厚生労働省は2026年9月18日、令和6年度に都道府県等が実施した病院への立入検査の結果を公表した。立入検査を受けた7,620病院の検査項目621,855件のうち、適合しなかったのは9,503件である(出典:厚生労働省医政局医療経営改革課「医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果(令和6年度)」令和8年9月18日)。
数字だけを見れば適合率98.5%で、大きな問題は無いように映る。しかし項目別に開くと、落ちているのは医師数・看護師数といった人員基準ではなく、許可事項の変更届、サイバーセキュリティ、職員の健康管理といった「管理」の領域であることがわかる。いずれも診療の中身ではなく、事務部門の運用でほぼ決まる項目である。本稿では公表資料の数値を追いながら、事務長・管理部門が次の検査までに何から手を付けるべきかを整理する。
令和6年度の病院立入検査結果では、何が公表されたのか?
結論から言えば、公表されたのは実施率・大項目別の適合率・人員基準の充足状況の3点である。令和6年度の立入検査は8,073病院中7,620病院に実施され、実施率は94.4%だった。前年度(令和5年度)は8,138病院中7,587病院で93.2%なので、実施率は1.2ポイント上がっている。
立入検査は医療法第25条第1項を根拠とし、都道府県知事、保健所を設置する市の市長、特別区の区長が、病院が法令に定める人員・構造設備を備え適正な管理を行っているかを検査するものである(出典:e-Gov法令検索「医療法」(昭和23年法律第205号)第25条)。検査項目は医療従事者数の充足状況、安全管理体制の確保状況、院内感染対策の実施状況、診療録等の管理状況などである。
検査結果は6つの大項目に整理されている。令和6年度の適合率は、医療従事者98.3%、管理98.0%、帳票・記録98.9%、業務委託98.7%、防火・防災体制98.3%、放射線管理99.7%で、合計621,855項目に対する適合は612,352項目、全体の適合率は98.5%(前年度98.3%)だった。
ここで注意したいのは、同じ「適合率」という語が資料の中で2つの意味で使われている点である。大項目別の適合率は検査項目数に対する適合項目数の割合であり、後述する「適合率の低い項目」は検査施設数に対する適合施設数の割合である。分母が違うため、両者を並べて比較することはできない。
適合率がもっとも低かったのはどの項目か?
結論から言えば、下位10項目のうち9項目が「管理」に属している。最下位は医療法許可事項の変更で適合率92.7%、次いでサイバーセキュリティの確保が92.8%、職員の健康管理が94.1%だった。人員基準に関する項目は、病院全体の下位10項目には1つも入っていない。
| 順位 | 大項目 | 小項目 | 検査施設数 | 令和6年度 | 令和5年度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 管理 | 医療法許可事項の変更 | 7,428 | 92.7% | 92.7% |
| 2 | 管理 | サイバーセキュリティの確保 | 7,126 | 92.8% | 91.1% |
| 3 | 管理 | 職員の健康管理 | 7,596 | 94.1% | 92.1% |
| 4 | 管理 | 毒薬・劇薬以外の医薬品管理 | 7,588 | 95.9% | 95.8% |
| 5 | 管理 | 放射線の安全利用に係る研修の実施 | 7,218 | 96.3% | 93.8% |
| 6 | 管理 | 検体検査の精度管理体制整備 | 6,009 | 96.6% | 96.0% |
| 7 | 業務委託 | 医療機器の保守点検の実施 | 7,532 | 96.6% | 96.3% |
| 8 | 管理 | 毒劇薬の区別と施錠保管 | 7,591 | 96.7% | 96.1% |
| 9 | 管理 | 検体検査に係る台帳の作成 | 6,836 | 96.8% | 96.1% |
| 10 | 管理 | 医薬品安全管理責任者による手順書に基づく業務の定期的な確認の実施 | 7,530 | 97.0% | 96.5% |
10項目のうち9項目は前年度から改善している。特に放射線の安全利用に係る研修の実施は93.8%から96.3%へ2.5ポイント、職員の健康管理は92.1%から94.1%へ2.0ポイント、サイバーセキュリティの確保は91.1%から92.8%へ1.7ポイント上がった。一方、最下位の医療法許可事項の変更だけは92.7%で前年度と同率であり、改善が見られない。
医療法許可事項の変更は、病床数・病床種別・診療科・管理者・構造設備といった開設許可の内容が変わったときの届出に関する項目である。7,428施設中545施設が不適合という規模は、検査対象の約13施設に1施設が何らかの届出漏れを指摘されている計算になる。日常診療の質とは直接関係しないが、届出という事務作業の抜けがそのまま指摘として残る類型である。
医師・看護師・薬剤師の人員基準はどうだったのか?
結論から言えば、3職種とも高止まりのまま横ばいである。医師数の適合率は97.9%で前年度と同率、看護師・准看護師数は99.3%で0.1ポイントの減、薬剤師数は97.7%で前年度と同率だった。ここでの「適合率」は、立入検査を実施した病院数に対する、検査項目に適合した病院数の割合である。なお「看護師」には主に看護業務を行う保健師・助産師が含まれる。
| 年度 | 平成30 | 令和元 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 医師数の適合率 | 97.0% | 97.3% | 97.5% | 98.3% | 98.3% | 97.9% | 97.9% |
| 看護師・准看護師数の適合率 | 99.0% | 99.3% | 99.4% | 99.4% | 99.5% | 99.4% | 99.3% |
| 薬剤師数の適合率 | 96.7% | 97.1% | 97.6% | 97.9% | 98.1% | 97.7% | 97.7% |
| 立入検査の実施率(病院全体) | 93.8% | 94.0% | 32.1% | 68.7% | 87.8% | 93.2% | 94.4% |
この推移表を読むときは、最下行の実施率を併せて見る必要がある。令和2年度の実施率は32.1%、令和3年度は68.7%で、他の年度の9割台とは母集団がまったく違う。この2年度の適合率が高く出ていることをもって「かつては充足していた」と読むことはできない。
人員基準の判定方法にも前提がある。資料の注記によれば、医師数は常勤医師数と常勤換算した非常勤医師数の合計を基に判定している。つまり非常勤の積み上げで標準数に届いていれば適合と扱われる。充足率(医療法施行規則が定める標準数に対する医療従事者数の割合)が100%未満の病院は、医師で157施設、看護師・准看護師で50施設だった。うち充足率50%未満は医師8施設、看護師・准看護師3施設である。
「常勤医師だけで基準を満たしている病院」が63.9%であることは何を意味するのか?
結論から言えば、人員基準の適合は非常勤医師の常勤換算にかなりの程度支えられている。医師数の適合率は97.9%だが、常勤医師のみで充足している病院は7,618施設中4,867施設、割合にして63.9%にとどまる。差の約34ポイント分は、非常勤の常勤換算を加えて初めて基準を満たしている病院ということになる。
この数値には資料自身が留保を付けている。「常勤医師のみで充足している病院」は、常勤換算した非常勤医師数を除いた数を基に機械的に集計したものであり、個々の病院の勤務実態を検証したものではない。したがって「3割超の病院が常勤医不足」と単純に言い換えることはできず、あくまで人員基準の判定が非常勤にどれだけ依存しているかを示す指標として読むべき数値である。
都道府県別に見ると幅は大きい。常勤医師のみで充足している病院の割合が高いのは沖縄83.5%、島根82.6%、鳥取79.1%、東京79.1%、低いのは埼玉51.0%、福島51.0%、和歌山53.0%、山梨53.3%である。一方で適合率(常勤+非常勤の常勤換算)で見ると埼玉は99.1%と全国平均を上回る。「基準は満たしているが、常勤だけでは満たせていない」構図が、首都圏の近接県で強く出ているという読み方になる。
経営面では、非常勤依存が高いほど、医師の労働時間規制や派遣元の事情で人員構成が変わったときに基準割れのリスクが直接効いてくる。医師の時間外労働の上限規制については、医師の時間外労働短縮目標ライン、最初の節目は令和9年で整理している。
規模と地域では、どこに差が出ているのか?
結論から言えば、小規模病院と一部の地域で適合率が低く出ている。病床規模別に見ると、一般病院の医師数の適合率は20〜49床で95.1%、500床以上で100%と、規模が小さいほど低い。薬剤師数はさらに差が大きく、20〜49床が94.1%、500床以上が100%である。
地域別(医師数)では、全国平均97.9%に対して北海道・東北ブロックが94.8%と3.1ポイント低い。都道府県単位では青森86.2%、宮崎93.0%、秋田93.8%が低く、長野・静岡・滋賀・奈良は100.0%だった。看護師・准看護師数は全国99.3%で、ブロック間の差は医師ほど大きくない。
精神科病院を再掲した集計では傾向が少し変わり、下位10項目の第9位に「薬剤師数」(適合率96.3%)という人員基準の項目が入る。サイバーセキュリティの確保も91.2%と病院全体より1.6ポイント低い。
特定機能病院に対する立入検査は、何が違うのか?
結論から言えば、根拠条項と実施主体が異なる。特定機能病院に対する立入検査は医療法第25条第3項に基づき厚生労働大臣(各地方厚生(支)局長)が実施するもので、都道府県等が行う第25条第1項の検査とは別枠である。原則として第1項の検査と合同で行われる(出典:厚生労働省「特定機能病院に対する立入検査結果について(令和7年度)」令和8年9月18日)。
対象は特定機能病院88病院で、毎年6月から翌年2月の期間に原則年1回実施される。検査後は概ね1か月以内に、実施施設の病院管理者および各都道府県衛生主管部(局)長宛に結果が通知される。令和7年度分の結果概要は同日付で公表されている。
なお特定機能病院は、承認要件そのものが2026年4月に改正されている。医師派遣に関する要件の変更点は「常勤換算60人」が人事を動かすで扱った。
事務長は、何から着手すればよいのか?
結論から言えば、着手順は「届出の棚卸し → 責任者が回すべき定期業務 → 研修と記録」である。下位10項目はいずれも、体制を新設するというより既にある仕組みが回り続けているかを確かめる種類の項目だからである。
第一に、医療法許可事項の変更届である。病床数・病床種別・診療科・管理者・構造設備といった開設許可の内容が、直近1年で実態と食い違っていないかを一覧で突き合わせる。下位10項目のうち令和5年度から改善していない唯一の項目であり、優先度は高い。
第二に、責任者が定期的に実施すべき業務の記録である。下位10項目には医薬品安全管理責任者による手順書に基づく業務の定期的な確認(97.0%)が含まれる。医療機器についても、医療法施行規則は医療機器安全管理責任者に対し、保守点検に関する計画の策定と保守点検の適切な実施を求めている(出典:e-Gov法令検索「医療法施行規則」(昭和23年厚生省令第50号))。業務委託分類の「医療機器の保守点検の実施」が96.6%にとどまっているのは、計画はあるが実施記録が揃っていない類型が含まれると考えられる。
第三に、研修と健康管理の記録である。放射線の安全利用に係る研修は96.3%、職員の健康管理は94.1%で、いずれも実施そのものより対象者全員分の記録が揃っているかで差が付きやすい。下位2番目のサイバーセキュリティの確保(92.8%)も含め、管理項目は「誰が・いつ・何を確認したか」を書面で示せるかが要点になる。
なお立入検査は、労働基準監督署による監督指導とは根拠法も実施主体も別である。医療機関には両方が独立して入る。労働時間側の指導の枠組みについては労基署の時間外労働指導が2026年9月1日に見直しを参照されたい。
よくある質問
立入検査で不適合となった場合、どうなるのか?
公表資料では、立入検査の目的を「不適正な場合は指導等を通じ改善を図ることにより、病院を良質で適正な医療を行う場にふさわしいものとする」と説明している。特定機能病院については、検査後概ね1か月以内に病院管理者と都道府県衛生主管部(局)長宛に結果が通知されると明記されている。個別の処分の有無は公表資料に記載がないため、本稿では扱わない。
非常勤医師は人員基準の判定に算入できるのか?
令和6年度の集計では、医師数は常勤医師数と常勤換算した非常勤医師数の合計を基に判定されている。実際、適合率97.9%に対し常勤医師のみで充足している病院は63.9%であり、非常勤の常勤換算を含めた判定が広く行われていることがうかがえる。個別の算定方法は都道府県の運用を確認されたい。
令和2年度・令和3年度の数値と比較してよいのか?
推移を比べる際は注意が必要である。令和2年度の立入検査の実施率は32.1%、令和3年度は68.7%で、9割台の他年度とは母集団の規模が大きく異なる。適合率の水準だけを取り出して年度間で比較することは適切ではない。
参考資料
- 厚生労働省医政局医療経営改革課 / 医療法第25条第1項の規定に基づく病院に対する立入検査結果について(令和6年度) / 令和8年9月18日 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76096.html / 確認日:2026年9月24日
- 厚生労働省医政局医療経営改革課 / 医療法第25条に基づく病院に対する立入検査結果(令和6年度)〔別添〕 / 令和8年9月18日 / https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001747757.pdf / 確認日:2026年9月24日
- 厚生労働省 / 特定機能病院に対する立入検査結果について(令和7年度) / 令和8年9月18日 / https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_76100.html / 確認日:2026年9月24日
- e-Gov法令検索 / 医療法(昭和23年法律第205号)第25条 / 令和8年9月24日時点の現行法令 / https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205 / 確認日:2026年9月24日
- e-Gov法令検索 / 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号) / 令和8年9月24日時点の現行法令 / https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050 / 確認日:2026年9月24日
本記事は、医療法第25条第1項に基づく令和6年度の病院立入検査結果(別添資料)と、特定機能病院に対する立入検査の枠組みを説明した令和7年度分の報道発表ページを典拠としている。特定機能病院(令和7年度)の結果概要PDFそのものは参照しておらず、同検査の指摘内容・適合率は本記事では扱っていない。また都道府県別の数値は別添資料の参考表(医師の充足状況)の記載によるもので、各都道府県が個別に公表している集計は参照していない。



