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承継・M&A 2026.08.26

認定医療法人制度、期限が令和11年12月31日まで延長|持分なし医療法人への移行メリットと手続きを整理

院長が高齢化し、そろそろ承継や事業整理を考え始めた——そんなとき、忘れられがちなのが「持分」の扱いです。平成18年より前に設立された医療法人の多くは、今も定款に持分の払戻規定を持つ「持分あり医療法人(経過措置医療法人)」のままです。出資者に相続が発生すると、相続人が納税資金のために法人へ持分の払戻しを求め、経営が一気に不安定になるケースが起きています。

この負担を軽減する「認定医療法人制度(移行計画認定制度)」について、令和8年度税制改正で認定期限が3年延長されました。本記事では、制度の仕組みと今回の改正内容、申請の流れを厚生労働省・国税庁の一次情報に基づいて整理します。

この記事の要点

  • 令和8年度税制改正で、移行計画の認定を受けられる期限が令和8年12月31日から令和11年(2029年)12月31日まで3年延長された。あわせて移行完了までの期間も認定から3年以内→5年以内に緩和された
  • 認定を受けると、持分なし医療法人への移行にともなう相続税・贈与税が猶予され、要件を満たせば免除される。申請先は都道府県ではなく厚生労働大臣(医政局医療経営支援課)に直接で、認定までは令和7年度実績で平均約3か月
  • 期限が延びても準備には年単位かかる。移行完了後6年が経過するまで運営要件を満たし続ける必要があり、報告を怠ると認定が取り消される

持分あり医療法人が抱える3つのリスク

「持分」とは、定款の定めに基づき出資額に応じて払戻しまたは残余財産の分配を受ける権利のことです。平成18年の医療法改正で持分あり医療法人の新規設立は認められなくなりましたが、それ以前に設立された法人は経過措置医療法人として存続が認められています(出典:厚生労働省「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」(令和8年3月改訂))。

医療法人は配当が禁止されているため内部留保が厚くなりやすく、設立時に3,000万円だった持分が数十年で数十倍に評価されるケースも珍しくありません。同手引書は、持分の払戻・相続・放棄それぞれの場面で次のような課題が生じると整理しています。

  • 払戻請求:出資者が退社時に持分の払戻しを求めると、法人に多額の支払義務が生じ、医業継続に影響しうる。
  • 相続:出資者が死亡すると、持分は相続財産となり、相続人に相続税が課される。納税資金を確保するために法人へ払戻しを求める展開になりやすい。
  • 放棄に伴う贈与:出資者が持分を放棄すると、他の出資者や法人自身が経済的利益を受けたとみなされ、贈与税が課される場合がある。

これらのリスクを避けるため、持分あり医療法人から持分なし医療法人(基金拠出型医療法人など)へ移行することが選択肢になります。ただし移行の過程で発生する相続税・贈与税・法人への贈与税課税の負担が、移行そのものをためらわせる要因にもなっていました。

認定医療法人制度とは

この移行時の税負担を軽減するために設けられているのが、厚生労働大臣による「移行計画認定制度(認定医療法人制度)」です。持分なし医療法人への移行を計画的に行う医療法人が移行計画を作成し、厚生労働大臣の認定を受けると「認定医療法人」となり、税制優遇や独立行政法人福祉医療機構(WAM)による融資などの支援を受けられます(出典:厚生労働省「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」(令和8年3月改訂))。

移行計画の認定を受けるには、次の要件をすべて満たす必要があります。

  • 移行計画が社員総会で議決されたものであること
  • 移行計画が有効かつ適切なものであること
  • 移行計画に記載する移行の期限が、認定日から5年を超えない範囲であること
  • 認定医療法人の運営に関する要件(後述)をすべて満たしていること

申請先は都道府県を経由せず、厚生労働大臣(厚生労働省医政局医療経営支援課)に直接行います。令和7年度における申請から認定までの平均的な期間は約3か月とされています(出典:同手引書)。

令和8年度税制改正で何が変わったか

この制度は期限付きで運用されており、令和8年度税制改正によって以下の見直しが行われました。いずれも厚生労働省の最新の手引書(令和8年3月改訂)に反映されています。

認定期限が令和11年12月31日まで延長

移行計画認定制度の実施期間、つまり厚生労働大臣の認定を受けられる期限は、従来の令和8年12月31日から令和11年12月31日まで3年間延長されました。この期日までに認定を受ける必要があります(出典:厚生労働省「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」(令和8年3月改訂、2026年8月時点))。国税庁のタックスアンサーでも、相続税・贈与税の納税猶予の対象となる認定医療法人を「令和8年12月31日までの間に厚生労働大臣の認定を受けた医療法人」と定義した記載が残っており(国税庁タックスアンサーNo.4150、令和7年4月1日現在の内容)、税制側の条文改正が反映される時期には注意が必要です。移行を検討する法人は、申請時点で厚生労働省の最新の案内を必ず確認してください。

移行完了までの期間が3年から5年に緩和

認定を受けてから実際に持分なし医療法人への移行(残余財産に関する定款変更の認可)を完了するまでの期間も、従来の3年以内から5年以内に緩和されました(出典:同手引書)。出資者との調整や都道府県への定款変更認可申請には時間を要するため、無理のないスケジュールを組みやすくなっています。

認定医療法人が満たすべき運営要件

認定を受けた医療法人は、移行が完了してから6年が経過するまでの間、以下の運営要件を継続して満たす必要があります(出典:同手引書)。

  • 法人関係者(社員・理事・監事・使用人等)に特別の利益を与えないこと
  • 理事・監事への役員報酬等が不当に高額にならない支給基準を定めていること
  • 株式会社等の営利事業者に特別の利益を与えないこと
  • 遊休財産額が、本来業務に係る年間事業費用の額を超えないこと
  • 法令違反、帳簿の隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと
  • 社会保険診療等に係る収入が、医療保健業務による収入金額の80%を超えること
  • 自費患者への請求額が、社会保険診療報酬と同一の基準によること
  • 特定外国人患者への請求額が、社会保険診療報酬と同一の基準で計算した額の3倍以内であって地域の標準的な料金を超えないこと
  • 医業収入が医業費用の150%以内であること

これらの要件を満たさなくなった場合や、虚偽の報告を行った場合には、厚生労働大臣が認定を取り消すことがあります。認定が取り消されると、猶予されていた相続税・贈与税の納税猶予期限が確定し、遡って納税義務が生じる点に注意が必要です(出典:同手引書)。

税制優遇と融資制度の内容

認定医療法人になると、次のような税制上の支援を受けられます(出典:国税庁タックスアンサーNo.4150「医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例」No.4440「医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予の特例」)。

  • 相続税の納税猶予等:出資者の死亡により相続人が持分を取得した場合、その持分に対応する相続税は、認定移行計画に記載された移行期限まで納税が猶予され、期限までに持分の全部を放棄すれば猶予税額が免除されます。
  • 贈与税の納税猶予等:出資者が持分を放棄したことで他の出資者の持分が増加し、みなし贈与税が課される場合も、同様に納税猶予・免除の対象となります。
  • 医療法人への贈与税の課税の特例:出資者全員が持分を放棄し、法人が経済的利益を受けたとみなされる場合、認定医療法人であれば法人への贈与税は課されません(出典:国税庁タックスアンサーNo.4441)。

資金面では、独立行政法人福祉医療機構(WAM)による「経営環境変化に伴う経営安定化資金」があります。通常の融資限度額は4,000万円以内ですが、持分なし医療法人への移行に必要な資金の場合は2億5,000万円以内、償還期間8年以内(据置1年以内)まで拡大されます。移行計画の認定申請時に融資制度の利用見込みを「有」としておく必要があります(出典:福祉医療機構「ご融資の種類(診療所)」、2026年8月時点)。

まとめ

持分あり医療法人のまま院長の高齢化や相続を迎えると、払戻請求や納税資金の確保が経営の重荷になりかねません。認定医療法人制度を使えば、相続税・贈与税の負担を抑えながら持分なし医療法人への移行を進められますが、令和8年度改正後も認定期限は令和11年12月31日、移行完了期限は認定から5年以内という制限があります。出資者との合意形成や都道府県への定款変更認可には時間がかかるため、承継や事業整理を検討している法人は早めに厚生労働省医政局医療経営支援課や税理士・医業経営コンサルタントへ相談し、移行計画の検討に着手することをお勧めします。

今すべきこと(チェックリスト)

  • 自院が「持分あり医療法人(経過措置医療法人)」かどうかを定款で確認する
  • 持分の現在の評価額を試算し、相続が発生した場合の納税額の当たりをつける
  • 出資者が複数いる場合は、持分の放棄・払戻しについて誰と合意が必要かを洗い出す
  • 移行計画の認定要件(社員総会の議決、移行期限が認定日から5年以内)を満たせるか確認する
  • 移行完了後6年間の運営要件(特別の利益供与の禁止、役員報酬の支給基準など)を継続して満たせるかを検討する
  • 厚生労働省医政局医療経営支援課への事前相談と、医業に詳しい税理士への相談先を決める
  • 移行資金が必要なら、WAM(福祉医療機構)の融資利用見込みを認定申請時に申告できるよう準備する

関連コラム

よくある質問

認定医療法人制度はいつまで利用できますか。

令和8年度税制改正により、移行計画の認定を受けられる期限は令和11年12月31日まで延長されました。この期日までに厚生労働大臣の認定を受ける必要があります(出典:厚生労働省「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」令和8年3月改訂)。

移行計画の認定を受けると、必ず持分なし医療法人へ移行しなければなりませんか。

持分なし医療法人への移行は医療法人の任意の選択であり、強制されるものではありません。ただし、認定を受けた後に移行計画の期限までに移行を完了しなかった場合は、認定が取り消されます。

申請はどこに行いますか。

都道府県を経由せず、厚生労働大臣(厚生労働省医政局医療経営支援課)に直接、移行計画認定申請書などの必要書類を提出します。事前相談も受け付けられています。

認定後にはどのような報告が必要ですか。

認定を受けてから1年ごとの進捗状況報告、持分の処分(放棄・払戻・譲渡等)が生じた場合の実施状況報告、定款変更認可後の実施状況報告、そして移行完了後6年が経過するまでの運営状況報告が必要です。報告を怠ったり虚偽の報告をした場合は認定が取り消されることがあります。

移行のための資金調達に使える制度はありますか。

独立行政法人福祉医療機構(WAM)の「経営環境変化に伴う経営安定化資金」で、持分なし医療法人への移行に必要な資金として最大2億5,000万円以内(診療所の場合)の融資を受けられます。利用には移行計画の認定申請時に融資利用見込みを申告し、事前審査・本審査を受ける必要があります。

参考リンク

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。認定医療法人制度の適用可否、移行にともなう課税関係、運営要件の充足状況について、個別の判断を保証するものではありません。税制改正の内容は記事作成時点で公表されている資料に基づいており、国税庁の通達等への反映時期には差があります。実際の移行の検討にあたっては、医業に詳しい税理士、および厚生労働省医政局医療経営支援課に必ずご確認ください。

公開日:2026年9月1日/最終更新日:2026年9月1日

執筆者

鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身

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