「2026年度の診療報酬改定で、勤務医の給与や働き方は本当に変わるのか」——そう感じている先生は少なくないはずです。結論から言うと、令和8年度(2026年度)診療報酬改定は、40歳未満の勤務医を賃上げの直接対象に加え、外科など特定の診療科には別立ての手当を新設する内容になっています。つまり今回の改定は、これまで手当の外に置かれがちだった若手勤務医と特定診療科の医師に、制度として原資を配分する仕組みへと踏み込みました。本記事では、厚生労働省の資料と各学会の公表内容をもとに、改定の要点と現場への影響を整理します。※2026年8月時点の情報です。
この記事の要点
- 令和8年度改定の本体改定率は+3.09%(2年度平均)で、うち賃上げ分は+1.70%。約30年ぶりの高水準です。
- ベースアップ評価料の対象が拡大し、40歳未満の勤務医と事務職員が新たに賃上げの直接対象になりました。
- 40歳未満の勤務医の賃上げ目標は+3.2%、事務職員・看護補助者は+5.7%と、職種でメリハリがついています。
- 消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科が「医師確保が必要な診療科」として特定され、別立ての手当が評価されます。
- 本体の施行は2026年6月1日。届出の準備は勤務先の医事・経営部門の動きを早めに確認するのが得策です。
2026年度改定で勤務医の処遇はどう変わるのか
令和8年度(2026年度)診療報酬改定は、2026年2月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)が答申し、内容が確定しました。勤務医の視点で見た要点は二つです。一つは「ベースアップ評価料」の対象が40歳未満の勤務医まで広がったこと。もう一つは、なり手不足が深刻な特定の診療科に対し、通常の当直手当などとは別枠の手当を新設したことです。
ベースアップ評価料とは
ベースアップ評価料とは、医療機関が算定した点数を職員の基本給や手当の引き上げ(ベースアップ)に充てることを条件に、賃上げの原資を診療報酬で手当てする仕組みのことです。2024年度改定で新設された制度で、令和8年度改定ではその対象職種と点数がともに拡充されました。
改定の全体像(比較表)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本体改定率 | +3.09%(2026・2027年度の2年度平均)/うち賃上げ分+1.70% |
| ネット改定率 | +2.22% |
| 施行日 | 薬価は2026年4月1日、本体は2026年6月1日 |
| 勤務医への主な影響 | 40歳未満の勤務医がベースアップ評価料の対象に追加 |
| 特定診療科への評価 | 外科系など4診療科に別立ての手当を新設・評価 |
出典: 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 賃上げ対応」(2026年)。改定率は約30年ぶりの高水準とされ、2大テーマは「賃上げ」と「医療DX」です。
若手勤務医が賃上げの直接対象に|ベースアップ評価料の拡大
今回の改定で勤務医に最も関係が深いのは、ベースアップ評価料の対象拡大です。従来は「主として医療に従事する職員」に限られていた対象が、40歳未満の勤務医と事務職員などにまで広がりました。
なぜ40歳未満なのか
令和6年度改定では、入院基本料や初・再診料の引き上げを通じて40歳未満の勤務医や事務職員に賃上げ原資が配分される設計でした。ただ、ベースアップ評価料そのものの対象ではなかったため、配分の実態が見えにくいという課題がありました。令和8年度改定では、これらの職種を評価料の対象に組み込むことで、報告義務を通じて賃上げの実効性を担保する狙いがあります。専攻医・後期研修医を含む若手層が、制度上はっきりと賃上げの対象に位置づけられた点が大きな変化です。
職種ごとの賃上げ目標
令和8・9年度の賃上げ目標は、職種によってメリハリがつけられています。事務職員・看護補助者は+5.7%、看護職員・病院薬剤師・リハビリ職に加えて40歳未満の勤務医は+3.2%が目標です。外来・在宅におけるベースアップ評価料の点数は、現行から2〜3倍近い水準へ引き上げられる方向とされています。
| 賃上げ目標(令和8・9年度) | 主な対象職種 |
|---|---|
| +5.7% | 事務職員、看護補助者 |
| +3.2% | 看護職員、病院薬剤師、リハビリ職、40歳未満の勤務医・歯科医師、薬局の勤務薬剤師 |
出典: 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 賃上げ対応」(2026年)。なお経営者・役員・業務委託は引き続き対象外です。
特定診療科の指定とは|外科系への別立て手当
もう一つの柱が、なり手不足が深刻な診療科への評価です。令和8年度改定では「地域医療体制確保加算2」や「外科医療確保特別加算」が新設・拡充され、特定の診療科の医師に対して、通常の給与体系とは別に手当を支給することが評価されるようになりました。
指定される4診療科
若手医師数が減少傾向にある診療科として、消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科の4つが対象に挙げられています。医療機関はこのうち医師確保が特に必要な診療科を3つ以内で特定し、当該診療科の医師に別立ての配慮を行うことが求められます。
手当が支給されるまでの流れ
- 医療機関が地域医療体制確保加算2や外科医療確保特別加算の施設基準を満たし、届け出る。
- 対象となる4診療科から、医師確保が必要な診療科を3つ以内で特定する。
- 得られた加算額の30%以上に相当する額を、対象診療科の医師への手当として還元する。
- 手当総額の8割以上を当該診療科の常勤医師に支給し、支給内容を院内の全医師に周知する。
出典: 日本外科学会「令和8年度診療報酬改定における外科医療確保特別加算の新設などについて」(2026年)。手当は休日・時間外・深夜・当直手当とは別枠で支給される点がポイントです。現場では、同じ病院内でも診療科によって給与体系が異なる状況が制度として容認されたことになります。
メリット・デメリットと、恩恵を受けやすい医師
今回の改定は、若手や外科系にとって追い風である一方、配分の実態は勤務先の運用に左右されます。制度の光と影を整理します。
| メリット | 留意点 |
|---|---|
| 40歳未満の勤務医が賃上げの直接対象に | 賃上げ幅は勤務先の算定・配分方針に依存する |
| 外科系4診療科に別立て手当が新設 | 加算の届出をしない施設では恩恵が及ばない |
| 報告義務で配分の実効性を担保 | 手当の支給方法は病院ごとに差が出る可能性 |
恩恵を受けやすいのは、40歳未満で急性期病院に勤務する医師、そして消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科で常勤として働く医師です。逆に、対象診療科でも非常勤中心の場合や、加算を届け出ていない施設では、改定の効果を実感しにくい可能性があります。自分の勤務先がどの加算を算定しているかを確認することが、待遇を読み解く第一歩になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2026年度改定で勤務医の給与は必ず上がりますか?
必ず上がると断定はできません。ベースアップ評価料は賃上げの原資を診療報酬で手当てする仕組みですが、実際の引き上げ幅は勤務先が評価料を算定し、どう配分するかによって変わります。40歳未満の勤務医は制度上の対象に加わりましたが、金額は施設ごとに差が出ます。
Q2. 特定診療科に指定されたのはどの科ですか?
若手医師の減少が指摘される消化器外科・心臓血管外科・小児外科・循環器内科の4診療科です。医療機関はこのうち3つ以内を特定し、加算額の一部を対象診療科の医師への手当として還元します。
Q3. 改定はいつから施行されますか?
薬価改定は2026年4月1日から、基本診療料や入院料などの本体は2026年6月1日から施行されます。ベースアップ評価料は届出のタイミングが待遇に影響するため、勤務先の医事・経営部門の動きを早めに確認しておくとよいでしょう。
Q4. 40歳以上の勤務医は対象外ですか?
ベースアップ評価料の「40歳未満」という区分は今回新たに直接対象へ加わった層を指すもので、40歳以上の医師の処遇が改善しないという意味ではありません。本体の底上げや各種加算を通じて、病院全体の原資配分の中で待遇が検討されます。
まとめ
- 令和8年度改定は本体+3.09%で、40歳未満の勤務医が賃上げの直接対象に加わった。
- 消化器外科など4診療科が特定され、加算額の一部が別立て手当として還元される。
- 実際の待遇は勤務先の算定・配分方針次第。自院の加算状況の確認が出発点になる。
制度は原資の入り口を広げましたが、最終的な待遇は勤務先ごとの運用で変わります。自分のキャリアにとって今の勤務条件が妥当かを見極めたいときは、第三者の視点で相談してみるのも一つの方法です。株式会社ENでは、医師のキャリア相談、転職先の個別探索、アルバイトのご紹介、開業支援、M&A支援などを行っております。Med-Pro Doctorsもあわせてご覧ください。
出典一覧
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 賃上げ対応」(2026年)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001701063.pdf
- 日本外科学会「令和8年度診療報酬改定における外科医療確保特別加算の新設などについて」(2026年)https://www.jssoc.or.jp/modules/info/index.php?content_id=652
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)「診療報酬は2026年度、2027年度の2年度平均で3.09%引き上げ」https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2026/03/shunto_02.html
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監修・著者
鎌形 博展(かまがた・ひろのぶ)
医師/株式会社EN 代表取締役/医療法人社団季邦会 理事長/東京医科大学病院 救急・災害医学講座 非常勤医師
救急・災害医療の現場で臨床経験を積んだ後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)にて経営学を修める。認知症予防や感染症診断デバイスのスタートアップ経営を経て、現在は東京・神奈川で複数のクリニックを運営する医療法人社団季邦会の理事長を務めるほか、医療業界の構造的な人材課題の解決を目指し株式会社ENを創業。医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」、開業支援コミュニティ「クリニック開業ラボ」、医療機関M&Aアドバイザリーを展開する。現在も東京医科大学病院にて救急・災害医学の臨床に携わる。社会医学系専門医指導医。臨床医・経営者・採用側の三つの視点から、医師のキャリア形成についての実践的な情報を発信している。





