睡眠日誌は、毎朝2〜3分で書ける眠りの記録です。1〜2週間続けると、寝床にいる時間と実際に眠れている時間のずれや、日による波が見えてきます。不眠で受診するとき、この記録があると診察がぐっと具体的になります。
この記事では、書く項目、続けるコツ、睡眠効率の計算、記録から分かることと分からないこと、国内の制度との関係、相談の目安を順に説明します。
睡眠日誌とは何か、なぜ書くのか
睡眠日誌は、前の晩の眠りを翌朝に思い出して書く自己記録です。感覚だけで「ずっと眠れていない」と思っていても、書いてみると実際は違うことがあります。
記録の書式をそろえるため、専門家の合意で「コンセンサス睡眠日誌」が作られています(Carney ら、Sleep 2012)。必須項目を絞った版と、任意項目を足せる拡張版があります。
日本でも、不眠の認知行動療法(CBT-I)のマニュアルで、睡眠日誌は治療の土台に位置づけられています。毎日記録し、面接のたびに見直して、治療の進み具合を確かめる使い方です。治療の全体像は不眠症の治療の全体像で説明しています。
何を書くか
専門家向けのマニュアルでは、朝の記入と夕方の記入に分けています。まずは次の項目があれば十分です。
- 前の晩に布団に入った時刻と、朝に起きた時刻
- 寝つくまでにかかった時間のおおよそ
- 夜中に目が覚めた回数と、合計でどれくらい起きていたか
- 最終的に目が覚めた時刻と、布団を出た時刻
- 起きたときの休養感(ぐっすり眠れた感じ)を、たとえば5段階で
- 飲んだ睡眠薬の名前と量、夕方以降のカフェイン・飲酒、昼寝の有無
大切なのは、床に入っている時間と、実際に眠っている時間を分けて書くことです。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」の高齢者版でも、睡眠休養感が低いときは、まず1週間、床上時間と睡眠時間を区別して記録することが勧められています。
続けるコツ
正確さより、続けることを優先します。前述のマニュアルでも、時刻は夜中に時計を見て測るのではなく、起きたときの感覚で思い出して書いてよいとされています。
夜中に時計を何度も見ると、かえって目が冴えやすくなります。計算は慣れるまで後回しで構いません。
書き忘れた日は空白のままにして、翌日からまた続けます。完璧を目指して途中でやめるより、抜けのある記録のほうが役に立ちます。
睡眠休養感(朝に休養がとれた感覚)も、毎朝1行で書き留めておくと役に立ちます。厚生労働省の睡眠ガイド2023では、睡眠時間が睡眠の量を示すのに対し、睡眠休養感は睡眠の質を示す指標とされています。成人の睡眠時間は「おおよそ6〜8時間」が適正と考えられていますが、個人差があります。日中の眠気や休養感とあわせて、自分に必要な時間を探る材料にしてください。
また、書くこと自体が「眠れていない」という不安を強めてしまう人もいます。毎朝の点数づけがつらくなったときは、無理に続けず、医師に相談してください。
睡眠効率を計算してみる
記録が1週間たまったら、睡眠効率を計算できます。睡眠効率は、実際に眠った時間の合計を、床に入っていた時間の合計で割り、100をかけた値です。たとえば1週間で床上時間が合計49時間、睡眠時間が合計38.5時間なら、睡眠効率は約79%です。
日本睡眠学会監修のマニュアルでは、睡眠に問題がない人では90%以上が目安とされています。一方で、睡眠効率が低いからといって、自分で寝床にいる時間を急に減らすのはおすすめしません。
CBT-Iの睡眠制限法では、睡眠効率をもとに床上時間を少しずつ調整します。不眠症の治療の全体像で紹介している進め方では、まず睡眠効率が85%未満なら、床上時間を実際に眠れている時間まで短くします(ただし6時間は下回らないようにします)。その後は、睡眠効率が90%を超えたら15分ずつ延ばし、85%未満に戻れば15分縮め、その間なら据え置きます。ただし、細かな基準は治療者や状況によって異なることがあります。調整は、必ず医師や心理師と相談しながら進めてください。
記録から分かること、分からないこと
睡眠日誌で見えやすいのは、次のような点です。
- 寝つくまでに時間がかかるのか、夜中に目が覚めるのか、早く目が覚めすぎるのか
- 床に入っている時間が長すぎないか
- カフェインや飲酒、昼寝と、眠りの悪い日との関係
一方で、睡眠日誌には限界もあります。自己記録は本人の感覚に左右されるため、睡眠の実際の長さや深さを正確に測るものではありません。脳波の上では眠っているのに、本人は眠れていないと感じる「睡眠状態誤認」が疑われる場合には、日誌に加えて、睡眠ポリグラフ検査や活動量計(アクチグラフ)による客観的な評価が必要とされています(日本睡眠学会の睡眠薬使用ガイドライン)。
また、いびきや呼吸の停止、日中の強い眠気は、日誌だけでは原因が分かりません。睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が隠れていることがあり、検査が必要です。睡眠ガイド2023も、睡眠休養感が低い、日中の眠気が強いといった場合は、専門の医療機関での検査を勧めています。検査の流れは睡眠時無呼吸の検査の受け方で説明しています。眠りの習慣の見直しは睡眠衛生とはも参考になります。
日本の診療での位置づけ
日本の診療では、睡眠日誌は診察の道具であると同時に、治療の一部としても使われます。
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定では、認知療法・認知行動療法の対象に不眠症が加わりました。厚生労働省の改定資料(p.17)では、不眠症に対する治療は8回に限って算定できると示されています。実施できる医療機関は限られるため、受けたい場合は事前に問い合わせるとよいでしょう。
また、不眠障害用のプログラム医療機器(アプリ)「サスメド 不眠障害用アプリ Medcle」は、中央社会保険医療協議会で保険適用が了承され、2026年6月1日の収載が予定されていると報じられました。対象となる条件は限られており、使えるかどうかは医師の判断になります。
診察に持っていくときのポイント
受診するときは、記録をそのまま持参します。きれいに整える必要はありません。いつから、週に何日くらい眠れないか、日中の眠気や集中力の低下、飲んでいる薬やお酒・カフェインの量、いびきや脚のむずむずの有無を一緒に伝えると、診察が進みやすくなります。
生活習慣を整えても眠りの悩みが続くときは、内科や睡眠の専門外来に相談してください。厚生労働省の睡眠ガイド2023も、生活習慣の改善で睡眠状態が十分に改善しない場合は、医師への相談を勧めています。睡眠日誌は、その相談を具体的にする材料になります。
まとめ
- 睡眠日誌は、毎朝数分、床に入っていた時間と実際に眠れた時間を分けて書く記録です。
- 正確さより継続を優先し、夜中に時計を見て測る必要はありません。
- 1週間分で睡眠効率を計算できますが、床上時間の調整は医師・心理師と相談して進めます。
- 記録だけでは睡眠状態誤認や睡眠時無呼吸などは分かりません。いびきや強い眠気があるときは検査が必要です。
- 2026年度の診療報酬改定で不眠症のCBT-Iが保険診療の対象に加わりました。眠りの悩みが続くなら、記録を持って医療機関に相談を。
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この記事の監修者
鎌形博展株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
救急医療の最前線で培った臨床経験をもとに、現在は「街のクリニック」グループ(首都圏7拠点)の理事長として、高血圧・いびき・睡眠時無呼吸症候群など生活習慣病の診療にあたっています。特に「神保町駅前内科クリニック」では、いびきや睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング・治療に日常的に取り組んでおり、日々の診療で得た知見を本メディアの監修に活かしています。
専門科目
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
参考文献
- Carney CE, Buysse DJ, Ancoli-Israel S, et al. The consensus sleep diary: standardizing prospective sleep self-monitoring. Sleep. 2012;35(2):287-302. doi:10.5665/sleep.1642. PMID: 22294820. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22294820/
- 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023(令和6年2月). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- 日本睡眠学会(監修). 不眠症に対する認知行動療法マニュアル(不眠の認知行動療法 実践マニュアル:治療者ガイド). https://jssr.jp/files/download/jissen_manual.pdf
- 厚生労働科学研究班・日本睡眠学会. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(2013年改訂). https://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
- 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定の概要(認知療法・認知行動療法の見直し、p.17). https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001706379.pdf
- 薬事日報. サスメド「Medcle」の保険適用了承に関する報道. https://www.yakuji.co.jp/?p=133904



