はじめに
「病院に行く時間が取れないとき、オンライン診療で済ませてしまってもいいのだろうか」——スマートフォンやパソコンで診察が受けられる仕組みが広がる一方で、どこまで頼っていいのか判断がつかないという声をよく聞きます。「対面よりも手軽だから」という理由だけで選ぶと、必要な検査や触診が受けられないまま話が進んでしまうこともあります。
オンライン診療は、対面診療の代わりではなく、対面診療と組み合わせて使う仕組みです。症状の相談や薬の処方の継続、体調が安定している人の再診などには向いていますが、体に触れて確認する診察や検査ができない、初診には条件があるといった制約もあります。厚生労働省の指針は、かかりつけの医師のもとで対面診療と適切に組み合わせて行うことを基本としています。
オンライン診療とは何か
オンライン診療とは、リアルタイムの映像と音声のやり取りによって、医師が患者の状態を確認しながら行う診療のことです。厚生労働省の説明では、電話のみやメール・チャットだけのやり取りはオンライン診療には含まれず、映像を通じて患者の様子を確認できることが前提とされています。受診の際には、本人確認書類の提示が求められます。
厚生労働省の指針では、オンライン診療を「対面診療の補完」として位置づけています。かかりつけの医師、つまり日頃から対面で診療を行い、すでに患者との関係ができている医師のもとで、対面診療とオンライン診療を適切に組み合わせて実施することが基本とされています。オンライン診療だけで完結させることを前提にした仕組みではありません。
オンライン診療でできること
現在の指針や厚生労働省の説明で示されている、オンライン診療が向いているとされる場面には次のようなものがあります。
- 生活習慣病など慢性疾患の定期的な通院で、体調が安定しており、対面診療の一部をオンラインに置き換えても支障がないと医師が判断する場合
- これまでと同じ薬を継続して処方してもらう再診
- 遠方に住んでいる、あるいは仕事や育児・介護の事情で通院が難しい患者の受診機会の確保
- 感染症の流行期など、対面での接触を避けたい事情がある場合の受診
これらはいずれも、医師が「オンラインで対応しても支障がない」と判断できる状態が前提になっています。判断するのは患者側ではなく医師側だという点が、対面診療との大きな違いです。
オンライン診療でできないこと
一方で、オンライン診療には構造的にできないことがあります。
- 触診・聴診ができない。 体に触れて確認する診察(お腹を押す、聴診器を当てるなど)は、画面越しには行えません
- その場での検査ができない。 血液検査・尿検査・レントゲンやエコーなどの画像検査は、いずれも対面での受診が必要です
- 緊急性の高い症状には向かない。 突然の強い胸の痛みや息苦しさ、激しい腹痛や嘔吐など、すぐに詳しい評価が必要な症状は、日本医学会連合の提言でもオンライン診療には適さないとされています
- 麻薬・向精神薬は処方できない。 濫用のおそれがある薬として、法令上厳しく管理されており、オンライン診療では処方できません
- 基礎疾患などの情報を十分に把握できていない患者に対して、特に安全管理が必要な薬についても、処方が制限されます
「触診や検査ができない」という制約は、医師の技量の問題ではなく、画面越しという手段そのものの限界です。オンライン診療を選ぶ・選ばないの判断は、この制約を踏まえたうえで行う必要があります。
初診でも受けられるのか
オンライン診療は、初診(初めての診察)から利用できる場合があります。ここでいう「初診」には、まったく初めて受診する場合だけでなく、同じ医療機関にかかっていても新しい症状について相談する場合や、治った病気・長く受診が途切れていた病気について改めて相談する場合も含まれます。
ただし、指針が基本としているのは、日頃から対面診療を行い、すでに関係ができている「かかりつけの医師」のもとで実施することです。かかりつけの医師以外が初診からオンライン診療のみで対応できるかどうかは、医療機関の体制や、事前にどれだけの情報(既往歴や服薬状況など)を確認できるかによって変わります。実際にどこまで対応してもらえるかは医療機関ごとに異なるため、受診前に医療機関へ直接確認するのが確実です。
なお、継続してオンライン診療を利用する場合でも、状態の確認のために少なくとも3か月に1回程度は対面診療を組み合わせることが望ましいとされています。
よくある誤解
誤解1:「オンライン診療は対面診療より簡易な、格下の診療」
そうではありません。厚生労働省の指針は、オンライン診療を対面診療の代替ではなく補完と位置づけています。体調が安定していて対面での確認が必須でない場面では、オンライン診療のほうが受診の負担を減らせることがあります。どちらが上ということではなく、場面によって使い分けるものです。
誤解2:「一度オンライン診療を選んだら、その医療機関はずっとオンラインで完結できる」
そのような仕組みではありません。医師が「対面での確認が必要」と判断すれば、その時点で対面診療への切り替えや、対面診療が可能な医療機関の紹介が行われます。緊急性がある症状のときも同様です。
誤解3:「オンライン診療なら、どんな薬でも処方してもらえる」
麻薬・向精神薬は処方できず、基礎疾患などの情報を十分に把握できていない患者への安全管理が必要な薬にも制限があります。どの薬が処方できるかは医師の判断と医療機関の体制によって異なるため、この記事だけでは断定できません。
こう考えて選ぶとよい
オンライン診療を使うかどうかを考えるときの軸は、次のように整理できます。
- すでにかかりつけの医師がいて、体調が安定した状態の継続受診か——この場合はオンライン診療の対象になりやすい場面です
- 新しい症状で、体に触れた診察や検査が必要そうか——その可能性がある場合は、対面診療を基本に考えたほうが安全です
- 症状に緊急性がありそうか——強い痛みや息苦しさなど、急を要する可能性がある症状は、オンライン診療の予約を待たず、対面での受診や救急の窓口を検討してください
- 今の状態を医師にどこまで正確に伝えられそうか——初めて相談する症状で、自分の状態をうまく言葉にする自信がない場合は、対面のほうが医師も判断しやすくなります
迷ったときは、「オンラインで大丈夫か」を自分だけで判断せず、まずは医療機関に症状を伝えて相談してみるのがよい方法です。オンラインでの対応が難しいと判断されれば、その時点で対面受診に切り替えることになります。
監修者からのひとこと
外来をしていると、「これくらいでオンラインを使っていいのか」と迷いながら相談してくる方によく出会います。実際には、その判断を患者さん自身がする必要はありません。話を聞いて、画面越しで十分と判断すればそのまま続けますし、触ってみないと分からない、検査をしないと分からないと感じれば、その場で対面受診をお願いします。
オンライン診療は「便利な代わりの手段」ではなく、対面診療と並んで使う道具のひとつだと捉えています。使う側が身構えすぎず、まず相談してみることが、結果的に一番遠回りにならない選び方だと感じています。
※この節は監修医師本人の確認前の草案です。
よくある質問
Q. オンライン診療は健康保険が使えますか。
A. 医療機関が保険診療としてオンライン診療を実施している場合は、健康保険が適用されます。ただし、すべての医療機関・すべての疾患で対応しているわけではないため、事前に医療機関へ確認するのが確実です。
Q. 初診からオンライン診療を受けることはできますか。
A. 制度上は初診からの利用も認められていますが、基本になっているのは、日頃から対面診療を行っているかかりつけの医師のもとでの実施です。かかりつけの医師以外が初診に対応するかどうかは医療機関の体制によって異なるため、受診前に医療機関へ確認する必要があります。
Q. オンライン診療ではどんな症状に対応してもらえますか。
A. 体調が安定している慢性疾患の定期通院や、これまでと同じ処方を続ける再診などが対象になりやすい場面です。実際に対応できるかどうかは、医師がオンラインで十分と判断できるかによって決まります。
Q. オンライン診療に向かない症状はありますか。
A. 触診や聴診、血液検査・画像検査などその場での検査が必要な症状は、対面診療でなければ確認できません。突然の強い胸の痛みや息苦しさ、激しい腹痛など緊急性が疑われる症状も、オンライン診療の予約を待たず対面や救急の窓口を検討すべき場面とされています。
Q. オンライン診療で処方してもらえない薬はありますか。
A. 麻薬・向精神薬は、濫用のおそれがあるため法令上処方できません。また、基礎疾患などの情報を十分に把握できていない患者に対して特に安全管理が必要な薬についても、処方が制限されます。それ以外にどの薬まで処方できるかは医師の判断によるため、事前に医療機関へ確認してください。
Q. かかりつけの医療機関と、オンライン診療専門の窓口を使い分けてもいいですか。
A. 制度上、組み合わせて利用すること自体は制限されていません。ただし指針は、日頃から対面診療を行っているかかりつけの医師のもとで、対面とオンラインを組み合わせて実施することを基本としています。継続的な体調管理をどこで行うかは、あらかじめ整理しておくと迷いにくくなります。

コメント