薬剤師の卒後臨床研修と専門薬剤師の認定を、国としてどう整えるか。厚生労働省は2026年7月14日、「薬剤師のキャリアパスに関する懇談会」の第1回を開きました。議題は薬剤師のキャリアパスの全体像、多様なキャリアに対応した専門性、卒後・生涯研鑽を含む一体的な養成体系の3点で、結論はまだ出ていません(出典:厚生労働省 第1回薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料1「薬剤師のキャリアパス懇談会について」令和8年7月14日)。
ただし資料には、現場が動いている数字がすでに並んでいます。ガイドライン準拠の研修を受けられる新人は、病院に就職する薬学部卒業生の約3分の1にとどまるという試算がその一つです。本記事は第1回の資料のうち、卒後研修と専門薬剤師の質保証に絞って、原典で確認できた範囲だけを整理します。
薬剤師のキャリアパスに関する懇談会は、何を議論する場なのか?
検討会ではなく懇談会として、キャリアの全体像と養成体系を整理する場です。第1回の資料1には、主要な議題として次の3点が示されています。
- 薬剤師のキャリアパスの全体像の整理
- 医療・創薬等を含む多様なキャリアに対応した専門性のあり方と、卒後・生涯研鑽を含む一体的な養成体系の論点整理
- 持続可能な医療・社会に貢献する教育研修プログラムの検討
資料1は議論の背景として、2003年の薬剤師問題検討会の中間報告に加え、日本学術会議の2014年・2017年・2020年の提言・報告を挙げています。2020年9月4日の提言が挙げた課題は、薬局薬剤師の調剤中心の状況、卒後教育の体系化の不足、認定・専門薬剤師制度の乱立、レジデント制度の未整備です。厚労省はその後、令和6〜7年度の研究で、認定・専門薬剤師の質担保には第三者機関と単一名称の導入が必要とされたことなどを、これまでの取組として整理しています。
薬剤師の卒後臨床研修は、これまでどう進んできたのか?
2021年度のモデル事業から3年かけて期間を12週間から1年間まで延ばし、2024年3月に薬剤師臨床研修ガイドラインが公表されました。資料3(日本病院薬剤師会の提出資料)によると、ガイドラインの研修期間は1年以上で、対象は病院、薬局、診療所、介護保険施設です(出典:日本病院薬剤師会「薬剤師臨床研修事業について」薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料3 令和8年7月14日)。
| 年度 | 規模 | 研修期間 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | モデル事業8施設 | 12週間 | モデル事業 |
| 令和4年度 | 25施設(病院・薬局受入型) | 6か月 | ガイドライン(案)の策定 |
| 令和5年度 | 34施設(病院・薬局受入型) | 1年間 | ガイドラインの策定 |
| 令和6年3月 | — | 1年以上 | 厚生労働省が「薬剤師臨床研修ガイドライン」を公表 |
表の12週間・6か月・1年間はモデル事業・試行の期間で、ガイドラインが定める基準は「1年以上」です。資料3は、令和7年9月18日の検討会で、特定機能病院の新たな基礎的基準(教育)に、免許取得直後の薬剤師向けの総合的な研修体制の整備が明記されたとも記しています。
ガイドライン準拠の研修を受けられる新人は、どれだけいるのか?
令和9年度の受入枠は663人で、毎年約2,000人が病院に就職するという日病薬の試算に対して、約3分の1です。この663人は、2026年2月12日〜3月31日の実態調査に回答した558施設のうち、受入可能とした195施設の枠の合計です(受入不可は363施設)。
この数字には読み方の注意が3つあります。第一に、663人は回答した558施設全体ではなく受入可能な195施設の合計です。第二に、分母の「約2,000人」には資料3に出典の記載がありません。第三に、調査に回答しなかった施設は含まれていません。受入体制の「現在地」を示す数字として読むのが妥当で、薬剤師全体の研修機会の割合を示す統計ではありません。
令和8年度は、単独でガイドラインを満たしにくい中小病院や単科病院が複数施設で協働する「病院間連携研修事業」で、審査を経て31グループが認定されました。研修施設登録システムの登録代表施設は94施設です(いずれも資料3の記載、2026年7月14日時点)。
現場は新人研修の何に困っているのか?
最大の課題は指導する人の時間と人手で、連携が必要なテーマの筆頭は在宅訪問・地域連携でした。資料3には、指導薬剤師育成のe-ラーニング(2026年1月6日〜2月28日、3,727名が受講)のアンケート結果が載っています。
| 設問 | 上位の回答 |
|---|---|
| 現在の新人研修の実施状況(3,124件) | 独自研修(ガイドライン非準拠)34%/ガイドライン準拠29%/OJTのみ24%/特に実施していない13% |
| 新人研修の課題(複数回答) | 指導のマンパワー不足42%/プログラム・マニュアル・評価ツールの未整備27%/他施設との連携構築の難しさ21% |
| 他施設との連携が必要なテーマ(複数回答) | 在宅訪問・地域連携63%/無菌調製・がん化学療法14%/病棟業務8% |
このアンケートの回答者は、指導薬剤師になるための講習を受けた人たちです。薬剤師全体や病院全体の傾向を代表するとは言えません。複数回答の設問は、割合が回答者数ではなく回答件数に対する比率で、合計は回答者数と一致しません。資料3の42%は、総回答件数6,419件に対する割合です。
専門薬剤師の第三者による質保証は、なぜ論点になっているのか?
領域ごとの学会などが個別に認定している現状について、国が第三者による確認を含む質の確保を検討するよう指摘してきたからです。資料5(東京薬科大学の益山参考人の提出資料)は、薬剤師の経緯を3点に整理しています(出典:益山参考人「専門薬剤師制度について」薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料5 令和8年7月14日)。
- 2008年:日本学術会議が、国家試験合格後から専門薬剤師に至る段階的な道筋(ラダー)を提言
- 2020年:日本学術会議が再提言。領域別の認定が個別の職能団体や学会で行われていることから、名称の整理、認定基準の整合性、質保証の仕組みの検討を指摘
- 2023年:厚生労働省の「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が、第三者による確認を含む認定の質の確保の検討を指摘
資料5はこれに、医師と歯科医師の経緯を並べています。医師は1981年の学会認定医制協議会の発足から続く学会ごとの認定を経て、第三者の機構へ移行しました。歯科は2018年に日本歯科専門医機構が設立されました。薬剤師の分野でも同じ道を歩むのかどうかが、懇談会の論点の一つです。なお資料5のスライドは、「専門薬剤師制度整備指針」と運用フローチャートの作成に取り組んだことを題名で示すにとどまり、第三者評価機関の役割や審査の流れの中身は載っていません。
米国の制度と薬剤師本人の意向は、どう資料に出ているのか?
米国は卒後研修と専門薬剤師の認定が連動しており、国内の調査では薬剤師の7〜8割が卒後研修の必要性に肯定的でした。資料2は、令和7年度厚生労働省委託事業として薬剤師認定制度認証機構がまとめた報告で、次の内容を載せています(出典:薬剤師認定制度認証機構「薬剤師キャリアパス事業について」薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料2 令和8年7月14日)。
米国の卒後研修には、基礎的な臨床能力を養うPGY1と、その修了者が特定領域の専門性を養うPGY2があります。PGY1には薬学部卒業生の約30%にあたる約4,000人が採用されるとされますが、この数値の時点は資料に記載がありません。認証プログラム数は2024年時点でPGY1が1,567、PGY2が1,222です。PGY1修了者は薬物療法専門薬剤師の受験資格を得られ、研修と専門薬剤師の認定が接続しています。
薬剤師のキャリア形成に関するWebアンケート(2026年1月29日〜3月15日、有効回答11,392件)では、10〜20年後に主に携わりたい業務(複数選択)は、調剤・服薬指導64.9%、在宅医療・地域包括ケア32.4%、健康サポート・セルフメディケーション支援27.3%、専門・認定薬剤師としての高度専門業務16.6%でした。卒後臨床研修制度の必要性に対しては、70〜85%が肯定的な認識を示したと記されていますが、設問ごとの割合は資料に書かれていません。回答は関係団体を通じた協力依頼で集めたWebアンケートなので、薬剤師全体を代表するものではありません。
この時点で、まだ決まっていないことは何か?
懇談会としての結論も、研修を認定要件に算入する仕組みも、いずれも決まっていません。確定した制度ではなく、議論の途中経過として読む必要があります。
- 検討段階のもの:資料1が挙げる「研修修了歴を認定要件に算定する」といった優遇措置は、令和7年度の検討会で挙げられた論点として整理されているだけです
- 第2回の状況:第2回は2026年9月30日に開かれ、議題は「創薬等を含む薬剤師の多様なキャリアに対応した専門性のあり方」でした。2026年10月20日の確認時点で、資料も議事録も掲載されていません(出典:厚生労働省「薬剤師のキャリアパスに関する懇談会」開催回一覧、同 第2回開催案内)
- ガイドライン準拠の研修の費用負担と報酬上の位置づけ:本記事で参照した資料には記載がありません
薬剤師のキャリアと採用に、どうつながる可能性があるのか?
卒後研修の枠が限られている以上、新人の受け入れ体制は病院間の差になりうるという読み方ができます。以下は資料の数字を踏まえた筆者の読みで、懇談会の結論ではありません。
病院が新人を採用する側に立つなら、ガイドライン準拠の研修を単独で組めるか、病院間連携に入るかが検討事項になります。資料3では、課題の筆頭が指導のマンパワーでした。薬剤師個人にとっては、研修修了歴が将来の認定にどう算入されるかが決まれば、最初の就職先選びの前提が変わります。現時点では、この点は決まっていません。
認定薬局の制度変更で人員要件が変わる動きは認定薬局の2027年改正と研修修了者の要件で、業態と地域で偏る薬剤師の配置は薬剤師偏在指標の読み方で整理しています。
よくある質問
薬剤師の卒後臨床研修は、法律上の義務になったのですか。
いいえ。本記事で参照した資料から確認できるのは、2024年3月に厚生労働省が薬剤師臨床研修ガイドラインを公表したこと、特定機能病院の新たな基礎的基準(教育)に免許取得直後の薬剤師向け研修体制の整備が明記されたと日病薬の資料が記していることです。薬剤師全体への義務化は資料に書かれていません。
第1回の懇談会で、結論は出たのですか。
出ていません。第1回は3つの議題について事務局と参考人が資料を説明し、総合討論を行う回で、資料にも懇談会としての結論や報告書の記載はありません。第2回の資料・議事録は、2026年10月20日の確認時点で未掲載です。
663人という受入枠は、全国の病院の受入枠の合計ですか。
いいえ。2026年2〜3月の実態調査に回答した558施設のうち、受入可能とした195施設の令和9年度の受入枠の合計です。回答していない施設は含まれていません。
専門薬剤師の人数は何人ですか。
本記事で参照した資料では確認できませんでした。資料5には認定団体数・認定者数・調査時点の記載がなく、資料2にも専門薬剤師の人数の記載はありません。
参考資料
- 厚生労働省医薬局 / 第1回薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 資料1「薬剤師のキャリアパス懇談会について」 / 令和8年7月14日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001722746.pdf / 確認日:2026年10月20日
- 薬剤師認定制度認証機構 / 同 資料2「薬剤師キャリアパス事業について」(渡邊参考人提出資料) / 令和8年7月14日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001722170.pdf / 確認日:2026年10月20日
- 日本病院薬剤師会 / 同 資料3「薬剤師の臨床研修事業について」(武田構成員提出資料) / 令和8年7月14日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001722171.pdf / 確認日:2026年10月20日
- 益山参考人 / 同 資料5「専門薬剤師制度について」 / 令和8年7月14日 / https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001722747.pdf / 確認日:2026年10月20日
- 厚生労働省 / 薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 開催回一覧 / 2026年10月20日確認時点 / https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_470779_00026.html / 確認日:2026年10月20日
- 厚生労働省 / 第2回薬剤師のキャリアパスに関する懇談会 開催案内 / 令和8年9月30日開催 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76155.html / 確認日:2026年10月20日
※資料が引く各調査・報告(日本学術会議の提言、日病薬の受入体制の実態調査とe-ラーニングのアンケート、認証機構のWebアンケートと米国調査)の原報告書は参照していません。個別の数値は資料2・資料3・資料5の記載を典拠としています。第1回の議事録は本記事の典拠に用いていません。





