当直バイトや産業医、医療監修まで選択肢は広がっているのに、「自分の場合はどこまで副業をしてよいのか」がはっきりしない——多くの医師が抱く疑問です。医師の副業とは、本業の雇用契約を維持しながら別の収入源を持つ働き方のことで、その可否を決めるのは「勤務先が公務員型か民間型か」「就業規則の兼業規定」「労働時間の通算ルール」の3点です。 本記事では、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2025年3月改定版)や医師の働き方改革の制度をもとに、副業の可否の判断基準と実務上の注意点を整理します。
※2026年7月時点の情報です。制度・数値は改正されることがあるため、実行前に最新の一次情報と勤務先規程をご確認ください。
この記事の要点
- 医師の副業の可否は、まず勤務先の就業規則の「兼業規定」で決まる。
- 国公立病院など公務員身分の医師は副業が原則許可制で、任命権者の許可が必要。
- 雇用される副業は本業と労働時間が通算され、医師の働き方改革の上限規制(A水準で原則年960時間)の対象になる。
- 副業の所得が年20万円を超えると所得税の確定申告が必要。住民税には20万円ルールがない。
- 産業医・医療監修・執筆など「雇用によらない副業」は労働時間通算の対象外になりやすい。
医師の副業、結論はこう(可否を決める3つの軸)
結論として、医師が副業を検討するときに最初に確認すべきは、①自分の雇用形態(公務員型か民間型か)、②勤務先の就業規則にある兼業規定、③副業先での働き方が「雇用」か「業務委託」か、の3点です。この3つで、そもそも副業が可能か、許可・届出が必要か、労働時間が通算されるかがほぼ決まります。
医師の副業とは
副業(兼業)とは、本業を持つ人が別に収入を得る活動を行うことを指します。医師の場合、当直・スポットのアルバイト(外勤)のように「医療行為を伴う副業」と、産業医・医療監修・執筆・講演のように「医師資格や知見を生かすが常勤の診療とは別枠の副業」に大きく分かれます。どちらに当たるかで、就業規則上の扱いや税務の考え方が変わります。
可否を決める全体像(雇用形態別)
まず押さえたいのは、勤務先の区分によって副業の可否の入り口が違うという点です。国公立病院の常勤医は公務員身分のため原則許可制ですが、国立大学法人・独立行政法人の病院は公務員ではないため、各法人の就業規則の兼業規定に従います。
| 勤務先の区分 | 身分 | 副業の可否の入り口 | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 国公立病院(市立・県立等) | 地方公務員 | 原則許可制(任命権者の許可が必要) | 地方公務員法 |
| 国立大学法人・独立行政法人の病院 | 非公務員 | 就業規則の兼業規定による | 各法人の規程 |
| 民間病院・医療法人 | 民間労働者 | 就業規則の兼業規定による(許可制・届出制が多い) | 各法人の就業規則 |
| 大学医局に所属 | 所属先による | 医局の方針+勤務先規程の両方を確認 | 医局・勤務先規程 |
※国家公務員については、2026年4月から個人の趣味や特技を生かした自営業の兼業規制が緩和される予定です(手芸品販売や教室開業などが想定されており、医療行為を伴う外勤とは別枠の話です)。出典: 日本経済新聞(2025年)。
就業規則と兼業規定の読み方
副業の可否を左右する中心は、勤務先の就業規則にある兼業規定です。多くの医療機関では、競業の防止や本業への支障を避けるため、副業を「全面禁止」「許可制」「届出制」のいずれかで定めています。まずは自分の勤務先がどの型かを確認しましょう。
公務員医師と民間医師の違い
公務員に該当する医師(市立・県立病院などの常勤医)は、副業が原則として制限され、任命権者の許可を得る必要があります。一方、独立行政法人や国立大学法人の病院に勤める医師は公務員ではないため、公務員法ではなく各法人の就業規則の兼業規定に従います。民間病院・医療法人でも、就業規則で許可制・届出制を敷いているケースが少なくありません。「周りがやっているから大丈夫」ではなく、自分の勤務先の条文を確認することが出発点です。
労働時間の通算と働き方改革の上限規制
見落とされがちなのが、雇用されて行う副業では本業と副業の労働時間が「通算」されるという点です。医師の働き方改革(2024年4月施行)により、勤務医の時間外労働の上限は原則として年960時間(A水準)、地域医療の確保等が必要なB・C水準でも最大年1860時間が上限とされています。副業先での勤務時間もこの通算の対象です。
さらに、時間外・休日労働が月100時間以上になると見込まれる医師には面接指導の実施が義務づけられ、始業から24時間以内に9時間の連続した休息を確保するなどの勤務間インターバル(追加的健康確保措置)も求められます。労働時間は自己申告ではなく客観的な方法で把握することとされており、副業をする側にも本業・副業双方への正確な申告が求められます。出典: 厚生労働省「医師の働き方改革」関連資料(2024年)。
副業・兼業ガイドライン2025年改定のポイント
厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を2025年3月に改定し、雇用される形で副業を行う場合は原則として本業と副業先の労働時間を通算して管理することを改めて示しました。通算管理の負荷を軽くする「管理モデル」も整理されています。加えて労働基準法の改正が議論されており、健康確保のための通算は維持しつつ割増賃金の支払いは通算を不要とする方向が示されるなど、制度が動いている領域です。出典: 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2025年3月)。
医師の副業の種類と始める手順
医師の副業は、医療行為を伴うものから知見を生かすものまで幅があります。ここでは主な種類と報酬の目安、そして始める際の手順を整理します。
主な副業の種類と報酬の目安
報酬水準はあくまで公開情報に基づく目安であり、診療科・地域・時期によって変動します。近年はスポットバイトの平均時給がピーク時から減少傾向にあるとの指摘もあり、条件は個別に確認が必要です。
| 副業の種類 | 働き方の目安 | 報酬の目安 | 労働時間の通算 |
|---|---|---|---|
| 当直・スポットバイト | 雇用 | 高額案件で日給15〜20万円(麻酔科等)、地方の高時給で時給15,000〜25,000円 | 対象 |
| 健診・外来バイト | 雇用 | 時給1万円前後(地域差あり) | 対象 |
| 嘱託産業医 | 業務委託が多い | 月額4〜10万円がボリュームゾーン | 委託なら対象外になりやすい |
| スポット産業医 | 業務委託 | 1回約5万円、時給15,000〜30,000円程度 | 委託なら対象外になりやすい |
| 医療監修・執筆・講演 | 業務委託 | 案件ごと | 対象外 |
| 遠隔画像診断・オンライン診療 | 委託または雇用 | 案件による | 契約形態による |
出典: MRT・エムスリーキャリア等の公開相場情報(2025〜2026年)。なお、実際には訪問しない「名義貸し」の産業医契約は労働安全衛生法上の問題があり、避けるべき契約形態とされています。
副業を始める手順
医師が副業を始めるときは、次の順序で進めると抜け漏れが防げます。
- 自分の身分(公務員型か民間型か)を確認する。
- 就業規則の兼業規定を読む(全面禁止・許可制・届出制のいずれかを特定する)。
- 許可制・届出制なら、所属長・人事に許可申請または届出を行う。
- 副業先と契約する際、「雇用」か「業務委託」かを確認する(労働時間通算や社会保険の扱いが変わる)。
- 労働時間の通算、面接指導・勤務間インターバルなどの健康確保措置に問題がないか確認する。
- 医師賠償責任保険が副業先の業務までカバーされるか確認する。
- 年間の副収入と経費を記録し、確定申告に備える。
確定申告の注意点
副業をする医師が特に間違えやすいのが税務です。年末調整は主たる勤務先(給与が最も多い勤務先)1か所でしか受けられず、それ以外の給与や副収入は自分で確定申告する必要があります。目安として、本業以外の給与などの副収入に係る所得が年20万円を超えると所得税の確定申告が必要です。
産業医や原稿執筆などを「業務委託(雑所得または事業所得)」として行った場合、ここでいう「20万円」は収入ではなく、収入から経費(交通費や医師賠償責任保険料など)を差し引いた所得の金額である点に注意してください。また、所得税に20万円ルールがあっても、住民税には同様の基準がなく、20万円以下でも市区町村への申告が必要な場合があります。2025年度(令和7年度)の税制改正で控除の見直しも行われているため、申告の際は最新の内容を確認しましょう。出典: マネーフォワード クラウド確定申告ほか(2025〜2026年)。
メリット・デメリットと向き・不向き
副業には収入面以外の効果もありますが、時間と健康の管理という負荷も伴います。判断材料として、主なメリット・デメリットと向いている人・向いていない人を整理します。
副業のメリットは、収入源の分散に加え、当直・健診・産業医などを通じて診療の幅やキャリアの選択肢が広がることです。将来の開業や企業転職を見据えた「試し働き」としても機能します。一方デメリットは、労働時間の通算による本業への影響、健康確保措置の対象になること、確定申告などの事務負担、就業規則違反による懲戒リスクです。向いているのは、本業の勤務にゆとりがあり、就業規則の手続きを踏んで計画的に働ける医師です。反対に、既に時間外労働が上限に近い医師には、まず勤務先との調整をおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 医師の副業は、就業規則で禁止されていてもバレない?
無許可の副業は、住民税の通知や社会保険の手続きを通じて勤務先に把握される可能性があり、就業規則違反として懲戒の対象になり得ます。まず就業規則の兼業規定を確認し、許可制・届出制であれば正規の手続きを踏むことが安全です。
Q2. 公務員の医師でも副業できる?
国公立病院の常勤医は地方公務員に当たり、副業は原則として任命権者の許可が必要です。なお国家公務員については、2026年4月から趣味・特技を生かした自営業の兼業規制が緩和される予定ですが、これは医療行為を伴う外勤とは別枠の話です。
Q3. 副業の収入がいくらから確定申告が必要?
本業以外の給与などの副収入に係る所得が年20万円を超えると、所得税の確定申告が必要です。ただし住民税には20万円の基準がなく、20万円以下でも市区町村への申告が必要な場合があります。業務委託の場合は、20万円は収入ではなく経費控除後の所得で判断します。
Q4. 副業をすると本業の労働時間の上限に影響する?
雇用されて行う副業は本業と労働時間が通算され、医師の働き方改革の上限規制(A水準で原則年960時間)の対象になります。時間外・休日労働が月100時間以上になると見込まれる場合は、面接指導の対象にもなります。
Q5. 産業医や医療監修は労働時間の通算対象になる?
産業医や医療監修・執筆などを「業務委託」として行う場合、労働基準法上の労働時間通算の対象にはなりにくいとされています。ただし契約形態が実質的に雇用と判断されれば通算の対象になり得るため、契約内容を確認することが重要です。
まとめ
- 医師の副業の可否は、①雇用形態(公務員型か民間型か)、②就業規則の兼業規定、③副業先が雇用か業務委託か、の3軸で判断する。
- 雇用される副業は本業と労働時間が通算され、働き方改革の上限規制・健康確保措置の対象になる。
- 副収入の所得が年20万円を超えると確定申告が必要で、住民税は20万円以下でも申告が必要な場合がある。
副業は収入とキャリアの幅を広げる一方で、就業規則・労働時間・税務の3点を外すとリスクにもなります。自分の勤務先の規程を確認したうえで、無理のない形で組み立てることが大切です。
株式会社ENでは、医師のキャリア相談、転職先の個別探索、アルバイトのご紹介、開業支援、M&A支援などを行っております。副業やキャリアの組み立てに迷ったら、Med-Pro Doctors / Doctors’ Agent にお気軽にご相談ください。
出典一覧
- 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2025年3月) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
- 厚生労働省「副業・兼業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
- 厚生労働省 医政局「追加的健康確保措置」事務連絡(令和6年) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001277898.pdf
- 日本経済新聞「国家公務員、趣味生かした自営業可能に 26年4月から兼業規制を緩和」(2025年) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19AD90Z11C25A2000000/
- MRT「【2026年最新】医師バイトの日給相場を徹底解説」 https://medrt.com/doctor/contents/1463
- エムスリーキャリア「〈2026年度〉産業医の報酬相場」 https://sangyoui.m3career.com/service/blog/00006/
- マネーフォワード クラウド確定申告「副業の確定申告はいくらから?」 https://biz.moneyforward.com/tax_return/basic/1064/
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