精神科と心療内科は何が違う?

精神科と心療内科は何が違う?

本記事について

特定の医療機関を推薦する記事ではありません。また、「あなたの症状ならこちらの科です」という判断をする記事でもありません。 2つの診療科名が制度上どう決められていて、実際の看板がなぜそのとおりに並んでいないのかという、受診行動のしくみの説明にとどめています。

診療科名の根拠は医療法施行令と厚生労働省の通知、心身症・心療内科の定義は日本心身医学会と日本心療内科学会の公表資料、診療の区分は令和8年度の医科診療報酬点数表とその実施上の留意事項通知を出典にしています(末尾に一覧)。

なお、当サイトのエリア別の記事は、この2つをまとめて「精神科・心療内科」という1本の記事として扱っています。 両方の科名を掲げている医療機関が多く、読者にとって分けるほうが不便だと判断したためです。この記事は、その「まとめて扱っている理由」の説明でもあります。

目次

はじめに

気分が晴れない日が続く。眠れない。動悸がする。胃の痛みが治まらず、内科で検査を受けても異常が見つからない——こういうとき、検索するとたいてい「精神科」と「心療内科」の両方が出てきます。

そして、たいていの人がここで手が止まります。どちらに行けばいいのか、名前からは分からないからです。 「精神科は重い人が行くところで、心療内科のほうが軽いのだろうか」「心療内科のほうが入りやすそうだ」——外来でも、初診の方からよくそういう言葉を聞きます。

さらに話をややこしくしているのが、実際のクリニックの看板です。「精神科・心療内科」と両方を並べている院がとても多く、そうなるともう違いが分かりません。

制度上は、精神科は独立した診療科名、心療内科は「内科」の一分野です。 心療内科は本来、胃潰瘍のように身体に症状が出ていて、その発症や経過に心理・社会的な要因が深く関わっている状態(心身症)を扱う内科として生まれました。ただし、実際に何を診ているかは医療機関ごとに違うため、看板の名前だけで判断せず、その院が何を診ているかを確認するのが確実です。

実際に探すときは

現在、以下のエリアで精神科・心療内科の記事を公開しています。

政令の上では、「精神科」と「心療内科」は成り立ちが違う

医療機関が看板やウェブサイトに掲げられる診療科名は、医療法施行令第3条の2で決められています。ここを読むと、2つの科名がまったく違う形で登場することが分かります。

  • 精神科は、内科・外科とは別に、単独で掲げてよい診療科名として名前が挙がっています(同条第1項第1号ニ(1))。同じ並びには、小児科・皮膚科・眼科・救急科などがあります
  • 心療内科は、この単独の一覧には出てきません。代わりに「内科又は外科と次に定める事項とを組み合わせた名称」という枠があり(同号ハ)、その組み合わせられる事項のひとつとして「心療」が挙げられています。つまり「内科」+「心療」=「心療内科」という組み立てです

厚生労働省が平成20年(2008年)にこの改正を各都道府県に通知した文書でも、単独で広告できる診療科名として内科・外科・精神科などが並び、「心療」は内科と組み合わせられる事項の側に置かれています。

この差は、単なる書き方の問題ではありません。 精神科は精神医学という独立した領域として、心療内科は内科の一分野として、それぞれ別の歴史をたどってきたことが、条文の形にそのまま残っています。

心療内科がもともと扱ってきた「心身症」とは何か

では心療内科の「心療」とは何か。鍵になるのが心身症という言葉です。

日本心身医学会は、心身医学を「心と身体の関係を科学的に研究して、これを医学に活用しようとする学問」とし、心身症を「高血圧症や胃潰瘍などの身体疾患に、心理・社会的因子が密接に関与した病態」と説明しています。同学会は昭和54年(1979年)に日本医学会の分科会として認められ、平成8年(1996年)に心療内科の標榜が認可されたことで、多くの病院に心療内科が置かれるようになった、としています。

日本心療内科学会も同じ年——「心療内科」の外部標榜が認められた1996年12月8日——に、内科医およびプライマリ・ケア医のための心身医学の学術団体として設立されました。同学会は心療内科を「人を身体面だけでなく、心理面や社会面などを含めて、全人的に治療しようとする」科と説明し、わが国では約50年前に九州大学に初めて創設された比較的新しい科であり、内科の一分野としての医学的基盤を持つとしています。あわせて、「心理的な原因のみで体の病気が起こる」というような行き過ぎた精神主義に基づくものではないとも明記しています。

つまり心療内科は、「体に出ている症状を、まず内科として診る」ことが土台にある科です。そのうえで、症状の背景にある心理・社会的な要因にも手を伸ばす、という順序になります。

厚生労働省が若者向けに公開している解説でも、「心療内科は、ストレスなど心理的な要因で体に症状が現れる『心身症』をおもな対象としています」と説明されています。

診療報酬の上でも、2つは別のものとして数えられている

制度の区分がいちばんはっきり出るのが、医療費の計算に使う診療報酬(点数表)です。精神科専門療法の項目には、性格の違う2つの治療が並んでいます。

通院・在宅精神療法(I002)心身医学療法(I004)
対象精神疾患、または精神症状を伴う脳器質性障害がある患者心身症の患者
中身一定の治療計画のもとに、危機介入、対人関係の改善、社会適応能力の向上を図る指示・助言等を継続的に行う身体的傷病と心理・社会的要因との関連を明らかにし、心理的影響を与えることで症状の改善・回復を図る。自律訓練法、カウンセリング、行動療法、催眠療法、バイオフィードバック療法、交流分析、森田療法などを含む
誰が算定できるか精神科を標榜する保険医療機関の、精神科を担当する医師が行った場合に限る精神科を標榜する保険医療機関以外の医療機関でも算定できる。当該療法に習熟した医師が行った場合

とくに分かりやすいのが、心身医学療法を算定するときのレセプト(診療報酬明細書)の書き方です。留意事項通知は、心身症による身体的傷病の傷病名の次に「(心身症)」と記載するよう定めており、例として「胃潰瘍(心身症)」を挙げています。

病名の主役は、あくまで「胃潰瘍」という体の病気なのです。 心身医学療法は、その体の病気に心理・社会的な要因が絡んでいることを示す形で使われます。ここに、心療内科が内科の一分野であることが端的に表れています。

一方の通院・在宅精神療法は、精神科の標榜と精神科担当医であることが算定の条件になっており、点数も精神保健指定医が行った場合とそれ以外で分けられています。精神保健指定医は、本人の同意によらない入院の必要性の判定などを担う医師で、点数表にも精神保健福祉法第29条の入院措置を経て退院した患者に関する区分が置かれています。精神科という科が、外来だけでなく入院や法制度と地続きの領域を担っていることが、点数表の構造からも読み取れます。

なお、この2つは同じ患者に同時には使えません。 通院・在宅精神療法(や入院精神療法、標準型精神分析療法)を算定している患者には、心身医学療法は算定できないと定められています。制度は、この2つを重ねるものではなく、選ぶものとして設計しています。

実際の看板は、制度の区分どおりには並んでいない

ここまでは制度の話です。ところが実際の医療機関の看板は、この区分どおりにはなっていません。 理由は3つあります。

1つめ。標榜する科名は、届け出れば掲げられます。 診療科名は、その科の専門医資格を持っていないと掲げられない、というものではありません。掲げられる名前の一覧が政令で決まっているだけで、そのなかから何を掲げるかは各医療機関が決め、地方厚生局や保健所に届け出ます。だから、精神科を専門にしてきた医師が「精神科・心療内科」と両方を掲げることも、その逆もあります。

2つめ。「精神科」という名前の敷居の高さが意識されています。 心療内科のほうが受診をためらいにくい、という患者側の受け止めは実際にあり、両方を掲げる院が多いことの背景になっています。

3つめ。古い科名が経過措置で残っています。 平成20年(2008年)4月の改正で「神経科」は新たには広告できない科名になりましたが、それ以前から広告していた医療機関は、看板の書き換えなどを行わない限り引き続き掲げてよいという経過措置が置かれました。いま「神経科」の看板を見かけるのは、この経過措置によるものです。

当サイトが厚生局の届出データを集計している範囲でも、この重なりははっきり出ます。江東区では、精神科44院・心療内科32院・神経科6院の届出があり、延べにすると82件になりますが、重複を除いた実数は47院です。 多くの院が複数の科名を掲げているということです。当サイトのエリア記事がこの3つをまとめて1本にしているのは、こうした実態に合わせたためです。

厚生労働省自身も、「科名や看板だけではわかりにくいときは、直接に電話してどんな病気を診てくれるのか、問い合わせるのもよいでしょう」と案内しています。制度をつくった側が「看板だけでは分からない」と言っている——これが、この記事でいちばんお伝えしたい事実です。

よくある誤解

「精神科は重症の人、心療内科は軽症の人が行くところ」——重さで分かれているのではありません。

制度上の区分は、症状の重さではなく扱う病態の性質です。心療内科は身体に症状が出ている心身症を、精神科は精神疾患を主な対象としています。「心療内科なら軽いから安心」という理解で受診先を決めると、必要な治療にたどり着くのが遅れることがあります。

「心療内科は、心の病気を扱う科の優しい呼び名」——本来は別のものです。

日本心療内科学会は、心療内科の基盤は内科診療にあると明記しています。体の症状を医学的に診たうえで、その背景にある心理的要因にもアプローチするのが本来の姿です。ただし現実には、実質的に精神科の診療を行いながら心療内科を掲げている院もあり、名前と中身が一致しているとは限りません。

「神経内科(脳神経内科)も似たようなもの」——まったく別の科です。

厚生労働省の解説は、「神経内科」はパーキンソン病や脳梗塞、手足のまひや震えなど、脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診る内科だと説明しています。日本神経学会は2017年9月16日の理事会で、標榜科名を「神経内科」から「脳神経内科」に変更することを決定しました。学会はその理由として、いまだに心療内科や精神科と混同されることがある一方、脳卒中や認知症などを専門的に診療する科であることが広く知られていない状況を挙げています。混同されること自体が、名前を変えた理由になったわけです。

「精神科にかかると記録が残って不利になる」——診療科名で決まる話ではありません。

たとえば医療費の負担を軽くする自立支援医療(精神通院医療)は、通院による精神医療を続ける必要がある方を対象とする公費負担医療制度で、対象になるかどうかは病状と治療の必要性で判断されます。看板が精神科か心療内科かで決まる制度ではありません。 制度の利用を考えている場合は、かかっている医療機関やお住まいの自治体の窓口に確認してください。

「精神科・心療内科と両方書いてある院は、どっちつかず」——そうとは限りません。

前章のとおり、両方を掲げるのは実態に即した対応でもあります。判断材料になるのは看板ではなく、その院が公式サイトに書いている診てきた病気の範囲や医師の経歴のほうです。

こう考えて選ぶとよい

看板の名前で迷い続けるより、次の4つで考えるほうが早く進みます。

  • 体の症状が主で、内科の検査をすでに受けているかどうか。 内科にかかって検査でも異常が見つからず、それでも症状が続いている——という経過であれば、心身症を扱う心療内科の枠組みに当てはまることがあります。ただしこれは受診先の一般的な考え方であって、診断ではありません
  • 看板ではなく、その院が「何を診てきたか」を読む。 公式サイトの診療案内に、どんな病気を対象にしているかが書かれています。医師の経歴(精神科での勤務歴か、内科・心療内科での経験か)も手がかりになります。読み方は医療機関のホームページ、どこを見れば実態が分かる?にまとめました
  • 資格の表記は、認定した団体まで見る。 精神科の専門医と、日本心身医学会・日本心療内科学会が認定する心療内科専門医は別の資格です。表記の読み方は「専門医」「指導医」「認定医」の違いって?で解説しています
  • 分からなければ、電話で聞く。厚生労働省もそう案内しています。 「こういう症状で困っているのですが、そちらで診ていただけますか」と受付に聞けば、たいていの院は答えてくれます。かかりつけの医師がいれば、その医師に相談して紹介してもらうのも確実な方法です(「かかりつけ医」を持つと何がいいの?

なお、症状が強く、いますぐ相談したいときや、夜間・休日で判断に迷うときは、受診先の科を決めることより先に相談窓口を使ってください(夜間や休日に具合が悪くなったら、どこへ行けばいい?)。

監修者からのひとこと

外来で「心療内科だと思って来たんですけど、ここは精神科ですよね」と気まずそうにおっしゃる方が、今でもいらっしゃいます。そのたびに、看板で悩ませてしまって申し訳ないなと思います。

正直に言えば、私たち医師の側でも、この2つの線引きが日常の診療で常に意識されているわけではありません。目の前の方が眠れていないのか、食べられているのか、仕事や家庭で何が起きているのか——聞くことはどちらの科でも大きくは変わりません。

ですので、入口はどちらでも構わない、というのが現場の実感です。 大事なのは、合わないと感じたときに「ここでは違うかもしれません」と言ってもらえること、そして必要なら別の医療機関につないでもらえることです。初診でそこまでは分かりませんから、まずは一度行ってみて、話しやすいかどうかで判断してください。

一度で決めなくていい、というのも申し上げておきたいところです。合わなければ変えていい。それは失礼なことではありません。

よくある質問

Q. 精神科と心療内科は、制度上どう違うのですか。

A. 医療法施行令第3条の2で、精神科は単独で掲げてよい診療科名として名前が挙がっています。一方、心療内科は単独の一覧には無く、「内科又は外科と組み合わせられる事項」のひとつとして「心療」が挙げられており、「内科」+「心療」という組み立ての名称です。制度上、精神科は独立した診療科、心療内科は内科の一分野という位置づけになっています。

Q. 心療内科は、どんな症状を診る科ですか。

A. 主な対象は心身症です。日本心身医学会は心身症を「高血圧症や胃潰瘍などの身体疾患に、心理・社会的因子が密接に関与した病態」と説明しています。厚生労働省の解説も「心療内科は、ストレスなど心理的な要因で体に症状が現れる『心身症』をおもな対象としています」としています。日本心療内科学会は、基盤にあるのは内科診療であり、体の症状を医学的に診たうえで背景にある心理的要因にもアプローチするのが特徴だとしています。

Q. 「精神科」のほうが重い症状の人が行く科なのですか。

A. 制度の区分は症状の重さではなく、扱う病態の性質によるものです。心療内科は身体に症状が出ている心身症を、精神科は精神疾患を主な対象としています。「心療内科のほうが軽い症状向け」という区分は制度上ありません。

Q. 「精神科・心療内科」と両方書いてあるクリニックが多いのはなぜですか。

A. 診療科名は、掲げられる名前の一覧が政令で決まっているだけで、そのなかから何を掲げるかは各医療機関が届け出て決めているためです。当サイトが厚生局の届出データを集計した範囲でも、江東区では精神科44院・心療内科32院・神経科6院の届出があり、延べ82件に対して重複を除いた実数は47院でした。多くの院が複数の科名を掲げています。

Q. たまに見かける「神経科」は何ですか。

A. 平成20年(2008年)4月の改正で、「神経科」は新たに広告することが認められない診療科名になりました。ただし経過措置として、それ以前から広告していた医療機関は、看板の書き換えなど広告の変更を行わない限り引き続き掲げることが認められています。いま見かける「神経科」はこの経過措置によるものです。

Q. 神経内科(脳神経内科)とは違うのですか。

A. 別の科です。厚生労働省は「神経内科」を、パーキンソン病や脳梗塞、手足のまひや震えなど、脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診る内科と説明しています。日本神経学会は2017年9月16日の理事会で標榜科名を「脳神経内科」に変更することを決定しており、その理由として、心療内科や精神科と混同されることがある一方で脳卒中や認知症などを専門的に診療する科であることが広く知られていない状況を挙げています。

Q. 診療の中身は、科によって変わるのですか。

A. 診療報酬の上では別の項目が用意されています。通院・在宅精神療法は、精神科を標榜する保険医療機関の精神科を担当する医師が行った場合に限り算定できます。心身医学療法は、精神科を標榜していない医療機関でも算定でき、自律訓練法・カウンセリング・行動療法・森田療法などが含まれます。また、この2つは同じ患者に同時には算定できないとされています。

Q. どちらに行くか決められないときは、どうすればよいですか。

A. 厚生労働省は「科名や看板だけではわかりにくいときは、直接に電話してどんな病気を診てくれるのか、問い合わせるのもよいでしょう」と案内しています。かかりつけの医師がいれば、その医師を通じて適した医療機関を紹介してもらうこともできます。保健所や精神保健福祉センターの相談窓口で紹介してもらう方法もあります。

出典・参考文献

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