「当直バイトに行く時間は取れないが、自宅でできる副業なら続けられそう」——そう考える医師が増えています。医師のオンライン副業とは、遠隔画像診断(読影)、オンライン診療、医療監修・執筆といった、通信環境があれば医療機関に出向かずに行える業務のことです。ただし同じ「オンライン」でも、医行為にあたるか・届出や施設基準に関わるか・雇用か業務委託かで、必要な手続きと責任の重さはまったく異なります。本記事では2026年4月施行の改正医療法とオンライン診療指針の改訂を踏まえ、3類型の実態と始め方を整理します。
※2026年8月時点の情報です。制度・報酬水準は改定により変わるため、実際の契約前に一次情報をご確認ください。
この記事の要点
- 医師のオンライン副業は「遠隔読影」「オンライン診療」「医療監修・執筆」の3類型に大別できる
- 2026年4月施行の改正医療法により、オンライン診療は医療法上に位置づけられ、医療機関の管理者に都道府県知事等への届出義務が加わった
- 遠隔読影は「医療機関間の遠隔画像診断」と「企業サービス経由の読影」で診療報酬上の扱いが異なる
- 報酬は業務委託であれば給与ではなく事業所得・雑所得となり、確定申告の考え方が変わる
- 常勤先の兼業規定と労働時間の通算ルールは、オンラインでも対面の副業とまったく同じように適用される
医師のオンライン副業とは|可否を決める3つの判断軸
結論から言えば、オンラインでできるかどうかより「その業務が医行為か」「医療機関の届出・施設基準に関わるか」「契約が雇用か業務委託か」の3点で、必要な準備と負う責任が決まります。オンラインという形式そのものが規制を緩めるわけではありません。
定義と前提|「在宅でできる」は規制の緩さを意味しない
医師のオンライン副業とは、医師免許または医学的知見を用いて、勤務先以外の主体から依頼を受け、通信環境を介して行う業務の総称です。このうち遠隔読影とオンライン診療は診断・治療方針の決定を伴う医行為であり、医師賠償責任の対象になります。一方で医療監修・執筆は原則として医行為ではなく、記事内容の妥当性に対する責任を負う立場となります。
いずれの類型でも、常勤先の就業規則にある兼業規定の確認は必須です。オンラインは移動がない分だけ副業時間を過少申告しがちですが、労働契約に基づく副業であれば労働時間は通算され、常勤先の時間外労働の上限管理にも影響します。
3類型の比較|求められる要件と報酬水準の目安
| 類型 | 医行為 | 主に求められる要件 | 報酬水準の目安 |
|---|---|---|---|
| 遠隔読影(画像診断) | 該当 | 画像診断の実務経験、放射線科専門医が優遇される案件が多い | 単純X線で数百円〜1,000円前後/件、CT・MRIで1,500〜3,000円程度/件 |
| オンライン診療 | 該当 | 厚生労働省指定の研修受講、実施医療機関側の届出体制 | 時給9,000〜12,000円程度の求人が中心 |
| 医療監修・執筆 | 原則として非該当 | 専門領域の実績、広告規制・薬機法の基礎理解 | 1記事あたり15,000〜50,000円程度(医療・健康分野は25,000〜50,000円程度) |
報酬の見え方には注意が必要です。読影は件数単価、オンライン診療は時給または日給、監修は成果物単位と課金の単位が異なるため、単純な時給換算では比較できません。読影であれば1件あたりの所要時間、監修であれば修正対応の回数まで含めて実質単価を見積もることをおすすめします。
2026年の制度変更|オンライン診療の医療法位置づけと画像診断の報酬要件
2026年に副業を検討するうえで押さえるべき制度変更は2点あります。オンライン診療が医療法上の枠組みに入ったことと、遠隔で行う画像診断の診療報酬上の位置づけが依然として医療機関単位で判定されることです。
改正医療法で届出制に|副業先が届出済みかを医師側も確認する
2026年4月に施行された改正医療法により、これまで行政通知である「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で運用されてきた内容が、医療法および医療法施行規則に整理されました。あわせて厚生労働省は2026年4月2日付で同指針とQ&Aを改訂しています。出典: 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2026年改訂)。
実務上の変化として、医療機関の管理者は勤務する医師等がオンライン診療を行う場合にその旨を都道府県知事等へ届け出る義務が加わりました。また介護施設や公民館、郵便局など医療機関以外の場所で受診できる環境を整える場合、その施設の設置者は「オンライン診療受診施設」として都道府県への届出が必要です。副業として参加する医師にとっては、依頼元の医療機関が届出を済ませているか、指針に沿った運用(本人確認、急変時の対応体制、診療録の管理)ができているかが、リスク管理の確認ポイントになります。
「遠隔画像診断」と「遠隔読影サービス」の違いを理解する
混同されやすいのが、医療機関同士で行う遠隔画像診断と、企業が提供する遠隔読影サービスの違いです。前者は地方厚生局へ届け出た医療機関間で行われ、画像診断管理加算などの算定対象となり得ます。後者は企業やNPO法人へ依頼する形をとるため、診療の補助的な位置づけとして扱われ、加算の対象にならないと整理されています。
画像診断管理加算の施設基準では、加算1から3は画像診断を専ら担当する常勤医師の配置が、加算4ではさらに厳しく、経験10年以上または関係学会の所定研修を修了した常勤医師を6名以上配置することが求められます。出典: 厚生労働省 診療報酬の施設基準(画像診断管理加算)。非常勤・業務委託で読影に参加する医師は、この常勤要件を満たす立場ではないため、自分の読影がどの枠組みで使われるのかを契約時に確認しておくと、報告書の様式や責任範囲の認識がずれにくくなります。
医療監修で注意する広告規制と表現の線引き
医療監修は医行為ではないものの、成果物が医療機関の広告物や医薬品・健康食品の販促資材に使われる場合、医療広告ガイドラインや薬機法の規制対象になります。効果を保証する表現、他院との優良性を示す比較、体験談の扱いなどは監修者としてチェックすべき典型論点です。監修者名と所属が記事に掲載される以上、内容の妥当性は自分の看板で担保することになります。掲載範囲・修正権限・掲載期間を契約書で明確にしておくと、後のトラブルを避けやすくなります。
オンライン副業の始め方|5ステップと契約・税務の実務
オンライン副業は、規定の確認から始めて小さく試し、実質単価を測ってから継続判断をする流れが現実的です。以下の順序で進めると、常勤先とのトラブルや想定外の税負担を避けやすくなります。
開始までの5ステップ
- 常勤先の就業規則で兼業規定を確認する。届出制か許可制か、競業避止の範囲はどこまでかを読む
- 3類型のうち、自分の専門性と可処分時間に合うものを1つ選ぶ。最初から複数を並行しない
- 依頼元の体制を確認する。オンライン診療なら届出状況と急変時の対応、読影なら報告書の様式と責任範囲、監修なら掲載媒体と修正権限
- 契約形態(雇用契約か業務委託契約か)と、報酬の支払区分(給与か報酬か)を書面で確認する
- 1〜2か月試し、準備・修正対応まで含めた実質時給を算出してから継続を判断する
雇用と業務委託|労働時間の通算と社会保険への影響
オンライン副業では業務委託契約が使われる場面が多く見られます。業務委託は労働時間の通算対象にならない一方で、労働基準法の保護(割増賃金、労災保険)も原則として及びません。逆に雇用契約であれば、常勤先と副業先の労働時間は通算され、医師の時間外・休日労働の上限規制の管理にも関わります。どちらが有利という話ではなく、自分がどの保護の下で働いているかを把握しておくことが要点です。
確定申告|給与と報酬で扱いが変わる
1か所から給与を受けている給与所得者で、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える場合には、確定申告が必要です。出典: 国税庁「タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」。業務委託による監修料や読影料は給与ではなく事業所得または雑所得となり、経費計上の考え方も異なります。源泉徴収されている場合でも精算が必要になるため、支払調書や契約書は年間を通じて保管しておきましょう。
向いている人・向いていない人|メリットとデメリット
| 観点 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 時間 | 移動時間が不要で、当直明けや育児中でも時間を細切れに使える | 常時対応を求められる案件では生活時間に業務が侵食しやすい |
| スキル | 読影・オンライン診療とも、症例数と対応力が本業にも還元される | 専門外の領域では判断の精度が落ち、リスクが上がる |
| 収入 | 件数や記事数に応じて積み上げやすい | 単価が固定されやすく、対面バイトより時間あたりで下回る場合がある |
| 責任 | 記録が残るため、業務範囲を明確にしやすい | 画像や問診のみでの判断となり、情報が限られる中での責任を負う |
向いているのは、自分の専門領域が明確で、限られた情報の中で判断の限界を線引きできる医師です。反対に、専門外の領域まで幅広く引き受けようとする場合や、常勤先の兼業規定を確認しないまま始めようとする場合は、収入以上のリスクを抱えることになります。
よくある質問
オンライン診療の副業に研修は必要ですか?
オンライン診療を行う医師には、厚生労働省が定める研修の受講が求められます。研修はeラーニング形式で提供されており、受講証明の提出を求める医療機関が一般的です。2026年4月の改正医療法施行後は医療機関側の届出義務も加わったため、応募前に依頼元の体制もあわせて確認しておくと安心です。
放射線科専門医でなくても遠隔読影の副業はできますか?
案件によっては可能ですが、募集の多くは放射線科専門医または画像診断の実務経験を条件としています。診療報酬の画像診断管理加算は常勤医師の配置を前提とした施設基準であり、非常勤・業務委託の読影がそのまま加算に結びつくわけではありません。まずは自分の読影が診断報告として使われるのか、参考意見として使われるのかを確認してください。
医療監修の副業は年間いくらくらいの収入になりますか?
1記事あたり15,000〜50,000円程度が公表されている相場の目安で、医療・健康分野では25,000〜50,000円程度とされています。月に2〜3本を継続すれば年間で数十万円規模になりますが、依頼は不定期で、修正対応の工数も発生します。安定収入というより、専門性の発信と実績づくりを兼ねた位置づけで考えるほうが実態に近いといえます。
常勤先に副業を申告しないとどうなりますか?
就業規則違反として懲戒の対象になり得ます。加えて雇用契約による副業では労働時間が通算されるため、無申告のまま働くと常勤先が労働時間の管理義務を果たせない状態を招きます。住民税の通知から把握されるケースもあるため、届出制であれば所定の手続きを踏み、許可制であれば事前に相談するのが安全です。
まとめ
- 医師のオンライン副業は遠隔読影・オンライン診療・医療監修の3類型に整理でき、それぞれ要件も報酬の課金単位も異なる
- 2026年4月施行の改正医療法でオンライン診療は医療法上に位置づけられ、依頼元の届出体制が確認ポイントになった
- 雇用か業務委託かで労働時間の通算・税務の扱いが変わるため、契約形態を書面で確認してから始める
オンライン副業は「手軽さ」ではなく、自分の専門性が活きる領域と負える責任の範囲から選ぶと、長く続けやすくなります。株式会社ENでは、医師のキャリア相談、転職先の個別探索、アルバイトのご紹介、開業支援、M&A支援などを行っております。副業と常勤の組み合わせ方を検討したい方は、医師・医療機関とも完全無料の「Med-Pro Doctors」をご活用ください。
出典一覧
- 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」および同Q&A(2026年4月2日改訂)
- 厚生労働省 社会保障審議会医療部会「オンライン診療について」(第124回、令和8年1月26日)
- 厚生労働省 診療報酬の施設基準(画像診断管理加算1〜4の常勤医師配置要件)
- 国税庁「タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
- 遠隔読影サービス各社および医師向け求人媒体・監修マッチング事業者の公表相場(2026年8月時点)
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監修・著者
鎌形 博展(かまがた・ひろのぶ)
医師/株式会社EN 代表取締役/医療法人社団季邦会 理事長/東京医科大学病院 救急・災害医学講座 非常勤医師
救急・災害医療の現場で臨床経験を積んだ後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)にて経営学を修める。認知症予防や感染症診断デバイスのスタートアップ経営を経て、現在は東京・神奈川で複数のクリニックを運営する医療法人社団季邦会の理事長を務めるほか、医療業界の構造的な人材課題の解決を目指し株式会社ENを創業。医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」、開業支援コミュニティ「クリニック開業ラボ」、医療機関M&Aアドバイザリーを展開する。現在も東京医科大学病院にて救急・災害医学の臨床に携わる。社会医学系専門医指導医。臨床医・経営者・採用側の三つの視点から、医師のキャリア形成についての実践的な情報を発信している。





