
オンライン診療は、単なる感染症対策の代替手段から、継続受診と集患を支える診療チャネルへと位置づけが変わりつつあります。2026年4月には改正医療法でオンライン診療が法的に定義され、令和8年度診療報酬改定でも情報通信機器を用いた診療の評価が見直されました。本記事では、開業医が集患と再診率の向上にオンライン診療をどう活かせるかを、制度と実務の両面から整理します。
集患への効果は、新規患者の獲得よりも「離脱の抑制」に表れやすい点を押さえておきたいところです。生活習慣病のように定期通院が前提の患者では、多忙・遠方・体調などを理由とした通院中断が再診率を押し下げます。オンライン診療という選択肢を用意しておくことで、対面が難しい月も受診を継続してもらいやすくなり、結果として患者一人あたりの継続期間が延びます。
新規集患の面でも、対応チャネルの多さは選ばれる理由になり得ます。近隣からの新規流入を強化する施策としては、MEO対策(Googleビジネスプロフィール)との組み合わせも有効です。ただし医療広告ガイドライン上、効果や優位性を断定する表現は認められません。訴求はあくまで「提供している診療の事実」の範囲にとどめ、誇大な表現は避ける必要があります。
制度面の起点は、2025年12月12日に公布された「医療法等の一部を改正する法律」です。この改正でオンライン診療が医療法上に位置づけられ、実施する医療機関は都道府県へ届け出ること、厚生労働大臣が「オンライン診療基準(省令)」を定めることなどが盛り込まれました(出典:厚生労働省「オンライン診療について」/2026年)。関連規定は2026年4月から施行されています。
指針の面では、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」およびQ&Aが2026年4月に改訂されました。医師‐患者関係、本人確認、対面診療との組み合わせ、薬剤の取り扱いなどの基本ルールが示されており、導入時にはこの指針の最新版を必ず確認する必要があります(出典:厚生労働省「オンライン診療について」/2026年4月改訂)。
政策の方向性も後押しになっています。2026年8月5日には厚生労働省の「ヘルスケアAX・DX推進本部」が初会合を開き、医療・介護分野のAI・デジタル活用を省横断で進める体制を始動しました(出典:厚生労働省「ヘルスケアAX・DX推進本部」開催案内/2026年8月)。オンライン診療やオンライン資格確認、電子処方箋といった医療DXの実装が加速する流れにあり、診療所にとっても環境整備を進めやすい時期といえます。
算定の観点では、令和8年度(2026年度)診療報酬改定で情報通信機器を用いた診療・医学管理の評価が見直された点が中心です。電子処方箋を組み合わせた場合の「遠隔電子処方箋活用加算(10点)」の新設が報道されており(2026年度改定時点)、外来栄養食事指導料や在宅療養指導料などでも情報通信機器を用いた指導が新たに評価されるとされます(出典:厚生労働省 令和8年度診療報酬改定関連資料/2026年、点数の詳細は算定要件を要確認)。電子処方箋そのものの導入・補助については、電子処方箋の導入補助に関する解説もあわせてご確認ください。
施設基準は厳格化の方向です。情報通信機器を用いた診療の施設基準に、患者向けチェックリストの掲示、医療広告ガイドラインの遵守、向精神薬処方時の重複投薬等チェックが加わったと整理されています。とくに向精神薬については、初診をオンラインで行い再診もオンラインで行う場合はその再診での処方が認められず、対面診療を経る必要があるとされます(出典:厚生労働省 令和8年度診療報酬改定関連資料/2026年、報道による整理を含む)。算定・処方の可否は患者や薬剤により異なるため、導入前に施設基準と算定要件を個別に確認してください。
運用設計の要は、オンラインを「対面の置き換え」ではなく「対面を補完する導線」として組み込むことです。次の3点が実務の起点になります。
| 施策 | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 予約システムの一本化 | 待ち時間・無断キャンセルの低減 | Web予約・リマインド通知・対面/オンラインの選択制 |
| 継続受診の導線設計 | 通院中断の抑制・再診率維持 | 安定期はオンライン、節目は対面という交互運用 |
| 患者説明の標準化 | 適応・料金・手順の齟齬防止 | 対象疾患・自己負担・準備物を掲示物とWebで統一 |
予約と受診チャネルを一本化すると、患者は状況に応じて対面かオンラインかを選べるため、受診のハードルが下がります。安定期はオンライン、検査や処置が必要な節目は対面へ、という交互運用は、継続管理が前提の慢性疾患と特に相性が良い設計です。
導入状況の目安として、情報通信機器を用いた診療を実施できると登録している医療機関は2023年3月時点で18,121件(全体の約16.0%)と報告されています。「情報通信機器を用いた初診料等」の届出施設数も2022年7月の5,494施設から2023年10月には10,108施設へと増えました(出典:厚生労働省 社会保障審議会医療部会 資料)。普及は進みつつも全体では少数派であり、地域や診療科によっては差別化の余地が残っています。
確認の順序としては、制度要件・システム・院内オペレーションの3層で点検すると漏れが減ります。制度面では都道府県への届出、指針への適合、施設基準の充足を確認します。システム面では予約・オンライン診療・決済・電子処方箋の連携可否を、オペレーション面では予約枠の設計、スタッフの役割分担、患者説明資料の整備を詰めます。医療広告ガイドラインに配慮し、Webや院内掲示の表現が事実の範囲にとどまっているかも公開前に見直しておきたいところです。
制度要件の確認や院内オペレーションの設計は、開業支援・事務長代行の実務に精通した外部の視点を入れると進めやすくなります。株式会社ENでは、クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで支援しています。オンライン診療の導入運用や集患・再診率の設計にお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
本記事は制度・実務の一般的な情報整理であり、個別の診療・算定・法令判断を保証するものではありません。診療報酬の算定可否や薬剤の取り扱いは、医師・税理士・社会保険労務士等の専門家および所管行政庁に必ずご確認ください。
オンライン診療は新規集患よりも、通院中断を防ぎ再診率を保つ継続受診の面で効果が表れやすい手段です。新患獲得は診療圏調査や地域連携、Web導線と組み合わせて設計するのが現実的です。
2026年4月施行の改正医療法により、実施医療機関は都道府県への届出が必要です。あわせて「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2026年4月改訂)への適合と、診療報酬を算定する場合は施設基準の充足が求められます。
令和8年度改定の整理では、初診をオンラインで実施し再診もオンラインで実施した場合、その再診での向精神薬処方は認められず、対面診療を経る必要があるとされます。薬剤や患者の状況で条件が異なるため、算定要件と指針を個別に確認してください。
Web予約やリマインド通知は待ち時間や無断キャンセルの低減に寄与し、受診のハードルを下げます。対面とオンラインを選べる予約設計は、慢性疾患の継続受診と相性が良い運用です。
情報通信機器を用いた診療・医学管理には所定の点数や加算が設定されています。令和8年度改定で新設・見直しがあったため、最新の算定要件を厚生労働省の一次資料で確認し、自院の対象患者に合うかを個別に判断してください。
公開日:2026年8月13日/最終更新日:2026年8月13日
著者プロフィール
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の算定可否を保証するものではありません。実際の施設基準の届出や実施体制の整備にあたっては、管轄の地方厚生局に必ずご確認ください。数値・制度は2026年8月時点の情報に基づきます。