※2026年7月時点の情報です。令和7年(2025年)分の確定申告(2026年2〜3月提出分)に対応しています。

「常勤先のほかに当直バイトやスポットの外来を掛け持ちしているが、確定申告は必要なのだろうか」——非常勤を組み合わせて働く医師の多くが一度は迷うテーマです。結論から言えば、確定申告とは、1年間の所得と納めるべき税額を自分で計算して申告・精算する手続きのことで、給与を2か所以上から受けている医師は、年末調整されなかった給与と副収入の合計が20万円を超えると原則として申告が必要になります。むしろ医師の場合、非常勤先の源泉徴収は高めに天引きされていることが多く、申告することで税金が戻る(還付される)ケースが少なくありません。本記事では、国税庁の公式ルールと令和7年度の税制改正をもとに、バイトを掛け持ちする医師が押さえるべき確定申告の基本と注意点を、実務の順序に沿って解説します。

この記事の要点

  • 確定申告とは、1年間の所得と税額を自分で計算し、過不足を精算する手続きのことです。
  • 給与を2か所以上から受ける医師は、年末調整されない給与と他の所得の合計が20万円を超えると確定申告が必要です(国税庁)。
  • 非常勤・スポットの給与は源泉徴収の「乙欄」で高めに天引きされるため、申告で税金が戻ることが多い点が医師特有のポイントです。
  • 令和7年(2025年)分から給与所得控除の最低保障が65万円に、基礎控除が最大95万円に引き上げられました(国税庁)。
  • 所得税で「20万円以下だから申告不要」でも、住民税の申告は別途必要になる場合があります。

結論:医師に確定申告が必要なのはどんなときか

確定申告が必要かどうかは、給与の受け取り先が「1か所か、2か所以上か」でまず判断します。常勤先1か所のみで、副収入がほとんどなければ、年末調整だけで納税は完結し、確定申告は原則不要です。一方、当直バイトやスポット外来など常勤先以外からも給与を受けている医師は、一定額を超えると申告義務が生じます。

「主たる給与」と「従たる給与」の考え方

複数の勤務先から給与を受ける場合、給与額が最も多い勤務先を「主たる給与」、それ以外を「従たる給与」と呼びます。年末調整は主たる給与の1か所でしか行えないため、従たる給与(バイト分)は精算されないまま残ります。この従たる給与の収入と、他の所得(原稿料や監修料などの雑所得、不動産所得など)の合計が20万円を超えると、確定申告が必要になります。医師の場合、月1回の当直バイトでも年間の給与収入は20万円を容易に超えるため、掛け持ちしている多くの医師が申告の対象になります。

確定申告が必要な医師のパターン(一覧表)

働き方のパターン確定申告根拠・目安
常勤1か所のみ・副収入なし原則不要勤務先の年末調整で完結
常勤+バイト(従たる給与が年20万円超)必要年末調整されない給与+他所得>20万円
常勤+原稿・監修料など(他所得が年20万円超)必要給与以外の所得が20万円超
給与収入の合計が年2,000万円超必要金額にかかわらず年末調整の対象外
従たる給与・他所得が合計20万円以下所得税は不要(住民税申告は別途必要な場合あり)20万円ルールは所得税のみの取扱い

出典: 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」。給与を2か所以上から受け、年末調整されなかった給与収入と各種所得金額の合計が20万円を超える人、給与収入が2,000万円を超える人などが対象と定められています。

2025年分から変わった控除ルールと「20万円」の正しい理解

令和7年(2025年)分の所得税は、給与所得控除と基礎控除が引き上げられ、確定申告の計算に影響します。まず押さえるべきは、控除額が増えたぶん課税所得が下がり、多くの人で税負担がわずかに軽くなるという点です。

給与所得控除・基礎控除の引き上げ

令和7年度税制改正により、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円へ引き上げられ、給与収入190万円以下の人は一律65万円が控除されます。基礎控除も、従来一律48万円だったものが、合計所得金額に応じて58万円〜95万円へ引き上げられました(2025年・2026年は低所得層への上乗せ特例を含む)。この結果、給与所得者が所得税ゼロとなる年収の目安は、従来の「103万円」から「160万円」に変わりました。もっとも、常勤医のように合計所得金額が高い層では基礎控除は58万円(改正前48万円)となり、恩恵は限定的です。出典: 国税庁「No.1199 基礎控除」「No.1410 給与所得控除」および令和7年度税制改正。

扶養の判定基準も変わった

扶養親族・控除対象配偶者と判定される合計所得金額の上限が48万円以下から58万円以下(給与収入で103万円→123万円)へ引き上げられました。あわせて、19歳以上23歳未満の子などを対象に「特定親族特別控除」が新設され、大学生年代の子がアルバイトで一定額を超えて働いても、親が段階的に控除を受けられるようになりました。配偶者や子のパート収入で扶養を判定している医師は、2025年分から基準額が上がっている点に注意してください。出典: 国税庁、財務省「令和7年度税制改正」。

「20万円以下は申告不要」の落とし穴

従たる給与や副収入が20万円以下なら所得税の確定申告は不要ですが、これはあくまで所得税の取扱いです。住民税にはこの20万円ルールがなく、所得があれば原則として市区町村への住民税申告が必要になります。「所得税の申告が不要」=「何もしなくてよい」ではない点に注意が必要です。また、20万円以下でも、医療費控除やふるさと納税(ワンストップ特例を使わない場合)の還付を受けるために確定申告をするなら、その際に従たる給与も含めて申告する必要があります。

バイトを掛け持ちする医師の確定申告5ステップ

掛け持ち医師の確定申告は、書類を集め、すべての給与を合算し、控除を差し引いて税額を精算する、という流れで進みます。以下の順序で進めるとつまずきにくくなります。

必要書類をそろえる

まず、その年に給与を受けたすべての勤務先(常勤先・非常勤先・スポット先)から源泉徴収票を集めます。1枚でも欠けると所得を正しく計算できません。あわせて、生命保険料控除証明書、国民年金・iDeCoの掛金証明書、医療費の領収書、ふるさと納税の寄附金受領証明書など、控除に使う書類を用意します。

申告の手順

  1. すべての勤務先から源泉徴収票を受け取る(退職したバイト先分も忘れずに)。
  2. 各種控除の証明書・領収書を集める。
  3. 国税庁「確定申告書等作成コーナー」またはe-Taxに、すべての給与収入と源泉徴収税額を入力する。
  4. 生命保険料控除・医療費控除・寄附金控除などを入力し、納税額または還付額を確認する。
  5. 2月16日〜3月15日(土日の場合は翌開庁日)の期間内に、e-Taxまたは郵送・持参で提出し、納税または還付口座を登録する。

還付が狙える「乙欄源泉」と特定支出控除

医師が申告で得をしやすい理由が、非常勤・スポット給与の源泉徴収方法にあります。主たる給与は各種控除を反映した「甲欄」で源泉徴収されますが、従たる給与は控除を加味しない「乙欄」で天引きされるため、税率が高めに設定されています。確定申告ですべての給与を合算し直すと、この天引きが過大だったぶんが還付されることが多いのです。さらに、給与所得者でも、資格更新・研修・学会参加・専門書購入などの一定の支出が給与所得控除額の2分の1を超える場合、「特定支出控除」として上乗せ控除を受けられる制度があります。適用のハードルは高いものの、該当しそうな場合は勤務先の証明を得て検討する価値があります。出典: 国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」。

確定申告をするメリット・注意点

掛け持ち医師にとって確定申告は「義務」であると同時に、払い過ぎた税金を取り戻す「機会」でもあります。メリットと注意点を整理します。

  • メリット:乙欄で過大に天引きされた源泉税の還付、医療費控除・ふるさと納税・iDeCoによる節税、住宅ローン控除(初年度)の適用などが受けられます。
  • メリット:所得を正しく申告することで、後日の税務署からの問い合わせや加算税・延滞税のリスクを避けられます。
  • 注意点:期限(原則3月15日)を過ぎると無申告加算税・延滞税の対象になります。納税額がある場合は特に早めの準備が必要です。
  • 注意点:所得が確定すると、翌年度の住民税・国民健康保険料などにも反映されます。手取りの見通しを立てておくと安心です。

特に、常勤に加えて複数のスポットを組み合わせて年収を上げている医師ほど、乙欄源泉の還付余地が大きくなる傾向があります。「申告は面倒」と敬遠するより、まず源泉徴収票を並べて天引き額を確認してみることをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 当直バイトが年1〜2回だけでも確定申告は必要ですか?

従たる給与(バイト分)の収入と他の所得の合計が20万円を超えるかどうかが基準です。医師の当直・スポットは1回あたりの単価が高く、年1〜2回でも20万円を超えることが多いため、その場合は確定申告が必要です。20万円以下でも住民税の申告は別途必要になる場合があります。

Q2. 確定申告をすると税金が増えますか、それとも戻りますか?

ケースによります。非常勤先で乙欄により高めに源泉徴収されている場合は、合算し直すことで還付になることが多いです。一方、収入が高く控除を差し引いても税額が不足する場合は追加納税になります。実際の源泉徴収票を入力して計算しないと結論は出ません。

Q3. バイト先に源泉徴収票をもらい忘れました。どうすればよいですか?

源泉徴収票は給与を支払った事業者に交付義務があります。年末や退職時に受け取れなかった場合は、その勤務先に再発行を依頼してください。すべての給与を合算しないと正しい申告ができないため、1か所でも不足している場合は必ず取り寄せます。

Q4. 原稿料や医療監修の報酬は給与とどう違いますか?

原稿料・監修料・講演料などは、多くの場合「雑所得」または「事業所得」に区分され、給与とは扱いが異なります。これらは収入から必要経費を差し引いた金額が所得となり、給与以外の所得として20万円超の判定に含めます。給与と異なる区分のため、確定申告書上でも別に記載します。

Q5. 2025年分から控除が変わったと聞きました。何を確認すればよいですか?

給与所得控除の最低保障が65万円に、基礎控除が最大95万円に引き上げられました。多くの医師は合計所得金額が高く基礎控除は58万円ですが、配偶者や子の扶養判定の基準(給与収入で123万円)が上がった点は家計に影響します。申告ソフトは改正後の金額で自動計算されるため、扶養家族の収入が新基準内かを確認するのが実務上のポイントです。

まとめ

  • 給与を2か所以上から受け、年末調整されない給与と他所得の合計が20万円を超える医師は、確定申告が必要です。
  • 非常勤・スポットは乙欄で高めに源泉徴収されるため、申告で還付を受けられることが多いのが医師の特徴です。
  • 2025年分は控除が引き上げられ、扶養判定の基準も変わったため、家族の収入基準を含めて確認しておきましょう。

確定申告は、掛け持ちで働く医師にとって払い過ぎた税を取り戻す機会でもあります。まずは今年受け取ったすべての源泉徴収票をそろえ、天引き額を確認することから始めてみてください。具体的な税額計算や特定支出控除の適用可否など、判断に迷う場合は税理士など専門家への相談も選択肢です。

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出典一覧

  • 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
  • 国税庁「No.1199 基礎控除」/「No.1410 給与所得控除」/「No.1415 給与所得者の特定支出控除」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm
  • 財務省「令和7年度税制改正(所得税の基礎控除・給与所得控除の見直し等)」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2025/07taikou_01.htm
  • 国税庁「令和7年度税制改正による給与所得の源泉徴収事務等の変更点」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025005-051.pdf

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監修・著者

鎌形 博展(かまがた・ひろのぶ)
医師/株式会社EN 代表取締役/医療法人社団季邦会 理事長/東京医科大学病院 救急・災害医学講座 非常勤医師

救急・災害医療の現場で臨床経験を積んだ後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)にて経営学を修める。認知症予防や感染症診断デバイスのスタートアップ経営を経て、現在は東京・神奈川で複数のクリニックを運営する医療法人社団季邦会の理事長を務めるほか、医療業界の構造的な人材課題の解決を目指し株式会社ENを創業。医師紹介プラットフォーム「Med-Pro Doctors」、開業支援コミュニティ「クリニック開業ラボ」、医療機関M&Aアドバイザリーを展開する。現在も東京医科大学病院にて救急・災害医学の臨床に携わる。社会医学系専門医指導医。臨床医・経営者・採用側の三つの視点から、医師のキャリア形成についての実践的な情報を発信している。

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