
少子高齢化やテクノロジーの進化、そして働き方の多様化が進む中、これからの医療者はどのような視点を持ち、いかにして自らのキャリアを切り拓いていくべきなのでしょうか。
2026年2月に開催された「メディカルジョブアワード2026 変わる医療、変えるキャリア。 〜2060年の社会を生き抜く医師の選択〜」では、医療の最前線で活躍するリーダーたちが登壇しました 。本レポートでは、多角的な視点で語られた講演のエッセンスをまとめます。変化の激しい時代を生き抜くための、深い示唆に富んだ提言の数々をご紹介します。
取材・撮影・文/ProDoctors運営
基調講演
埼玉県立大学 理事長
医療経済学者 田中 滋 氏
田中滋氏は、2060年に日本の医療が大きな転換期を迎えると指摘しました。「医療によって寿命が延びると要介護率が増える、という逆説的な現象が起きている」「高齢者を一括りにするのは適切ではなく、年齢や地域ごとに必要な医療は異なる」と述べ、地域特性に応じた医療提供の重要性を強調しました。さらに、「医療は人材不足と言われるが、他業界と比較すると必ずしもそうではない」とし、働き方や需給の再検討の必要性にも言及しました。加えて、「これからはどう治すかだけでなく、どう生き、どう最期を迎えるかを支える医療が重要になる」と語りました。地域と生活を含めた包括的な医療の必要性を示唆する内容となりました。

個別講演
株式会社on call 代表取締役CEO
医師 符 毅欣 氏

社会構造の変化の中で「医師として起業という選択肢を取った」という立場から、日本の高齢化に伴う在宅医療の重要性を指摘しました。「在宅医療における夜間・休日の対応は医師や看護師の大きな負担となっており、急変時の体制構築が不可欠」であると述べ、その課題に対し、地域の在宅医療機関を支える夜間・休日のオンコールサポートサービスを展開していると説明しました。また、キャリアにおいては「まずやってみて、そこから修正していくことが大事」と自身の経験を踏まえ強調しました。さらに「人生の軸を持つことがキャリア選択において重要」と語り、目の前の課題に向き合う中で軸が見えてくると述べました。変化の時代における医師の新たな役割とキャリアの在り方について示唆を与える内容でした。
医療法人社団 焔 理事長 / TEAM BLUE 代表
医師 安井 佑 氏
父の死を契機に「医者になりたかったのではなく、医者じゃない者でありたくなかった」と述べ、医療者と非医療者の間にある壁を越えるために医師の道を選んだとしました。さらにミャンマーでの医療支援や、東日本大震災での活動を通じて、「自分はこの場で何を感じているのか」と問い続け、「生と死と愛」というテーマに至り、「人が人を想う社会」を目指してきたとしました。キャリアについて「自分・チーム・社会との対話を繰り返すことが重要」と述べ、聴講者に深い示唆を与えました。

医療法人社団 静恒会 理事長 / 本多病院 院長
医師 石川 輝 氏

「総合診療をハブとして、専門医や在宅医療、行政、福祉をつなぐ存在になりたい」と述べ、地域全体を支える医療の重要性を強調しました。また、「AIやDXが進んでも、最後は顔の見える関係が大切」と語り、地域におけるコネクションの価値に言及しました。さらに、中小病院の新たなあり方として「急性期から在宅までをつなぐコミュニティホスピタル」を提唱しました。これからの地域医療の方向性について多くの示唆を与える内容でした。
新潟県福祉保健部(行政医師)
医師 松澤 知 氏
初期研修地の佐渡島で「20年先の日本」とも言える超高齢社会の現実を目の当たりにしたことが、キャリアの転換点になったと語ります。医師不足が深刻な現場で「1対1の臨床以外で自分にできることはないか」と自問し、辿り着いたのが行政医師の道でした。コロナ禍では対策本部に入り、広大な可住地面積を持つ新潟の特性等を踏まえた「オンライン診療担当医」や「患者受入調整センター」の構築等に貢献された後、現在は地域医療構想の推進や、若手医師を呼び込むための研修コースの開発など、制度設計の面から地域医療を支えています。自身の軸を「県民のために」と定めたことでキャリアが開けたと語るその姿は、医師の多様なキャリアの在り方を体現するロールモデルそのものです。変化の激しい時代において、行政の立場から医療の未来を切り拓くその歩みは、次世代を担う医療者へ向けた力強いエールとなりました。

自治医科大学 地域医療学センター 地域医療学部門 教授
医師 小谷 和彦 氏

若手医師や医学生に対して、「地域を意識した医療の経験をお勧めします」と熱く語りました。地域医療のキャリアが不安視される背景には、情報不足やメンター不在などがあると指摘しました。また、「専門医は目的でもあるが、手段でもある」とし、自らの「専門性を地域課題の解決にどう活かすのか」が重要だとしました。そのうえで、メンターに出会うこと、地域で専門性を磨くこと、自分なりのストーリーやスペックをデザインすることをキャリア戦略として示唆し、これからのT型人材のありようを強調しました。地域医療の可能性と変化の時代に触れつつ、持続的な成長への視点が示されました。
獨協医科大学 総合診療医学 主任教授 / 獨協医科大学病院 総合診療科 診療部長
医師 志水 太郎 氏
医師の診断は単なる検査結果ではなく「考え方」によって大きく左右されるとし、その思考過程の体系化に取り組んできたと説明しました。また、自身の歩みについて「短期スパンで判断するな」「人と比べるな」「悔いを残すな」といった信念を軸に、多くの挫折を乗り越えてきたと語りました。さらに「自分にしかできないことをやり、それを公益につなげることが重要」と強調し、若手医師に対して長期的視点でキャリアを築く重要性を示しました。臨床力の深化と社会的価値の創出を両立するキャリアの在り方を示唆する内容でした。

メディカルジョブアワード2026 ご報告の結び
今回ご登壇いただいたみなさんの歩みは、本当に個性豊かで多彩なものでした。人生の岐路に立ったとき、「自分に今できることは何だろう?」と問いかけ、一歩を踏み出してきた方々ばかりです。広い視野を持ち、組織や分野の枠をそっと超えて手を取り合う――そんな小さな一歩の積み重ねこそが、これからの日本の医療をあたたかく支える確かな土台になっていくのだと感じます。
大切なのは、今いる場所で歩みを止めずに学び続けること。そして、まわりの人たちと心地よく響き合いながら、自分自身の可能性を広げていくことです。このレポートが、みなさんにとってご自身のキャリアを優しく見つめ直し、新しい一歩を踏み出す小さなきっかけになれば嬉しく思います。





