
監修:医師・医療法人社団季邦会 理事長 鎌形博展
最終確認日:2026年10月3日
一言でいえば、救急医が院長を務める「毎日開いている、画像検査まで完結する郊外型の総合外来」です。石川院長は地域メディアの取材で、ニューヨークのスーパーの一角などにある「アージェントケア」に着想を得たと話しています。診療科に関係なくまず診て、重症度を見極め、必要な医療につなげる役割を目指すといいます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開院日 | 2026年10月1日 |
| 所在地 | 東京都八王子市椚田町538-5(旧BOOK OFF跡地)。京王高尾線めじろ台駅から徒歩10分、駐車場あり |
| 建物 | 平屋建て約150坪。診療室6室、処置室2室、AI問診ブース併設(医師採用サイトより) |
| 診療時間 | 毎日 8:30〜21:00、休診日なし(予定)。リハビリは8:30〜18:00。日祝は時間調整や昼休憩の可能性あり |
| 標榜科目 | 総合内科、整形外科、リハビリテーション科、皮膚科、小児科、救急科 |
| 検査設備 | 16列CT(富士フイルム SUPRIA 2M)、1.5T MRI(ヘリウムレス、心臓検査なし)、内視鏡、レントゲン、エコー(求人票より) |
| 自費診療 | 美容皮膚科、美容点滴・注射、AGA・FAGA治療、ED治療(予定) |
| 救急告示 | なし(医師採用サイトの募集要項より) |
| システム | クラウド電子カルテ。AI問診・予約・決済・再診と連携 |
| 開設者/運営支援 | 医療法人社団ウェルパートナー/株式会社TENET |
「救急科」を標榜していますが、救急告示を受けた医療機関ではありません。救急車を受け入れる「救急病院」ではなく、夜間・休日の歩いて来られる患者を受け止める外来と理解するのが正確です。
自費診療のメニューに、TENETの祖業であるAGA治療が並んでいる点も見逃せません。保険診療の総合外来を集患の入り口とし、自費診療で収益を補う設計がうかがえます。
開院前のPRも異例の規模でした。9月の土日6日間に「健康フェスティバル」を開き、救急車の乗車体験や夜の院内探検、キッチンカーまで用意しました。地域メディアの報道によると、初日だけで約500人、最初の2日間で約1,000人が来場しています。なお、この地域メディアの記事にはPR表記が付いています。
公式サイトの院内掲示事項によると、保険医療機関としての指定は2026年10月1日付で、関東信越厚生局に次の施設基準を届け出ています。
| 区分 | 届け出ている施設基準 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 基本診療料 | 情報通信機器を用いた診療に係る基準 | オンライン診療に対応。TENETの祖業との接点 |
| 基本診療料 | 時間外対応体制加算3 | 継続受診の患者からの電話に、毎日21〜22時に対応 |
| 特掲診療料 | CT撮影及びMRI撮影 | 16列CT・1.5T MRIを、施設基準に応じた点数で算定できる |
| 特掲診療料 | 運動器リハビリテーション料(Ⅲ) | リハの点数は1単位85点で、(Ⅰ)の185点の半分以下 |
注目したいのは、リハビリが最も低い区分の(Ⅲ)で届け出られている点です。(Ⅲ)は少ない理学療法士でも届け出られる区分で、人件費を抑えられる反面、リハのみの患者の単価は1回2,400円前後にとどまります。リハビリを収益の柱ではなく、整形外科の診察とMRI・CTに付随する機能として位置づけていると読めます。脳・神経疾患のリハビリは行わないことも明記されています。
また、放射線科医の読影体制を前提とする画像診断管理加算は、届出の一覧にありません。CT・MRIの読影は、外部への委託か、診療した医師自身が担う形になるとみられます。
公式サイトには、10月2日以降の受付時間に関するお知らせも掲載されています。内科・小児科・救急外来・発熱外来は21時まで受け付ける一方、整形外科と皮膚科は混雑状況により当日受付を終了する場合があるとしています。「全科・毎日21時まで」の看板は、開院直後から科によって調整が入っていることになります。
八王子モデルの成否を握るのは医師の確保であり、提示条件はクリニック勤務としては最上位の水準です。一方で、開院前日時点で公式サイトに紹介されている医師は院長のみで、他の医師は「決まり次第紹介」とされています。
石川浩平院長は2007年川崎医科大学卒業で、順天堂大学医学部附属静岡病院 救急診療科の准教授などを務めた救急医です。救急科指導医・専門医、集中治療専門医の資格を持ち、医師採用サイトではドクターヘリでの現場出動が1,300件を超えると紹介されています。2023年からは米国のFeinstein Institutes for Medical Researchで研究に従事していました。
統括医師はTENETのCMOでもある佐藤暁幸医師です。2002年慶應義塾大学医学部卒業で、亀田総合病院の総合内科部長、亀田クリニック副院長を経て、2025年にTENETへ参画しました。総合内科専門医、家庭医療専門医・指導医です。
| 項目 | 常勤 | 非常勤 |
|---|---|---|
| 給与 | 年収1,200万〜3,000万円(賞与含む、院長手当別) | 時給12,000円(日勤)、13,000円(18〜22時) |
| 年収モデル | 免許5年目1,200万円〜、15年目1,800万円〜、20年目2,200万円〜 | ― |
| 勤務 | 8:00〜21:30のシフト制、平均週40時間、週4日も相談可 | 8:00〜22:00のうち週1日から |
| 休日・オンコール | 年間休日120日、オンコールなし、残業月20時間以内 | ― |
| 応募要件 | 免許取得5年以上かつ外来経験5年以上。内科・整形・リハ・皮膚・小児のいずれか | ジェネラリスト志向、AI活用に関心のある方を歓迎 |
| 直接応募特典 | 入職祝い金100万円、面接御礼Amazonギフト1万円 | 面接御礼のみ |
注目したいのは、採用サイトの訴求が「開業だけがキャリアじゃない」である点です。集患・経営・採用を法人が引き受け、開業相当の年収と自由度を得られるとうたっています。開業を考える中堅医師そのものを、競合として取り込みにいく設計です。
比較の目安として、365日診療のキャップスクリニックは過去の医師募集で「週4日勤務で年収約2,000万〜2,300万円」を提示していました。八王子の条件はこれと同等か上回る水準で、夜間・休日診療の医師は奪い合いになっていることがわかります。2026年10月3日現在、八王子総合クリニックでは時給2万円で総合診療科、整形外科、皮膚科の求人が多数出しているようです。立地やコンセプトからは、医師確保が大きな課題になるのが予測されます。
求人票に記載された開院時のスタッフ構成(見込)は、医師が院長+常勤2名、看護師が常勤5名、理学療法士が常勤2名、放射線技師が常勤3名、医療事務が常勤10名です。医師以外の職種でも、遅番・土日祝は非常勤のダブルワークを中心に採用するとしています。
常勤医3名だけでは、3診を毎日12.5時間開ける体制の4割程度しか埋まりません。実際、医師アルバイト求人サイトには、八王子市内の匿名クリニックとして、内科・整形外科・皮膚科の夕方〜22時のスポット勤務が多数掲載されています。報酬は5時間で10万円、6時間で12万円と、時給換算で2万円です。診療科と時間帯の組み合わせは八王子総合クリニックの体制と一致します。
筆者の見立てでは、開院直後はスポット医で枠を埋めつつ、徐々に時給1.5万円前後の定期非常勤へ置き換えていく段階にあると考えられます。この切り替えの速さが初期の収支を大きく左右することは、後述の試算で示します。
なお、クリニック公式サイトには「掲載画像の一部はAIにより生成したイメージ」との注記があります。写真に写る医療者が実際の在籍者とは限らない点は押さえておくべきでしょう。
TENETは、ネット広告とD2Cで育った起業家が、自由診療のオンライン医療で稼いだ力を保険診療の対面クリニックへ振り向けている会社です。八王子総合クリニックは、その転換の最初の実店舗にあたります。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年10月 | 八王子総合クリニック開院(総合診療クリニックの第1拠点) |
| 2026年8月 | 従業員34名(契約社員・アルバイト含む) |
| 2025年10月 | 医療機関向け採用代行「病院人事部」を展開するmedrepの子会社化を決議。対面の医療機関への支援を強化すると説明 |
| 2025年 | CMOに佐藤暁幸医師(元亀田総合病院 総合内科部長)が参画 |
| 2024年4月 | CTOに河西智哉氏が参画 |
| 2023年10月 | 資金調達。調達後評価額(潜在株含む)約83.7億円 |
| 2021年 | ジャフコが初回投資 |
| 2020年4月以降 | 初診オンライン診療の特例を追い風に、AGA治療「AGAスマクリ」、不眠治療「ネムレルくん」のDX支援を開始 |
| 2020年3月 | 花房弘也氏と澤口拓朗氏が株式会社TENETを設立 |
| 2016年頃 | 花房氏が24歳で、評価額13.5億円でアラン・プロダクツをユナイテッドに売却。のちに同社執行役員 |
| 2014年頃 | 花房氏が21歳でアラン・プロダクツを創業。薄毛情報メディア「ヘアラボ(旧ハゲラボ)」を運営 |
創業初期の採用ページには、最初の2〜5年は自由診療に集中すると明記されていました。性感染症、ED、AGAなど「恥ずかしい」「高い」という悩みと結びつく領域を、オンライン化で解決するという戦略です。インターン募集では、月1億円規模の広告予算を運用すると書いていた時期もあります。
現在のTENETは事業を7つに整理しています。オンライン診療、医療メディア、事業承継・病院再生、クリニック・病院向けDX/AX、少額短期保険、総合診療クリニックのプロデュース、医薬品企画製造・医療機器開発です。各事業が患者・データ・人材を相互に回す「エコシステム」だと説明しています。
経営陣は「IT起業家+総合診療医+小売の経営者」という組み合わせで、医療機関の経営経験者より、プロダクト・マーケティング・店舗運営の経験者が厚い布陣です。
| 氏名 | 役割 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 花房弘也 | 代表取締役CEO | アラン・プロダクツ創業、ユナイテッド執行役員 |
| 佐藤暁幸 | CMO(医師) | 亀田総合病院 総合内科部長、亀田クリニック副院長 |
| 武田政則 | パートナー/総合診療クリニック統括責任者 | 2020年ニトリ代表取締役社長、2024年ニトリホールディングス副社長 |
| 河西智哉 | CTO・開発本部長 | 複数社のCTOを歴任 |
| 天羽公平 | オペレーション統括 | KLabで開発部管掌役員、人事部長 |
| 澤口拓朗 | 共同創業者 | ユナイテッド、アラン・プロダクツで新規事業 |
武田氏については、東洋経済は「ニトリ元社長」、TENETの会社紹介資料は「元ニトリホールディングス副社長」と書いています。公式サイトの経歴によれば両方とも事実で、表記の違いに過ぎません。武田氏は「ユニクロが衣料を、ニトリが家具を変えたように、私たちは医療を変えていく」という採用サイトのメッセージの中心人物で、チェーンストア理論を医療に持ち込む役割を担っているとみられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー |
| 資本金 | 60,059,000円(2023年1月1日時点) |
| 従業員数 | 34名(2026年8月1日時点、契約社員・アルバイト含む) |
| 累計調達額 | 25億〜34億円(資料により幅あり) |
| 主要株主 | ジャフコ、East Ventures、サイバーエージェント、NOW、15th Rock、HIRAC FUND、GMOVP、みずほキャピタル、SMBCVC、三井住友信託銀行、静岡キャピタル、広島VC など |
| 融資 | 静岡銀行(創業初期から融資、静岡キャピタル経由で出資も) |
公式サイトには投資家のコメントも掲載されています。三井住友信託銀行は、オンライン診療の支援にとどまらず「店舗型総合診療クリニック」の運営支援に取り組むことを出資の文脈として挙げています。サイバーエージェントの藤田晋氏は、花房氏への出資は2度目だとコメントしています。
従業員34名という規模は、800拠点を目指す組織としてはまだ小さいと言えます。採用サイトからは、医療現場の人材を法人側が大量に抱え込むのではなく、AIとシステムで少人数運営を目指す姿勢が読み取れます。
ウェルパートナーは、TENETが支援するオンライン診療サービスの提供主体として実績を積んできた医療法人で、八王子総合クリニックの開設者です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都江戸川区臨海町3-6-3 |
| 代表者 | 理事長 高橋一志 |
| 法人番号 | 4020005001954 |
| 診療科目(法人) | 皮膚科、内科、心療内科、精神科、泌尿器科 |
| 主な医療機関・サービス | みんなのスマートクリニック(江戸川区・恵比寿、心療内科・精神科)、AGAスマクリ(オンライン中心、恵比寿で対面も可)、八王子総合クリニック |
AGAスマクリの運営ページには「ウェルパートナー」の名で記事が掲載されています。月額3,000円からのAGA治療をオンライン完結で提供するサービスです。看護師のフルリモート求人も、ウェルパートナー名義で出されています。
興味深いのは、八王子総合クリニックのコメディカル採用ページがTENETのNotion(tenetinc)上にあることです。採用・広報・システムといった法人運営の実務は、TENETが担っていることがうかがえます。医師採用サイトの武田氏のメッセージでも、「IT・AIネイティブなウェル・パートナー」が自社開発でシステムを作ると書かれています。
静岡県磐田市には、同名の別法人(歯科)が存在します。両者に関係はないとみられるため、取材や引用の際は法人番号で区別してください。
株式会社が企画・システム・集患を担い、医療法人が開設者として診療する構造自体は、多拠点クリニックでは珍しくありません。比較対象のブランドも、多くが同じ形をとっています。
| ブランド | 医療法人(開設者) | 支援する株式会社 |
|---|---|---|
| 八王子総合クリニック | 医療法人社団ウェルパートナー | 株式会社TENET |
| キャップスクリニック | 医療法人社団ナイズ | CAPS株式会社 |
| クリニックフォア | 医療法人社団エムズ、CFI、CFS など複数 | 株式会社Linc’well |
| キュアステーション/DMMオンラインクリニック | 医療法人社団DMH(DMMオンラインクリニック、キュアステーション) | 合同会社DMM.com |
この形の論点は、医療法人から株式会社へ支払われる業務委託料などの水準です。医療法人は剰余金の配当が禁じられており、関係事業者との取引は事業報告の対象になっています。委託料が実態より高ければ、実質的な利益移転と見られかねません。
800拠点を承継で増やす場合、どの医療法人が開設者になるのかも焦点です。ウェルパートナーが分院として増やすのか、承継した既存の医療法人ごと支援先に加えるのか、クリニックフォアのように複数の医療法人を並べるのかで、ガバナンスの姿は大きく変わります。現時点で、この点についての公式な説明は見当たりません。
病院の赤字割合は、統計の選び方次第で「約7割」にも「約9割」にもなります。一方、診療所の「5割赤字」を裏付ける公的データは見当たりません。
花房社長は東洋経済の取材で、病院の8割、診療所の5割が赤字だと述べました。TENET公式サイトの代表メッセージでは「病院の約86%が赤字」と書いています。主要な調査と照らし合わせた結果は次のとおりです。
| 主張 | 照合したデータ(2024年度) | 判定 |
|---|---|---|
| 病院の約86%が赤字(公式サイト) | 四病協の7年連続追跡集計:医業赤字87.0%、経常赤字77.8% | 医業利益・追跡集計ならほぼ一致 |
| 病院の8割が赤字(東洋経済) | 四病協 最終報告:医業赤字74.6%、経常赤字65.6% | 医業ベースならやや高め |
| 同上 | 医療経済実態調査:一般病院の赤字施設67.6%、損益率▲7.3% | 高めの表現 |
| 診療所の5割が赤字 | 医療経済実態調査:一般診療所の損益率 医療法人4.8%、個人28.8%(平均は黒字) | 裏付けとなる公的データなし |
| コロナ後、受診は7〜8割しか戻らない | 出典を確認できず | 要出典 |
四病協の7年連続追跡集計は、毎年回答している病院に限った数字です。全体の傾向を示す数字としては、最終報告や医療経済実態調査のほうが一般的に使われます。どの統計を使ったかを示さずに「86%」を掲げると、読者の受け止めは実態より強くなりやすいと言えるでしょう。
とはいえ、診療所の余裕が急速に失われているのは事実です。医療法人立の一般診療所の損益率は、前年度からほぼ半減しました。「半数が赤字」とまでは言えないものの、後継者のいない診療所が承継先を探す動きは今後さらに強まると考えられます。
「いつでも行ける」をうたうクリニックは八王子総合クリニックが初めてではなく、先行ブランドはそれぞれ立地・対象・時間帯の絞り込みで成立してきました。主要6ブランドと並べると、八王子モデルの位置づけがはっきりします。
| ブランド | 運営(医療法人/支援企業) | 開始 | 拠点数(時点) | 立地 | 診療時間 | 主な対象・特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 八王子総合クリニック | ウェルパートナー/TENET | 2026年 | 1(2026年10月) | 郊外ロードサイド、駐車場あり | 毎日 8:30〜21:00 | 全年齢の総合外来。CT・MRI・内視鏡、整形・リハ、自費(AGA・ED・美容) |
| ドクターランド | 白報会(王子病院、在宅診療所20拠点などを持つグループ) | ― | 6院(松戸・船橋・幕張・浦和美園・大宮・錦糸町) | イオンモールなど大型商業施設内 | 年中無休(年始3日を除く)。例:浦和美園は各科 9:30〜18:30、内科・リハビリは夜9時最終受付 | 内科・整形外科・皮膚科・小児科・耳鼻咽喉科・リハビリの複数科。健診・人間ドック、美容皮膚科、在宅医療も |
| キャップスクリニック | ナイズ/CAPS | 2012年 | 41拠点目を2025年7月に開院、以降も出店継続 | 商業施設内が中心(ららテラス、イオンなど) | 毎日 9:00〜21:00 | 小児科中心の家族のかかりつけ。1都3県と関西に展開 |
| クリニックフォア | エムズ・CFI・CFSなど/Linc’well | 2018年 | 15院目を2026年2月に開院、2026年は年5〜6院のペースで出店 | 都心の駅前・オフィス街、商業施設 | 例:平日 10:00〜19:30、土曜 9:00〜18:00(院により休診日あり) | 働く世代の内科・皮膚科・アレルギー科と幅広い自費。オンライン診療と一体運営、累計調達122.3億円 |
| キュアステーション(DMM) | DMH(DMMオンラインクリニックの診療を担う法人)/DMM | 2024年前後 | 4院(2026年9月:葛西・北戸田・南砂・市川) | イオンなど商業施設内 | 例:9:00〜14:00/15:30〜20:30(土日祝も診療、北戸田は21時まで) | 一般内科・アレルギー・生活習慣病など保険診療中心(美容注射のみ自費)。オンライン診療と併用 |
| クリニックプラス | 公式サイト上で運営法人の記載を確認できず | ― | 16院(2026年9月、東京12・千葉4) | 駅徒歩1分圏 | 平日 9:00〜20:00、土日祝 9:00〜17:30 | 内科・皮膚科・小児科・アレルギー科。LINEで予約・問診・診察券が完結 |
| ナビタスクリニック | 鉄医会 | 2008年 | 立川・川崎・新宿など少数 | 駅ナカ(駅ビル直結) | 平日21時まで(新宿は土日祝も診療) | 内科・小児科・皮膚科、トラベルクリニック、血液内科 |
拠点数の時点がブランドごとに異なるため、単純な大小比較には注意してください。クリニックプラスの運営主体は、公開情報で確認できた範囲では特定できませんでした。
先行ブランドが「何かを捨てて」長時間診療を成り立たせてきたのに対し、八王子モデルはほとんど何も捨てていません。そこが最大の独自性であり、最大のリスクでもあります。
八王子総合クリニックは、全年齢、整形外科とリハビリ、CT・MRI・内視鏡、毎日21時まで、郊外の車社会、自費診療をすべて1拠点に載せています。ドクターランドの複数科構成を、全科21時まで・毎日に広げ、そこにCT・MRIという病院の外来機能の一部まで加えた形です。
これは、採算面では重い賭けです。大型機器は減価償却と保守費がかかり、診療放射線技師を毎日21時まで配置する必要があります。一方で、MRIまで即日完結できれば、整形外科・頭痛・腹痛などで病院の外来に流れていた患者を取り込める可能性があります。駅ナカ型にはできない、郊外ならではの戦い方です。
TENETの原点であるAGAスマクリは、DMMオンラインクリニックと同じ「オンライン×自費」の型でした。八王子では、その対極にある「対面×保険×大型設備」に挑んでいます。オンライン自費で磨いた集患・CRM・システムの力が、保険診療の総合外来でも通用するかどうかが、800拠点構想の最初の試金石になります。
実は、同じ道を先に歩み始めているのがDMMです。DMMオンラインクリニックの診療を担う医療法人社団DMH(理事長は元メドレー上級執行役員の島佑介医師)は、イオン内に保険診療中心の「キュアステーション」を展開しています。オンライン自費で患者基盤とシステムを築いた事業者が、対面の保険診療へ進出する流れはTENETに限りません。違いは、DMMが内科中心の小型店で着実に店舗を増やしているのに対し、TENETは大型設備の旗艦拠点から始めた点です。
多摩地域には、すでに先行ブランドの拠点と、医師会による夜間・休日の体制があります。八王子総合クリニックは、それらと重なりつつも、郊外の車移動圏という別の土俵に立っています。
| 医療機関・体制 | 場所 | 夜間・休日の対応 |
|---|---|---|
| 八王子市夜間救急診療室(八王子市医師会) | 八王子市台町(西八王子駅近く) | 夜間は23時まで診療 |
| 休日当番医(八王子市医師会) | 市内の会員医療機関 | 休日 9:00〜17:00 |
| ナビタスクリニック立川 | JR立川駅 駅ビル | 平日21時まで |
| クリニックプラス立川・町田 | 立川駅・町田駅周辺 | 平日20時、土日祝17時半まで |
| キャップスクリニック国立 | 国立市 | 毎日21時まで(小児科) |
| 八王子総合クリニック | 椚田町(めじろ台駅から徒歩10分) | 毎日21時まで |
先行ブランドの多くは駅前・駅ナカに立地し、電車で通勤・通学する層を取り込んでいます。これに対し、めじろ台・椚田エリアは住宅地で、駐車場付きの郊外型です。車で家族を連れて来る層、画像検査が必要な整形外科や高齢者の患者を主な対象と考えるのが自然でしょう。
夜間の軽症患者については、医師会の夜間救急診療室と役割が重なる部分があります。地域の救急医療体制とどう連携するのかは、開院後に注目したい点です。
公表情報と診療報酬の点数から組み立てた本記事のモデルでは、損益分岐は1日あたり約200〜220人です。求人票にある開院時見込みの1日160人では年1億円前後の赤字になり、1日250人を集めてようやく年0.7億〜1.1億円の黒字になります。以下はすべて本記事の仮定に基づく試算で、実際の患者数・単価・給与・設備費は公表されていません。
| 区分 | 1日の患者数(標準ケース) | 1人あたりの単価 | 単価の内訳(概算) |
|---|---|---|---|
| 内科 | 50人 | 約8,500円 | 初再診・処方箋・検査で約550点。15%がCT(撮影900点+診断450点+電子画像管理120点)、3%がMRI、2%が内視鏡 |
| 整形外科(診察) | 80人 | 約9,600円 | レントゲンを含む基本部分で約600点。15%がMRI(1,330点+診断・管理料)、5%がCT |
| 整形外科(リハのみ) | 20人 | 約2,430円 | 再診料73点+運動器リハ(Ⅲ)85点×2単位 |
| 皮膚科 | 100人 | 約4,000円 | 再診・外来管理・処置・処方箋で約400点 |
| 夜間・早朝等加算 | ― | 受診の半数に+500円 | 平日18時以降、土曜12時以降、日祝の初再診に50点 |
リハのみの患者を1日20人に絞ったのは、理学療法士の人数による制約です。常勤2名を中心とした体制では、同時に2人がリハを行っても1日40単位前後が上限で、2単位ずつなら20人程度になります。
標準ケースの平均単価は約6,800円です。皮膚科とリハの単価が低いため、CT・MRIを積極的に撮っても全体の平均は1万円に届きません。
| 職種 | 配置の考え方 | 年間人件費 |
|---|---|---|
| 医師(スポット中心) | 常勤3名(年収2,500万円)+残り約8,260時間を時給2万円のスポットで充足 | 約2.40億円 |
| 医師(定期非常勤中心) | 常勤3名+残りを時給1.5万円の定期非常勤で充足 | 約1.99億円 |
| 看護師 | 常勤5名(年500万円)+不足分を時給2,000円の非常勤で | 約3,430万円 |
| 診療放射線技師 | 常勤3名(年550万円) | 約1,650万円 |
| 理学療法士 | 常勤2名(想定年収541万円)+同時2人体制の不足分を時給2,100円の非常勤で | 約1,780万円 |
| 医療事務 | 常勤10名(月給25万円+賞与3か月分)+常時5人体制の不足分を時給1,300円の非常勤で | 約4,360万円 |
| 法定福利費 | 常勤職員の給与の約15%。常勤医は標準報酬の上限があるため1人200万円 | 約1,950万円 |
| 人件費 合計 | ― | スポット中心 約3.72億円/定期非常勤中心 約3.31億円 |
医師の非常勤の時給は、開院直後の現在はスポット求人の相場である2万円前後です。定期非常勤が揃えば1.5万円程度に下がると見込み、2つの段階に分けました。人材紹介会社への手数料は含めていません。
| 項目 | 仮定 | 年額 |
|---|---|---|
| 医療機器の償却 | 取得額 約2.5億円(ヘリウムレス1.5T MRI、16列CT、内視鏡、X線・エコー)を6年で | 約4,200万円 |
| 機器の保守 | MRI・CTの保守契約が中心 | 約1,200万円 |
| 内装・建物設備の償却 | 平屋150坪の改装 約1.2億円を12年で | 約1,000万円 |
| 家賃 | 旧店舗跡地の平屋150坪+駐車場 | 約1,200万円 |
| 広告宣伝 | 月100万円程度 | 約1,200万円 |
| 水道光熱費 | MRIの冷却・長時間営業を含む | 約600万円 |
| 電子カルテ・AI問診・予約決済システム | クラウド型の利用料 | 約200万円 |
| その他管理費 | 清掃・警備・リネン・保険・消耗品など | 約1,000万円 |
| 固定経費 小計 | ― | 約1.06億円 |
| 遠隔読影の委託(変動費) | CT・MRI 1件4,000円。標準ケースは1日25件 | 約3,650万円 |
| 薬剤・診療材料・検査外注(変動費) | 医業収入の約6% | 約3,700万円 |
TENETへの経営支援委託料は、水準が公表されていないため含めていません。
| 項目 | 立ち上がり期 | 標準ケース(スポット中心) | 標準ケース(定期非常勤中心) | 求人票の見込み(定期非常勤中心) |
|---|---|---|---|---|
| 1日の患者数 | 120人(内科30・整形50・皮膚40) | 250人(内科50・整形100・皮膚100) | 250人 | 160人(内科35・整形70・皮膚55) |
| 医師の非常勤時給 | 2万円 | 2万円 | 1.5万円 | 1.5万円 |
| 年間売上 | 約3.1億円 | 約6.2億円 | 約6.2億円 | 約4.0億円 |
| 人件費 | 約3.72億円 | 約3.72億円 | 約3.31億円 | 約3.31億円 |
| 固定経費 | 約1.06億円 | 約1.06億円 | 約1.06億円 | 約1.06億円 |
| 変動費(読影・材料等) | 約0.38億円 | 約0.74億円 | 約0.74億円 | 約0.47億円 |
| 年間損益 | 約▲2.05億円 | 約+0.69億円 | 約+1.10億円 | 約▲0.89億円 |
| 損益分岐の患者数(1日) | 約210人 | 約220人 | 約200人 | 約200人 |
第一に、コストの大半は患者数にかかわらず発生します。3診を毎日12.5時間開ける体制では、患者が少ない日でも医師の人件費だけで1日50万円以上かかります。立ち上がり期の1日120人では、月1,700万円前後の赤字が続く計算です。
第二に、損益分岐の約200人は、求人票の見込み(160人)を大きく上回ります。平均単価が約6,800円にとどまるためで、黒字化には患者数をさらに積み上げるか、CT・MRIの撮影比率や自費診療で単価を引き上げる必要があります。
第三に、医師の時給を2万円から1.5万円に下げられるかどうかで、年約4,000万円の差が生まれます。スポットから定期非常勤への切り替えを早く進められるかが、初期の収支を左右します。
単価を上げる手段として最も効くのはCT・MRIですが、撮影が多すぎれば審査支払機関の査定や、過剰検査という批判を招きます。CT・MRIを即日撮れることは患者にとって大きな利点である一方、採算と適正な医療のバランスをどう取るかが、この業態の根本的な課題と言えます。
800拠点に広げると、開院時間の合計は週7万時間(87.5時間×800拠点)です。医師だけで常勤換算4,000人規模が必要になります。2024年4月に始まった医師の働き方改革で、夜間・休日に働ける医師はすでに取り合いの状態にあります。
先行ブランドの実績から見ると、新設だけで800拠点に届くことはまず考えられず、構想の実体は後継者不足の診療所の承継になると考えられます。TENETも、八王子に続いて後継者不足の地方診療所を傘下に収め、最終的に全国800カ所で展開する計画だと説明しています。
| ブランド | 開始 | 直近の拠点数 | 年あたりの平均出店数(概算) |
|---|---|---|---|
| キャップスクリニック | 2012年 | 41拠点目(2025年7月) | 約3拠点 |
| クリニックフォア | 2018年10月 | 15院目(2026年2月)、以降も出店 | 約2〜3院(2026年は5〜6院) |
| クリニックプラス | ― | 16院(2026年9月) | ― |
| ドクターランド | ― | 6院(2026年9月) | ― |
| キュアステーション(DMM) | 2024年前後 | 4院(2026年9月) | 約2院 |
| ナビタスクリニック | 2008年 | 少数 | 1未満 |
最も速いキャップスクリニックでも年3拠点前後です。クリニックフォアは2019年の資金調達時に「将来的には都市部を中心に数百規模」の展開を掲げていましたが、累計122.3億円を調達した現在も20院弱です。八王子と同じ設備の拠点を新設すれば1拠点で数億円かかり、TENETの調達額(25億〜34億円)では1桁の拠点数が限界でしょう。
新設と承継では、揃えるものがまったく違います。
| 観点 | 新設(八王子型) | 承継(地方展開の想定) |
|---|---|---|
| 建物・機器 | ゼロから投資(1拠点で数億円) | 既存のものを引き継ぐ。老朽化していれば更新投資 |
| 職員 | 全員を新たに採用 | 既存職員を引き継ぐ。夜間・休日勤務への同意は別問題 |
| 患者 | 開院前のPRで集める | 既存患者を引き継ぐ |
| 手続き | 新規開設の手続き | 医療法人の社員・理事の交代、または事業譲渡に伴う手続き |
| 最大の論点 | 集患と初期投資の回収 | 365日・21時までの営業を既存の人員に上乗せできるか |
承継型では、前院長の時代と働き方が大きく変わります。引き継いだ職員の離職は、承継直後の最大のリスクになりやすいと言えます。また、地方の診療所は、八王子のような大型機器を持たないことが多いはずです。全拠点が「八王子型」になるのではなく、八王子で標準化したAI問診や運営ノウハウを、規模の違う拠点に載せていく形が現実的でしょう。
影響が出やすいのは、患者の流れ、医師・看護師の採用、承継市場、勤務医のキャリア選択の4つです。
近隣の診療所では、平日夜や土日の急性期の軽症患者が流れる可能性があります。特に影響を受けやすいのは、MRIやCTを外部に依頼している整形外科・内科の患者です。自院の強みを「時間の長さ」ではなく、慢性疾患の継続管理、専門外来、在宅医療など、長時間型の総合外来では代わりにくい部分に置けるかが問われます。
非常勤医の時給12,000〜13,000円(スポットでは時給換算2万円)、常勤の入職祝い金100万円という条件は、地域の相場を押し上げる要因になりえます。夜間・土日に非常勤医師を頼っている診療所ほど、影響を受けやすいでしょう。
800拠点を承継で目指すなら、TENETは後継者不足の診療所の有力な買い手になります。売り手の院長にとって選択肢が増えるのはプラスですが、確認すべき点もあります。
買い手の資金の出所と、承継後の運営方針を事前に確認することが欠かせません。
採用サイトは「開業だけがキャリアじゃない」と訴え、開業のリスクを負わずに開業相当の年収を得る道を示しています。開業を検討する医師にとっては、比較すべき選択肢が1つ増えたと言えます。開業の魅力を、年収以外の軸(診療方針の自由、地域との関係、事業の承継性)で改めて整理しておく価値があるでしょう。
開設者は医療法人社団ウェルパートナー(東京都江戸川区、理事長 高橋一志)です。企画・運営支援は株式会社TENET(東京都港区、代表取締役 花房弘也)が担っています。
いいえ。救急科を標榜していますが、医師採用サイトの募集要項では「救急告示なし」とされています。救急車を受け入れる医療機関ではなく、夜間・休日に自力で来院できる患者を診る外来です。
2020年設立のヘルステック企業です。AGA治療や不眠治療のオンライン診療支援から始まり、現在は総合診療クリニックのプロデュース、事業承継・病院再生など7事業を掲げています。元ニトリ社長の武田政則氏、元亀田総合病院 総合内科部長の佐藤暁幸医師が経営に加わっています。
キャップスクリニックは小児科中心、クリニックフォアは都心の働く世代と自費診療が中心です。最も近いドクターランドは商業施設内の複数科クリニックですが、夜間まで開けるのは内科などに限られます。八王子総合クリニックは全年齢を対象に、CT・MRIを備えた郊外型の総合外来を毎日21時まで開く点が異なります。
先行ブランドの出店ペースは多くても年3〜6拠点で、新設だけで800拠点に届くのは現実的ではありません。後継者不足の診療所を承継する形が前提になると考えられ、その場合も夜間・休日を支える医師・看護師の確保が最大の課題です。
夜間・休日の軽症患者や、画像検査が必要な患者の受診先が分散する可能性があります。また、非常勤医師や看護師の採用条件が上がる可能性があります。
買い手の選択肢が増えることは売り手にとってプラスです。ただし、承継後の診療時間、職員の処遇、医療法人の役員構成、経営支援契約の内容は、事前に必ず確認すべき事項です。
開業医・院長の方
事業承継を検討している院長の方
開業を検討している勤務医の方
八王子総合クリニックは、オンライン自費診療で育ったTENETが、元ニトリ社長と総合診療医を迎えて挑む「対面×保険×大型設備」の第1拠点です。救急医の院長が掲げるアージェントケアの理念と、チェーンストアの標準化の発想が組み合わさっています。
先行するコンビニ型クリニックは、小児、都心の働く世代、駅ナカ、自費など、何かに絞ることで長時間診療を成り立たせてきました。八王子モデルは絞らずに全部を載せた点で最も野心的で、同時に最も採算のハードルが高い型です。
800拠点構想は、先行ブランドの出店ペースと調達額から見て、新設ではなく承継の積み上げになると考えられます。成否を分けるのは、夜間・休日を支える医師・看護師を確保できるか、そして承継した職員・患者・地域との関係を保てるかです。
開業医にとっては、競合の出現であると同時に、承継市場に資金力のある買い手が現れたことを意味します。自院の強みの再整理と、承継の条件の明文化を今のうちに進めておくことをおすすめします。開院後の実際の医師数、受診者数、地域医療との連携は、引き続き追っていきます。
八王子総合クリニック・医療法人社団ウェルパートナー
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