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「当直や外来のスポットバイト以外に、体力に頼りきりにならない副業を持ちたい」——そう考える勤務医は少なくありません。結論から言うと、産業医は医師免許と所定の要件を満たせば常勤を続けながら担える副業で、日本医師会認定産業医の資格を取得し、企業と嘱託契約を結ぶのが最も一般的なルートです。産業医とは、労働者の健康管理について専門的な立場から事業者に助言・指導を行う医師のことです。本記事では、産業医になるための要件、日医認定産業医の資格取得の流れ、嘱託産業医の報酬相場までを、労働安全衛生法など一次情報に基づいて整理します。
この記事の要点
- 産業医とは、労働者の健康管理について事業者に助言する医師で、常時50人以上の事業場には選任義務がある
- 産業医になるには労働安全衛生規則第14条第2項の要件が必要で、日医認定産業医研修の修了が最も一般的なルート
- 日医認定産業医の資格取得には基礎研修50単位(前期14+実地10+後期26)の修了が必要
- 嘱託産業医の報酬相場は事業場の規模により月5万〜11万円程度が目安
- 月1回程度の訪問で担えることが多く、常勤を続けながらの副業として選ばれやすい
産業医の副業
産業医は、勤務医が常勤を続けながら取り組みやすい副業の代表例です。多くの企業が結ぶ「嘱託産業医」契約では、月1回程度の事業場訪問と面談・書類作成が中心で、当直のように深夜帯の身体的負担を伴いません。まずは産業医の定義と、契約形態の違いを押さえましょう。
産業医とは
産業医とは、事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から助言・指導を行う医師のことです。労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任が義務づけられています。健康診断結果に基づく就業判定、長時間労働者・高ストレス者の面接指導、職場巡視、衛生委員会への出席などが主な職務です(出典: 厚生労働省・労働安全衛生法)。
嘱託産業医と専属産業医の違い
副業として担うのは、非常勤で複数の事業場を受け持つ「嘱託産業医」が一般的です。従業員規模が大きい事業場では、その事業場に専念する「専属産業医」が求められます。
| 区分 | 対象となる事業場 | 勤務イメージ | 副業との相性 |
|---|---|---|---|
| 嘱託産業医 | 常時50〜999人 | 月1回程度の訪問・非常勤 | ◎(常勤と両立しやすい) |
| 専属産業医 | 常時1,000人以上、または一定の有害業務に常時500人以上 | その事業場に専属 | △(常勤医の副業には不向き) |
※専属産業医の選任基準は労働安全衛生規則第13条に定められています。副業として現実的なのは、前者の嘱託産業医です。
産業医になるための要件と資格取得の流れ
医師免許があれば自動的に産業医になれるわけではありません。労働安全衛生規則第14条第2項が定める要件のいずれかを満たす必要があり、勤務医が現実的に選ぶのは「日本医師会認定産業医」の研修修了ルートです。
労働安全衛生規則第14条第2項の要件
産業医となるには、医師であることに加え、次のいずれかに該当する必要があります(出典: 労働安全衛生規則第14条第2項)。
- 厚生労働大臣が指定する法人(日本医師会等)が行う産業医研修を修了した者
- 産業医科大学など、厚生労働大臣が指定する大学で所定の課程を修めて卒業し、実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験(試験区分:保健衛生)に合格した者
- 大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・講師(またはその経験者)
- 上記と同等以上の知識・経験を有すると認められる者
日医認定産業医の資格取得(基礎研修50単位)
勤務医の多くは、都道府県医師会などが実施する基礎研修を受けて「日本医師会認定産業医」の称号を取得します。取得には基礎研修50単位以上の修了が必要で、内訳は前期研修14単位・実地研修10単位・後期研修26単位です(出典: 日本医師会認定産業医制度)。手順の目安は次のとおりです。
- 所属地の医師会に入会し、産業医学基礎研修の受講を申し込む
- 集中講座・研修会などで前期14単位・実地10単位・後期26単位を計画的に取得する
- 合計50単位以上の修了を確認し、日本医師会へ認定申請する
- 認定証の交付後、産業医紹介会社や医師会経由で嘱託先を探す
集中講座を活用すれば、数日〜週末を複数回使って単位をまとめて取得することも可能です。多忙な勤務医でも、計画的に進めれば1年程度で取得を目指せます。
認定証の更新
日医認定産業医の認定証は5年ごとの更新制で、更新には産業医学生涯研修20単位以上の修了が必要です。産業医活動を続けながら生涯研修を受ければ、無理なく更新できます。なお、日医認定産業医は2018年度に登録者数が10万人を突破しており、資格を持つ医師の裾野は広がっています(出典: 日本医師会)。
嘱託産業医の報酬相場と副業の始め方
嘱託産業医の報酬は、担当する事業場の従業員規模によっておおむね決まります。月1回程度の訪問を前提に、規模が大きいほど報酬も上がる傾向です。
報酬相場の目安
| 事業場の従業員規模 | 月額報酬の目安 |
|---|---|
| 50人未満 | 7.5万円程度〜 |
| 50〜199人 | 10万円程度〜 |
| 1,000人超 | 4割以上が月11万円程度 |
200人増えるごとに5万円程度上乗せされる傾向があります。基本報酬に加えて、健診結果に基づく意見書作成、休職・復職面談、長時間労働者・高ストレス者面談などに別途報酬が発生する契約も一般的です。専属産業医の場合は、週4〜5日勤務で年収1,000万〜1,500万円程度が提示されることが多いとされています(出典: エムスリーキャリア、ワーカーズドクターズ)。
副業として始める手順
- 常勤先の就業規則で兼業の可否・届出要否を確認する
- 日医認定産業医の資格を取得する(未取得の場合)
- 産業医紹介会社や地域の医師会、知人経由で嘱託先の求人を探す
- 訪問頻度・業務範囲・報酬を確認して契約する
- 2か所以上から給与を得る場合は確定申告に備える
産業医の副業が向いている人・注意点
産業医の副業は、臨床とは異なる予防・労務の視点を求められます。向き・不向きを整理しておきましょう。
- 向いている人:深夜帯の負担を避けたい、労務・メンタルヘルス・予防医学に関心がある、企業や人事とのコミュニケーションが苦にならない
- 注意すべき点:診断・治療ではなく助言・調整が中心で臨床とは役割が異なる、法令改正や書類対応の知識更新が必要、常勤先の兼業規定に抵触しないか事前確認が必須
よくある質問
Q1. 認定産業医の資格がなくても産業医になれますか?
労働安全衛生規則第14条第2項の要件のいずれかを満たせば可能です。日医認定産業医研修の修了のほか、産業医科大学等の卒業、労働衛生コンサルタント(保健衛生)合格などが該当します。勤務医が実務で担うには、日医認定産業医の取得が最も現実的です。
Q2. 常勤先への届け出は必要ですか?
勤務先の就業規則によります。民間病院では届出制・許可制が多く、無断での兼業は懲戒リスクになり得ます。国公立病院や大学病院(法人)では兼業許可制が一般的です。着手前に必ず兼業規定を確認しましょう。
Q3. 嘱託産業医は月にどれくらいの時間が必要ですか?
事業場の規模や契約内容によりますが、月1回・数時間の訪問を基本とする契約が多く見られます。職場巡視、衛生委員会への出席、面接指導などをこの時間内で行います。面談件数が多い月は別途対応が発生することもあります。
Q4. 産業医の副業で確定申告は必要ですか?
常勤先と嘱託先の2か所以上から給与を得る場合、原則として確定申告が必要です。年末調整は主たる勤務先1か所でしか行えないためです(出典: 国税庁タックスアンサー No.1900)。報酬が業務委託(報酬・料金)扱いの場合は取り扱いが異なるため、契約時に確認しましょう。
まとめ
産業医は、常勤を続けながら取り組みやすい勤務医の副業です。要点は次の3点です。産業医になるには労働安全衛生規則第14条第2項の要件を満たす必要があり、日医認定産業医(基礎研修50単位)が現実的なルートです。嘱託産業医の報酬は事業場規模により月5万〜11万円程度が目安で、月1回の訪問を基本に担えます。着手前には常勤先の兼業規定の確認と、2か所給与に伴う確定申告の準備が欠かせません。
株式会社ENでは、医師のキャリア相談、転職先の個別探索、アルバイトのご紹介、開業支援、M&A支援などを行っております。産業医をはじめとする非常勤・スポットのご相談は、医師・医療機関とも完全無料の「Pro Doctors」をご活用ください。
出典一覧
- 厚生労働省・労働安全衛生法/労働安全衛生規則(産業医の選任・要件)
- 日本医師会認定産業医制度(基礎研修50単位・生涯研修20単位・更新)
- 国税庁 タックスアンサー No.1900(給与所得者で確定申告が必要な人)
- エムスリーキャリア/ワーカーズドクターズ(産業医の報酬相場に関する各社まとめ)
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監修・著者
鎌形 博展(かまがた・ひろのぶ)
医師/株式会社EN 代表取締役/医療法人社団季邦会 理事長/東京医科大学病院 救急・災害医学講座 非常勤医師
救急・災害医療の現場で臨床経験を積んだ後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)にて経営学を修める。認知症予防や感染症診断デバイスのスタートアップ経営を経て、現在は東京・神奈川で複数のクリニックを運営する医療法人社団季邦会の理事長を務めるほか、医療業界の構造的な人材課題の解決を目指し株式会社ENを創業。医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」、開業支援コミュニティ「クリニック開業ラボ」、医療機関M&Aアドバイザリーを展開する。現在も東京医科大学病院にて救急・災害医学の臨床に携わる。社会医学系専門医指導医。臨床医・経営者・採用側の三つの視点から、医師のキャリア形成についての実践的な情報を発信している。





