
国税庁の電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】には令和8年7月版が出ています。メールやクラウドで受け取った請求書・領収書などの取引データは、電子データのまま保存するのが原則で、紙に出力して保存する方法は令和3年度改正で廃止されました(令和4年1月1日施行)。クリニックでも、メールで届く請求書、クラウドの電子請求書、カードの利用明細、職員が立て替えた電子領収書など、電子取引に当たる場面は少なくありません。この記事では、一問一答(令和8年7月版)の問番号に沿って、対象・保存要件・検索要件が不要になる条件・院内で決めておくことを整理します。
一問一答の問1は、所得税(源泉徴収に係るものを除く)および法人税の保存義務者が、注文書や領収書などに通常記載される事項(取引情報)を電磁的方式で授受した場合に、その電磁的記録を保存する制度だと整理しています。個人で開業している診療所の院長(所得税)も、医療法人(法人税)も、保存義務者に当たり得ます。自院がどちらに該当するかは、顧問の税理士に確認してください。
保存する範囲は、紙で保存する場合と同じです(問2)。誤記のある見積書や、検討段階の粗い見積書などは保存不要とされています。メール本文に取引情報があればそのメールを、添付ファイルで授受したならその添付ファイルを保存します(問4)。取引情報が含まれないメールは保存不要で(問6)、e-Taxの受信通知(納付区分番号通知・納付完了通知)も取引情報に当たらず、保存義務はありません(問9)。
労働条件通知書や雇用契約書も、電子メール等で授受すれば対象になります(問3)。職員の採用が多いクリニックでは、請求書だけでなく人事の書類も確認しておくと漏れを防げます。
一問一答が電子取引として挙げている場面のうち、クリニックの日常業務に近いものを表にしました。表の内容は問番号の記載に基づく整理で、個々の取引が対象かどうかの最終判断は税理士や所轄の税務署にご確認ください。
| 場面 | 保存するもの(一問一答の整理) | 問番号 |
|---|---|---|
| メールに添付された請求書PDF | 取引情報を含む添付ファイル | 問4・問5 |
| クラウドで受け取る電子請求書 | クラウドで授受した請求書等のデータ | 問5・問7 |
| クレジットカードの利用明細 | 利用明細データ。個別に請求書・領収書データも授受している場合は、それらも別途保存 | 問5 |
| スマホアプリ決済 | アプリ提供事業者から受領した利用明細 | 問8 |
| インターネットバンキングの振込 | 振込日・金額・振込先が分かるデータ。オンライン上の通帳や入出金明細でも可 | 問10・問11 |
| 職員が立て替えた電子領収書 | 会社の電子取引。集約するまで職員の端末に保存してもよいが、検索できる状態の管理が必要 | 問12 |
| メールで授受した労働条件通知書・雇用契約書 | 電子取引として保存 | 問3 |
問18は、保存要件を次の3つに整理しています。
スマートフォンだけで取引している場合も、検索機能の確保と事務処理規程が必要です。プリンタは、税務調査の際に近隣の有料プリンタなどで速やかに出力できれば足りるとされています(問21)。画面の印刷(ハードコピー)で出力することは認められますが、出力した書面を保存の代わりにすることは原則として認められません(問22)。バックアップデータの保存は要件ではありませんが、望ましいとされています(問26)。
検索機能の確保が不要になる場合が、問19・問21・問25・問51で示されています。
基準期間は、個人事業者なら電子取引が行われた日の属する年の前々年(1月1日〜12月31日)、法人なら電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度です(問21)。医療法人や個人の診療所で売上高にどの収入が含まれるかは、税理士や所轄の税務署に確認してください。
取引日が令和6年1月1日をまたぐ場合は、取引日ごとに適用される要件が異なります(問14)。令和6年1月1日前の取引について、令和5年度改正後の要件で保存することは認められません(問15)。過去のデータを整理するときは、取引日で区切って確認します。
電子取引の出力書面による保存は、令和3年度改正で廃止されました(施行は令和4年1月1日、問13)。令和4年1月1日から令和5年12月31日までの取引には、円滑な移行に向けた宥恕措置がありました(問13・問22・問89・問90)。
令和6年1月1日以降の取引では、税務署長が「相当の理由」を認め、電子データとその出力書面(整然・明瞭)を提示・提出できる場合には、保存時の要件が不要になります。ただし、電子データを出力書面に置き換えて保存することは認められません(問22・問93〜97)。税務署長の認定は個別の判断で、認定を受けた後の取引すべてに自動的に及ぶわけではありません(問94)。システム更改などの事情が、直ちに「相当の理由」に当たるとも限りません(問95・問96)。猶予措置は例外であり、運用の前提にしないほうが安全です。
問17には保存期間の表があります。個人の青色申告者は、帳簿・決算関係書類・現金預金取引等関係書類が7年、請求書や契約書などのその他の書類が5年とされています。法人は、書類と帳簿が原則7年です。帳簿の保存期間は、閉鎖の日の属する年の翌年3月15日の翌日から数えると記載されています。自院の申告区分や書類の種類ごとにどの年数になるかは、問17の表と顧問の税理士で確認してください。
問19は、検索機能を確保する方法の例として、ファイル名に日付・取引先・金額を規則的に付け、取引先別などのフォルダに格納し、事務処理規程を定めて運用する方法を挙げています。索引簿による管理も認められます。以下は、こうした例を踏まえた院内ルールの検討項目で、法令上の要件そのものではありません。
電子データの保存場所は、診療情報とは別に、院内の情報管理の一部としても扱う必要があります。医療機関の情報セキュリティ全般は、関連コラムのサイバーセキュリティ対策の記事も参考にしてください。
原則としてできません。出力書面での保存は令和3年度改正で廃止され、メール添付のPDFなどは電子データのまま保存します(問5・問13)。令和6年1月1日以降は、税務署長が「相当の理由」を認めた場合に限り、電子データと出力書面の提示で足りる扱いがありますが、書面に置き換えて保存することは認められません(問22・問93〜97)。
会社の電子取引になります。集約するまでの間は職員の端末に保存しておくことも認められますが、検索できる状態の管理が必要です(問12)。出力した書面だけが保存されている場合でも、一問一答は直ちに青色申告の承認が取り消されるものではないとしていますが(問12)、この点の詳細は問98を確認してください。
取引情報が含まれないメールは保存不要です(問6)。e-Taxの受信通知(納付区分番号通知・納付完了通知)は取引情報に当たらず、保存義務はありません(問9)。
必須とは限りません。基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務職員からのダウンロードの求めに応じられる場合や、出力した書面を日付・取引先ごとに整理して提示できる場合は、検索機能の確保が不要になります(問19・問21・問25)。ただし、真実性と可視性の要件は別に必要です。
変更前のシステムで検索機能が確保されていれば、現行のシステムでの検索は不要とされています(問24)。切り替え時に旧データをどう保管するかは、税理士やシステム提供事業者と取り決めておくと安心です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の保存方法や要件の適否、申告内容を保証するものではありません。実際の対応にあたっては、税理士等の専門家および所轄の税務署に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年10月21日/最終更新日:2026年10月21日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身