
厚生労働省の技術的検討会は2026年8月5日、OTC類似薬(市販薬と成分などが同じ医療用医薬品)の保険給付見直しについて中間とりまとめを了承しました。対象となる77成分を処方した場合、患者は通常の一部負担金に加えて薬剤費の4分の1を「特別の料金」として支払う仕組みが、2027年3月から始まる予定です。対象は皮膚科・耳鼻咽喉科・整形外科をはじめ、外来を持つ多くのクリニックの日常処方に及びます。本記事では、決まっている事実と今後の論点を、クリニックの実務目線で整理します。
制度の骨格は2025年12月24日の閣僚折衝で決定しています。OTC類似薬77成分について、保険給付から外すのではなく、混合診療を例外的に認める「保険外併用療養費制度」の枠内に新たな仕組みを設け、対象薬剤の薬剤費の4分の1を患者が別途負担する形とされました。実施時期は2027年3月です(出典:日本医事新報社、2025年12月26日)。
ここで押さえておきたいのは、「保険から外れる」のではないという点です。保険診療の枠内に留めたまま、対象薬剤の薬剤費のうち4分の1だけを保険外の負担として切り出す設計になっています。患者にとっては窓口での支払いが増えますが、保険診療としての位置づけは変わりません。この違いは、患者説明の場面でそのまま効いてきます。
あわせて、長期収載品の選定療養の拡大(先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1相当から2分の1相当へ)、食品類似薬の保険給付見直し、長期処方・リフィル処方箋の活用促進も決定しており、これらを合わせた財政効果は医療費ベースで約1,880億円減と試算されています。2027年度以降は、対象範囲の拡大や薬剤費に対する割合の引上げも検討課題とされています。
日本医師会の松本吉郎会長は決定当時、「保険適用除外は行われなかったが、一定の患者の自己負担増が発生することは間違いない。子どもや難病患者など配慮が必要な方には慎重な対応が必要」とコメントしており、配慮措置の設計がその後の技術的検討会の主要論点となりました。
対象となる77成分は、「OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量が異ならない医療用医薬品」という基準で機械的に選定されたものです。2026年8月時点の対象は1,042品目とされています(出典:CBnewsマネジメント、2026年8月6日)。
厚生労働省が公表した成分一覧には、解熱消炎鎮痛剤のロキソプロフェンナトリウム水和物、血行促進・皮膚保湿剤のヘパリン類似物質、抗アレルギー薬のフェキソフェナジン塩酸塩・ロラタジン・エピナスチン塩酸塩、外用の鎮痛消炎剤(インドメタシン、サリチル酸メチル配合剤など)、外用NSAIDs(ジクロフェナクナトリウム、フェルビナク)、抗真菌薬(テルビナフィン塩酸塩、ミコナゾール硝酸塩など)、ステロイド外用薬(ベタメタゾン吉草酸エステル、ヒドロコルチゾン酪酸エステルなど)、皮膚軟化剤の尿素、白色ワセリン、酸化マグネシウム、L-カルボシステインなどが含まれます。
一覧を見て分かるとおり、対象は特殊な薬剤ではなく、内科・小児科・皮膚科・耳鼻咽喉科・整形外科の一般外来で日常的に処方される薬剤が中心です。自院の処方頻度が高い薬剤が一覧に含まれるかを確認することが、実務上の起点になります。成分ごとの対象品目一覧は厚生労働省サイトで公表されています(2026年8月時点版)。
選定が成分単位である点にも注意が必要です。同じ効能の薬剤でも、成分が一覧に載っているかどうかで扱いが分かれます。商品名で在庫や処方を管理している場合は、成分名に展開したうえで突き合わせる必要があります。
8月5日の中間とりまとめでは、「特別負担が生じる場合/生じない場合」が成分ごとに整理され、負担を求めない類型が具体化されました。制度決定時に示されていた除外の考え方(1.子ども、2.がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている者、3.低所得者、4.入院患者、5.医師が長期使用等を医療上必要と考える者)を、運用可能な形に落とし込んだものです。
中間とりまとめで整理された主な類型は次のとおりです。
たとえばアトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質・尿素の通年処方は、長期使用の類型に該当し特別負担の対象外と整理されました。外用鎮痛消炎剤(いわゆる湿布)と皮膚保湿剤については、2029年3月31日までの経過措置が設けられます。
同じ成分でも「誰に・どのような文脈で処方したか」で取り扱いが変わることになります。成分名だけで一律に判断できない点が、この制度の実務上の難しさです。窓口では、成分の該当性と患者の該当性を二段で確認する流れになると見込まれます。
中間とりまとめを受けて、2026年8月下旬から9月上旬をめどに社会保障審議会・医療保険部会と中央社会保険医療協議会(中医協)で議論が始まります。中医協では処方箋様式の見直しなど、対象の識別方法に関する具体論が扱われる見通しです。その後、2026年秋に省令・告示の改正を行い、2027年3月の施行に至る、というのが現時点で示されている流れです。
逆に言えば、現段階では省令・告示の改正前であり、運用や様式のレベルまで確定した情報は出ていません。院内の掲示物やシステム設定を作り込むのは、秋の改正内容が示されてからでも間に合う時期にあります。
確定を待つ部分と、先に動ける部分を切り分けて考えると整理しやすくなります。開業医・医業経営の実務として今から着手できる確認事項は次の4点です。
1. 自院の処方実績の棚卸し
レセコン・電子カルテから直近1年の処方薬剤を成分単位で抽出し、77成分の一覧と突き合わせます。該当処方が全体のどの程度を占めるかを把握しておくと、以降の検討の精度が上がります。
2. 患者説明の想定問答の準備
「同じ薬なのに窓口での支払いが増えた」という問い合わせが、施行直後に集中することが見込まれます。制度の仕組み(保険から外れるのではなく、薬剤費の4分の1を別途負担する)と、負担が生じない類型を、受付・看護スタッフが同じ内容で説明できるよう整理しておくことが有効です。
3. レセコン・電子カルテのベンダー確認
処方箋様式の見直しが検討されているため、システム側の対応方針とアップデート時期をベンダーに確認しておきます。2026年秋の告示改正後に具体的な仕様が固まる見込みで、開業準備中の医師にとっては、システム選定時の確認項目のひとつになります。
4. 院内掲示・会計フローの見直し時期の見積もり
保険外併用療養費制度の枠組みで運用されるため、費用の掲示や患者への事前説明の扱いが論点になります。詳細は今後の告示・通知で示されるため、確定前の作り込みは避け、2026年秋の改正内容を確認してから着手するのが現実的です。
この制度をきっかけに処方内容そのものを変更するかどうかは、あくまで個々の患者の医学的必要性に基づく判断です。制度動向を理由に処方方針を一律に変えることを勧める趣旨ではありません。
現時点で示されているのは、対象が77成分・1,042品目(2026年8月時点)であること、負担水準が薬剤費の4分の1であること、がん・指定難病・公費負担医療、入院中・退院時、処置に伴う14日分までの処方、長期使用などが対象外として整理されたこと、湿布・皮膚保湿剤には2029年3月末までの経過措置があることです。
未確定なのは、処方箋様式や窓口での識別・徴収の具体的な運用です。これらは中医協・医療保険部会での議論と2026年秋の省令・告示改正を待つ必要があります。自院の処方実績と一覧の突き合わせから始め、システム対応と患者説明の準備は秋の改正内容が確定してから具体化する。この順序が、開業医にとって無理のない進め方といえます。
2027年3月からの実施が予定されています。2026年8月5日の技術的検討会で中間とりまとめが了承され、2026年8月下旬から9月上旬に社会保障審議会・医療保険部会と中医協で運用の議論が行われ、2026年秋に省令・告示の改正を経て施行される流れが示されています。
通常の一部負担金に加えて、対象薬剤の薬剤費の4分の1が保険外の「特別の料金」として加算されます。保険外併用療養費制度の枠内に設けられる仕組みで、対象薬剤が保険給付から完全に外れるわけではありません。
77成分で、2026年8月時点の対象は1,042品目とされています。「OTC医薬品と成分・投与経路が同一で、1日最大用量が異ならない医療用医薬品」という基準で機械的に選定されており、成分ごとの対象品目一覧が厚生労働省サイトで公表されています。
外用鎮痛消炎剤(いわゆる湿布)と皮膚保湿剤は対象成分に含まれますが、2029年3月31日までの経過措置が設けられます。またアトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質・尿素の通年処方は、長期使用の類型として特別負担の対象外と整理されています。
2026年8月時点では、省令・告示の改正前のため届出や手続きの内容は示されていません。現段階でできるのは、自院の処方実績を成分単位で洗い出すこと、患者説明の想定問答を用意すること、レセコン・電子カルテのベンダーに対応予定を確認することです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の患者に対する特別負担の有無やレセプト請求上の取扱いを保証するものではありません。実際の患者説明・窓口徴収・保険請求にあたっては、2026年秋以降の省令・告示および関連通知を確認のうえ、管轄の地方厚生局に必ずご確認ください。数値・制度は2026年8月時点の情報に基づきます。
公開日:2026年8月17日/最終更新日:2026年8月18日
鎌形 博展(かまがた ひろのぶ)/ 株式会社EN 代表取締役社長。クリニックの開業支援・事務長代行・医業承継(M&A)をワンストップで手がける株式会社ENを率いる。制度改正が相次ぐ医療業界において、開業・承継の実務に精通した立場から現場に即した情報発信を行っている。
医療法人社団季邦会 理事長(首都圏7拠点運営)、東京医科大学救急災害医学講座 非常勤医師
社会医学系専門医指導医、慶應義塾大学大学院経営管理研究科 田中滋・中村洋ゼミ出身