大学病院本院が特定機能病院として承認されるための要件に、医師派遣が加わりました。数字は常勤換算60人以上。ただし人事の観点で読むべき中身は、その数字よりも「誰が60人に数えられるのか」を定めた5つの条件のほうにあります。

本記事は、厚生労働省医政局長通知「特定機能病院に関する事項について」(令和8年4月24日 医政発0424第9号/最終改正 令和8年6月4日 医政発0604第3号・PDF)の条文にもとづき、カウントの仕組みと勤務医のキャリアへの影響を整理します。確定した規定と、検討会で議論されている段階の話は明確に分けて示します。

2026年4月の改正で何が変わったのか?

医療法施行規則が改正され、特定機能病院の承認要件に「地域における医療の確保のために必要な事項」(第9条の20第1項第1号ホ)が入りました。大学病院本院にとってその中身は「地域への一定の人的協力」と「地域の医療機関への学習機会の提供」の2つで、前者が医師派遣の要件化です。

通知の「趣旨」は、制度が備えるべき能力として、従来の高度の医療の提供・開発及び評価・医療安全・研修に加えて「地域の医療への人的協力を含む地域における医療の確保」を明記しました。柱が1本増えた形です。

特定機能病院が3つの類型に分かれた

もう一つ重要なのは、特定機能病院が事実上3つに分かれたことです。

類型 対象 医師派遣の要件
特定機能病院A 大学病院本院 適用(常勤換算60人以上)
特定機能病院B 独立行政法人通則法の中長期目標、または国立健康危機管理研究機構法の中期目標に基づき運営される病院 Aと異なる要件。「日本全国の医療機関に勤務する医療従事者を対象とした専門的な人材育成」等で代替
その他の特定機能病院 施行時点で承認済みだが第9条の20第1項第1号ホを満たさない病院 当分の間、なお従前の例による

3つめの受け皿があるため、大学病院本院以外の特定機能病院は医師派遣要件を満たさなくても当分の間その地位を失いません。ただし医療安全に係る規定については改正後の規則が適用されます。

規模感としては、令和7年1月1日時点で全国88病院が特定機能病院の承認を受けており、うち79病院が大学病院本院です(出典:厚生労働省「特定機能病院のあり方に関するとりまとめ(案)」第26回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会 資料1、令和7年6月25日・PDF)。医師派遣の要件化は、この79病院に的を絞った制度です。

「常勤換算60人」はどう読むのか?

実人数ではなく常勤換算です。60名を送り出せば足りるという意味ではなく、派遣先での勤務量を常勤に換算した合計値なので、実人数ベースではこれよりかなり多くの医師が動きます。通知の該当箇所を引きます。

「地域への一定の人的協力を行うこと」とは、特定機能病院Aが派遣先医療機関との連携及び調整の下、当該医療機関に対し医師を計画的かつ継続的に派遣することにより、地域における医療提供体制の確保及び充実を図ることであり、特定機能病院Aから派遣される常勤医師換算数が原則として60人以上であることを要件とする。60人を下回った場合にあっては、60人を下回った年度の次年度からの年次計画を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならないものであること。
(同通知 6(3))

読み落とせない語が3つあります。

  • 「常勤医師換算数」——実人数ではありません。週2日の派遣は0.4人相当としてしか積み上がりません。
  • 「原則として」——絶対の下限ではありません。設立からの期間が短く、十分な医師数を自院で育成することが承認申請時点では困難と考えられる場合(概ね設立から15年以内を想定)は、その他すべての要件を満たしていれば、実績と達成までの年次計画を添えて申請して差し支えないとされています(同通知 2(14))。
  • 「計画的かつ継続的に」——派遣の性質にまで踏み込んだ表現で、次に見るカウント条件の設計思想になっています。

どの医師が60人にカウントされるのか?

ここが本改正の核心です。通知はカウント対象をア〜オの5条件で規定しており、要点は「臨床研修修了後に3年以上在籍」かつ「半年以上継続して派遣」。単発の応援やスポットのアルバイトでは数字が積めません。

条件 通知の内容 実務上の意味
ア 継続性 常勤/非常勤の雇用形態によらず、特定機能病院Aから半年以上継続して派遣された医師(派遣期間が半年未満でも、実態として半年以上の継続的な派遣を行っているとみなすことができる場合は算入可能) 雇用形態は問われないが、期間は問われる
イ 在籍年数 特定機能病院Aの在籍期間が3年以上の医師。「在籍期間が3年以上の医師」とは、医師法の規定による臨床研修修了後に特定機能病院A(いわゆる「医局」を含む)に3年以上所属している医師をいう カウントされるのは最短で卒後6年目以降。専門研修中の多くは対象外
ウ 役職 病院の管理者(病院長)としての派遣ではないこと 関連病院の院長ポストへの送り出しは実績にならない
エ 二重派遣 大学病院本院から別の大学病院本院に派遣されている医師が、さらに別の医療機関に派遣される場合は、最初の派遣に限り算入 大学間の派遣を経由した二重計上を防ぐ
オ 派遣先 同一法人が開設する医療機関(いわゆる「分院」「サテライト診療所」等)は原則として派遣先として取扱わない。ただし当該医療機関が医師少数区域または医師少数スポットに所在する場合は算入対象とすることができる 身内で回した人員は原則として実績にならない

条件イ——制度文書が「医局」と書いた

実務的な帰結はこうです。対象は臨床研修修了後の在籍が3年以上、つまり最短でも卒後6年目以降。専門研修の途中で関連病院に出ている専攻医は、原則としてこの60人には数えられません。制度が要求する数字と、大学が動かしやすい人員層は必ずしも一致しない——ここに人事のねじれが生じます。

表現面でも注目すべき点があります。通知は在籍先を「特定機能病院A(いわゆる『医局』を含む。)」と書きました。医局は法令上の組織ではありません。それを局長通知が括弧付きで名指しし、在籍期間の算定単位として扱った。医局人事という慣行が、承認要件を満たすための実績算定の基礎として制度の側に織り込まれたことになります。

なお条件アには「派遣期間が半年未満の医師であっても、実態として半年以上の継続的な医師の派遣を行っているとみなすことができる場合については算入可能」というただし書きがあります。3か月交代で同じポストを埋め続けている場合などが想定されますが、その判断基準は通知に書かれていません。

なぜ分院への派遣が実績にならないのか?

条件オの分院除外は、この改正のなかで最も具体的に人事を動かす規定です。グループ内で医師の配置を完結させてきた大学では、これまで「関連施設への出張」として処理されていた人員が、承認要件の計算上はゼロとして扱われます。生じる選択は2つです。

1つは法人外の派遣先を新たに開拓すること。若手・中堅の異動先リストが物理的に書き換わります。これまで「うちの分院に3年」というルートで動いていた人員が、系列外の市中病院や地方の公立病院に向かう。生活圏も症例構成も指導体制も変わります。

もう1つは例外規定を使うこと。分院が医師少数区域または医師少数スポットに所在する場合は算入できます。医師少数区域は二次医療圏単位で医師偏在指標の下位一定割合に属する医療圏、医師少数スポットは都道府県が二次医療圏より小さい単位で局所的に医師が少ない地域として設定するものです。自法人の分院がこの区域に該当するかどうかで負担は大きく変わり、都市部に分院を固めている大学ほど外部への派遣を増やさざるを得ません。

検討会のとりまとめ(案)は、評価にあたって「派遣先・派遣元の医療機関が所在する地域の医師の状況等による補正」を行う一方、同一法人の医療機関への派遣や著しく長期に同一の医療機関に勤務している場合で課題がある場合は「一定の評価に留めることを検討すべき」としていました。分院除外はこの議論の帰結として読めます。

「医局や講座単位」の人事はどう扱われるのか?

通知は、人的協力が講座単位で行われている場合には病院全体の像を把握し、対応を検討する場を設けることを求めています。あわせて医師派遣の実績は業務報告書の「高度の医療の提供の実績」に含まれ、毎年10月5日までに前年度実績を地方厚生(支)局長へ報告することになりました(同通知 5(1)(3))。

病院全体として地域医療構想の主旨等に則った協力を行うこと。例えば、人的協力がいわゆる医局や講座単位で行われている場合には、当該病院における人的協力の全体像が把握できるようにし、病院全体としての対応を検討する場を設けること等が考えられる。
(同通知 6(5)①ア(エ))

この2つを重ねると構造が見えます。従来、誰をどこへ出すかは講座ごとの裁量に委ねられ、病院本部が全体像を持っているとは限りませんでした。改正後は講座単位の派遣を病院として集計し、毎年国に報告し、その合計が60人という閾値を超えているかを問われる。数字の責任は管理者が負うため、病院本部は各講座の派遣状況を把握する仕組みを持たざるを得ません。

これを「大学のガバナンス強化」と読むことも、「講座の裁量が病院本部と国の二重の視線の下に置かれた」と読むこともできます。評価は立場によりますが、事実として言えるのはこれまで可視化されていなかった人事の流れが、報告義務を伴う数字として毎年上がっていくということです。なお業務報告書には「収益及び費用の内容」(同規則第9条の2の2第1項第17号)も加わりました。ただし通知は、この事項について厚生労働大臣は公表を差し控えるとしています(同通知 5(9))。

60人を下回るとどうなるのか?

直ちに承認が取り消されるわけではありません。60人を下回った年度の次年度からの年次計画を作成し、厚生労働大臣に提出する(様式第8)という手続きになります。

この構造は紹介率・逆紹介率の要件と同じです。通知は紹介率について「5年間の年次計画書が達成されない場合であっても、紹介率を向上させるために合理的な努力を行ったものと認められる場合には直ちに特定機能病院の承認の取り消しを行うことは想定されない」と明記しています(同通知 6(31))。承認要件は、一項目の不備で直ちに資格を失う性質のものではありません。

ただし負担が軽いわけではありません。年次計画の提出は達成できていない事実を毎年文書で国に説明し続けることを意味し、計画を書けばそれに沿った人員配置を実行する必要が生じます。数字が足りない大学ほど、人事の自由度は下がります。

時期 内容
令和7年6月25日 第26回検討会に「特定機能病院のあり方に関するとりまとめ(案)」提出
令和8年4月24日 医政局長通知「特定機能病院に関する事項について」(医政発0424第9号)発出
令和8年6月4日 同通知の最終改正(医政発0604第3号)
令和8年度業務報告まで 常勤医師換算数の具体的な算出方法等が別途示される予定
毎年10月5日まで 業務報告書の提出(前年度の派遣実績を含む)
令和9年4月1日 医療安全に関する改正規定の適用開始(同通知 6(39)・7(13))
令和11年4月1日 診療科の設置に係る経過措置の期限(同通知 2(12))

総合診療科の新設義務は派遣とどう連動するのか?

とりまとめ(案)は、これまで標榜が求められてきた16診療科に加えて病理診断科・臨床検査科・総合診療科の設置と、この3つの専門研修プログラムの基幹施設となることを求めるとしていました。「専門医の配置数」に関する基準では、この3診療科の専門医数も算入対象になります。

通知側の扱いは柔軟です。リハビリテーション・病理診断・臨床検査・形成外科・総合的な診療を行う診療科については、当該診療科で提供されるべき医療が他の診療科または部門において実質的に提供されている場合には、要件を満たしているとみなして差し支えないとされています(同通知 2(8))。適合しない病院は診療科の設置に係る計画書を提出すれば令和11年4月1日までは従前の例によることができます(同 2(12))。

この規定は医師派遣と無関係ではありません。医師が少数の地域で必要とされるのは総合的な診療能力を持つ医師であり、地域に不足する診療科の医師を大学から送るための供給源として総合診療科が位置づけられていると読めます。派遣に出す医師を確保しながら自院の診療科体制と専門医配置も維持するという二律背反が、人員計画にのしかかります。

派遣先は誰が決めるのか?

通知6(5)は派遣先の選定について、義務ではなく努力事項という形で相当踏み込んだ内容を並べています。決定プロセスに都道府県と地域医療構想調整会議が正面から入ってくるという方向性は明確です。

  • 地域医療構想調整会議(都道府県単位)へ参加し、大学病院本院からの人的協力に関する協議があった場合はその結果を踏まえた人的協力を行うこと
  • 所在地とは別の都道府県から協力を求められた場合も積極的に協力すること
  • 医師多数都道府県等に所在する特定機能病院は、当該都道府県外の医師少数都道府県等に所在する医療機関に対して優先的に人的協力を行うこと
  • 医師少数区域、医師少数スポット、重点医師偏在対策支援区域に所在する医療機関に対して優先的に人的協力を行うこと
  • 都道府県と大学病院等の間で、医師の派遣・配置、医学部地域枠、寄附講座等に関する連携パートナーシップ協定を締結した上で人的協力を実施すること
  • 医師の様々な症例の経験の必要性など医育の観点を踏まえること

従来、派遣先は大学と関連病院の歴史的な関係で決まってきました。改正後はそこに県の医師確保計画と偏在指標という別の座標軸が重なります。

見落としやすい記述もあります。通知は「その他の取組」として、大学病院本院自身に対し自施設の病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直しを行う等の取組を進めることを求めています(同通知 6(5)①ウ)。医師を送り出す側の病床規模にも縮小が求められている——この改正を「大学病院の負担増」とだけ捉えると見えなくなる部分です。

「発展的基準」で何が評価されるのか?(検討段階)

ここからは確定した規定ではなく、検討会のとりまとめ(案)に書かれた方向性です。通知に「発展的基準」という語は登場しません。今後の制度設計の見通しとして読んでください。

とりまとめ(案)は、現在の承認要件をすべての大学病院本院が満たすべき「基礎的基準」として整理し、個々の大学病院本院が自主的に実施している高度な医療提供・教育・研究・医師派遣の取組を「発展的基準」で評価して結果を公表する、という2段階の枠組みを示していました。60人は前者、基礎的基準に置かれた項目です。医師派遣に関する発展的基準は「基礎的基準において示した考え方と同様の方法により、医師派遣の取組を評価する」とされ、業務報告書についても「各特定機能病院の基礎的基準・発展的基準等に関する状況が分かりやすく確認できるような公表を行い、他の制度等における活用が容易となるような対応を行うべきである」との記載があります。

つまり60人はゴールではなく床という設計思想です。派遣数が公表され他制度で参照される仕組みになれば、派遣は「義務の消化」から「経営上の選択」に近づきます。ただしこの枠組みの具体的な基準値・評価方法・公表形式はまだ確定していません。

まだ決まっていないことは何か?

肝心の計算方法が公表されていません。通知は「『派遣される常勤医師換算数』は、次に掲げる要件を満たす者を常勤換算して得られた数値をいうものとする。別途、令和8年度業務報告までに具体的な算出方法等を示す」と明記しています。

ア〜オの条件は示されましたが、常勤換算する際の分母・分子の取り方、勤務時間の扱い、「実態として半年以上とみなせる場合」の判断基準——実務を左右する部分はこれから決まります。次に見ておくべき観測ポイントは3つ。算出方法の通知が出るタイミング、業務報告に基づく派遣実績の公表、60人を下回った大学から提出される年次計画の動向です。

自分の立場をどう測ればよいか?

確認すべきことは多くありません。いずれも制度文書と自大学の公表情報から確認できます。

  1. 自分の大学は分院に依存しているか。複数の附属施設を持ち、その所在地が医師少数区域・医師少数スポットに該当しない場合、法人外への派遣ポストが増える可能性が高い。異動先の選択肢そのものが変わります。該当の有無は都道府県の医師確保計画で確認できます。
  2. 自分は「カウントされる側」か。臨床研修修了後の在籍が3年以上に達しているか。達しているなら、半年以上継続の派遣として数えられる対象です。専門研修中なら原則として60人には算入されません。
  3. 自分の科は派遣の供給源として想定されているか。総合診療科等の設置と派遣要件が連動している構造上、総合的な診療能力を求められる領域と、基本領域のうち地域で不足している領域は優先的に派遣対象となりえます。

判断を急ぐ必要はありません。ただし算出方法が示され、各大学が自院の数字を把握した時点から、人事の話は具体的に動き始めます。その前に自分の位置を知っておくかどうかで、話が降りてきたときの受け取り方は変わります。

よくある質問(FAQ)

大学病院本院に新設された医師派遣の要件は何人ですか?

特定機能病院A(大学病院本院)から派遣される常勤医師換算数が原則として60人以上であることが要件です。60人を下回った場合は、下回った年度の次年度からの年次計画を作成し、厚生労働大臣に提出しなければなりません(同通知 6(3))。

分院への派遣は実績にカウントされますか?

同一法人が開設する医療機関(いわゆる「分院」「サテライト診療所」等)は原則として派遣先として取り扱われません。ただし当該医療機関が医師少数区域または医師少数スポットに所在する場合は、派遣先として取り扱い算入対象とすることができます(同通知 6(3)オ)。

どの医師が派遣実績にカウントされますか?

常勤・非常勤の雇用形態によらず、特定機能病院Aから半年以上継続して派遣された医師で、かつ臨床研修修了後に当該特定機能病院A(いわゆる「医局」を含む)に3年以上所属している医師です。病院長としての派遣は除きます(同通知 6(3)ア〜ウ)。

60人を下回ると特定機能病院の承認は取り消されますか?

下回った時点で直ちに取り消されるわけではなく、年次計画の提出義務が生じます。紹介率について通知は「合理的な努力を行ったものと認められる場合には直ちに承認の取り消しを行うことは想定されない」としており、承認要件は一項目の不備で直ちに資格を失う性質のものではありません(同通知 6(31))。なお設立から概ね15年以内の大学病院本院には、実績と年次計画を添えて申請できる配慮規定があります(同 2(14))。

この改正はいつから適用されますか?

通知は令和8年4月24日付で発出され(最終改正 令和8年6月4日)、医師派遣に関する規定は既に運用の対象です。ただし医療安全に関する改正規定の適用は令和9年4月1日から、診療科の設置に係る経過措置の期限は令和11年4月1日です。常勤医師換算数の具体的な算出方法は令和8年度業務報告までに別途示される予定です。

出典(一次情報)

本記事は2026年8月20日時点で公表されている通知・検討会資料にもとづきます。制度の解釈および運用は、今後示される常勤医師換算数の算出方法や業務報告書の様式によって変わる可能性があります。「発展的基準」に関する記述は検討会のとりまとめ(案)に基づく検討段階の内容であり、確定した制度ではありません。個別の勤務先における取扱いは、所属機関の担当部署にご確認ください。

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