
厚生労働省の医療施設(動態)調査によると、2025年10月1日現在の一般診療所は105,521施設で、1年前から314施設増えました。純増は0.3%にすぎません。ところが同じ1年間(2024年10月〜2025年9月)には、開設が11,291件、廃止が10,607件ありました。前の1年間は開設7,035件・廃止6,501件で、どちらも大きく増えています。この数字をどう読み、開業や承継の判断にどこまで使えるのかを整理します。
概況は、全国の医療施設を病院・一般診療所・歯科診療所に分けて示しています。2025年10月1日現在の総数は179,146施設で、内訳は病院8,001施設、一般診療所105,521施設、歯科診療所65,624施設です。病院は前年より59施設減り、一般診療所は314施設増えています。この記事が扱うのは、このうち一般診療所です。
なお、本稿で確認した概況の本文には、調査の対象や方法を説明する部分が見当たりませんでした。そのため、以下は概況の図表と本文に書かれた数値だけを使い、書かれていない理由や背景は推測で補っていません。2025年調査の統計表は、2026年9月29日に厚生労働省とe-Statで公開されています。
各年10月1日現在の施設数を並べると、一般診療所はこの2年間、毎年300施設あまりずつ増えています。内訳を見ると、増えているのは無床診療所で、有床診療所は減り続けています。
| 区分 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2025年の前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 一般診療所(総数) | 104,894 | 105,207 | 105,521 | +314(+0.3%) |
| うち有床 | 5,641 | 5,415 | 5,160 | ▲255(▲4.7%) |
| うち無床 | 99,253 | 99,792 | 100,361 | +569(+0.6%) |
有床診療所は、前年の減少幅が226施設(▲4.0%)、今回が255施設(▲4.7%)でした。一般診療所全体に占める割合は4.9%で、残りの95.1%が無床診療所です。承継や開業で現実に検討する対象のほとんどは、無床診療所だと言えます。
施設数は「開設」「再開」「廃止」「休止」の出入りの結果です。概況の表2は、10月から翌年9月までの1年間の動きを一般診療所について次のように示しています。
| 期間 | 開設 | 再開 | 廃止 | 休止 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年10月〜2024年9月 | 7,035 | 289 | 6,501 | 510 |
| 2024年10月〜2025年9月 | 11,291 | 271 | 10,607 | 641 |
この表の数字は、「開設+再開-廃止-休止」で施設数の増減に一致します(2025年は11,291+271-10,607-641=314、2024年は313。当サイトで計算)。つまり純増314施設は、約1万件の出入りの差し引きです。廃止の10,607件は、2024年10月1日時点の施設数105,207の約10%にあたります(当サイト算出)。
注目すべきは前年との差です。開設は7,035件から11,291件へ、廃止は6,501件から10,607件へと、どちらも約1.6倍になっています。この理由は、本稿で確認した範囲の概況には書かれていません。「開業が急増した」とも「閉院が急増した」とも、この数字だけでは言えません。
使えません。理由は3つあります。
有床診療所と無床診療所の間には、「変更」という欄もあります。有床の欄に▲188、無床の欄に+188が入っており、同数が区分の間で移っていると読めます。有床の減少255施設のうち、188施設分はこの移動で説明がつく計算です(当サイト算出)。
開設者別では、医療法人が増え、個人が減る向きが続いています。
| 開設者 | 2024年 | 2025年 | 2025年の前年比 | 構成比(2025年) |
|---|---|---|---|---|
| 医療法人 | 47,711 | 48,317 | +606 | 45.8% |
| 個人 | 38,719 | 38,292 | ▲427 | 36.3% |
| その他 | 18,777 | 18,912 | +135 | 17.9% |
医療法人と個人を合わせると86,609施設で、一般診療所全体の約82%です(当サイト算出)。残る約18%が「その他」にあたります。
「その他」は、総数から医療法人と個人を引いた値です(当サイト算出)。前年の概況では、医療法人が994施設増、個人が489施設減でした。個人が減って医療法人が増える動きは、2年続いています。
ただし、この増減が個人診療所の法人化によるのか、個人診療所の廃止と医療法人の新規開設によるのかは、概況の数字では分けられません。承継では、売り手が個人か医療法人かで手続きも取れる手法も変わります。その違いは事業譲渡と持分譲渡の違いで整理しています。
有床の一般診療所は5,160施設で、前年より255施設減りました。病床数は67,790床で、前年から4,661床の減少です。病床規模別では、10〜19床の診療所が3,545施設で、有床診療所の68.7%を占めます。療養病床を持つ一般診療所は378施設で、53施設減りました。
施設数だけでなく病床数でも、縮小の向きは同じです。開設者別の病床数では、医療法人が54,049床で、有床診療所の全病床の79.7%を占めています。有床診療所を新規で開く、または承継で引き継ぐ場合、市場全体の中では母数が小さく、しかも縮小している区分だという前提で検討することになります。なぜ減っているのかは概況に書かれていないため、理由づけは各院の状況ごとに確認が必要です。
数字の基準日が2種類あることに注意してください。施設数は各年10月1日現在、開設や廃止などの出入りは前年10月から当年9月までの1年間です。同じ「2025年」でも、指している時点が違います。
また、2024年10月1日現在の数字(一般診療所105,207施設、無床99,792施設、医療法人47,711施設)は、すでに1年前の値です。2025年10月1日現在は、それぞれ105,521施設、100,361施設、48,317施設に更新されています。古い資料の数字と新しい概況の数字を、同じ文章の中に混ぜないよう注意が要ります。
さらに、総数と有床・無床の増減を合わせて読むと、見え方が変わります。総数の増加(314施設)は、無床の増加(569施設)から有床の減少(255施設)を引いた値です。「診療所が増えた」と言えるのは無床だけで、有床は逆向きに動いているという点を、引用の際に落とさないようにします。
全国の合計値は、判断の「前提」を押さえるために使えます。たとえば次のとおりです。
ここで大切なのは、全国の数字から「今は開業のチャンスだ」「今は避けるべきだ」といった結論を引き出さないことです。純増が小さいことは競争が穏やかなことも激しいことも意味せず、1院ごとの採算は、地域の人口や診療科、物件の条件で決まります。全国の数字は、あくまで議論の土台として置きます。
一方、競合の数や空白地域の判断には使えません。概況に出ていない区分は、公表ページの統計表のほか、e-Statに掲載された「都道府県編」「二次医療圏・市区町村編」で探します。そのうえで、開業したい地域に外来医師過多区域の規制がかかっていないかを確認します。
新規開業と承継のどちらが自分に合うかを考える段階なら、新規開業と承継開業の比較を先に読むと、数字の使いどころが整理できます。
いいえ。表2の開設には、施設の移転に伴う新施設の開設が含まれます。承継の扱いも概況からは確認できません。新規開業の件数として引用するのは避けてください。
一般診療所は2025年10月1日現在で105,521施設と、前年から314施設増えました。内訳は無床が569施設増、有床が255施設減です。なお歯科診療所は65,624施設で、754施設減っています。承継や開業を考える医科の診療所に限れば、増えているのは無床診療所です。
本稿で確認した概況には、理由は書かれていませんでした。前年の概況と並べると大きな差ですが、原因を推測で書くことは避けます。厚生労働省の公表ページにある統計表や注記で確認してください。
そうとは限りません。廃止には、移転に伴う旧施設の廃止が含まれます。閉院だけを数えた数字ではありません。
厚生労働省の公表ページにある統計表と、e-Statの医療施設調査(都道府県編、二次医療圏・市区町村編)を使います。診療科別の競合は、そのうえで診療圏調査を行って確認します。概況の全国合計だけで、地域の競合状況を判断することはできません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の開業・承継の判断や収支の見通しを保証するものではありません。実際の意思決定にあたっては、診療圏調査を行ったうえで、税理士・公認会計士・行政書士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の情報(厚生労働省の令和7年医療施設(動態)調査の概況)に基づきます。
公開日:2026年10月6日/最終更新日:2026年10月6日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身