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正常血圧の範囲は?高血圧の基準値と分類

正常血圧の範囲は?高血圧の基準値と分類

はじめに

血圧は年齢や生活習慣によって変化し、個人差が大きい指標です。「血圧が少し高いだけだから大丈夫」と考えがちですが、近年の研究では高血圧の前段階(高値血圧)からすでに心血管疾患リスクが上昇することが分かっています(SPRINT試験, 2015)。
本記事では、日本高血圧学会(JSH2019)の最新ガイドラインをもとに、正常血圧の範囲、高血圧の分類、リスク、治療目標について詳しく解説します。


1. 正常血圧の基準とは?

血圧は 「収縮期血圧(上の血圧)」「拡張期血圧(下の血圧)」 の2つで評価されます。

(1) 日本高血圧学会(JSH2019)による血圧分類

分類診察室血圧 (mmHg)家庭血圧 (mmHg)
正常血圧120未満 / 80未満115未満 / 75未満
正常高値血圧120–129 / 80未満115–124 / 75未満
高値血圧130–139 / 80–89125–134 / 75–84
Ⅰ度高血圧140–159 / 90–99135–144 / 85–89
Ⅱ度高血圧160–179 / 100–109145–154 / 90–99
Ⅲ度高血圧180以上 / 110以上155以上 / 100以上

(2) 診察室血圧と家庭血圧の違い

診察室で測定した血圧は、緊張やストレスの影響で高く出ることがあり、「白衣高血圧」と呼ばれます。一方で、診察室では正常でも家庭での測定値が高い「仮面高血圧」は、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いため注意が必要です。


2. 血圧の変化とリスク

血圧は年齢や生活習慣によって変化します。以下に、血圧が上昇することで生じるリスクを解説します。

(1) 高血圧の前段階(高値血圧)からリスク上昇

近年の研究では、130/80mmHg以上の「高値血圧」からすでに心血管疾患リスクが上昇 することが分かっています(SPRINT試験, 2015)。特に、以下のリスクが高まります。

血圧カテゴリー心血管疾患リスク上昇率(正常血圧比)
高値血圧(130–139 / 80–89)1.5倍
Ⅰ度高血圧(140–159 / 90–99)2倍
Ⅱ度高血圧(160–179 / 100–109)3倍以上

(2) 年齢と血圧の関係

年齢とともに血圧が上昇する理由として、以下が挙げられます。

  • 動脈硬化の進行により血管の弾力が低下
  • 自律神経の変化により血圧調節機能が低下
  • 腎機能の低下によるナトリウム排泄能力の低下

3. 血圧の治療目標(JSH2019, ACC/AHA 2017, ESC/ESH 2018)

血圧の管理目標は、患者の年齢や疾患によって異なる

年齢・状態診察室血圧 (mmHg)家庭血圧 (mmHg)ガイドライン
75歳未満の成人130/80 未満125/75 未満JSH2019, ESC/ESH 2018
75歳以上の高齢者140/90 未満(フレイルなら150/90)135/85 未満JSH2019
糖尿病合併130/80 未満125/75 未満JSH2019, ACC/AHA 2017
慢性腎臓病(CKD)130/80 未満125/75 未満JSH2019, KDIGO 2021
脳卒中既往130/80 未満(狭窄あり140/90未満)125/75 未満JSH2019, AHA/ASA 2021
心疾患(虚血性心疾患, 心房細動)130/80 未満125/75 未満JSH2019
心不全(HFrEF)110〜130105/70〜125/75ESC 2021

ポイント

  • 正常血圧は120/80mmHg未満であり、130/80mmHgを超えるとリスク上昇
  • 高齢者では140/90mmHgが目標だが、フレイルがある場合は150/90mmHgに緩和
  • 糖尿病・腎臓病・心疾患の合併がある場合は、より厳格な降圧が必要
  • 心不全の患者では、過度な降圧を避けるため、目標範囲が広く設定

4. 血圧を正常に保つための生活習慣

血圧を正常範囲に保つために、以下の生活習慣改善が推奨されています。

(1) 減塩

  • 1日6g未満 の食塩摂取を推奨
  • 加工食品・外食の塩分に注意
  • カリウム(野菜・果物)を積極的に摂取

(2) 適度な運動

  • 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング)を週150分
  • 筋力トレーニング も併用すると効果的

(3) 体重管理

  • BMI 25未満 を目指す
  • 5kgの減量で血圧-4~5mmHg低下

(4) アルコールと喫煙の制限

  • 節酒(1日アルコール20g以下)
  • 禁煙(タバコは交感神経を刺激し血圧上昇)

生活習慣改善のみで、5〜10mmHgの降圧効果が期待できる


5. 最新の研究と今後の展望

(1) 血圧モニタリングの進化

  • スマートウォッチ型血圧計 により24時間の血圧変動を把握
  • AIを活用した 個別化降圧治療 が進行中

(2) 食事療法の新しい知見

  • DASH食(高カリウム・低ナトリウム食) の効果が再評価
  • 腸内フローラと高血圧の関連性 が注目される

まとめ

血圧は120/80mmHg未満が理想的な正常範囲
130/80mmHg以上の「高値血圧」でも心血管疾患リスクが上昇
年齢や合併症ごとに治療目標を設定することが重要
生活習慣の改善だけで血圧を5〜10mmHg下げることが可能


参考文献

  1. 日本高血圧学会(JSH2019)「高血圧治療ガイドライン2019」
  2. The SPRINT Research Group. “A Randomized Trial of Intensive vs. Standard Blood-Pressure Control.”
  3. American Heart Association (AHA) – Blood Pressure Guidelines
  4. World Health Organization (WHO) – Hypertension Fact Sheet

次回の記事:「高血圧の診断基準と測定方法|正しい血圧の測り方」 では、家庭血圧の測定方法や診断のポイントを詳しく解説します!

監修

鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

専門科目 救急・地域医療

所属・資格

  • 日本救急医学会
  • 日本災害医学会所属
  • 社会医学系専門医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
  • ICLSプロバイダー(救命救急対応)
  • ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
  • Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
  • FCCSプロバイダー(集中治療対応)
  • MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

メディア出演

  • フジテレビ 『イット』『めざまし8』
  • 共同通信
  • メディカルジャパン など多数

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