
クリニック開業で避けて通れないのが、CT・レントゲン・エコー・内視鏡といった医療機器を「リースで導入するか、購入するか」という判断です。どちらが正解かは一律には決まらず、機器の種類・耐用年数・開業資金の余力・税制優遇の使い方によって最適解が変わります。本記事では、総支払額と資金繰りの両面から、開業医が押さえるべき判断基準を最新の税制情報とあわせて整理します。
結論から言うと、リースは「機器を借りて月額で使う」方式、購入は「機器を自己資産として保有する」方式です。会計・資金・所有権の扱いがそれぞれ異なります。
リースはリース会社が機器を購入し、クリニックは契約期間(一般に5〜7年程度)にわたってリース料を支払います。所有権はリース会社にあり、原則として中途解約はできません。一方、購入は代金を一括または融資で支払い、機器はクリニックの資産となります。所有権は自院にあり、売却・下取り・入れ替えも自由です。
多くのケースで、支払総額は購入のほうが安く済みます。リース料にはリース会社の金利・手数料・固定資産税・保険料などが上乗せされるため、機器を長期間使うほど購入との差が広がるためです。
そのため、法定耐用年数が長く、長く使い続ける高額機器(据置型のCT・レントゲン装置など)は購入が有利になりやすいといえます。逆に、技術進歩が速く数年で陳腐化しやすい機器や、更新頻度の高い機器はリースのほうが結果的に合理的なこともあります。開業時の収支見通しについては、クリニックの損益分岐点と収支シミュレーションの基本もあわせてご確認ください。
リース最大のメリットは、初期に多額の資金を用意しなくてよい点です。金融機関からの借入枠を消費しないため、開業資金を運転資金や内装・広告など他の用途に回せます。月々のリース料は全額を損金(経費)に算入でき、会計処理も比較的シンプルです。一方でデメリットは、金利・手数料が上乗せされるため支払総額が大きくなること、原則として中途解約ができないこと、契約満了後も機器は自院の資産にならないことです。診療方針の変更で機器が不要になっても、支払義務は残る点に注意が必要です。
購入のメリットは、支払総額を抑えやすいこと、機器が自院の資産として残ること、そして税制優遇を活用できることです。後述する減価償却の特例や中小企業投資促進税制を使えば、初年度の税負担を軽減できる可能性があります。デメリットは、まとまった初期資金(または借入)が必要になること、減価償却など会計処理がやや複雑になること、そして買い替え時に処分・廃棄コストが生じることです。
| 観点 | リース | 購入 |
|---|---|---|
| 初期資金 | 少なくて済む | まとまった資金が必要 |
| 支払総額 | 大きくなりやすい | 抑えやすい |
| 所有権 | リース会社 | 自院 |
| 中途解約 | 原則不可 | 自由に処分可 |
| 会計処理 | 比較的シンプル | 減価償却が必要 |
| 税制優遇 | リース料を損金算入 | 特別償却・税額控除等を活用可 |
医療機器を購入した場合、原則として法定耐用年数にわたって減価償却します。医療機器の法定耐用年数は機器区分により異なり、多くはおおむね4〜7年です(出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」/2026年7月時点)。ここで押さえたい税制が2つあります。
中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、2026年度(令和8年度)税制改正により、対象となる取得価額が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられ、適用期限も2029年(令和11年)3月31日まで3年延長されました。40万円未満の医療機器であれば、取得年度に取得価額を全額損金算入できます(合計300万円まで)。この拡充は2026年4月1日以後に取得した資産から適用され、常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外となります(出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」、経済産業省資料、国税庁タックスアンサーNo.5408/2026年7月時点)。
中小企業投資促進税制では、一定の要件を満たす中小企業者等が対象設備を取得した場合、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除(税額控除は資本金等の要件あり)を選択できます。適用期限は2027年(令和9年)3月31日までとされています(出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」/2026年7月時点)。対象設備・対象業種など要件が細かいため、自院の機器が該当するかは必ず税理士に確認してください。
なお、リース取引についても、2027年4月1日以後に開始する事業年度から新しいリース会計基準(オペレーティング・リースの原則オンバランス化)が強制適用されます。ただし主対象は上場企業等であり、非上場の中小規模のクリニックには従来どおりの処理が認められる場合が多いとされます。自院への影響は顧問税理士に確認するのが確実です(出典:企業会計基準委員会「リースに関する会計基準」/2026年7月時点)。
Q1. 開業時、医療機器はリースと購入のどちらがおすすめですか?
A. 一律の正解はありません。長く使う高額機器は購入、更新頻度が高い機器や初期資金を温存したい場合はリースが向く、というのが実務上の目安です。総支払額・資金繰り・税制優遇を総合して判断します。
Q2. リースと購入では総額はどちらが高いですか?
A. 多くの場合、金利・手数料が上乗せされるリースのほうが支払総額は大きくなります。ただし借入枠を使わずに済むメリットがあるため、金額だけでは決められません。
Q3. 医療機器の減価償却は何年ですか?
A. 機器区分により異なり、多くはおおむね4〜7年です。正確な年数は国税庁の耐用年数表と顧問税理士に確認してください(2026年7月時点)。
Q4. 40万円未満の医療機器なら全額経費にできますか?
A. 中小企業者等の少額減価償却資産の特例(2026年4月1日以後取得分は40万円未満に拡充)を使えば、要件を満たす場合に取得年度で全額損金算入が可能です(合計300万円まで)。適用可否は税理士にご確認ください。
Q5. リースの途中で機器が不要になったら解約できますか?
A. 原則として中途解約はできません。解約する場合は残リース料相当額の支払いが必要になるのが一般的です。契約前に条件を必ず確認してください。
医療機器の調達は、開業資金計画・事業計画・税務が密接に絡む論点です。株式会社ENでは、クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで支援しており、機器調達を含む資金計画づくりから開業後の運営までを伴走します。リースか購入かの判断でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
本記事は制度・税務の一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の判断を保証するものではありません。減価償却や税制優遇の適用可否、リース会計の取り扱いは、個別事情により異なります。実際の意思決定にあたっては、税理士・会計士等の専門家に必ずご確認ください。
公開日:2026年7月17日/最終更新日:2026年7月17日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7医院運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶応義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身