
個人でクリニックを開業している院長にとって、個人事業税は「社会保険診療の所得には課税されない」という点が最大の特徴です。鳥取県の公式ページは、社会保険診療報酬にかかる所得は個人事業税では非課税所得とされていると説明しています(鳥取県「医業等に係る個人事業税額の計算方法」)。ただし、自由診療や健康診断などの所得は課税の対象になり、収入と経費をどう分けるかで税額が変わります。この記事では、道県の公開資料に沿って、診療所の個人事業税の仕組み・計算・申告と納期の確認点を整理します。
個人事業税は、道府県内に事務所や事業所を設けて事業を営む個人に課される地方税です。北海道の資料では「道内に事務所や事業所があり、事業を営む個人」が対象で、事業所得に課税されるとされています(北海道財政局税務課「個人事業税」)。個人で開業した診療所の院長は、この「事業を営む個人」に当たります。
医業は、鳥取県・北海道の資料のいずれでも第3種事業(医業、税理士業、弁護士業など30業種)に分類され、税率は5%です。あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復などの業は3%とされています。
税額は、前年の事業所得などから、損失の繰越控除などと事業主控除を差し引いた額に税率を掛けて求めます。事業主控除は年290万円で、事業期間が1年未満のときは月割りで計算します(鳥取県「個人事業税」)。所得税の青色申告特別控除は、個人事業税の計算では認められません(和歌山県「個人で医業等を営む方の個人事業税の所得計算について」令和5年7月)。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 対象 | 道府県内に事務所・事業所を設けて事業を営む個人(事業所得などに課税) | 北海道・鳥取県 |
| 医業の区分・税率 | 第3種事業・5% | 北海道・鳥取県 |
| 事業主控除 | 年290万円(1年未満は月割り) | 鳥取県・和歌山県・北海道 |
| 青色申告特別控除 | 個人事業税の計算では認められない | 和歌山県 |
なお、ここでの数値は道県の公開資料に基づく一般的な内容です。実際の課税の可否や税額は、事務所のある道府県の県税事務所が判断します。
社会保険診療に係る所得が非課税になる根拠は、地方税法の第72条の23と第72条の49の12だと、厚生労働省の税制改正要望資料に記載されています(厚生労働省「令和4年度地方税制改正(税負担軽減措置等)要望事項」No.14)。同資料は、社会保険診療が公定価格で提供される公共性の高い医療であることを理由に挙げ、この措置を恒久措置として昭和27年度の創設以来、存続を求めてきたと説明しています。
和歌山県の資料は、収入を3つに区分して考える形で説明しています。「社会保険診療収入」は健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療などの給付に係る収入で、初診料や患者負担分も含まれます。「自由診療等収入」には、労災・自賠責の診療、健康診断、予防接種、美容整形、正常分娩、差額ベッド代、保険外併用療養費の差額部分などが挙げられています。「その他の収入(雑収入)」は、介護保険に関する訪問看護、通所リハビリテーション、短期入所療養介護などに限られます。
| 区分 | 資料に挙げられている例 | 個人事業税の扱い |
|---|---|---|
| 社会保険診療収入 | 健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療などの給付に係る収入(初診料・患者負担分を含む) | 非課税。収入に含めず、関連する経費も必要経費に入れない |
| 自由診療等収入 | 労災・自賠責の診療、健康診断、予防接種、美容整形、正常分娩、差額ベッド代、保険外併用療養費の差額部分など | 課税対象 |
| その他の収入(雑収入) | 介護保険の訪問看護、通所リハビリテーション、短期入所療養介護など | 課税対象の計算に含める |
「保険診療だけの診療所なら個人事業税はかからない」と考えがちですが、予防接種や健康診断、自賠責診療などを日常的に行っているクリニックは、その部分の所得に課税される可能性があります。自分の診療内容がどの区分に当たるかは、会計の段階で分けておく必要があります。
和歌山県の資料に沿って、計算の流れを整理します。まず総収入金額から必要経費と事業専従者給与控除額を差し引いて事業所得金額を求めます。次に、損失の繰越控除などと事業主控除額を差し引いて課税所得金額を出し、税率を掛けて税額とします。社会保険診療の収入は総収入金額に含めず、それに対応する経費も必要経費に入れません。課税の対象になるのは、社会保険診療に係る所得以外の所得です。
鳥取県のQ&Aには、(自由診療等収入+雑収入-自由診療等経費-自由診療等繰越控除など-事業主控除)×税率という算式と、区分していない経費は自由診療等収入÷(社会保険診療収入+自由診療等収入)で按分する旨が示されています(鳥取県Q&A)。分母・分子に含める収入の書き方が資料によって異なるため、実際の按分率は管轄の県税事務所に確認してください。
計算の仕組みを示すための仮の数値で確認します。自由診療等に係る所得が1,000万円で、損失の繰越控除などがない場合、課税所得は1,000万円-290万円=710万円、税額は710万円×5%=35万5,000円です。実際には、経費の区分や繰越控除の有無で変わります。
所得税の計算で、社会保険診療報酬の概算経費率を使う租税特別措置法第26条の特例を適用している場合は、個人事業税の計算も変わります。和歌山県の資料では、この特例を適用しているときは上記の区分計算に代えて、概算経費率で計算した自由診療等に係る合計所得金額を課税所得とするとされています。適用の要件として、社会保険診療報酬の支払いを受けるべき金額が5,000万円以下であること、医業・歯科医業から生ずる事業所得の総収入金額の合計が7,000万円以下であることが挙げられています。
鳥取県のQ&Aも、同条が適用される場合は扱いが別になるので管轄の県税事務所に問い合わせるよう案内しています。要件や計算方法は年度によって見直される可能性があるため、利用する年度の最新の取扱いを税理士と確認しておくと安心です。
申告期限は毎年3月15日までで、前年中の所得を県税事務所に申告します。所得税の確定申告書または住民税の申告書を提出していれば、個人事業税の申告は不要です。ただし、それぞれの申告書の「事業税に関する事項」欄に記入する必要があります(鳥取県「個人事業税」)。和歌山県の資料によれば、社会保険診療に係る所得は確定申告書第二表の「住民税・事業税に関する事項」にある「非課税所得など」欄に記入し、所得金額の確認のために決算書などの提出を求められることがあります。
北海道の資料では、非課税所得に当たるかを判定するため、所管の振興局や道税事務所への書類提出が必要とされています。道府県によって求められる書類が異なる可能性があるので、開業した道府県の案内を確認してください。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 申告期限 | 毎年3月15日まで(所得税の確定申告・住民税の申告をしていれば別の申告は不要) | 鳥取県・北海道 |
| 申告書への記入 | 「事業税に関する事項」欄に記入。社会保険診療に係る所得は第二表の「非課税所得など」欄 | 鳥取県・和歌山県 |
| 納期 | 納税通知書により8月(第1期)と11月(第2期) | 鳥取県・北海道 |
| 年税額が1万円以下 | 8月に全額を納める | 北海道 |
| 年の途中で事業をやめた場合 | やめた日から1か月以内に申告 | 北海道 |
納付は、納税通知書に基づき、県税事務所の窓口、地方税統一QRコード、口座振替、コンビニエンスストア、スマートフォン決済アプリなどで行えると鳥取県の資料に書かれています。口座振替の場合は納期限に引き落とされるので、前日までに残高を確認しましょう。
開業時は、鳥取県のページが関係様式として「個人事業の開廃業届出書(任意様式)」を挙げています。個人事業税は事業の翌年に課税が始まる仕組みなので、開業初年度は納税通知書が届くのが翌年になります。開業・閉院のタイミングによって、納期や別納期限が変わる場合があります。
なお、この記事が扱うのは個人で開設する診療所の個人事業税です。医療法人にした場合は課税の仕組みが異なりますが、今回確認できた一次資料には法人側の記述がないため、ここでは触れません。法人化を検討する際は、税理士に確認してください。閉院時の届出の全体像は、クリニックの閉院手続きの記事で整理しています。
社会保険診療に係る所得は、個人事業税では非課税とされています(鳥取県・和歌山県の資料)。ただし、自由診療や健康診断、予防接種などの所得があれば、その部分は課税の対象になります。判定は県税事務所が行うため、収入の区分を整理したうえで確認してください。
和歌山県の資料では、健康診断や予防接種は「自由診療等収入」の例として挙げられています。課税対象になる区分なので、社会保険診療と分けて経理しておく必要があります。
年290万円です。事業期間が1年未満の場合は月割りで計算します(鳥取県・和歌山県・北海道の資料)。
所得税の確定申告書または住民税の申告書を提出していれば、個人事業税の申告は不要です。ただし、申告書の「事業税に関する事項」欄への記入は必要です(鳥取県・北海道の資料)。申告期限は3月15日までです。
納税通知書により、8月と11月の年2回に分けて納めるのが一般的です。北海道の資料では、年税額が1万円以下の場合は8月に全額を納めるとされています。道府県によって運用が異なる場合は、届いた納税通知書の納期限を確認してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税額や課税の可否を保証するものではありません。実際の判断にあたっては、事務所のある道府県の県税事務所および税理士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点で確認できた道県・省庁の資料に基づきます。令和8年度の税制改正で取扱いが変わったかは今回確認できていません。
公開日:2026年10月26日/最終更新日:2026年10月26日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身