「働き方改革が始まって2年、勤務医の労働時間は本当に減ったのか」——現場でそう感じている医師は少なくありません。結論から言うと、医師の働き方改革とは、2024年4月から勤務医の時間外・休日労働に上限(原則 年960時間)を設けた制度改正のことです。2年目を迎えた今、上限規制自体は定着しつつある一方、労働時間の短縮を実感できていない医師が依然として多いのが実態です。本記事は厚生労働省の資料や制度施行後の各種調査をもとに、2年目の勤務実態と、労働時間を減らす仕組み、勤務医が取り得る選択肢を整理します。

※本記事は2026年7月時点の情報です。診療報酬改定など制度は変わり得るため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

この記事の要点

  • 医師の働き方改革は2024年4月施行。原則すべての勤務医に時間外・休日労働の上限(年960時間=A水準)が適用されている。
  • 地域医療や研修を担う医療機関には特例(B・連携B・C水準=年1,860時間)があり、B・連携Bは2035年度末までの解消が目標。
  • 制度施行から約1年時点の調査では、約6割の医師が労働時間短縮を実感できていないと回答した。
  • 連続勤務時間制限(28時間)・勤務間インターバル(9時間)・面接指導などの追加的健康確保措置が管理者に義務づけられている。
  • 2年目は「制度の導入」から「運用の質」へと課題が移っており、勤務先選びでは水準や実労働時間の確認が重要になる。

医師の働き方改革2年目、労働時間はこう変わった

2年目の全体像を一言でいえば、「制度は定着したが、体感の負担はまだ大きく残っている」段階です。上限を超える36協定は結べなくなり、多くの病院で勤怠管理や当直体制の見直しが進みました。一方で、労働時間そのものが劇的に減ったと感じる医師は多くありません。

医師の働き方改革とは

医師の働き方改革とは、2024年4月から診療に従事する勤務医に対し、時間外・休日労働の上限規制と追加的な健康確保措置を適用した一連の制度改正のことです。一般労働者と同じ年960時間(月100時間未満)を原則としつつ、医療提供体制を維持するために特例水準を設けている点が、他業種の上限規制と大きく異なります(出典: 厚生労働省「医師の働き方改革」)。

上限規制の全体像(水準の比較)

勤務医に適用される時間外・休日労働の上限は、大きく4つの水準に分かれます。自分の勤務先がどの水準に指定されているかで、上限も健康確保措置の内容も変わります。

水準年間上限対象
A水準960時間原則すべての診療従事勤務医
B水準1,860時間地域医療確保に不可欠な医療機関
連携B水準1,860時間(副業・兼業先と通算)自院は960時間だが派遣等で長時間となる医師
C水準1,860時間研修医・専攻医など集中的に技能を習得する医師

B・連携B水準は2035年度末までに段階的に解消し、C水準も将来的に縮減することが想定されています。つまり特例は「恒久的な例外」ではなく、あくまで移行期の措置という位置づけです(出典: 厚生労働省「医師の働き方改革」)。

データで見る2年目の勤務実態

結論として、平均労働時間は依然として長く、負担の偏りも診療科によって大きいのが2年目の実態です。制度の枠組みが整っても、現場の忙しさが均等に軽くなったわけではありません。

平均労働時間と「1,860時間超」の診療科

医療機関に勤務する医師の労働時間は、実態調査で1週間あたり平均61〜66時間とされ、労働基準法が定める週40時間を大きく上回っています。また、時間外・休日労働が年1,860時間を超える医師の割合は診療科によって差があり、脳神経外科9.9%、外科7.1%、形成外科6.8%、産婦人科5.9%、救急科5.1%と報告されています(出典: 厚生労働省「医師の勤務実態について」)。救急・外科系を中心に、依然として長時間労働が集中していることがわかります。

「短縮を実感できない」現場の声

制度施行から約1年が経過した時点の民間調査では、医師の約6割が労働時間の短縮を実感できていないと回答しました。背景には、上限内に収めるための当直・シフト調整が進む一方で、外来や病棟の業務量自体は減っていないこと、記録に残らない「隠れ残業」への懸念があることが挙げられます。2年目は、制度をどう導入するかという段階から、運用の実効性をどう高めるかという段階へと課題が移っています。

労働時間を減らす仕組みと運用ルール

働き方改革は「上限を決めるだけ」の制度ではありません。医師の健康を守るための具体的な措置と、業務を分担する仕組みがセットになっています。勤務先を評価するときは、次の3点が実際に機能しているかを確認すると実態が見えやすくなります。

追加的健康確保措置(インターバルと面接指導)

追加的健康確保措置とは、上限規制と併せて医師の健康を守るために管理者へ課される義務のことです。主な内容は次のとおりです。

  1. 連続勤務時間制限:宿日直許可を受けた当直明けを除き、前日の勤務開始から28時間が上限。
  2. 勤務間インターバル:勤務終了から次の勤務まで原則9時間(宿日直許可のない当直明けは18時間)を確保。
  3. 面接指導:1か月の時間外労働が100時間以上となる見込みの医師に対し、A水準も含めて医師による面接指導を実施。

これらはB・C水準の医療機関だけでなく、A水準の病院でも面接指導が義務である点に注意が必要です(出典: 厚生労働省「医師の働き方改革」)。

タスクシフト/シェアと宿日直許可

タスク・シフト/シェアとは、医師の業務のうち他職種でも対応できるものを、合意形成のうえで移管・共同化する取り組みです。特定行為研修を修了した看護師や、診療放射線技師・臨床検査技師などへの業務分担が進み、医師の負担軽減の柱となっています。また、労働基準監督署から「宿日直許可」を受けた当直では、その時間は労働時間に算入されません。ただし許可には、緊急対応がまれであることや十分な休息が取れることなどの基準があり、実態が伴わない運用は認められません。

自己研鑽は労働時間に入るのか

自己研鑽の扱いは、現場で最も判断が難しい論点の一つです。上司の指示に基づく業務や、業務に必須の学習は労働時間に含まれる一方、本人の自由な意思で行う研鑽は労働時間に当たらないと整理されています。境界が曖昧になりやすいため、勤務先が研鑽と業務の線引きをどのようにルール化しているかは、実労働時間を見極めるうえで重要なポイントになります。

2年目に勤務医が取れる選択肢と注意点

2年目の局面では、制度を「与えられるもの」として待つより、自分のキャリアに引き寄せて活用する姿勢が有効です。特に転職や勤務先の見直しを考える際は、求人票の給与だけでなく、指定水準・当直回数・宿日直許可の有無・タスクシフトの体制まで確認すると、入職後のギャップを減らせます。

  • 労働時間を優先したい医師:A水準の病院や、勤務間インターバルを実運用している施設を軸に検討する。
  • 症例・技能を優先したい若手:C水準を含め、指導体制と業務量のバランスを見て選ぶ。
  • 収入とのバランスを取りたい医師:時間外の削減で基本給が下がる可能性もあるため、当直・オンコール手当や賃上げ加算の状況を確認する。

なお、2026年度の診療報酬改定でも医師の賃上げ対応が論点となり、ベースアップ評価料の拡充など処遇改善に向けた見直しが進められています。労働時間の短縮と収入の維持をどう両立するかは、今後も勤務先選びの重要な判断軸になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 働き方改革で勤務医の残業はゼロになりますか?

いいえ、ゼロにはなりません。原則は年960時間までの時間外・休日労働が認められており、特例水準では年1,860時間まで認められます。あくまで「上限を超えないこと」を求める規制であり、残業そのものを禁止する制度ではありません。

Q2. 自分の病院がどの水準か分からない場合は?

勤務先の水準は、都道府県の指定と院内の36協定で決まります。人事・労務担当部署や医師事務作業補助部門に確認するのが確実です。転職を検討中であれば、面談時に指定水準と平均的な時間外労働を尋ねると、実際の負担を把握しやすくなります。

Q3. 副業・アルバイトの時間も上限に含まれますか?

含まれる場合があります。とくに連携B水準では、自院の労働時間に副業・兼業先の時間を通算して年1,860時間を上限とします。複数の勤務先で働く場合は、通算での時間管理が必要になるため、主たる勤務先への申告を怠らないことが大切です。

Q4. 当直明けにそのまま日勤するのは違反ですか?

宿日直許可のない当直明けは、勤務間インターバルとして18時間の休息確保が求められ、連続勤務も原則28時間が上限です。許可の有無や措置の運用によって扱いが変わるため、実態が基準に沿っているかを勤務先に確認するとよいでしょう。

まとめ

  • 働き方改革2年目は「制度の定着」段階だが、平均労働時間は依然長く、約6割が短縮を実感できていない。
  • 水準(A/B/連携B/C)で上限と健康確保措置が異なり、B・連携Bは2035年度末までの解消が目標。
  • 勤務先選びでは、指定水準・当直体制・タスクシフト・賃上げ状況まで確認すると入職後のギャップを減らせる。

制度を正しく理解し、自分の優先順位(労働時間・症例・収入)に合った勤務先を選ぶことが、2年目以降のキャリアを左右します。株式会社ENでは、医師のキャリア相談、転職先の個別探索、アルバイトのご紹介、開業支援、M&A支援などを行っております。働き方の見直しを検討している方は、医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」もあわせてご覧ください。

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監修・著者

鎌形 博展(かまがた・ひろのぶ)
医師/株式会社EN 代表取締役/医療法人社団季邦会 理事長/東京医科大学病院 救急・災害医学講座 非常勤医師

救急・災害医療の現場で臨床経験を積んだ後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)にて経営学を修める。認知症予防や感染症診断デバイスのスタートアップ経営を経て、現在は東京・神奈川で複数のクリニックを運営する医療法人社団季邦会の理事長を務めるほか、医療業界の構造的な人材課題の解決を目指し株式会社ENを創業。医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」、開業支援コミュニティ「クリニック開業ラボ」、医療機関M&Aアドバイザリーを展開する。現在も東京医科大学病院にて救急・災害医学の臨床に携わる。社会医学系専門医指導医。臨床医・経営者・採用側の三つの視点から、医師のキャリア形成についての実践的な情報を発信している。

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