睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、高血圧との関連が深く、未治療のまま放置すると心血管疾患のリスクが高まることが知られています。SASの特徴は、睡眠中に呼吸が一時的に停止することで、血液中の酸素濃度が低下し、交感神経が過剰に働くことです。これが慢性的な血圧上昇につながり、心臓や血管に負担をかけます。また、SASは肥満や糖尿病とも関連し、全身の代謝バランスを崩す要因にもなります。本記事では、SASと高血圧の関係を詳しく解説し、治療による血圧改善の可能性について紹介します。
目次
- SASとは?高血圧との関連性
- 無呼吸が血圧を上昇させる理由
- SASと交感神経の関係
- SASが血圧に与える影響
- 夜間高血圧と早朝高血圧のリスク
- SASによる血管機能の低下と動脈硬化の進行
- SASの診断と治療方法
- 診断の流れと検査方法
- SASの重症度分類と高血圧リスクの違い
- CPAP療法で血圧は改善する?
- CPAP(持続的陽圧呼吸療法)の仕組み
- SAS治療と高血圧改善の関係
- CPAPと心血管イベントリスクの低減効果
- SASを予防・改善するための生活習慣
- 睡眠の質を上げるための対策
- SASと肥満の関係:体重管理の重要性
- 参考文献
1. SASとは?高血圧との関連性
無呼吸が血圧を上昇させる理由
SASは、睡眠中に呼吸が停止または低下することで、酸素不足が生じ、交感神経が過剰に活性化します。これにより、血管が収縮し、血圧が上昇するメカニズムが働きます。
- 酸素不足による血管収縮:低酸素状態が続くことで血管が収縮し、血圧が上昇。
- 交感神経の過活動:無呼吸のたびに交感神経が刺激され、血圧の慢性的な上昇を引き起こす。
- 胸腔内圧の変化:無呼吸による胸腔内圧の変動は、心臓に負担をかけ、血圧を上昇させます。
- 睡眠の質の低下:断続的な覚醒により、血圧調節機能が乱れる。
SASと交感神経の関係
- 夜間の血圧上昇:SAS患者では夜間に交感神経が活性化し、血圧が下がりにくい。
- 日中の血圧変動:睡眠の質が低下することで日中の血圧が不安定になり、心血管リスクが増加。
- 交感神経の持続的な活性化:SASが重症化すると、睡眠中だけでなく、日中も交感神経が常に活性化された状態になり、高血圧が慢性化します。
2. SASが血圧に与える影響
夜間高血圧と早朝高血圧のリスク
SASの影響で血圧は夜間や早朝に特に高くなる傾向があります。
- 夜間高血圧:通常、夜間には血圧が低下しますが、SASの患者ではこの低下が見られず、血管に持続的な負担がかかる。
- 早朝高血圧:睡眠中の無呼吸により血圧が変動し、朝の急激な血圧上昇(モーニングサージ)が起こる。このモーニングサージは、脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めます。
SASによる血管機能の低下と動脈硬化の進行
- 動脈硬化の促進:血管内皮細胞が慢性的な酸素不足にさらされることで、血管の柔軟性が低下し、動脈硬化が進行します。
- インスリン抵抗性の増加:SASは代謝異常を引き起こし、糖尿病や脂質異常症のリスクを高めることで、動脈硬化を促進します。
- 炎症反応の亢進:SASによる低酸素状態は、炎症性サイトカインの産生を増加させ、血管内皮細胞を損傷し、動脈硬化を進行させます。
3. SASの診断と治療方法
診断の流れと検査方法
SASは専門的な検査を通じて診断されます。
- 問診・スクリーニング:いびきや日中の眠気の有無を確認し、SASのリスクを評価します。
- 簡易検査(パルスオキシメトリ):自宅で睡眠中の酸素飽和度を測定し、SASの可能性を評価します。
- 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG):病院で睡眠中の脳波、呼吸、心電図などを測定し、SASの確定診断を行います。
SASの重症度分類と高血圧リスクの違い
- 軽症(無呼吸低呼吸指数AHI 5〜15):血圧変動は比較的少ないですが、長期的に見ると高血圧のリスクを高めます。
- 中等症(AHI 15〜30):高血圧のリスクが増大し、降圧薬の効果が低下することがあります。
- 重症(AHI 30以上):心血管イベントのリスクが極めて高く、高血圧のコントロールが困難になることがあります。
4. CPAP療法で血圧は改善する?
CPAP(持続的陽圧呼吸療法)の仕組み
CPAPは、就寝中に鼻マスクを装着し、気道に持続的な陽圧をかけることで無呼吸を防ぎます。
- 気道の閉塞を防ぐ:空気を送り込み、喉の気道を広げ、閉塞を防ぎます。
- 酸素供給の改善:睡眠中の酸素レベルを維持し、低酸素状態を防ぎます。
- 睡眠の質の改善:無呼吸による覚醒を防ぎ、睡眠の質を改善します。
SAS治療と高血圧改善の関係
- CPAP療法により、平均5~10mmHgの血圧低下が期待できます。
- 特に、治療抵抗性高血圧の患者において、CPAP療法は降圧効果を高める可能性があります。
- CPAP療法は、夜間高血圧や早朝高血圧の改善に有効です。
CPAPと心血管イベントリスクの低減効果
- 長期的なCPAP治療により、心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞など)のリスクが低減することが報告されています。
- CPAP療法は、心臓の負担を軽減し、心不全のリスクを低減します。
- CPAP療法は、動脈硬化の進行を抑制し、血管機能を改善します。
5. SASを予防・改善するための生活習慣
睡眠の質を上げるための対策
- 適正体重の維持:肥満はSASのリスクを高めるため、減量を心がけましょう。
- アルコール摂取の制限:睡眠中の筋弛緩を防ぐため、就寝前の飲酒は避けましょう。
- 禁煙:喫煙は気道を刺激し、SASを悪化させる可能性があります。
- 横向きで寝る:仰向けで寝ると舌根が沈下しやすいため、横向きで寝ることを推奨します。
- 規則正しい睡眠習慣:毎日同じ時間に寝起きし、体内時計を整えましょう。
SASと肥満の関係:体重管理の重要性
- 肥満はSASの最大の危険因子であり、特に内臓脂肪の蓄積は気道閉塞を引き起こしやすくします。
- 体重減少は、気道の容積を増やし、無呼吸の頻度を減少させます。
- 適切な食事療法と運動療法により、体重を管理し、SASを改善しましょう。
SASの管理は、高血圧予防に直結します。睡眠の質を向上させ、適切な治療を受けることで、健康的な血圧を維持しましょう。
6. 参考文献
- 日本呼吸器学会. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.
- 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019.
- 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠指針2023.
監修
鎌形博展 株式会社EN 代表取締役兼CEO、医療法人社団季邦会 理事長
専門科目 救急・地域医療
所属・資格
- 日本救急医学会
- 日本災害医学会所属
- 社会医学系専門医指導医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 国際緊急援助隊・日本災害医学会コーディネーションサポートチーム
- ICLSプロバイダー(救命救急対応)
- ABLSプロバイダー(熱傷初期対応)
- Emergo Train System シニアインストラクター(災害医療訓練企画・運営)
- FCCSプロバイダー(集中治療対応)
- MCLSプロバイダー(多数傷病者対応)
研究実績
- 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 佐々木 亮,武田 宗和,内田 康太郎,上杉 泰隆,鎌形 博展,川島 理恵,黒嶋 智美,江川 香奈,依田 育士,太田 祥一 救急医学 = The Japanese journal of acute medicine 41 (1), 107-112, 2017-01
- 基礎自治体による互助を活用した災害時要援護者対策 : Edutainment・Medutainmentで創る地域コミュニティの力 鎌形博展, 中村洋 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 2016
メディア出演
- フジテレビ 『イット』『めざまし8』
- 共同通信
- メディカルジャパン など多数
SNSメディア
- Youtube Dr.鎌形の正しい医療ナビ https://www.youtube.com/@Dr.kamagata
- X(twitter) https://x.com/Hiro_MD_MBA
関連リンク
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