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医院承継 引き継ぎ
承継・M&A 2026.08.04

医院承継の引き継ぎ実務2026|患者・スタッフ・カルテを円滑に渡すための注意点

医院承継は契約の締結がゴールではなく、患者・スタッフ・カルテを次の院長へ滞りなく渡し切って初めて完結します。とりわけ患者情報(カルテ)の受け渡しや従業員の雇用は、承継のスキームによって法的な扱いが変わり、準備を誤ると承継後の診療やトラブル対応に響きます。ここでは、引き継ぎの対象ごとに「何を・どう渡すか」を、2026年時点の制度にもとづいて整理します。

この記事の要点

  • カルテ(患者情報)の承継は、個人情報保護法27条5項2号の「事業の承継」に該当すれば患者本人の同意なく引き継げるが、後継者は取得時の利用目的の範囲内で使う必要がある。
  • 従業員の雇用は、個人事業の「事業譲渡」では労働契約が自動では移らず個別の同意・再締結が必要。医療法人の「出資持分譲渡・役員交代」なら雇用主体が変わらず継続する。
  • 保険医療機関の指定は個人開業の事業譲渡では引き継げず新規申請となるため、空白期間を生まないスケジュール設計が引き継ぎの成否を分ける。

医院承継の「引き継ぎ」では何を引き継ぐのか?

承継で受け渡す対象は、大きく「患者」「従業員(スタッフ)」「診療情報(カルテ)」「行政上の資格(開設・保険指定)」の4つに分かれます。このうち患者と従業員とカルテは相互に関係しており、たとえば従業員が残ってくれるかどうかは、患者の定着やカルテ運用の継続性にも直結します。引き継ぎを「書類の移管」ではなく「診療体制ごと引き継ぐ」ものととらえると、抜け漏れが起きにくくなります。

これらの扱いは承継の方式で変わります。個人開業医の承継は原則として「事業譲渡」、医療法人の承継は「出資持分の譲渡」または「役員(社員・理事)の交代」が中心で、どの方式かによって手続きの重さが大きく異なります(出典:CBパートナーズ/M&Aキャピタルパートナーズ・医療法人の事業承継解説/2026年時点)。方式ごとの全体像は、医院承継の流れを6ステップで解説もあわせてご覧ください。

患者のカルテを渡すと個人情報保護法違反になる?

カルテの引き継ぎは、事業承継の要件を満たせば患者本人の同意なしに行えます。個人情報保護法27条5項2号は、合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合、提供先を「第三者」に該当しないと定めており、承継に伴うカルテの受け渡しはこの例外にあたるためです(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-6/3-6-3)。

注意点もあります。後継医師は、前院長が患者から情報を取得した際の利用目的を確認し、その範囲内でカルテを利用する必要があります。目的外の利用や、承継と無関係な第三者への提供は例外の対象外です。また、株式譲渡・出資持分譲渡のように会社(法人)自体は存続する形の承継では、「事業の承継」の例外が適用されるかが必ずしも明確でないとされ、実務上は適用されない前提で慎重に検討する立場が安全とされています(出典:個人情報保護委員会ガイドライン通則編/弁護士事務所解説記事による)。判断に迷う場合は弁護士等の専門家に確認するのが確実です。

カルテそのものの保存義務にも留意が必要です。診療録は医師法第24条により5年間の保存が義務づけられており、承継後もこの保存体制を途切れさせないことが求められます(出典:厚生労働省医政局通知「診療録等の保存を行う場所について」/医師法第24条)。訴訟リスクに備えて実務上はより長期の保存を選ぶ医療機関もあります。

スタッフ(従業員)の雇用は自動で引き継がれる?

従業員の雇用が自動で引き継がれるかは、承継のスキームによって変わります。個人開業医の「事業譲渡」では、譲渡人と従業員の労働契約は当然には譲受人へ移らず、いったん退職・再雇用の形をとるなど、従業員一人ひとりの個別同意を得て新たに労働契約を結び直すのが原則です。一方、医療法人の「出資持分譲渡・役員交代」では、雇用主体である医療法人そのものは変わらないため、労働契約はそのまま継続します(出典:日本財務戦略センター/CBパートナーズ・医療法人承継解説/2026年時点)。

雇用を再締結する場合は、社会保険・雇用保険の資格得喪の手続きが発生し、労働条件(給与・勤務体系・退職金の扱い)を承継後も維持するかを明確にしておく必要があります。持分譲渡で雇用を継続する場合でも、未払い給与や退職給付引当金といった簿外債務が引き継がれる点はデューデリジェンスで確認しておくべきポイントです(出典:CBパートナーズ・医療法人承継解説による)。

引き継ぎで軽視されがちなのが、スタッフへの説明のタイミングです。公表が早すぎれば動揺による離職を招き、遅すぎれば不信感につながります。誰に・いつ・どう伝えるかを譲渡側と譲受側で事前にすり合わせておくことが、患者対応の質を保つうえでも重要になります。

スキーム別に見る「引き継ぎ」の違い(早見表)

承継方式ごとの主な違いを整理すると、次のとおりです。

引き継ぎ対象個人開業医の事業譲渡医療法人の出資持分譲渡・役員交代
カルテ(患者情報)事業承継としてカルテを移管(原則、本人同意は不要/利用目的の範囲内で利用)法人が存続しカルテを保持(承継例外の適用可否は要検討)
従業員の労働契約自動では承継されず、個別同意による再締結が原則雇用主体が変わらず継続
保険医療機関の指定承継できず新規申請(空白期間に注意。遡及指定の運用あり)指定は継続
開設者・管理者廃止届+新規開設届など行政手続きが必要管理者(院長)変更等の届出
出典:日本財務戦略センター・クリニック事業譲渡解説/M&Aキャピタルパートナーズ・医療法人承継解説/2026年時点。個別の取り扱いは自治体・地方厚生局により異なる場合があります。

保険医療機関の指定は、個人開業の事業譲渡では前院長の指定を引き継げず、新たに指定を受け直すのが原則です。指定までに一定の期間を要するため、診療の空白を避けるには行政手続きの逆算スケジュールが欠かせません。自治体によっては指定日を遡及して認める運用もあるため、早い段階で管轄の保健所・地方厚生局に確認することが引き継ぎを滑らかにします。

引き継ぎでつまずかないための実務ステップ

準備は、承継方式の確定から逆算して組み立てると整理しやすくなります。事業譲渡か持分譲渡かを決め、それに応じてカルテ・雇用・行政手続きの段取りを並行で進めます。患者への周知(院内掲示・ウェブサイト等)は医療広告に関わるため、誇大な表現や誤解を招く記載を避け、事実に即した案内にとどめることが大切です。従業員への説明、カルテの保存・移管方法の合意、保険指定の申請時期、これらを一つの工程表にまとめておくと、関係者の認識のずれを防げます。のれん(営業権)や譲渡価格の考え方はクリニックM&Aの相場・のれんの評価方法を、後継者が決まっていない場合は後継者不在クリニックの選択肢を参考にしてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 医院承継でカルテを次の院長に渡すのは個人情報保護法違反になりますか?

A. 事業の承継に伴う提供であれば、個人情報保護法27条5項2号により本人の同意なく引き継げます。ただし後継者は取得時の利用目的の範囲内で利用する必要があります。持分・株式譲渡の場合は例外の適用可否が明確でないため、専門家への確認が安全です。

Q. 承継後、スタッフはそのまま働き続けられますか?

A. 医療法人の出資持分譲渡・役員交代であれば雇用主体が変わらず継続します。個人開業医の事業譲渡では労働契約が自動では移らないため、個別同意のうえで再締結するのが原則です。

Q. 保険医療機関の指定は引き継げますか?

A. 個人開業の事業譲渡では引き継げず、新規申請が原則です。診療の空白を避けるため、遡及指定の運用も含めて管轄の地方厚生局・保健所へ早めに確認してください。医療法人の持分譲渡では指定は継続します。

Q. カルテは承継後も保存し続ける必要がありますか?

A. 診療録は医師法により5年間の保存義務があります。承継後も保存体制を途切れさせないよう、保管場所と方法を引き継ぎ時に合意しておく必要があります。

Q. 患者への告知はいつ行うべきですか?

A. 時期に一律の正解はありませんが、早すぎる公表はスタッフの動揺を、遅すぎる公表は不信感を招きます。譲渡側・譲受側で伝える相手と順序を事前にすり合わせておくことが望ましいです。

今すべきこと(チェックリスト)

  • 自院の承継方式(事業譲渡か、医療法人の持分譲渡・役員交代か)を早い段階で見極める。
  • カルテの保存・移管方法と、承継後の利用目的の範囲を確認しておく。
  • 従業員の雇用継続の可否と、必要な労務手続き・簿外債務の有無を洗い出す。
  • 保険医療機関の指定申請の時期を、管轄の地方厚生局・保健所に確認する。
  • 患者・スタッフへの周知の時期と方法を、譲渡側と譲受側で合意しておく。

医院承継の引き継ぎは、法務・労務・行政手続きが同時に動くため、一つの見落としが診療の空白やトラブルにつながりやすい領域です。株式会社ENは、クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで支援しています。引き継ぎの段取りに不安がある方は、まずは現状の棚卸しからご相談ください。他のコラムはクリニック開業ラボ コラム一覧からご覧いただけます。

なお本記事は制度の概要を整理したものです。個別の税務・法務・労務の判断にあたっては、税理士・弁護士・社会保険労務士など専門家への確認をおすすめします。

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参考・出典

著者プロフィール

鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・労務判断を保証するものではありません。実際の引き継ぎの手続きにあたっては、弁護士・社会保険労務士等の専門家に必ずご確認ください。数値・制度は2026年8月時点の情報に基づきます。

公開日:2026年8月4日/最終更新日:2026年8月4日

※本記事の内容は2026年8月時点の情報にもとづきます。制度・運用は変更される場合があるため、実務判断の際は一次情報および専門家への確認をお願いします。

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