
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は、対象の感染症を診断した医師に、保健所への届出を求めています。厚生労働省の「感染症法に基づく医師の届出のお願い」では、全数把握の対象疾患は「全ての医師」が診断時に届け出るとされており、診療所の院長も例外ではありません。届出の期限は、一類から四類までが診断後直ちに、五類の全数把握は原則として7日以内です。この記事では、厚生労働省と国立感染症研究所の資料から、診療所が診断したときに確認する点を整理します。
感染症発生動向調査は、国内の感染症の発生状況を把握するための仕組みで、医師からの届出がその土台になります。厚生労働省のページと「感染症法に基づく医師の届出ハンドブック」では、届出を次の2つに分けています。
| 区分 | 届け出る医師・医療機関 | 対象の例 | 届出の時期 |
|---|---|---|---|
| 全数把握(一類〜四類) | 全ての医師 | 一類:エボラ出血熱、ペスト/二類:結核、ジフテリア/三類:コレラ、腸管出血性大腸菌感染症/四類:E型肝炎、ウエストナイル熱 | 診断後直ちに |
| 全数把握(五類の一部) | 全ての医師 | 梅毒、麻しん、風しん、侵襲性髄膜炎菌感染症など | 原則7日以内(麻しん・風しん・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに) |
| 定点把握(五類) | 都道府県が指定した医療機関(指定届出機関)のみ | インフルエンザ、感染性胃腸炎など患者数の多い疾患 | 週単位・月単位など、区分ごとに異なる |
全数把握は、結核・麻しん・梅毒のように、周囲への感染拡大を防ぐ必要がある疾患や発生数が少ない疾患が対象です。一方、定点把握は患者数の多い疾患を、指定された医療機関の報告から推計する仕組みです。厚生労働省のページには、小児科定点が全国約2,000カ所、眼科定点が約700カ所、性感染症定点が約1,000カ所、疑似症定点が約700カ所と書かれています。
ハンドブックには、診療所と病院で届出義務が異なるという記述はありません。分かれ目は、診療所か病院かではなく、都道府県から定点に指定されているかどうかです。なお、感染症発生動向調査事業実施要綱には、法第14条第8項に基づき、指定届出機関以外の病院や診療所の医師に届出を求める場合があることも書かれています。保健所から届出を依頼されたときは、その指示に従います。
国立感染症研究所のガイドライン(令和7年3月)では、期限を次のように整理しています。
どの疾患がどちらに当たるかの一覧は、ハンドブックの本文には載っていません。ハンドブックは、疾患ごとの時期は厚生労働省ウェブサイトの届出基準で確認するよう案内しています。厚生労働省のページには、届出基準と実施要綱の一部改正が令和8年4月6日から施行されたと掲載されています。古い版の基準や様式を使い続けないよう、診療所に置いている資料の版を確認しておくと安心です。
届出は、感染症ごとに定められた届出基準を満たしたときに行います。厚生労働省の届出基準には、診断方法に関する共通の定義が置かれています。たとえば「発熱」は37.5℃以上、「高熱」は38.0℃以上です。病原体の「同定」には、生化学的性状や抗血清のほか、PCR法などの核酸増幅法が含まれます。抗体検査による診断は、ペア血清での陽転、ペア血清での4倍以上の抗体価上昇、急性期のIgM検出、単一血清でのIgG検出のいずれかとされています。
国立感染症研究所のガイドラインは、基準の確認で次の点に注意を促しています。
届出基準に定めのない検査で診断する場合や判断に迷う場合は、管轄の保健所に問い合わせます。届出基準では、地方衛生研究所や国立感染症研究所への確認も求めています。ハンドブックも、急性弛緩性麻痺や急性脳炎のように、微生物診断を伴わず判断に迷いやすい疾患は、保健所に相談するよう案内しています。
感染症発生動向調査事業実施要綱は、全数把握の届出について「感染症サーベイランスシステムへの入力により行うことを基本とする」としています。入力環境がない場合は、最寄りの保健所が定める方法で届け出てよいとされ、その場合は保健所が届出内容をシステムに入力します。国立感染症研究所のガイドラインによると、2022年10月から医療機関による直接入力が可能になっています。
| 方法 | 準備 | 流れ |
|---|---|---|
| オンライン入力 | 自治体からアカウントを発行してもらう(管轄保健所で発行。発行には数日かかる) | ログインして届出疾患を選び、診療情報などをもとに医師が登録する |
| FAX・文書 | 様式を厚生労働省または自治体のウェブサイトから入手する(PCで作成して印刷しても、手書きでもよい) | 管轄保健所にFAXで送り、送った文書を保管する |
ハンドブックによると、オンライン届出は感染症法上は努力義務で、一部の医療機関では義務とされています。厚生労働省のページには、全数把握の届出様式は都道府県によって異なる場合があるため、最寄りの保健所に確認するよう書かれています。アカウントの発行に数日かかるため、診断してから慌てないよう、あらかじめ管轄の保健所に発行を相談しておくと動きやすくなります。
ハンドブックは、届出後の実務として次の点を挙げています。
実施要綱とガイドラインによると、保健所は届出内容を確認し、不備があれば医療機関に照会します。通常は報告されない疾患や集団発生、死亡例、院内感染の可能性がある場合などには、感染症法第15条に基づく調査として、保健所から問い合わせが入ることもあります。
保健所と地方感染症情報センターは、届出内容を「入力は正確か」「未記入や誤りがないか」「症状・検査結果・検体が届出基準を満たすか」「公衆衛生学上の知見と矛盾しないか」の4点で確認します。ガイドラインが挙げる、誤りやすい項目は次のとおりです。
届出基準に合わないとして、保健所から取下げを依頼されることもあります。ガイドラインは、取下げは医師の診断を否定するものではないとしています。明らかに基準を満たさない症例は保健所から連絡が入るので、取下げを検討します。再感染の場合は、再度届出の対象になります。
ハンドブックには、届出をしなかった場合には罰金が科される(感染症法第77条)と書かれています。具体的な金額は、本記事では一次資料を確認できていないため記載しません。ハンドブックは、迅速な届出がないとサーベイランス情報が不正確になり、対策が遅れて感染が拡大するおそれがあるとも述べています。届出の対象かどうか判断に迷うときは、自己判断で見送らず、先に管轄の保健所へ相談するのが確実です。
インフルエンザは定点把握の疾患で、都道府県から定点に指定された医療機関だけが届け出ます(ハンドブック)。指定されていなければ、通常は届出の義務はありません。指定を受けているかどうかは、管轄の保健所または都道府県に確認します。
一類から四類までは診断後直ちに、五類の全数把握は診断後7日以内です。ただし、五類でも侵襲性髄膜炎菌感染症・風しん・麻しんは直ちに届け出ます(国立感染症研究所のガイドライン)。
実施要綱は、サーベイランスシステムへの入力を基本としつつ、入力環境がない場合は最寄りの保健所が定める方法でよいとしています。ハンドブックには、様式を管轄保健所にFAXで送り、文書を保管する方法が載っています。様式が都道府県で異なる場合があるため、使う様式は保健所に確認します。
ハンドブックは、氏名等を届け出る場合は、保健所から患者に連絡が行く可能性があることを事前に伝えるよう案内しています。診療録には、届出を行ったことも記載します。
管轄の保健所に問い合わせます。届出基準は、文書に定めのない検査で診断する場合などに、地方衛生研究所や国立感染症研究所への確認を求めています。基準に合わない届出は、保健所から取下げを依頼されることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の症例について届出の要否や診断の適否を保証するものではありません。実際の届出にあたっては、管轄の保健所に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年10月23日/最終更新日:2026年10月23日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身