飯島由佳さんについて

中国の復旦大学上海医学院MBBS(医学士)で6年間、英語で臨床医学を学び、卒業後は米国ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院へ進学。国際保健、疫学・生物統計、疾病対策、ワクチン政策や医療経済などを専門に学ぶ。

医学部在学中に、予防接種など基本的な医療へのアクセスから取り残されている子どもたちを支援する一般社団法人Reaching Zero-Dose Childrenを設立。米国内科学会(ACP)日本支部でも予防医学の推進に携わる。

インドでの伝統医学・社会医学の実習、ケニアでの医療実習に加え、大学院ではモザンビークでの感染症研究、UNICEFニューヨーク本部でのインターンシップを経験。医学と公衆衛生の両面から、感染症予防と医療へのアクセス改善に取り組んでいる。

今回は中国、アメリカ、国際機関という異なる環境で学び続けてきた背景や、今後目指すキャリアについて伺いました。

1.中国やアメリカに興味を持った理由と、留学を決断した背景を教えてください

私は幼い頃から世界で起きていることに関心があり、特に困難な状況に置かれている人たちに、自分のキャリアを通して貢献したいという思いがありました。ただ、その頃は、具体的にどのような仕事を通して関わりたいのかまでは、まだ明確になっていませんでした。

将来の道を具体的に考えるようになったのは、東日本大震災を経験してからです。震災後に防災ボランティアへ参加し、2015年には国連世界防災会議の最年少ユースデリゲイトに選ばれました。そこで、世界各国から集まったユースリーダーとともに、災害時の感染症対策に関するワークショップや政策提言の場に参加しました。この経験を通じて、各国政府や国連機関、NGOなど多様なステークホルダーが協働して、災害や感染症のような複雑な世界規模の課題に取り組む姿に感銘を受け、私も国際的な立場で人々の健康を支える仕事に携わりたいと考えるようになりました。

その後、難民支援に関わる国連機関でのインターンを通して、医療へアクセスできない人々がいる現実を知り、臨床だけでなく、現場と政策の架け橋となり、社会的に困難な状況にある人々が必要な医療を受け、安心して日々を過ごせるよう支えられる国際的な医師になりたいと考えるようになりました。

中国に興味を持ったきっかけは、高校時代の上海での短期研修です。また、中国は経済成長とともに国際社会で存在感を高めており、国際保健の分野でも世界に大きな影響力を持つ重要な国だと考えたことも、中国を選んだ理由の一つです。そして、英語で医学を学びながら、中国語や公衆衛生も学べる復旦大学のカリキュラムに魅力を感じ、新しい環境で挑戦したいという思いから留学を決断しました。

これらの思いを実現するため、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院へ進学し、国際保健学・疫学・生物統計学、ワクチン政策や医療経済学などを学びました。将来は、医学と公衆衛生の両方を強みとし、医療現場と政策をつなぐ国際的な医師として人々の健康に貢献したいと考えています。

2.留学準備や大学院受験で行ったこと、苦労したことは何ですか?

中国の医学部への出願は、必要書類をそろえ、試験や面接の対策を進めました。高校時代からIELTSなどの英語学習を続け、入学後は医学英語にも徐々に慣れていきました。

医学部入学時から公衆衛生大学院への進学を考えていたため、特に大変だったのはGPA(成績評価平均)の維持です。周囲に遅れを取らないよう、少しでも良い成績を取らなければならないという思いが常に強くありました。学業と並行して研究やボランティア、インターン、課外活動に取り組み、サマースクールやオンライン講座にも参加しながら、自分の進みたい分野を明確にしていきました。

大学院選びでは、ランキングだけでなく、カリキュラムや研究内容、教員、卒業生の進路、国際機関との連携などを比較し、志望度の高い大学は実際に訪問して検討しました。受験で最も苦労したのはPersonal Statement(志望理由書)の作成です。これまでの経験や志望理由、将来の目標を一貫したストーリーとしてまとめる必要があり、11校それぞれに合わせて何度も書き直しました。また、英語力証明や推薦状、CV(履歴書)の作成、WESによる学歴・成績の評価手続きの手続きにも時間がかかり、早めの準備の重要性を実感しました。

3.中国の復旦大学上海医学院を選んだ理由と、実際に学んで感じた特徴を教えてください

復旦大学を選んだ理由は、英語で医学を学べること、大学として高い研究力を持っていること、中国語や中国文化、伝統医療も学べることです。私が在籍したMBBS(医学士)プログラムは留学生で構成され、1学年約40人で、さまざまな国籍の学生と学ぶことができました。異なる国の医療制度や健康課題についてクラスメートと話す時間は、とても刺激的でした。

また、学部生でも自分から教授や医師に連絡することで、研究に参加する機会がありました。私が学んだ環境では、臨床医も研究や論文執筆を積極的に行っており、英語力を生かして研究を手伝う機会もありました。

公衆衛生の授業では、中国の大気汚染、環境医学、結核、HIV、寄生虫疾患などを学びました。中国伝統医療も必修で、西洋医学とどのように統合するかという視点は非常に興味深かったです。

医学部卒業時の記念撮影

4.医学生時代に経験した大きな壁と、それをどう乗り越えましたか?

最も大きな壁は、新型コロナウイルス感染症の流行でした。大学2年生後半から5年生頃まで中国に戻れず、ずっと夢だった留学生活において、さまざまな機会損失を経験することになり、とても落ち込みました。そこで、「今できること」に目を向け、米国内科学会日本支部の学生委員会で勉強会や学会発表、予防医学に関する活動へ取り組みました。

また、コロナ禍をきっかけに、基本的な予防接種を一度も受けられていない「ゼロドース・チルドレン」の問題に関心を持ち、友人たちと一般社団法人Reaching Zero-Dose Childrenを設立しました。現在は、政策提言や調査研究、啓発活動、国際学会でのワークショップ、フィリピンでの活動などを行っています。

コロナ禍を通して、思いどおりにいかない状況でも、「今できること」を考え行動する大切さを学びました。

5.ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院を選んだ理由を教えてください

私が進学したのは、Johns Hopkins Bloomberg School of Public Healthの国際保健分野の2年間の修士課程、Master of Science in Public Health(MSPH)です。疫学と疾病対策を中心に学び、2026年5月に修了しました。ジョンズ・ホプキンス大学を選んだ理由は、世界トップクラスの公衆衛生大学院として、国際保健分野の強力なネットワークを持ち、最新の研究や技術を活用した疾病対策を学べる環境があるからです。

国際機関や低・中所得国でのフィールド経験を持つ教員が多く、授業でも実際の政策や公衆衛生プログラムを想定した課題に取り組みます。私の在籍時は約30人の少人数制で、学生一人ひとりに教員メンターがつく環境でした。1年目は疫学、生物統計学、感染症、ワクチン科学、研究倫理、保健政策、プログラム評価などを学び、2年目はインターンシップや研究、卒業論文を通じて実践経験を積みます。

私は、将来的に国連機関で予防接種や感染症対策に取り組み、国境を越えた疾病予防や治療の意思決定に貢献することを目指しています。ジョンズ・ホプキンス大学で学ぶことが、その目標に近づく大切な一歩になると考え、進学を決めました。

6.ロータリー・グローバル補助金奨学生としての経験は、どのような影響を与えましたか?

ロータリーのグローバル補助金奨学金では、約4万ドルの支援をいただきました。海外大学院への進学には多額の費用がかかるため、経済的な支援は非常に大きな助けとなりました。また、ロータリーは長年ポリオ根絶や予防接種の推進に取り組んでいます。UNICEFやワクチン分野の方と話す際に、ロータリー奨学生であることを伝えると、ポリオや予防接種、NGO活動の話につながることが多くありました。金銭的な支援だけでなく、国際保健に関心を持つ方々とのネットワークや、地域のロータリーの方々との温かいつながりを得られたことも、大きな財産です。

7.モザンビークやUNICEFでは、どのような仕事を経験しましたか?

モザンビークでは、国立保健研究所(Instituto Nacional de Saúde)で、コレラの分子疫学研究に参加しました。検体管理やデータ照合、DNA抽出、qPCR、全ゲノム解析の準備などを担当し、研究結果を感染症対策に生かすには、高度な解析技術に加え、適切な検体管理や信頼できるデータ、現地の検査・サーベイランス体制が重要であることを学びました。また、国際共同研究では、現地の方々との信頼関係や文化への理解の大切さも実感しました。さらに、現地での研究に集中的に取り組む、密度の高い経験となりました。

その後、PAVE ScholarとしてUNICEFニューヨーク本部の保健・予防接種部門でインターンを行い、Gaviワクチンアライアンス支援事業の進捗分析や報告書作成、各国データの整理、HPVワクチンプログラムのデータ分析などに携わりました。UNICEFでは、予防接種はワクチンだけでなく、物流や保健医療従事者、データシステム、地域との連携など、保健システム全体によって支えられていることを学びました。また、データの背景にある人々の暮らしや地域の状況を理解することの重要性も実感しました。

インターンシップを通して、多国籍チームで協働する面白さと難しさを学び、将来も予防接種や保健システム強化に携わりたいという思いがより強くなりました。引き続き、UNICEFのコンサルタントとして、予防接種とプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)の統合に関する調査業務にも携っています。

UNICEFニューヨーク本部でのインターン

8.今後、どのような医師・専門家を目指していますか?

ジョンズ・ホプキンス大学での留学は、私にとって大きな転機となりました。疫学や感染症学、公衆衛生を学び、研究やフィールドワーク、国際機関でのインターンを通して、国際保健の現場に触れることができました。留学前は憧れの気持ちが強かったこともあり、国際保健を遠く特別な仕事だと考えていましたが、実際には、データを丁寧に分析し、現地の方々と信頼関係を築きながら、限られた資源の中で地道な最善策を積み重ねることが人々の健康を支えていると学びました。

将来は、医学と公衆衛生の両方の学びを活かし、感染症を専門とする医師として、目の前の患者さんの診療に携わると同時に、予防や研究を通じて、より多くの人々の健康を守ることにも貢献したいと考えています。特に、感染症対策や予防接種、保健システム強化の分野で、研究と実践、現場と政策をつなぐ役割を担うことが目標です。

  留学生活では多くの壁にも直面しましたが、問い続け、学び続け、人とのつながりを大切にしてきた経験が、自分の視野を大きく広げてくれました。これからも学び続けながら、世界の人々の健康に貢献していきたいと思っています。

取材を終えて

今回の取材を通して、飯島さんは卓越した行動力と探究心、そして高い志を兼ね備えた医療人だと強く感じました。中国の復旦大学上海医学院からジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院へ進学し、研究や国際機関でのインターンシップ、フィールドワークなど、数々の挑戦を重ねながらも、その根底には常に「人々の健康をより良くしたい」という揺るぎない信念がありました。

 世界トップレベルの環境でも現状に満足することなく学び続け、世界の健康課題に向き合う姿勢は、多くの人に勇気と刺激を与えてくれるはずです。今後、国際保健の分野でさらに大きく活躍されることを心から期待するとともに、私自身も飯島さんの姿勢から多くのことを学ばせていただいた、大変貴重な取材となりました。

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