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毒薬・劇薬はどう扱う?クリニック承継時の保管・譲渡・廃棄
承継・M&A 公開 執筆 鎌形 博展

クリニック承継で毒薬・劇薬はどう引き継ぐ?保管・譲渡・廃棄の確認点【2026年版】

クリニックを承継するとき、麻薬や向精神薬の在庫は麻薬及び向精神薬取締法が届出と期限を明確に定めています。一方、同じ薬品庫にある毒薬・劇薬は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)第44条から第48条が表示・譲渡・保管を定めていますが、承継そのものを想定した規定は条文にありません。何を引き継げて、何を新たに整えないといけないのかを、条文単位で確認します。

この記事の要点

  • 毒薬・劇薬の譲渡手続(薬機法第46条)の名宛人は薬局開設者・医薬品の製造販売業者・製造業者・販売業者で、診療所の開設者は列挙されていません。承継時の在庫移転そのものに46条の譲受書は法律上必須ではありませんが、記録は残すべきです。
  • 保管義務(第48条)は「業務上毒薬又は劇薬を取り扱う者」全般に課されるため、承継後の新しい開設者にもそのまま適用されます。毒薬は施錠、劇薬は区分保管が最低限の基準です。
  • 毒薬・劇薬には麻薬のような所有量の届出・年間報告の制度がありません。混同しやすい毒物及び劇物取締法上の「毒物・劇物」とは対象が違うので、承継の場面でも取り違えないようにします。

毒薬・劇薬とは?クリニックの薬品庫にどう関わる?

薬機法第44条は、毒性が強いものとして厚生労働大臣が薬事審議会の意見を聴いて指定する医薬品を「毒薬」、劇性が強いものとして指定する医薬品を「劇薬」と定めています。容器には毒薬なら黒地に白枠・白字で品名と「毒」の文字、劇薬なら白地に赤枠・赤字で品名と「劇」の文字を表示しなければならず、この表示のない毒薬・劇薬は販売・授与・貯蔵・陳列自体が禁止されます(同条第3項)。指定は成分ごとに厚生労働大臣が個別に行うため、同じ薬効分類の医薬品でも製剤によって毒薬・劇薬に当たるかどうかが分かれます。クリニックの薬品庫では、一部の注射剤やホルモン製剤などがこの指定を受けていることがあり、在庫リストを作るときは添付文書の表示欄で1品目ずつ確認する必要があります。

承継時、在庫はそのまま買い手に引き継げる?

薬機法第46条は「薬局開設者又は医薬品の製造販売業者、製造業者若しくは販売業者(薬局開設者等)は、毒薬又は劇薬については、譲受人から、その品名、数量、使用の目的、譲渡の年月日並びに譲受人の氏名、住所及び職業が記載された文書の交付を受けなければ、これを販売し、又は授与してはならない」と定めています。名宛人として列挙されているのは薬局開設者と医薬品の製造販売業者・製造業者・販売業者で、診療所の開設者は入っていません。クリニックが医薬品卸から毒薬・劇薬を仕入れるときは、卸(販売業者)の側がこの条文にもとづいて譲受書を受け取りますが、承継にともなって旧開設者から新開設者へ在庫が移る場面そのものは、条文が列挙する取引類型に直接は当てはまりません。麻薬及び向精神薬取締法が診療所間の在庫売買を原則禁止し、譲渡先を同一都道府県内に限定しているのとは対照的です。第46条第2項は、薬剤師等に身分証明書の提示を受けて販売するとき、または常時取引関係のある薬剤師等に販売するときは譲受書を省略できると定めていますが、これも薬局開設者等が譲受書を省略できる場面の話であって、クリニックの承継そのものを想定した規定ではありません。ただし、法律上の義務がないことと、記録を残さなくてよいことは別です。品名・数量・引き継ぎの年月日・引き継いだ相手の氏名を記載した書面は、DD(デューデリジェンス)や保健所への説明の場面で必要になるため、麻薬の在庫記録と同じ書式で残しておくと運用が一本化できます。

保管体制は承継後も同じ基準で管理する?

薬機法第48条は「業務上毒薬又は劇薬を取り扱う者は、これを他の物と区別して、貯蔵し、又は陳列しなければならない」とし、第2項で「毒薬を貯蔵し、又は陳列する場所には、かぎを施さなければならない」と定めています。この義務は特定の許可業種に限られず、業務上毒薬・劇薬を扱う者すべてに課されるため、承継によって開設者が交代した瞬間から、新しい開設者にもそのまま適用されます。実務で見落としやすいのは鍵の管理です。旧院長が個人で管理していた鍵をそのまま引き継ぐのか、新しい鍵に交換するのかは承継の契約書には出てこないことが多く、承継日に現物を確認しないまま数週間が過ぎているケースがあります。第47条は「毒薬又は劇薬は、十四歳未満の者その他安全な取扱いをすることについて不安があると認められる者には、交付してはならない」とも定めており、鍵と閲覧権限を持つ職員の範囲を承継のタイミングで棚卸しすることが、この条文への対応にもなります。第48条自体は保管場所の定期点検を義務付けていませんが、承継のような管理者交代の節目は、在庫数量と現物を突き合わせる棚卸しを行う実務上の区切りとして機能します。旧開設者側の記録と新開設者側の現物確認を承継日の前後で1回ずつ行い、差異があれば承継契約の資産目録に反映しておくと、後日の説明がしやすくなります。

事業譲渡と持分譲渡で対応は変わる?

医療法人の持分譲渡で開設者(医療法人という法人格)自体が変わらない場合、毒薬・劇薬の名義や届出上の扱いに直接の変更は生じません。一方、個人開設のクリニックの事業譲渡や、法人格が変わる形態の承継では、薬品庫の在庫を含む資産が旧開設者から新開設者へ実際に移転します。この場合は第48条の保管義務を新開設者が独立して履行できる体制(施錠設備、管理担当者、在庫確認の頻度)を承継日までに整える必要があります。持分譲渡で法人格が続く場合でも、実際に鍵を管理し在庫を扱う医師・看護師・薬剤師は院長交代にともなって入れ替わることが多いため、「法人は変わらないから何もしなくていい」と判断せず、管理担当者の引き継ぎを記録に残しておくことをすすめます。

廃棄が必要になったら、何を根拠にすればいい?

薬機法第44条から第48条には、毒薬・劇薬の廃棄方法そのものを定めた規定がありません。承継のタイミングで使用期限切れや今後使う見込みのない在庫が見つかった場合、廃棄は薬機法上の個別規定ではなく、産業廃棄物としての一般的な処理の枠組みで行うことになります。感染性廃棄物や産業廃棄物の委託契約・マニフェストについては別記事で整理していますので、承継時に医療廃棄物の処理委託契約を確認する際に、毒薬・劇薬を含む不要在庫の扱いも委託先の産業廃棄物処理業者にあわせて確認しておくと二度手間になりません。ここで注意したいのは、「毒物及び劇物の廃棄の方法に関する基準」という国の通知が存在することです。これは名称が似ていますが、毒物及び劇物取締法上の毒物・劇物(工業用・農業用などの化学物質)を対象とした基準で、薬機法上の毒薬・劇薬(医薬品)には適用されません。医薬品である毒薬・劇薬の廃棄を検討する際にこの通知を根拠にしないよう注意してください。承継の実務では、使用期限切れの在庫を新開設者が引き継がずにその場で廃棄する形と、いったん承継対象に含めたうえで新開設者側で計画的に廃棄する形の両方があり得ます。どちらを選ぶかは資産目録の作り方の問題であり、薬機法が廃棄の方法や期限を定めているわけではないため、承継契約の中で「在庫は含める/含めない」を明記しておくことが実務上のトラブルを避ける近道です。

「毒物・劇物」と何が違う?よくある誤解は?

毒物及び劇物取締法第2条は、「毒物」を別表第一に掲げる物であって「医薬品及び医薬部外品以外のもの」、「劇物」を別表第二に掲げる物であって「医薬品及び医薬部外品以外のもの」と定義しています。つまり、同じ物質でも医薬品として製造販売承認を受けていれば毒物及び劇物取締法の対象から外れ、薬機法上の毒薬・劇薬として規律されます。逆に、医薬品ではない工業用・農業用の薬品(施設の消毒や検査で使う一部の薬品など)は毒物及び劇物取締法の対象で、薬機法の第44条から第48条は適用されません。この2つの制度は、対象物が「医薬品として製造販売の承認を受けているか」で切り分けられており、名称が似ているために現場では混同されがちです。クリニックの薬品庫にある処方薬・注射薬は通常すべて薬機法側の分類なので、承継のDDで「毒物及び劇物取締法の登録・届出が別途要るのではないか」という誤解が生じないよう、対象物が医薬品かどうかで確認してください。院内の検査室や清掃で毒物・劇物に該当する薬品を別途保管している場合は、そちらは薬機法ではなく毒物及び劇物取締法の管理基準(登録・保管・廃棄)にもとづいて別枠で確認する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q. 毒薬・劇薬の在庫は、承継の譲渡価額に含めて買い取ってもらえますか?

麻薬のような明文の譲渡禁止規定はなく、薬機法第46条の名宛人にも診療所の開設者は含まれていないため、在庫を承継対象の資産に含めること自体は妨げられません。ただし相手方・品名・数量・引き継ぎ年月日が分かる記録を残しておくと、後から説明が必要になったときに困りません。

Q. 承継のときに保健所や都道府県への届出は必要ですか?

毒薬・劇薬そのものについて、麻薬のような所有量の届出制度は薬機法にありません。ただし、開設者が変わることにともなう診療所の開設許可・開設届(医療法上の手続き)は別途必要です。行政手続き全般は別記事「クリニック承継の行政手続きは何をいつ出す?」で整理しています。

Q. 持分譲渡で開設者(医療法人)が変わらない場合、何もしなくていいですか?

法人格が続くので毒薬・劇薬の管理主体自体は変わりませんが、実際に鍵を管理し在庫を扱う医師・看護師は院長交代にともなって入れ替わることが多いため、保管場所の施錠・在庫確認の担当者は承継のタイミングで必ず引き継ぎを確認してください。

Q. 毒薬・劇薬にも麻薬のような帳簿や年間報告の義務がありますか?

ありません。麻薬及び向精神薬取締法は麻薬管理者に帳簿記載や譲渡届・年間届を課しますが、薬機法の毒薬・劇薬にはこれに相当する帳簿・報告の規定はなく、第44条の表示、第46条の譲渡手続、第47条の交付制限、第48条の貯蔵及び陳列が定める範囲にとどまります。

Q. 毒物及び劇物取締法の「毒物・劇物」と、薬機法の「毒薬・劇薬」は同じですか?

別の制度です。毒物及び劇物取締法第2条は毒物・劇物を「医薬品及び医薬部外品以外のもの」と定義しており、医薬品は対象から外れます。薬機法の毒薬・劇薬は医薬品として使用される成分が対象で、クリニックの薬品庫にある製剤は通常こちらに当たります。

今すべきこと(チェックリスト)

  • 承継前に、対象クリニックが保有する毒薬・劇薬の品目・数量をリスト化する
  • 保管場所の施錠(毒薬)・区分保管(劇薬)の状態を承継日時点で現物確認する
  • 使用期限切れ・今後使う見込みのない在庫を洗い出し、承継対象に含めるか廃棄するかを決める
  • 廃棄が必要な場合は、委託している産業廃棄物処理業者に医薬品(毒薬・劇薬)の取扱いを確認する
  • 持分譲渡でも、鍵の管理者・在庫確認担当者の交代を記録に残す
  • 疑問点は承継前に保健所・都道府県の薬務主管課に確認する

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参考・出典

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医薬品管理・届出の要否を保証するものではありません。実際の毒薬・劇薬の取扱いにあたっては、都道府県の薬務主管課・保健所および薬剤師等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年9月時点の情報に基づきます。

公開日:2026年9月25日/最終更新日:2026年9月25日

執筆者

鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身

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