新潟県の記事では、県内に点在する「その地域で唯一の病院」を中心に、施設群を広域に組んで研修する姿を紹介しました。東京都はその対極にあります。同じ「地域」でも、東京で問われるのは広さではなく密度です。数百メートル圏内に複数の大学病院がひしめき、同じ診療科のプログラムを何校もの大学が競うように運営しています。ここでは、その密度が実際にどういう研修環境を生んでいるのかを見ていきます。
東京の医療の「密度」を数字で見る
residentstoryに掲載している東京都内の専門研修プログラムは182件、10診療科にわたります。これは新潟県(61件・18診療科)の3倍近い件数を、東京23区・多摩地域という新潟よりはるかに狭いエリアに抱えているということです。
その分布も極端に偏っています。上位3区だけで文京区42件・新宿区35件・板橋区21件、合計98件。東京都内のプログラムのおよそ半分が、電車で数駅の範囲に集まっている計算になります。
「医育の三極」──文京区・新宿区・板橋区
この集中には理由があります。文京区には東京大学・東京科学大学(旧東京医科歯科大学)・順天堂大学が、新宿区には慶應義塾大学・東京医科大学・東京女子医科大学が、板橋区には日本大学医学部附属板橋病院・帝京大学医学部附属病院が、それぞれ徒歩や電車ですぐの距離に並んでいます。1つの区の中に複数の大学病院が存在し、しかもそれぞれが独立して同じ診療科の専門研修プログラムを運営している。これは1県に医学部がひとつしかない新潟のような県では起こり得ない構造です。
27の大学病院が、それぞれ「フルセット」を揃えている
東京都内でプログラムを持つ大学病院は27校にのぼります。新潟大学が県内でほぼ独占的な存在であるのとは対照的に、東京では多数の大学病院が並び立っています。
さらに注目したいのは、その多くが単科ではなく、10診療科のうち8科以上をカバーする「フルセット型」になっていることです。residentstoryのデータでは、そうした大学病院が13校あります。東京科学大学・東京女子医科大学・東京医科大学・慶應義塾大学・東邦大学医療センター大森病院・帝京大学・昭和医科大学・日本大学医学部附属板橋病院・杏林大学・日本医科大学など、名だたる大学病院がほぼ横並びで放射線科から形成外科まで揃えています。「大学病院を選べばどの科でも研修できる」という前提が、東京では複数の大学で同時に成立しているわけです。
掲載182件のうち138件が大学病院によるプログラムで、割合にするとおよそ4分の3。都立病院・国立病院機構・日赤・済生会といった非大学系の基幹施設も存在しますが、東京の専門研修は基本的に大学病院が主戦場だと考えてよいでしょう。
診療科ごとの見どころ
同じ「大学病院のフルセット」でも、診療科ごとに研修の中身は大きく違います。掲載データから、いくつか具体的な特色を拾ってみます。
- 整形外科:慶應義塾大学病院は脊椎・上肢・下肢・骨軟部腫瘍の4臨床班に加え、スポーツ・外傷の横断グループを持ち、骨粗鬆症外来や肉腫専門外来まで専門外来を細分化しています
- 皮膚科:東京大学医学部附属病院は膠原病・アトピー・リンフォーマ・皮膚外科・水疱症・乾癬・レーザーと、専門外来を科内でここまで分けている点が特徴です
- 泌尿器科:東京大学医学部附属病院はロボット支援手術や腹腔鏡手術に加え、進行精巣癌の化学療法や下大静脈腫瘍塞栓を伴う進行腎癌の拡大手術など、高難度症例への言及があります
- 脳神経外科:昭和医科大学病院は開頭手術と脳血管内治療の両輪を掲げ、脳血管内治療コース・ハイブリッドコース・脳血管外科コースの3コース制をとっています
- 形成外科:杏林大学医学部付属病院は陳旧性顔面神経麻痺から血管腫脈管奇形、下肢救済フットケア、乳房再建、頭頸部再建まで、あらゆる分野を網羅する総合型を特色に挙げています
- 放射線科:国立がん研究センター中央病院は放射線診断科・放射線治療科それぞれに入口を分けたコース設計で、がん専門病院ならではの症例に特化しています
同じ診療科でも、大学ごとに何を強みとして押し出しているかがはっきり違います。プログラムを比較するときは、施設名だけでなく、こうした専門外来・コース制の中身まで読み比べる価値があります。
シーリングが最も強く効く場所
制度の記事で触れたシーリング(都市部集中を抑えるための募集定員の上限)は、実際にどう効いてくるのでしょうか。掲載データの中に、まさにその実例があります。慶應義塾大学病院の整形外科プログラムは、募集要項の定員欄に「東京都のシーリングにより変更」という記載があり、当初の想定人数から調整が入ったことをうかがわせます。
東京都は、医師が全国で最も集まりやすい都道府県です。だからこそシーリングの対象になりやすく、志望する大学・診療科によっては「必ずしも希望通りの定員では採用されない」という前提で臨む必要があります。国立がん研究センター中央病院の放射線科プログラムも、募集要項に「日本専門医機構の定めるシーリングによっては募集中止となる可能性もあります」と明記しています。都市部の人気プログラムほど、この制約を正面から受け止めていると言えます。
「大学病院に入れば安泰」ではない
名だたる大学病院が並ぶと、つい「ブランドで選べば間違いない」と考えたくなります。ただし掲載データを見ると、東京の名門施設だからといって情報開示が手厚いとは限りません。facility_type(施設の性格)が「要確認」のまま残っているプログラムも一定数あり、プログラム責任者の実名が非公開のまま、定員の年間・累計の別があいまいなまま募集されている例も見られます。
大学のブランドと、募集要項の情報開示の丁寧さは別軸です。「有名大学だから中身も確認済み」と早合点せず、他のプログラムと同じ基準で読み比べることが必要です。
新潟と東京、両極を知っておく意味
新潟県と東京都は、residentstoryに掲載しているプログラムの中でも最も対照的な2つの事例です。新潟は、県内に点在する「地域で唯一の病院」が幅広い症例と重い責任を専攻医に預ける形で研修の厚みを作っています。東京は、狭いエリアに集中する多数の大学病院が、それぞれ高度に専門分化した外来・コース制で研修の厚みを作っています。
どちらが優れているという話ではなく、厚みの作り方が違うということです。専門領域を絞り込む前に幅広い責任を経験したいのか、早い段階から高度に専門分化した環境で症例を積みたいのか。この2つの記事を読み比べることは、その判断材料になります。
プログラムを比較するときに見るべきポイント
- フルセット型か、専門特化型か:多くの診療科を横断的に持つ大学か、特定分野に強みを絞った施設か
- 専門外来・コース制の細分化度合い:科内でどこまで専門を分けているか。細分化されているほど、その分野を深く経験できる可能性が高い一方、症例が偏りやすい面もある
- シーリングの影響:募集要項に定員変更やシーリングへの言及があるか。想定人数どおりに採用されるとは限らない前提で見る
- 連携施設の地理的な範囲:同じ区内で完結するか、都内を広く回るか、他県の施設も含むか
- 情報開示の丁寧さ:大学のブランドと、facility_type・定員・責任者名などの開示度は別軸だと考えて比較する
「記載がない」ことも情報として読む
東京都内のプログラムは情報量そのものは多いものの、定員が年間か累計か曖昧だったり、プログラム責任者名が非公開のままだったりする例が、名門とされる施設にも見られます。residentstoryでは確認できなかった項目を憶測で埋めず「要確認」と表示しています。見学や問い合わせの際は、その「要確認」の項目こそ質問すべきポイントです。
そして、これだけ選択肢が多いからこそ、実際にそこで研修した人の実感が比較の決め手になります。指導医との距離感、専攻医同士の競争の様子、専門外来にどれだけ主体的に関われるか。residentstoryでは、東京で研修した専攻医・修了者の口コミを集めています。