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原発性アルドステロン症と高血圧|カリウム低下に注意!

原発性アルドステロン症と高血圧|カリウム低下に注意!

原発性アルドステロン症(PA)は、副腎からアルドステロンが過剰に分泌されることで高血圧を引き起こす病態です。この疾患は本態性高血圧とは異なり、低カリウム血症などの電解質異常を特徴とし、適切な診断と治療が必要です。高血圧患者の約5~10%に認められ、特に治療抵抗性の高血圧では積極的に疑うべき疾患です。本記事では、PAの病態生理から診断、治療法、日常生活での管理まで包括的に解説します。

目次

  1. 原発性アルドステロン症とは?
  2. 副腎ホルモンと血圧調節機構
  3. 症状の特徴と診断方法
  4. 治療法|手術と薬物療法の選択肢
  5. 日常生活での管理と注意点
  6. 参考文献

1. 原発性アルドステロン症とは?

原発性アルドステロン症の病因

原発性アルドステロン症は、副腎の機能異常によりアルドステロンが自律的・過剰に分泌されることで発症します。主な病型として以下が挙げられます:

  • アルドステロン産生腺腫(APA):片側副腎に発生する良性腫瘍で、PAの約30~40%を占めます。外科的治療(腹腔鏡下副腎摘出術)が根治的治療となります。
  • 特発性アルドステロン症(IHA):両側副腎の過形成が原因で、PAの約60~70%を占めます。薬物療法が基本治療となります。
  • 片側性副腎過形成:まれな病型で、片側副腎の過形成によるものです。
  • 家族性アルドステロン症:遺伝的要因による家族性PAで、複数のタイプが知られています。若年発症の高血圧を特徴とするものもあります。

アルドステロン過剰分泌による高血圧の病態生理

アルドステロンは腎臓の遠位尿細管と集合管に作用し、以下のメカニズムで高血圧を引き起こします:

  • ナトリウム再吸収の促進:アルドステロンはナトリウムチャネル(ENaC)とナトリウム-カリウムポンプの活性を高め、ナトリウムの再吸収を促進します。これにより体内の水分量が増加し、循環血液量の増加から血圧上昇につながります。
  • カリウム排泄の促進:ナトリウム再吸収と連動して、カリウムの尿中排泄が増加します。その結果、低カリウム血症が生じます。
  • 血管壁への直接作用:アルドステロンは血管平滑筋細胞の鉱質コルチコイド受容体(MR)に作用し、血管収縮と血管リモデリングを促進します。
  • 交感神経系の活性化:アルドステロンは中枢および末梢の交感神経系を活性化させ、血圧上昇に寄与します。
  • 炎症・線維化の促進:アルドステロンは心血管系や腎臓での炎症反応と線維化を促進し、臓器障害のリスクを高めます。

疫学と発症リスク因子

  • 高血圧患者全体の約5~10%に認められますが、スクリーニング検査の普及により、実際の有病率はより高い可能性があります。
  • 治療抵抗性高血圧(3種類以上の降圧薬でもコントロール不良)の約20%がPAと報告されています。
  • 低カリウム血症を伴う高血圧患者の約50%がPAです。
  • 以下の特徴を持つ高血圧患者ではPAを積極的に疑うべきです:
    • 若年発症(40歳未満)の高血圧
    • 治療抵抗性高血圧
    • 重症または急速に悪化する高血圧
    • 脳卒中、心筋梗塞などの心血管イベントの家族歴
    • 低カリウム血症(特に利尿薬非使用下)
    • 副腎偶発腫の合併
    • 睡眠時無呼吸症候群との合併

2. 副腎ホルモンと血圧調節機構

アルドステロンの生理的役割とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系

アルドステロンは副腎皮質の球状層で産生されるステロイドホルモンです。正常な状態では、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)による厳密な調節を受けています:

  • レニン:腎臓の傍糸球体細胞から分泌され、血圧低下や血中ナトリウム減少時に分泌が増加します。
  • アンジオテンシノーゲン→アンジオテンシンI→アンジオテンシンII:レニンの作用でアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIが生成され、さらにACE(アンジオテンシン変換酵素)の作用でアンジオテンシンIIが生成されます。
  • アルドステロン分泌促進:アンジオテンシンIIが副腎皮質に作用し、アルドステロン分泌を促進します。
  • フィードバック機構:アルドステロンによるナトリウム再吸収と血圧上昇は、レニン分泌を抑制し、系全体を調節しています。

PAでは、この調節機構が破綻し、レニン分泌が抑制されているにもかかわらず(低レニン)、アルドステロンが過剰に分泌される(高アルドステロン)状態となります。

電解質異常と臓器障害

アルドステロン過剰は、以下のような電解質異常と臓器障害を引き起こします:

  • 低カリウム血症:アルドステロン過剰によるカリウム排泄亢進により、血清カリウム値が低下します(3.5 mEq/L未満)。筋力低下、不整脈、多尿などの原因となります。
  • 代謝性アルカローシス:ナトリウム再吸収に伴う水素イオン排泄により、代謝性アルカローシスが生じることがあります。
  • 低マグネシウム血症:アルドステロンはマグネシウム排泄も促進するため、マグネシウム欠乏を生じることがあります。
  • 心血管障害:アルドステロン過剰は、血圧上昇以外にも、心肥大、心筋線維化、血管内皮機能障害などを引き起こし、心血管疾患リスクを高めます。
  • 腎障害:糸球体過剰濾過と腎内血管の線維化により、腎機能障害のリスクが増加します。
  • 糖代謝異常:インスリン抵抗性の増加により糖代謝異常を引き起こすことがあります。

3. 症状の特徴と診断方法

臨床症状と所見

PAの症状は高血圧に関連するものと低カリウム血症によるものが中心です:

  • 高血圧関連症状:頭痛、めまい、動悸など
  • 低カリウム血症による症状
    • 筋力低下、筋痙攣、四肢のしびれ・麻痺感
    • 倦怠感、易疲労感
    • 多尿・夜間頻尿
    • 口渇
    • 便秘
  • 心血管合併症:不整脈、左室肥大、心不全など
  • 中枢神経症状:頭痛、集中力低下、抑うつ症状など

しかし、現在ではスクリーニング検査の普及により、無症状の段階で発見されることも増えています。また、PAの約40%は正常カリウム血症であるため、低カリウム血症がないからといってPAを除外することはできません。

スクリーニング検査と確定診断

PAの診断は段階的に行われます:

①スクリーニング検査

  • アルドステロン/レニン比(ARR):PAのスクリーニングに最も有用な検査です。血漿アルドステロン濃度(PAC)を血漿レニン活性(PRA)または血漿レニン濃度(PRC)で除した値です。日本内分泌学会のガイドラインでは、PAC (pg/mL) / PRA (ng/mL/時) ≧ 200、またはPAC (pg/mL) / PRC (pg/mL) ≧ 40をスクリーニング陽性としています。
  • 注意点:降圧薬(特にARB、ACE阻害薬、利尿薬)、低カリウム血症、女性ホルモン製剤などがARRに影響するため、可能であれば検査前に休薬調整が必要です。

②負荷試験(機能確認検査)

スクリーニング陽性例では、以下の負荷試験を行い、アルドステロン分泌の自律性を確認します:

  • カプトプリル負荷試験:ACE阻害薬であるカプトプリル投与後のARRを測定します。
  • 生理食塩水負荷試験:生理食塩水の急速静注後のアルドステロン値を測定します。
  • 立位フロセミド負荷試験:立位とフロセミド投与によるレニン刺激後のアルドステロン抑制の有無を評価します。
  • 経口食塩負荷試験:高塩分食摂取後の尿中アルドステロン排泄量を測定します。

③局在診断

PAが確定した場合、次にアルドステロン過剰産生の部位を特定します:

  • 副腎CT検査:副腎腫瘍の有無、大きさ、性状を評価します。しかし、非機能性腺腫との鑑別が困難なことや、小さな腺腫を見逃す可能性があるため、CTだけでは局在診断は不十分です。
  • 副腎静脈サンプリング(AVS):PAの局在診断の標準検査法です。カテーテルを用いて両側副腎静脈からの血液を採取し、アルドステロン濃度とコルチゾール濃度を測定します。ACTH負荷を併用することで診断精度が向上します。片側性と両側性の鑑別に重要で、外科治療の適応決定に必須です。

鑑別診断

以下の疾患・病態との鑑別が重要です:

  • 二次性アルドステロン症:レニン産生腫瘍、腎血管性高血圧、利尿薬使用など、レニン上昇に伴う二次的なアルドステロン上昇が見られる病態です。
  • 偽性アルドステロン症:甘草(グリチルリチン)の過剰摂取による鉱質コルチコイド作用過剰です。漢方薬や甘草含有食品の摂取歴が重要です。
  • リドル症候群:遺伝性疾患で、腎尿細管の上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)の機能亢進により、アルドステロン低値にもかかわらず低カリウム性高血圧を呈します。
  • 先天性副腎過形成:11β-水酸化酵素欠損症や17α-水酸化酵素欠損症などでは、アルドステロン様作用を持つステロイドホルモンが増加します。
  • クッシング症候群:コルチゾール過剰による高血圧と代謝異常が特徴です。

4. 治療法|手術と薬物療法の選択肢

治療方針は、PAの病型(片側性か両側性か)と患者の全身状態により決定されます。

外科的治療

  • 適応:アルドステロン産生腺腫(APA)などの片側性病変が確認された場合
  • 術式:腹腔鏡下副腎摘出術が標準術式です。低侵襲で回復が早く、合併症率も低いです。
  • 術前管理:低カリウム血症の補正、血圧コントロールが重要です。
  • 治療効果
    • 高血圧の改善:完全寛解(降圧薬なしで正常血圧)が約30~60%、部分寛解(降圧薬減量で血圧改善)が約30~40%に見られます。
    • 電解質異常:低カリウム血症は大部分の症例で改善します。
    • 臓器障害:左室肥大、腎機能、糖代謝などの改善が期待できます。
  • 予後予測因子:若年、罹病期間が短い、術前の降圧薬が少ない、腎機能正常、家族歴なし、などが良好な予後因子です。

薬物療法

  • 適応:両側性病変(特発性アルドステロン症など)、外科治療が適応とならない、または希望しない症例
  • 第一選択薬:鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
    • スピロノラクトン:最も強力で効果的なMRAです。初期用量25~50mg/日から開始し、効果と忍容性に応じて調整します。抗アンドロゲン作用による女性化乳房、性欲減退などの副作用に注意が必要です。
    • エプレレノン:選択的MRAで、抗アンドロゲン作用が少なく、男性での忍容性が高いです。一方、効力はスピロノラクトンの約60%程度であり、100~200mg/日の高用量が必要となることがあります。
  • 併用薬
    • カルシウム拮抗薬(CCB):アムロジピンなどのCCBはPAによる高血圧に比較的有効です。
    • サイアザイド系利尿薬:MRAとの併用に注意(低ナトリウム血症、高カリウム血症のリスク)
    • ACE阻害薬/ARB:高カリウム血症のリスクに注意しながら使用します。
  • モニタリング
    • 血清カリウム値:MRA投与後1~2週間で測定し、以後定期的に確認します。
    • 腎機能:定期的な評価が必要です。
    • 血圧:家庭血圧測定を含めた定期的なモニタリングが重要です。

手術後のフォローアップと再発リスク

  • 術後評価:術後1~3か月でアルドステロン/レニン比、電解質、血圧の評価を行います。
  • 長期フォローアップ:年1回程度の内分泌学的評価と心血管リスク評価が推奨されます。
  • 再発リスク:適切な局在診断と手術が行われた場合、再発率は低いですが(1~5%程度)、残存副腎での過形成などにより再発することがあります。
  • 高血圧の残存:腺腫摘出後も高血圧が残存する症例があります。長期間の高血圧による血管リモデリングや腎障害などが原因と考えられます。

5. 日常生活での管理と注意点

食事療法

  • 減塩:塩分摂取量を6g/日未満(理想的には4g/日未満)に制限します。高ナトリウム食品(加工食品、インスタント食品、ファストフード、漬物など)の摂取を控えます。
  • カリウム摂取:カリウムを多く含む食品(野菜、果物、特にバナナ、アボカド、ほうれん草、じゃがいも、トマト、オレンジなど)を積極的に摂取します。ただし、薬物療法中の高カリウム血症には注意が必要です。
  • マグネシウム摂取:全粒穀物、ナッツ類、緑黄色野菜などからのマグネシウム摂取も有用です。
  • アルコール:過剰摂取は血圧上昇につながるため、適量にとどめます(日本酒1合、ビール中瓶1本、ワイン1/3本程度まで)。
  • 甘草含有食品の注意:甘草(グリチルリチン)は偽性アルドステロン症を引き起こすため、漢方薬、甘草入りの菓子・飲料などの過剰摂取に注意が必要です。

運動療法

  • 有酸素運動:ウォーキング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動を週に150分以上(理想的には30分/日以上、週5日)行うことが推奨されます。
  • 筋力トレーニング:適度な筋力トレーニングも血圧コントロールに有用です。過度な高強度運動は避けましょう。
  • 低カリウム血症時の注意:重度の低カリウム血症(3.0 mEq/L未満)がある場合は、補正されるまで激しい運動は避けるべきです。

ストレス管理と生活習慣

  • 十分な睡眠:質の良い睡眠を確保し、睡眠時無呼吸症候群がある場合は適切な治療を受けましょう。
  • ストレス管理:深呼吸法、瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を取り入れましょう。
  • 体重管理:適正体重の維持を目指し、肥満がある場合は5~10%の体重減少を目標とします。
  • 禁煙:喫煙は血管内皮機能を障害し、高血圧を悪化させるため、禁煙が強く推奨されます。

自己管理のポイント

  • 家庭血圧測定:朝晩の定期的な血圧測定が推奨されます。測定値を記録し、医師の診察時に持参しましょう。
  • 服薬遵守:処方された薬剤を指示通りに服用し、自己判断での中断は避けましょう。
  • 定期的な診察:予定された診察日を守り、症状の変化や副作用があれば医師に相談しましょう。
  • 症状の自己観察:筋力低下、だるさ、多尿などの症状が出現した場合は、低カリウム血症を疑い、早めに医療機関を受診しましょう。

原発性アルドステロン症は、適切に診断・治療されれば、高血圧と電解質異常が改善し、心血管リスクを低減できる疾患です。低カリウム血症を伴う高血圧や治療抵抗性高血圧では、本疾患を積極的に疑い、専門医への紹介も考慮しましょう。また、診断後も適切な治療と生活習慣の改善を継続することが重要です。

6. 参考文献

  • 日本内分泌学会. 原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021.
  • 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019.
  • Funder JW, et al. The Management of Primary Aldosteronism: Case Detection, Diagnosis, and Treatment: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2016.
  • 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版).
  • 成瀬光栄, 他. 原発性アルドステロン症:最新の診療指針. 日本内科学会雑誌. 2018.

監修

鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長

専門科目 救急・地域医療

所属・資格

  • 日本救急医学会
  • 日本災害医学会所属
  • 社会医学系専門医指導医
  • 日本医師会認定健康スポーツ医
  • 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
  • ICLSプロバイダー(救命救急対応)
  • ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
  • Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
  • FCCSプロバイダー(集中治療対応)
  • MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)

研究実績

メディア出演

  • フジテレビ 『イット』『めざまし8』
  • 共同通信
  • メディカルジャパン など多数

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