
厚生労働省は令和9年度(2027年度)の概算要求で、クラウドネイティブ型電子カルテの普及に336億円、パッケージ版電子カルテの導入支援に121億円、標準型電子カルテ・導入版に93億円を盛り込みました。電子カルテの更新や新規導入を考えるクリニックにとっては気になる内容ですが、これは概算要求の段階で、予算も制度も確定していません。この記事では、厚労省の資料で確認できた内容と、まだ分かっていないことを分けて整理し、院内で何を確認しておくべきかをまとめます。
クラウドネイティブ型電子カルテとは、クラウド基盤での運用を前提に設計された電子カルテのことです。院内にサーバーを置くオンプレミス型の電子カルテとは違い、最初からクラウド上で動かすことを想定して作られています。厚労省の電子カルテ普及計画(案)では、オンプレミス型の医療機関情報システムをクラウドネイティブ型に刷新することで、サイバーセキュリティ対策の強化と全国的なデータ連携基盤の構築を図る、という考え方が示されています。
従来の「クラウド型電子カルテ」は、オンプレミス型の製品をクラウドで提供する形も含めて幅広く使われてきた言葉です。普及計画で使われている「クラウドネイティブ型」は、標準仕様に準拠し、政府の医療DXサービス(電子処方箋管理サービス、電子カルテ情報共有サービスなど)に対応する製品を認証する、という制度の文脈で登場している点が特徴です。電子カルテの選び方そのものは、電子カルテの選び方2026|クラウド型比較と標準化・補助金で失敗しない判断基準で整理しています。
厚労省の「医療DXの推進(主な令和9年度予算概算要求事項)」には、電子カルテに関する事業が3つ並んでいます。厚労省の資料で確認できた内容は次のとおりです。
| 事業 | 要求額 | 補助の考え方(要求の内容) |
|---|---|---|
| クラウドネイティブ型電子カルテの普及 | 336億円 | 標準仕様に準拠した電子カルテ製品を審査・認証し、認証製品の導入を1/2補助(上限あり)。オンプレミス型から認証製品へ移行する際は、データ移行費用の一部(1/2)を支援 |
| パッケージ版電子カルテ導入支援 | 121億円 | 政府の医療DXサービスへの対応、必要なサイバーセキュリティ対策、ノンカスタマイズを要件とし、登録された製品の対象医療機関の規模ごとに補助額を設定 |
| 標準型電子カルテ・導入版 | 93億円 | 医科診療所が国提供のアプリを導入する際の、機器の購入・設置経費などを支援(定率補助、上限あり) |
3つのうち、クリニックに直接関わりやすいのは、クラウドネイティブ型の普及と標準型電子カルテ・導入版です。普及計画では、標準型電子カルテ・導入版は医科の無床診療所向けに開発中で、2026年度中の完成を目指すとされています。国の医療DXに対応する機能に絞った設計で、すでに電子カルテを使っている診療所の更新というより、導入の入口を広げる位置づけと読めます。
パッケージ版は、主に中小病院向けの製品普及を想定した事業として整理されています。診療所が使う製品がこの区分に入るかどうかは、今回確認した資料からは分かりませんでした。
3つの事業に共通して出てくるのが、政府の医療DXサービスへの対応です。厚労省の資料では、具体例として電子処方箋管理サービスと電子カルテ情報共有サービスが挙げられています。電子カルテ情報共有サービスは、普及計画の中で2026年度冬頃に全国での運用開始が予定されています。つまり、今回の補助の枠組みは、電子カルテを入れ替えること自体よりも、国が整備するこれらの仕組みとつながる製品を増やすことに重きを置いていると整理できます。
そのため、補助の対象になるかどうかを考えるときは、「クラウドかどうか」だけでなく、標準仕様に準拠しているか、政府の医療DXサービスに対応しているか、ノンカスタマイズで使えるか、という3つの視点で製品を見ておくと分かりやすくなります。
厚労省の資料に沿って整理すると、パッケージ版電子カルテの導入支援は、登録された製品について、対象となる医療機関の規模ごとに補助額を設定する仕組みです。移行元(オンプレミス型のシステムからか、レセプトコンピューターからか)に応じた区分も設けられるとされています。要件は、政府の医療DXサービスへの対応、必要なサイバーセキュリティ対策、ノンカスタマイズの3点です。
一方、標準型電子カルテ・導入版は、医科の無床診療所を念頭に、国が提供するアプリを導入する際の機器の購入・設置経費を支援する事業です。すでに独自の電子カルテを使いこなしている診療所が乗り換える場合と、これから電子カルテを新しく導入する場合とでは、向き不向きが分かれます。どちらが自院に合うかは、現在の運用や必要な機能を整理したうえで、制度の詳細が公表されてから判断することになります。
なお、普及計画(案)には、歯科電子カルテについて補助率1/2以内(上限あり)とする記載もあります。歯科診療所を運営している場合は、医科とは別の枠である点に注意してください。
概算要求とは、各府省庁が翌年度の予算について財務省に提出する要求のことです。ここに載った事業や金額は、その後の予算編成の過程で見直されることがあり、要求どおりに決まるとは限りません。今回の電子カルテ関連の336億円・121億円・93億円も、補助率や対象、上限額、開始時期を含めて、予算が確定するまでは「要求の内容」として受け止める必要があります。
厚労省の資料にも、令和9年度の概算要求に基づいて、認証電子カルテ製品の審査・認証、導入支援経費の補助、標準型導入版の保守・運用、大病院向けシステムの開発支援を実施する予定、という書き方で記載されています。つまり、実際の補助が始まるのは早くても2027年度以降で、申請の方法や受付の時期は、今後の公表を待つ段階です。
補助の前提になる「認証」について、電子カルテ普及計画(案)では、標準仕様に準拠したクラウドネイティブ型電子カルテ製品を対象に認証制度を創設し、政府の医療DXサービスへの対応を要件とする方針が示されています。スケジュールとして厚労省の資料から確認できたのは次の表のとおりです。
| 時期 | 予定(厚労省の電子カルテ普及計画) |
|---|---|
| 2026年度 | 認証制度の創設、標準仕様ver1.0の公示、標準型電子カルテ・導入版の完成 |
| 2026年度冬頃 | 電子カルテ情報共有サービスの全国運用開始 |
| 2027年度早期 | 認証製品の普及開始 |
| 2028年度 | 200床以上の電子カルテ未導入病院の普及率100%を目指す |
| 2030年度 | 電子カルテの普及率約100%を目指す |
認証の審査主体や要件の細目、申請受付の開始時期は、今回確認した資料には載っていませんでした。承継で引き継ぐ電子カルテの扱いと、この動きの関係は、クリニック承継でカルテとシステムはどう移行する?でも触れています。
補助の枠組みが確定していない段階では、次の3点を軸に整理しておくと判断しやすくなります。
なお、オンプレミス型から認証製品へ移行する際のデータ移行費用を1/2補助とする枠は、要求の内容として示されたものです。いまの電子カルテが将来の補助対象に当たるかどうかは、制度が確定してからの確認になります。
電子カルテの導入・更新とあわせて求められるセキュリティ対策は、クリニックのサイバーセキュリティ対策、ガイドライン第7.0版と令和8年度チェックリストで何を確認する?立入検査の19項目【2026年版】もあわせてご確認ください。
いいえ。今回確認できたのは令和9年度の概算要求で、予算も制度も確定していません。厚労省の資料でも申請の受付時期は示されておらず、申請できる制度ではありません。
概算要求では、クラウドネイティブ型電子カルテの普及に336億円、認証製品の導入を1/2補助(上限あり)、オンプレミス型からの移行ではデータ移行費用の1/2を支援する内容とされています。いずれも要求の内容で、確定した金額や補助率ではありません。
厚労省の電子カルテ普及計画(案)では、標準型電子カルテ・導入版は医科の無床診療所向けに開発中で、2026年度中の完成を目指すとされています。概算要求には、診療所が導入する際の機器の購入・設置経費を支援する内容が含まれています。
標準仕様に準拠したクラウドネイティブ型電子カルテ製品のうち、認証制度で認証された製品を指します。政府の医療DXサービスへの対応が要件とされています。認証の審査主体や細かな要件は、今回確認した資料には記載がありませんでした。
制度としての期限は、今回確認した資料には示されていません。普及計画では2030年度に電子カルテの普及率約100%を目指すとされていますが、個々のクリニックに入れ替えを義務づけるものではありません。更新時期は、現行のベンダーのサポート期間や院内の事情とあわせて判断してください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の導入判断や補助金の採否を保証するものではありません。電子カルテの導入・更新、補助金の申請にあたっては、ご利用のベンダーおよび所管の窓口、必要に応じて税理士・社会保険労務士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年10月時点の公表情報に基づく概算要求の内容であり、今後変更される可能性があります。
公開日:2026年10月5日/最終更新日:2026年10月5日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身