
医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)の現況報告によると、令和8年8月末時点の医療事故報告は累計3,907件で、うち診療所からの報告は187件でした。医療事故調査制度は病院だけでなく、診療所・助産所の管理者にも報告を義務づけています。この記事では、診療所の管理者が予期しなかった死亡・死産に直面したときの判断、遺族への説明、センターへの報告、院内調査までの流れを、厚生労働省と日本医療安全調査機構の公表資料にもとづいて整理します。
制度は平成26年6月に成立した医療法改正で盛り込まれ、平成27年10月1日に施行されました。医療事故が起きた医療機関が院内で調査を行い、その結果を民間の第三者機関である医療事故調査・支援センターが集めて分析し、再発防止につなげる仕組みです。センターの業務は一般社団法人日本医療安全調査機構が担っています。
対象となるのは、病院、診療所、助産所の管理者です。令和7年8月の厚生労働省の検討会資料も、診療所を報告義務の対象と明記しています。目的は個人の責任追及ではなく、医療安全の確保にあります。
| 項目(令和8年8月末時点・累計) | 件数 |
|---|---|
| 医療事故報告 | 3,907件(病院3,719/診療所187/助産所1) |
| 院内調査結果報告 | 3,483件 |
| センター調査依頼 | 342件(遺族270/医療機関72) |
| センター調査報告書の交付 | 241件 |
診療所からの187件は、全体の約4.8%(187÷3,907)にあたります。無床・有床の別や、診療所の院内調査の件数は、確認した公表資料には載っていませんでした。
医療法第6条の10は、医療事故を「医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産で、管理者が予期しなかったもの」と定めています。医療事故に当たるかどうかを判断するのは管理者で、医療行為に過誤があったかどうかは問われません。
「医療」には手術、処置、投薬、検査、医療機器の使用などが含まれ、施設管理のみの事案は対象外です。厚生労働省の対照資料には、対象外の例として併発症、原病の進行、自殺、火災や天災によるもの、院内での殺人・傷害致死などが挙がっています。死産は人工死産を除きます。
「予期しなかった」かどうかは、省令で、次のいずれにも該当しないと管理者が認めた死亡・死産と整理されています。
説明と記録は、一般的な死亡の可能性ではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえたものである必要があるとされています。定型の説明文があるだけで自動的に「予期していた」とはならない点に注意が必要です。
判断に迷うときは、センターの合議(医療事故の判断に関する相談)が使えます。平日9時〜17時に電話し、メールで届く「事例相談用紙」(様式5)を返送すると、おおむね10日程度で助言が電話で伝えられ、費用は無料です。最終的な判断は、助言を参考に院内で行います。
| 順番 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 医療事故に当たるかを判断する | 判断するのは管理者。迷えばセンター合議 |
| 2 | 遺族へ説明する | センターへの報告の前に行う(医療法第6条の10第2項) |
| 3 | センターへ報告する | 「遅滞なく」。Webまたは書面 |
| 4 | 院内調査を行う | 「速やかに」原因を明らかにする調査(第6条の11第1項)。支援団体に支援を求めるものとされる(同条第2項) |
| 5 | 結果を遺族へ説明し、センターへ報告する | 結果の報告前に遺族へ説明(同条第5項)。報告は「遅滞なく」(同条第4項) |
報告の期限に、日数の定めはありません。「遅滞なく」とされており、正当な理由なく遅らせることは認められないとされています。
センターの案内によると、報告の際はまず電話(03-3434-1110、23時〜翌7時を除く)で連絡し、Web報告またはA4書類の郵送(一般書留など)で報告します。Web報告には、センターから伝えられるログイン番号、郵送されるパスワードとトークンが必要です。
なお、センターのお知らせ欄には、2026年10月16日付の「WEB報告システム停止のお知らせ」と、2027年1月4日から報告様式が変更される旨が掲載されています。停止の期間や代替手段、様式の変更点は、確認できた範囲では分かりませんでした。実際に報告するときは、センターの最新の案内を確認してください。
遺族への説明は、センターへの報告の前に行います。対象は死亡者の遺族で、死産の場合は父母と祖父母です。遺族の代表者を定めてもらい、その代表者に説明します。遺族がいない場合や所在が分からない場合は除かれます。センターの案内にある説明事項は次のとおりです。
説明は口頭(診療録に記載)または書面、もしくはその両方で行います。遺族から報告しないよう求められた場合でも、報告は医療機関の義務であることを丁寧に説明するとされています。なおセンターには、遺族等からの相談も累計9,763件(医療機関からは9,772件)寄せられています。
院内調査の目的は医療安全の確保で、個人の責任追及ではありません。当該の医療従事者を調査から除外することもしません。調査項目は、必要な範囲で次から選びます。
誤薬などの単純な事例でも、項目を省略せず丁寧に調査することが求められ、調査で必ずしも原因が特定されるとは限りません。
結果報告書には、調査の項目・手法・結果(客観的な臨床経過、原因分析、再発防止策など)を記載します。冒頭に制度の目的を書き、現場の医療従事者は匿名化し、院内の内部資料は含めません。センターの案内では、可能な範囲でWord形式での提出が求められています。
院内調査には、学術団体など厚生労働大臣が告示で定める支援団体の支援を求めるものとされ(第6条の11第2項)、求められた団体には支援を行う義務があります(同条第3項)。どの団体が診療所の支援に当たるかは、確認できた資料に示されていませんでした。解剖やAiには専用の施設と医師の確保が必要で、資料でも課題として挙げられています。
センター調査は、すでにセンターへ報告された事例について、管理者または遺族が依頼できます。センターの案内では、手数料は医療機関が10万円、遺族が2万円(いずれも税込)です。「センター調査申込書」(様式3)と依頼理由の書類、振込の受領証を書留等で郵送し、受理は文書で通知されます。結果は管理者と遺族の双方に報告されます。
累計の依頼は342件(遺族270件、医療機関72件)、報告書の交付は241件です。センターが説明や資料の提出を求めたとき、管理者は拒めず、拒否した場合は公表されることがあるとされています。
厚生労働省の検討会資料によると、医療法施行規則は、管理者に死亡・死産を確実に把握する体制の確保を求めています。ただし資料の記述は主に病院等についてで、診療所に求められる具体的な体制の基準は、確認した資料には示されていませんでした。
制度上、判断と報告の主体は管理者です。承継や院長交代のときは、新しい管理者が就任直後から対応できるよう、手順の引き継ぎが要ります。承継後の院長業務の切り分けはこちらの記事、管理者変更に伴う届出はこちらの記事で整理しています。遺族から診療記録の開示を求められたときの対応はこちらの記事をご覧ください。
制度の対象は、病院、診療所、助産所の管理者で、無床・有床の区別なく報告義務の対象と整理されています。令和8年8月末までの累計3,907件のうち、診療所からは187件の報告がありました。
日数の定めはなく、医療法は「遅滞なく」と定めています。正当な理由なく遅らせることは認められないとされています。
過誤の有無は問われません。医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産で、管理者が予期しなかったものが対象です。逆に、併発症や原病の進行によるものなどは対象外の例とされています。
報告は医療機関の義務であることを、遺族へ丁寧に説明するとされています。報告の前に、事故の状況や制度の概要、院内調査の計画などを説明します。
センターの合議を利用できます。平日9時〜17時に電話し、事例相談用紙(様式5)を返送すると、おおむね10日程度で助言が電話で伝えられ、費用は無料です。最終的な判断は院内で行います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案が医療事故に当たるかどうか、報告や説明の要否を保証するものではありません。実際の判断・対応にあたっては、医療事故調査・支援センター、管轄の保健所および弁護士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年10月30日/最終更新日:2026年10月30日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身