※本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。

専門医は取ったほうがいいのか、それとも取らずに臨床を続けるべきか——専攻医や若手勤務医が一度は迷う問いです。結論から言うと、専門医は開業や診療科標榜の法的な要件ではありませんが、標準的な臨床キャリアでは基本領域の専門医取得が事実上の前提になりつつあります。専門医とは、日本専門医機構が認定する基準を満たし、特定の領域で標準的な診療を行う能力を認められた医師のことです。本記事では、2026年時点の新専門医制度をふまえ、取得する場合としない場合でキャリアがどう変わるかを、日本専門医機構や厚生労働省の一次情報をもとに現役医師の視点で整理します。

この記事の要点

  • 専門医とは、日本専門医機構が認定する19の基本領域+サブスペシャルティの二段階資格制度(2018年開始)である
  • 医師免許があれば麻酔科を除き自由に標榜でき、専門医は開業・標榜の法的要件ではない
  • 一方で転職市場・患者の信頼・医療機関の体制面では、基本領域の専門医が実質的な前提になりつつある
  • 取得・更新には時間と費用がかかり、資格の実利は診療科によって差がある
  • 迷ったら「基本領域はまず取得し、サブスペや二重取得は目的に応じて判断する」のが現実的

専門医とは|新専門医制度と19の基本領域

専門医とは、日本専門医機構が定める基準を満たし、特定の領域で標準的な診療を行う能力を認定された医師のことです。2018年に始まった新専門医制度により、認定の仕組みは学会主導から機構による統一的な質保証へと移行しました。

専門医の定義と二段階制

新専門医制度は、まず19の基本領域のいずれかで専門医取得を目指し、その後サブスペシャルティ領域へ進む二段階制です。専攻医(後期研修医)は、初期臨床研修を終えたあと、いずれかの基本領域プログラムに登録して研修を積みます(出典: 日本専門医機構)。従来の学会ごとにばらついていた認定基準を、機構が横断的に整える狙いがあります。

19の基本領域一覧

基本領域は次の19領域で構成されます。2018年の制度開始時に、総合診療科が19番目の基本領域として新設されたのが大きな特徴です。

区分基本領域
内科系内科/小児科/皮膚科/精神科
外科系外科/整形外科/産婦人科/脳神経外科/泌尿器科/形成外科
感覚器・その他眼科/耳鼻咽喉科
診療支援・横断放射線科/麻酔科/病理/臨床検査/救急科/リハビリテーション科
2018年新設総合診療科
出典: 日本専門医機構、日本医療・病院管理学会の資料をもとに区分は編集部整理

専門医の取得は必須か|制度上の位置づけ

専門医資格は、診療科の標榜や開業の法的な要件ではありません。医師免許があれば、専門医の有無にかかわらず診療そのものは行えます。ただし「法的に不要」であることと「キャリア上あってもなくても同じ」であることは別問題です。

自由標榜|専門医がなくても診療科は掲げられる

日本では、医師免許があれば麻酔科を除き、専門性にかかわらず診療科名を掲げてよい「自由標榜」が原則です(出典: 日本医師会「診療科名の標榜方法」)。つまり、内科専門医でなくても「内科」を標榜して開業することは制度上可能です。ただし、標榜できる診療科名は医療法(医療法施行規則)で定められており、「総合診療科」はこの政令上の標榜可能な診療科名に含まれていないため掲示できません。また、麻酔科を標榜するには厚生労働大臣の許可を受けた「麻酔科標榜医」である必要があり、これは日本専門医機構が認定する「麻酔科専門医」とは別の制度である点にも注意が必要です。

広告・信頼・体制面での実質的な意味

広告できる専門医資格は、日本専門医機構が認定する基本領域の専門医を基本とし、従来の学会認定資格は経過的に広告可能とされています(出典: 厚生労働省 医療機能情報提供制度等分科会)。さらに、特定の専門医資格は医療機関の施設基準や診療報酬の加算要件に直結しています。たとえば病理診断管理加算、麻酔管理料、救急医療管理加算、地域包括診療加算などでは、特定領域の専門医等の配置が要件とされる項目があります。患者への説明や転職市場での書類選考でも専門医の有無が判断材料になるため、専門医資格は制度・実務の両面で実質的な意味を持ちます。

専門医を取得する場合のキャリアの進め方

取得を目指す場合は「初期研修→専攻医(基本領域)→試験・認定→更新」というステップで進みます。ここでは全体の流れと、2026年時点で押さえておきたい更新・シーリングの論点を整理します。

専攻医から専門医取得までのステップ

  1. 初期臨床研修2年を修了する
  2. 基本領域の研修プログラムに専攻医として登録する(研修は3年以上が目安)
  3. 定められた症例・研修実績を満たし、専門医試験に合格して認定を受ける
  4. サブスペシャルティに進む場合は、基本領域の専門医取得後に選択する
  5. 取得後は原則5年ごとに、診療実績や講習受講などの要件を満たして更新する

更新制度と2026年の初回更新

2018年に始まった新専門医制度では、一期生が2022年1月1日付で誕生し、令和8(2026)年に機構が定める要件での初回更新を迎えます(出典: 日本外科学会)。更新には診療実績や講習の受講などが求められ、資格の維持には継続的な時間・費用のコストが生じます。取得後も「維持し続けるか」を含めてキャリアを設計する視点が重要です。

シーリング|地域・診療科偏在への上限設定

専攻医の採用数には、医師が多い都道府県や特定の診療科で募集上限を設ける「シーリング」があります(2018年開始、出典: 厚生労働省 医道審議会 医師専門研修部会)。これは地域偏在・診療科偏在の是正を目的とした仕組みで、希望する領域・地域によっては採用枠が限られる年があります。取得を目指すなら、志望領域の募集スケジュールとシーリングの動向を早めに確認しておくと安全です。

取得する人・しない人|メリットとデメリットの比較

専門医取得の損得は、診療科と今後のキャリア設計によって変わります。まずは両者の違いを整理します。

観点取得する場合取得しない場合
診療の裏づけ標準的診療の能力を第三者が認定実力はあっても対外的な証明は弱い
転職・求人基本領域は前提視されやすく選択肢が広い診療科・求人によっては候補が限られる
患者・紹介元の信頼専門性を説明しやすい実績や紹介で信頼を積む必要がある
時間・費用取得と5年ごとの更新にコストがかかる更新の負担がなく臨床・他分野に注力できる
向く人臨床を軸にキャリアを積む医師研究・企業・特定領域に早く軸足を移す医師

医師を対象としたアンケート調査では、取得のメリットとしてスキルアップ・患者からの信頼・転職での評価が挙がる一方、取得・更新にかかる時間的・経済的負担や「日常でメリットを感じにくい」という声も見られます(出典: 医師転職研究所)。また、資格の価値は診療科によって差があるとの調査結果もあり、自分の領域で専門医がどの程度重視されるかを見極めることが判断の起点になります。

よくある質問

専門医を取らないと開業できませんか?

開業に専門医は必須ではありません。医師免許があれば麻酔科を除き自由に診療科を標榜でき、専門医の有無は開業の法的要件ではないためです。ただし、患者の信頼や集患、医療機関との連携の面では専門医が実質的に効くこともあります。

専門医がないと転職で不利になりますか?

診療科や求人内容によります。多くの臨床求人では基本領域の専門医が前提視される傾向があり、選択肢の広さに差が出ます。一方で、研究職や企業(製薬・ヘルスケア)への転身では、専門医より実務経験や専門性の中身が評価される場面もあります。

サブスペシャルティは必ず取るべきですか?

必須ではなく、目指す診療内容によります。より細分化された領域で診療・指導を担いたい場合は有力ですが、取得・更新の負担も増えます。基本領域を取得したうえで、キャリアの方向性が定まってから判断しても遅くありません。

専門医は何年ごとに更新が必要ですか?

原則として5年ごとの更新が必要で、診療実績や講習の受講などの要件があります。2018年開始の新専門医制度では、一期生が令和8(2026)年に機構基準での初回更新を迎えます。維持コストを見込んだうえで取得計画を立てるとよいでしょう。

まとめ

  • 専門医は開業・標榜の法的要件ではないが、臨床キャリアでは基本領域が実質的な前提になりつつある
  • 取得・更新にはコストがあり、資格の実利は診療科によって異なる
  • 基本領域はまず取得し、サブスペや維持・更新は目的に応じて判断するのが現実的

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出典一覧

  • 日本専門医機構「サブスペシャルティ領域について」ほか(https://jmsb.or.jp/)
  • 日本外科学会「令和8(2026)年開始:日本専門医機構が認定する新専門医への移行について」(https://jp.jssoc.or.jp/modules/specialist/index.php?content_id=108)
  • 日本医師会「診療科名の標榜方法」(https://www.med.or.jp/doctor/sien/s_sien/000316.html)
  • 厚生労働省 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会「令和9(2027)年度専攻医募集におけるシーリングの基本的な方針(案)」(https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001672932.pdf)
  • 医師転職研究所「医師の大半が専門医を目指す理由・メリットとは?」「専門医を取らない・維持しない医師の本音とは?」(https://www.dr-10.com/lab/)

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監修・著者

鎌形 博展(かまがた・ひろのぶ)
医師/株式会社EN 代表取締役/医療法人社団季邦会 理事長/東京医科大学病院 救急・災害医学講座 非常勤医師

救急・災害医療の現場で臨床経験を積んだ後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)にて経営学を修める。認知症予防や感染症診断デバイスのスタートアップ経営を経て、現在は東京・神奈川で複数のクリニックを運営する医療法人社団季邦会の理事長を務めるほか、医療業界の構造的な人材課題の解決を目指し株式会社ENを創業。医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」、開業支援コミュニティ「クリニック開業ラボ」、医療機関M&Aアドバイザリーを展開する。現在も東京医科大学病院にて救急・災害医学の臨床に携わる。社会医学系専門医指導医。臨床医・経営者・採用側の三つの視点から、医師のキャリア形成についての実践的な情報を発信している。

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