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2026年9月1日から保険医療機関の遡及指定の取扱いが変更されることを示すアイキャッチ画像
開業準備 2026.08.24

【2026年9月1日施行】クリニックの遡及指定ルールが変わる|移転・承継・法人成りの3類型と3か月前ルール

クリニックの移転、親からの承継、個人開業からの法人成り。いずれも「保険医療機関としての指定をどう引き継ぐか」という同じ論点にぶつかります。新規に指定を受ける場合、指定日は原則として申請を行った翌月の1日です。つまり月の途中で旧医療機関を廃止すると、その日から翌月1日までは保険診療の空白期間が生まれ、その間の診療報酬は算定できません。

この空白を埋める仕組みが「遡及指定」です。そして2026年(令和8年)9月1日から、この遡及指定の取扱いが全国統一のルールに切り替わります。根拠となるのは、厚生労働省保険局医療課長通知「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日保医発0605第2号)です(出典:厚生労働省保険局医療課「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日保医発0605第2号))。

この記事では、開業・承継・移転を控えた院長が押さえるべき変更点を、通知の原文に沿って整理します。

遡及指定とは何か——「翌月1日」を前倒しする例外措置

通知は冒頭で、遡及指定の位置づけをこう定めています。新たに保険医療機関等の指定を受ける場合、通常は指定に係る申請を行った翌月の1日が指定日となります。しかし一定の場合には、例外的に、旧医療機関の廃止日と原則として同日または翌日(=遡及指定日)付で新医療機関が指定を受け、その日から診療報酬を算定できます(出典:厚生労働省保険局医療課「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日保医発0605第2号))。

通知が対象として挙げる事例は次の4つです。

  • 保険医療機関等の開設者変更を行う場合
  • 保険医療機関等の所在地変更を行う場合
  • 開設者を個人から法人に、又は法人から個人に変更する場合
  • 保険医療機関を病院から診療所に、又は診療所から病院に変更する場合

いずれも、地方社会保険医療協議会(地医協)で認められた場合に例外的に遡及指定が行われる、という建て付けです。なお保険医療機関の指定そのものの根拠は健康保険法にあります(参照:e-Gov法令検索「健康保険法」(大正11年法律第70号))。

2026年9月1日から何が変わるのか

これまで遡及指定の運用は、昭和32年・昭和33年の古い通知と、平成29年・令和5年の事務連絡の4本に分かれていました。今回の通知は、これら4本を令和8年8月31日限りで廃止し、9月1日以降は新通知に一本化します(出典:厚生労働省保険局医療課「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日保医発0605第2号))。

見直しの契機は、令和7年12月3日の中央社会保険医療協議会総会での議論です。通知は見直しの目的として、保険医療機関が移転・再編等を行う場合における経営上の予見可能性の確保、個別事例に応じた柔軟な取扱いを可能とする観点、そして申請手続き等の全国統一的な運用の推進の3点を挙げています。

実務上の意味は明快です。これまで「厚生局に相談してみないと認められるか分からない」という不透明さがあった部分に、チェックリスト形式の判断基準が示されました。事業計画を立てる段階で、自院のケースが認められる見込みかどうかを事前に見積もれるようになります。

経過措置として、令和8年8月31日以前の日を遡及指定日とする事例であっても、申請を行う医療機関の意向を踏まえて新通知の判断基準に基づく取扱いを行うことは差し支えない、とされています。

3つの類型——自院がどれに当たるかで手続きが変わる

新しい取扱いでは、遡及指定を希望するケースが3類型に整理され、必要書類と手続きが類型ごとに異なります(出典:関東信越厚生局「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(2026年8月3日更新))。

類型1:開設者死亡等の場合(開設者が個人の医療機関に限る)

開設者の死亡・病気等により、血族その他勤務する保険医等が引き続き開設者となり、職員および診療録等を引き継いで患者の診療を継続する場合で、緊急で遡及指定の申請手続きを行うケースです。新医療機関の指定申請と、旧医療機関の廃止に係る届出を行います。事前相談や予定届出書は求められていません。

類型2:至近距離への移転、または開設者のみの変更

次のいずれかに該当し、後述する「基本的には認める要件」をすべて満たす場合です。

  • ア 至近の距離への移転:同一都道府県内における直線距離で2km以内への移転(開設者に変更がない場合に限る)
  • イ 所在地移転を伴わない開設者のみの変更:病院・診療所については、①変更前の開設者が個人で、血族その他勤務する保険医等の個人に変更する場合、②変更前の開設者が個人で、当該個人を代表者(理事長)とする法人に変更する場合、③変更前の開設者が法人で、当該法人の代表者(理事長)を個人の開設者に変更する場合、のいずれかに限る

イの②が、いわゆる「法人成り」に当たるパターンです。イの①は、親から子への承継など個人間の開設者変更が典型例になります。

この類型では、通常の指定申請書類に加えて「別紙1」の確認書類を提出します。通知は、厚生局への予定届出書の届出による事前相談の手続きは不要としています(ただし要件該当性に疑義がある場合は問い合わせが必要)。3類型のなかで最も手続きが軽い区分です。

類型3:その他の場合

類型1・2に該当しない事例です。関東信越厚生局は具体例として、直線距離で2kmを超える所在地移転を行う場合、所在地移転と開設者変更を同時に行う場合、病院から診療所(診療所から病院)に変更を行う場合などを挙げています。

この類型では、遡及指定の可否を慎重に判断する必要があるとされ、原則として遡及指定を希望する日の3か月前までに、厚生局に「別紙2-1(病院・有床診療所用)」「別紙2-2(無床診療所用)」「別紙2-3(薬局用)」のいずれかの予定届出書を提出し、厚生局の要請に応じて事前相談を行う必要があります。その後、指定申請時にも同じ別紙を届出書として提出します(様式:関東信越厚生局「別紙2-2(無床診療所用)」PDF)。

移転先の物件契約や内装工事のスケジュールを組む前に、この「3か月前」の起点を押さえておく必要があります。とくに移転と開設者変更を同時に行う計画は、類型2ではなく類型3になる点に注意してください。

類型2で求められる「基本的には認める要件」

類型2は事前相談が不要な代わりに、次の要件をすべて満たすことが前提です。無床診療所のケースに絞って整理すると以下のとおりです(出典:厚生労働省保険局医療課通知(令和8年6月5日保医発0605第2号)抜粋「基本的には認める要件」)。

  • 1つの保険医療機関の廃止と1つの保険医療機関の開設を伴う事例であること(複数の廃止・開設を伴わない)
  • 診療録等の引継ぎが行われること
  • 新医療機関において、旧医療機関を受診した患者の診療に係る問い合わせへの対応を行うこと
  • 旧医療機関の外来・在宅患者への診療が、新医療機関において引き続き行われること
  • 旧医療機関における主な標榜診療科が、すべて新医療機関において引き続き標榜されること
  • 新医療機関の管理者が、旧医療機関の管理者と同一の医師であること(開設者が個人で管理者を兼ねている場合に、血族その他勤務する保険医との間で開設者および管理者を同時に変更するときは、この限りではない)
  • 旧医療機関で診療にあたっていた医師(常勤・非常勤)のうち、概ね8割以上(小数点以下切り捨て)が新医療機関において引き続き雇用されること。所在地移転を伴わず開設者のみ変更する場合は、原則として当該開設者を除く全ての職員が引き続き雇用されること
  • 旧医療機関で診療にあたっていた常勤医師のうち、概ね5割以上(小数点以下切り捨て)が新医療機関において常勤医師として引き続き雇用されること

法人成りのように所在地移転を伴わない開設者変更では、「開設者を除く全ての職員が引き続き雇用されること」が原則とされている点が重要です。法人化と同時に人員整理を計画している場合、この要件との整合を先に確認しておく必要があります。

類型3の判断基準——距離要件は診療所と病院で異なる

類型3では、より詳細な判断基準に照らして可否が判断されます。無床診療所の距離要件は、「同一市区町村内」または「同一都道府県内の直線距離で6km以内」のいずれかです。病院・有床診療所は「同一二次医療圏内」または「同一都道府県内の直線距離で12km以内」のいずれかとされています(出典:厚生労働省保険局医療課通知(令和8年6月5日保医発0605第2号)抜粋「遡及指定の可否の判断基準」)。

職員の引継ぎについては、旧医療機関で診療にあたっていた常勤医師のうち概ね5割以上、または「常勤医師数」と「非常勤医師の常勤換算医師数」の和の概ね5割以上に相当する医師が、新医療機関で引き続き雇用され診療にあたることが基準です。類型2の8割要件より緩やかですが、事前相談と3か月前の予定届出が課される点で総合的な負担は重くなります。

また通知は、標榜診療科の一部を縮小する場合、および管理者が変更となる場合について「特に慎重な判断を要する」と明記しています。これらの判断基準を満たさない事項がある事例については、遡及指定は原則として認められないこととされています。

施設基準はいつから算定できるのか

遡及指定が認められた場合の施設基準の扱いは、3つに区分されます(出典:厚生労働省保険局医療課「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年6月5日保医発0605第2号))。

  • ア 旧医療機関で届出が受理されていた施設基準:新医療機関でも要件を満たすものとして、厚生局ごとに定められた期日までに届出が行われれば、遡及指定日から算定できます。
  • イ 新たに届け出る施設基準のうち、実績を要しないもの:定められた期日までに届出があり要件審査を終えた場合に限り、遡及指定日の属する月から算定できます。
  • ウ 新たに届け出る施設基準のうち、実績を要するもの:旧医療機関における実績を届出上の実績として取り扱ったうえで、アと同様の扱いになります。ただし旧医療機関がその実績を有していない場合は、新医療機関において届出にあたり実績を有していることが必要です。

アとイ・ウで起算点が「遡及指定日」と「遡及指定日の属する月」に分かれる点、そして届出期日は厚生局ごとに定められる点に注意が必要です。自院を管轄する厚生局に期日を確認してください。

あわせて確認したい:2026年4月からの管理者要件

承継や法人成りで管理者を変更する場合、2026年4月1日から施行された保険医療機関の管理者要件の確認も必要です。健康保険法第70条の2第1項に基づき、管理者となるには保険医であることに加え、病院または診療所において3年以上保険診療等に従事した経験を持つことが基本的な要件とされています。ただし2026年4月1日時点で管理者である方は、同一保険医療機関の管理者である限り3年間は引き続き管理者であり続けることができます(出典:厚生労働省「保険医療機関の管理者の要件・責務について」)。

管理者変更の届出時には、要件を満たす旨のチェックと添付書類の提出が必要になっています(出典:関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」(2026年8月3日更新))。遡及指定の要件では「管理者が旧医療機関と同一であること」が問われる場面が多いため、両方の制度を突き合わせて確認しておくと手戻りが減ります。

まとめ

2026年9月1日以降、遡及指定は3類型に整理され、類型ごとに手続きの重さが明確に分かれます。実務上のポイントは3つです。

  • 自院のケースがどの類型かを最初に判定する。2km以内の移転(開設者変更なし)か、移転を伴わない開設者のみの変更なら類型2。それ以外は類型3です。
  • 類型3なら「希望日の3か月前」を逆算する。予定届出書の提出と事前相談が前提になります。物件契約より前に着手すべき工程です。
  • 職員・標榜診療科・管理者の引継ぎ計画を要件と突き合わせる。とくに法人成りでは、開設者を除く全職員の継続雇用が原則とされています。

本記事は2026年8月時点で公開されている通知および厚生局ページに基づいています。手続きの期限や必要書類の詳細は地方厚生(支)局ごとに定めることとされているため、実際の申請にあたっては必ず管轄の厚生局・都県事務所に確認してください。

よくある質問

Q1. 個人開業から医療法人化する場合、遡及指定は必要ですか。

開設者が個人から法人に変わるため、保険医療機関としては旧医療機関の廃止と新医療機関の開設という扱いになります。遡及指定を受けなければ、指定日は申請の翌月1日となり、それまでの期間は保険診療の空白が生じます。所在地移転を伴わず、開設者本人を代表者(理事長)とする法人への変更であれば、類型2に該当し得ます。

Q2. 類型2に当たる場合、事前相談は本当に不要ですか。

通知は「地方厚生(支)局への予定届出書の届出による事前相談の手続きは不要」としています。ただし「基本的には認める要件」への該当性に疑義等がある場合は、必要に応じて問い合わせを行うこととされています。判断に迷う点があれば早めに管轄の都県事務所に確認するのが安全です。

Q3. 移転先が直線距離で3kmの場合はどうなりますか。

2kmを超えるため類型2には該当せず、類型3として扱われます。無床診療所であれば「同一市区町村内」または「同一都道府県内の直線距離で6km以内」という判断基準に照らして可否が判断されます。3か月前の予定届出書提出と事前相談が必要です。

Q4. 移転と同時に開設者も法人に変える予定です。類型2でよいですか。

関東信越厚生局は、所在地移転と開設者変更を同時に行う場合を類型3の例として挙げています。距離が2km以内であっても、類型2のアは「開設者に変更がない場合に限る」とされているため、同時に行う計画は類型3として3か月前の予定届出が必要になると考えられます。具体的な取扱いは管轄の厚生局にご確認ください。

Q5. 「機能移転」は遡及指定と何が違いますか。

機能移転は、保険医療機関の廃止を伴わずに診療機能(施設基準の届出を要するもの)を別の保険医療機関へ移す場合の取扱いです。一定の基準を満たせば、移転元医療機関の実績要件を引き継いで機能移転日から算定できます。こちらも原則として希望日の3か月前までの予定届出と事前相談が必要です(出典:厚生労働省保険局医療課通知(令和8年6月5日保医発0605第2号)抜粋「機能移転の可否の判断基準」)。

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