなく、義務の根拠が省令から法律に上がった点が実務上の違いです。
条文は3項構成です。第1項は書面を用いた情報提供を薬剤師または登録販売者に行わせる義務、第2項は併用薬の使用状況など省令で定める事項をあらかじめ確認させる義務、第3項は省令で定める数量を超える販売と省令で定める年齢に満たない者への販売の禁止(一定の場合を除く)です(出典:e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」第36条の11)。
成分の指定は令和8年厚生労働省告示第32号(令和8年2月13日公布、同年5月1日適用)で行われました。対象は掲げられた成分・その水和物・それらの塩類を有効成分として含有する製剤で、生薬を主たる有効成分とする製剤は含みません。除外される外用剤には、トローチ剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、坐剤、軟膏剤・貼付剤などが含まれます(出典:厚生労働省医薬局長通知「同告示の適用について」令和8年2月13日医薬発0213第1号)。
「大容量製品」の線引きも同日付の告示で数値化されました。1包装であって、用法・用量からみて下表の日数分を超えない数量が上限です。
| 指定成分(いずれも外用剤を除く) | 1包装の数量上限 |
|---|---|
| エフェドリン | 5日分 |
| コデイン | 5日分 |
| ジヒドロコデイン | 5日分(かぜ薬は7日分) |
| ジフェンヒドラミン | 5日分(かぜ薬は7日分) |
| デキストロメトルファン | 5日分(かぜ薬は7日分) |
| プソイドエフェドリン | 5日分(かぜ薬・鼻炎用内服薬は7日分) |
| ブロモバレリル尿素 | 5日分(解熱鎮痛薬は7日分) |
| メチルエフェドリン | 5日分(かぜ薬・鼻炎用内服薬は7日分) |
用法・用量が年齢によって異なる製剤は1日当たりの用量が最も多い年齢で、頓用の製剤は頓用による1日当たりの最大使用量で日数を判断します(出典:令和8年厚生労働省告示第33号、医薬発0213第2号)。
販売時には何を確認し、どこから対面等が必要になるのか?
確認事項は、年齢・併用薬・18歳未満の場合の氏名・購入状況・大容量や複数個に該当する場合の理由を含む7項目です。18歳未満への販売と、18歳以上に対する大容量製品または複数個の販売では、対面またはビデオ通話による情報提供が必要になります。電話やチャットだけでは要件を満たしません。
確認は7項目、情報提供は書面で
局長通知は、施行規則第159条の18の5に基づく確認事項を次のとおり列挙しています。
- 年齢(薬局製造販売医薬品・要指導医薬品・第一類医薬品は従前どおり)
- 他の薬剤または医薬品の使用の状況
- 購入しようとする者が18歳未満である場合には、その者の氏名
- 当該製品および他の指定濫用防止医薬品の購入または譲受けの状況
- 大容量製品または複数個の購入・譲受けに該当する場合、その理由
- 適正な使用であることを確認するために必要な事項
- その他情報提供を行うために確認が必要な事項
情報提供すべき内容は「指定濫用防止医薬品の濫用をした場合における保健衛生上の危害の発生のおそれがある旨」で、書面を用いて行います。書面には電磁的記録の画面表示も含まれ、フリップや掲示物、製品包装の表示の活用でも差し支えないとされています。あわせて、情報提供を受けた者が内容を理解したことと質問の有無を薬剤師等に確認させることが必要です(出典:厚生労働省医薬局長通知「指定濫用防止医薬品の販売等について」令和7年12月26日医薬発1226第16号)。
年齢確認には幅があります。対面で外見等から18歳以上と明らかな場合は自己申告等でも差し支えない一方、明らかとは言えない場合は身分証の提示や会員情報の活用が適当とされ、18歳以上でも高校生等なら入念な確認が望ましいとされています。購入理由の想定例は、家庭の常備薬、自身や同一症状の家族が使用する場合、長期の海外赴任・海外旅行への携行などです。ただし「一律に…販売の可否を判断するものではなく」、示された理由に照らして適切な数量かを手順書に沿って薬剤師等が判断する必要があります(出典:厚生労働省医薬局総務課事務連絡「指定濫用防止医薬品の販売等に係る質疑応答集(Q&A)について」令和8年1月30日問2)。
「対面等」に電話とチャットは含まれない
「対面等」は、対面のほか「映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることが可能な方法その他の方法」である必要があり、具体的にはビデオ通話システムが想定されています。相手の映像をリアルタイムで認識できない電話、書面のみのやりとり、チャット等は含まれません。汎用のビデオ通話システムでも差し支えないものの情報の漏えい等の危険に関する説明が必要で、オンラインでは適正使用が確保できないと薬剤師等が判断した場合は対面に切り替えます(出典:医薬発1226第16号)。
数量の数え方で見落としやすいのは、同一の指定成分を含有する異なる製品を1つずつ販売する場合も「複数個」に当たる点です。逆に異なる指定成分の製品を1つずつなら数量超過には当たりませんが、相互作用や薬効成分の重複使用を避ける観点から情報提供が必要になる場合があると同通知は記しています。
陳列と手順書には何が求められるのか?
第二類医薬品(指定第二類を含む)と第三類医薬品である指定濫用防止医薬品は、陳列区画の内部などに陳列するか、情報提供設備から7メートル以内に陳列して薬剤師等を継続的に配置するかの二択になります。あわせて「指定濫用防止医薬品販売等手順書」の整備が必要で、頻回購入・多量購入への対応手順まで書き込むことが求められます。陳列方法の選択が人員配置の前提を変えるため、店舗設計とシフト設計が同時に動く論点です。
選択肢は施行規則第218条の5に定められています。第1号は陳列区画内部の陳列設備への陳列(鍵をかけた陳列設備など、購入者や使用者が直接手を触れられない陳列設備に陳列する場合はこの限りでない)、第2号は情報提供設備から7メートル以内に陳列し、その薬局または店舗で実務に従事する薬剤師または登録販売者を当該設備に継続的に配置する方法です。7メートルは「継続的に配置される薬剤師等から目の届く距離」という趣旨であり、柱や壁、高い陳列棚で完全に隠れて視認性に問題がある場合の裏側等への陳列は避けるとされています。短時間の離席は、方策と手順をあらかじめ手順書に定めれば陳列場所を閉鎖せずに可能です(出典:医薬発1226第16号、Q&A 問3・問5)。
手順書の記載事項は4つです。販売または授与の方法、情報提供および確認、陳列(第1号と第2号のどちらの方法かを明示する)、頻回購入・多量購入を希望する購入希望者への対応。頻回購入対策として通知が例示するのは販売記録の作成、帳簿等を活用した申し送り、お薬手帳を用いた対応、会員情報の活用で、「薬剤師等ごとに対応のばらつきが生じず、実効的な対応ができるよう手順を具体的に定めること」とされています。販売できない場合はカスタマーハラスメント防止の観点から法令上の理由をフリップ等で示す対応も挙げられています(出典:医薬発1226第16号)。手順書については、日本薬剤師会・日本チェーンドラッグストア協会・全国配置薬協会が作成したガイドラインが周知されています(出典:医薬総発0130第2号 令和8年1月30日)。
施行直前の遵守状況はどうだったのか?
厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7年度医薬品販売制度実態把握調査では、店舗販売の全体的な遵守率は横ばいでしたが、第一類医薬品の文書による情報提供は76.7%、情報提供の内容を理解したかどうか等の確認は65.4%にとどまりました。調査期間は令和7年12月から令和8年2月で、新ルールの適用開始前のベースラインに当たります。同省は「販売ルールを遵守していない薬局・店舗販売業が存在するため、更なる遵守率の向上に向けて販売ルールの徹底が必要」としています。
調査は一般消費者の立場の調査員が店舗を訪問し、または販売サイトを調査する方式で、店舗販売の対象は1,506件(薬局807件・店舗販売業699件)、インターネット販売は257件です。
| 調査項目 | 令和7年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| 従事者の名札等により専門家の区別ができた(店舗) | 92.9% | 94.7% |
| 要指導医薬品で購入者が使用しようとする者本人かの確認があった(店舗) | 73.6% | 89.9% |
| 第一類医薬品で文書を用いた情報提供があった(店舗) | 76.7% | 84.5% |
| 第一類医薬品で理解したかどうか等の確認があった(店舗) | 65.4% | 64.8% |
| 第一類医薬品の相談に対応した者が薬剤師であった(店舗) | 89.5% | 97.0% |
| 第一類医薬品の相談に対応した者が薬剤師であった(インターネット) | 58.8% | 94.3% |
| 第二類医薬品等の相談対応者が薬剤師または登録販売者であった(インターネット) | 64.0% | 68.2% |
| 濫用等のおそれのある医薬品の複数購入時の対応が適切であった(店舗) | 86.8% | 88.4% |
| 同(インターネット) | 90.5% | 81.0% |
読むときの前提が2つあります。第一に、「濫用等のおそれのある医薬品」の項目は調査時点の6成分(エフェドリン/コデイン/ジヒドロコデイン/ブロモバレリル尿素/プソイドエフェドリン/メチルエフェドリン)を対象としたもので、新たに加わったジフェンヒドラミンとデキストロメトルファンは含まれていません。第二に、店舗での複数購入時の内訳は「1つしか購入できなかった」37.5%、「複数必要な理由を伝えたところ、購入できた」49.3%、「質問等されずに購入できた」13.2%で、前2者が適切な販売方法として集計されています。インターネット販売では、カートに1つしか入れられない仕様が好事例として、理由の確認もなく複数個の購入手続きが完了した事例が不適切な例として挙げられました(出典:厚生労働省医薬局総務課「令和7年度医薬品販売制度実態把握調査結果について(概要)」令和8年8月、同省報道発表 令和8年8月7日)。
薬剤師の働き方にとってこれは何を意味するのか?
制度の重心が「売ってよいかを専門職が個別に判断する」ことに移り、判断の根拠を手順書と記録で示せるかが問われるようになりました。厚生労働省の通知は薬剤師等に濫用防止の入口としての役割も期待しており、店舗のオペレーション設計と教育が管理者側の業務として明確に加わっています。
購入理由の適切性について通知は「一律に購入が可能な理由が定まるものではない」として個別判断に委ねています。判断の余地が残るぶん属人化しやすく、だからこそ手順書に「購入希望者の属性、購入を希望する数量等考慮すべき代表的な要素を予め想定した上で、具体的な対応として手順化する」ことやフロー図の活用が望ましいと明記されています。同通知は、支援が必要な購入希望者と接した場合等に「支援につなげるゲートキーパーとしての役割を果たすことも期待されている」とも述べています。
業態による要件の違いもキャリアの選択に関わります。薬局・店舗販売業では陳列規制と手順書が中心ですが、配置販売業には固有の陳列規定がなく、代わりに配置先の年齢構成等を踏まえた数量判断が求められます。特定販売では年齢確認の技術的手法が論点で、身分証のアップロード、マイナンバーカードを用いた年齢認証、通信事業者の契約情報に基づく認証が想定例です(出典:Q&A 問6・問7)。OTC販売の現場は、判断・記録・教育という管理的な要素が濃い領域になりました。調剤の外部委託や薬剤師偏在指標と同じく、制度側から薬剤師の業務範囲の輪郭が引き直されている局面です。
よくある質問
要指導医薬品はインターネットで売れるようになったのですか?
情報提供と薬学的知見に基づく指導はビデオ通話等でも実施できるようになりましたが、特定要指導医薬品の販売・授与そのものは対面で行う必要があります。ビデオ通話で情報提供と指導を行った薬剤師と対面で販売する薬剤師は同一の者でなければならず、その購入希望者が同一人物であることを確認した上で販売します。要指導医薬品の特定販売を行う場合は、特定販売を行う医薬品の区分に係る変更の届出が必要です(出典:厚生労働省医薬局総務課長通知「特定要指導医薬品の販売等に係る留意事項について」令和8年4月17日医薬総発0417第2号)。
空箱陳列にすれば薬剤師等の継続的な配置は不要ですか?
実物を購入希望者等から直接手の届かない場所に陳列していれば、施行規則第218条の5第1号に適合する陳列と解することができ、情報提供設備への専門家の継続的な配置は法令上求められません。ただし適合の判断は、空箱や商品カードが陳列される場所ではなく、医薬品の実物を陳列する場所について行う必要があります(出典:Q&A 問4)。
令和7年度の調査結果は新ルール下の遵守率ですか?
いいえ。店舗調査は令和7年12月〜令和8年1月、インターネット販売調査は令和7年12月〜令和8年2月で、いずれも新ルールが適用された令和8年5月1日より前です。濫用等のおそれのある医薬品に関する項目も調査時点の6成分を対象としています(出典:令和7年度医薬品販売制度実態把握調査結果(概要)、医薬発0213第1号)。
参考資料
- 厚生労働省 / 「医薬品販売制度実態把握調査」の結果を公表します / 令和8年8月7日 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75385.html / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局総務課 / 令和7年度医薬品販売制度実態把握調査結果について(概要) / 令和8年8月 / https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001735076.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省 / 薬機法第三十六条の十一第一項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する医薬品(令和8年厚生労働省告示第32号) / 令和8年2月13日公布・同年5月1日適用 / https://www.mhlw.go.jp/content/001654676.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局長 / 同告示の適用について(医薬発0213第1号) / 令和8年2月13日 / https://www.mhlw.go.jp/content/001654675.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省 / 薬機法施行規則第百五十九条の十八の六第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める数量(令和8年厚生労働省告示第33号) / 令和8年2月13日告示・同年5月1日適用 / https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001655158.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局長 / 同告示の適用について(医薬発0213第2号) / 令和8年2月13日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001655157.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局長 / 指定濫用防止医薬品の販売等について(医薬発1226第16号) / 令和7年12月26日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001628299.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局総務課 / 指定濫用防止医薬品の販売等に係る質疑応答集(Q&A)について(事務連絡) / 令和8年1月30日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001649556.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局総務課長 / 指定濫用防止医薬品販売等手順書に係る関係団体作成ガイドラインの周知について(医薬総発0130第2号) / 令和8年1月30日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001649557.pdf / 確認日:2026年9月2日
- 厚生労働省医薬局総務課長 / 特定要指導医薬品の販売等に係る留意事項について(医薬総発0417第2号) / 令和8年4月17日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001692385.pdf / 確認日:2026年9月2日
- デジタル庁 e-Gov法令検索 / 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第36条の11 / https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145 / 確認日:2026年9月2日
本記事の内容は2026年9月2日時点で確認できた告示・通知・公表資料に基づきます。指定成分および数量は告示で定められるため、改定の有無は原典で確認してください。
参考・一次出典
- デジタル庁 e-Gov法令検索 / 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第36条の11
- 厚生労働省 / 薬機法第三十六条の十一第一項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する医薬品(令和8年厚生労働省告示第32号) / 令和8年2月13日公布・同年5月1日適用
- 厚生労働省医薬局長 / 同告示の適用について(医薬発0213第1号) / 令和8年2月13日
- 厚生労働省 / 薬機法施行規則第百五十九条の十八の六第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める数量(令和8年厚生労働省告示第33号) / 令和8年2月13日告示・同年5月1日適用
- 厚生労働省医薬局長 / 同告示の適用について(医薬発0213第2号) / 令和8年2月13日
- 厚生労働省医薬局長 / 指定濫用防止医薬品の販売等について(医薬発1226第16号) / 令和7年12月26日
- 厚生労働省医薬局総務課 / 指定濫用防止医薬品の販売等に係る質疑応答集(Q&A)について(事務連絡) / 令和8年1月30日
- 厚生労働省医薬局総務課長 / 指定濫用防止医薬品販売等手順書に係る関係団体作成ガイドラインの周知について(医薬総発0130第2号) / 令和8年1月30日
- 厚生労働省医薬局総務課 / 令和7年度医薬品販売制度実態把握調査結果について(概要) / 令和8年8月
- 厚生労働省 / 「医薬品販売制度実態把握調査」の結果を公表します / 令和8年8月7日
- 厚生労働省医薬局総務課長 / 特定要指導医薬品の販売等に係る留意事項について(医薬総発0417第2号) / 令和8年4月17日


