中国の医療現場で実習を行う日本人医学生や、今後中国での勤務を予定している医療従事者にとって、医療中国語の習得は非常に重要です。また、中国語を話せる医療スタッフが日本の病院にいることは、中国語を話す患者さんにとって大きな安心感につながるだけでなく、語学スキルは就職やキャリアの面でも大きな強みとなります。
さらに、実際に中国で働く予定がない場合でも、国際学会やアジア圏の医療連携の場などで中国の医療関係者と関わる機会は少なくありません。そのような場面においても、医療中国語の基礎知識は大いに役立ちます。
本記事では、「病院で使える医療中国語フレーズ」をテーマに、臨床現場で実際に使える表現を場面別にご紹介します。「問診・診察」「検査・処置」「病棟・外来での日常会話」「医学生・研修医向けのコツ」の4つのカテゴリに分け、それぞれ日本語訳とピンイン(発音の目安)を添えて丁寧に解説しています。
問診・診察編
問診(病歴聴取)や診察の場面では、患者さんの症状・経過や既往歴、生活状況などを確認する必要があります。まずは中国語で症状を尋ねたり病歴を聴取する基本フレーズを押さえましょう。どれもシンプルな表現なので、何度も音読して慣れておくとスムーズです。
请问您这次是哪里不舒服过来医院的呢?/哪里不舒服?
(Qǐngwèn nín zhè cì shì nǎlǐ bù shūfu guòlái yīyuàn de ne?/(nǎlǐ bù shūfú?)
–今回はどこが具合悪くて病院に来られたのですか?/どこが具合悪いですか?
那是从什么时候开始的?
(nà shì cóng shénme shíhou kāishǐ de)
–それはいつからですか?
具体哪里不舒服呢?
(jùtǐ nǎlǐ bù shūfu ne?) (例:腹痛-左上/右下/全腹)
–具体的にどこが具合悪いですか?
ポイント:例えば、腹痛がある場合などに、どの部位かを詳しく尋ねる時に使えます。
在来我们医院之前您有去其他医院看过吗?
(Zài lái wǒmen yīyuàn zhīqián nín yǒu qù qítā yīyuàn kàn guò ma?)
–当院に来られる前に、他の病院を受診されましたか?
您以前有什么病吗?
(nǐn yǐqián yǒu shénme bìng ma)
–今までにかかった病気はありますか?
您有没有做过什么大的手术/受过什么大的外伤啊?/有没有输过血?
(Nǐn yǒu méiyǒu zuò guò shénme dà de shǒushù?/ Shòu guò shénme dà de wàishāng a?
/ Yǒu méiyǒu shū guò xuè?)
–あなたは大きな手術を受けたことがありますか?/大きなけがをしたことはありますか?/輸血を受けたことはありますか?
您现在在吃什么药吗?
(nǐn yǒu xiànzài chī de yào ma)
–今飲んでいるお薬はありますか?
你在吃抗凝药,抗血小板药吗?
(nǐ zài chī kàng níng yào, kàng xuèxiǎobǎn yào ma)
–抗凝固薬や抗血小板薬を服用していますか?
你在吃使血液变稀的药吗?
(nǐ zài chī shǐ xuèyè biàn xī de yào ma)
–血液をサラサラにする薬を飲んでいますか?
你有没有对什么药物/食物过敏呢?
(nǐ duì yàowù huò shíwù guòmǐn ma)
–薬や食べ物にアレルギーはありますか?
以上は問診で特によく使う質問です。「哪里不舒服?」は「どこが不調ですか?」という意味で主訴を聞き出す定番表現です。また、既往歴や服薬歴を確認する質問も重要です。例えば「抗凝固薬」のような専門用語は患者さんに伝わらない可能性もあるため、噛み砕いた表現(使血液变稀的药)も覚えておくと親切でしょう。問診時にはこのように簡単で分かりやすい中国語を心がけると、患者さんとのコミュニケーションが円滑になります。また、「アレルギーがありますか?」という質問も、「你有过敏吗?(nǐ yǒu guòmǐn ma?)」と短く聞くこともできますが、「你对药物或者食物过敏吗?(nǐ duì yàowù huòzhě shíwù guòmǐn ma?)=薬や食べ物にアレルギーはありますか?」と具体的に聞くと、より正確な情報が得られます。
中国の病院における問診の流れと基本項目
中国での医療実習では、「何をどの順番で聞くか」も非常に重要です。実際、中国の病院では問診の構成と項目が明確に定められており、全国でほぼ共通のスタイルが用いられています。
以下は、標準的な問診構成です: 中国の臨床現場での問診構成
区分 | 内容 |
自己紹介・導入 | 「您好,我是您的主治医生……」などからスタートし、診察への同意を得る言葉も入れる |
一般情報 | 名前、年齢、性別、出身地、職業、婚姻状況、民族など |
主訴(zhǔsù) | 現在の主な症状とその持続時間(例:发烧3天) |
现病史(xiàn bìngshǐ) | 発症の時期、誘因、増悪・緩解因子、生活との関連、治療経過 |
既往史(jìwǎngshǐ) | 高血圧・糖尿病・手術歴・アレルギー・予防接種など |
个人史(gèrén shǐ) | 喫煙・飲酒・住環境・職歴・旅行歴・精神的外傷の有無など |
月经与婚育史(女性) | 初潮・閉経年齢、妊娠・出産歴、月経周期・生理痛など |
家族史(jiātíng shǐ) | 遺伝疾患の有無、両親や兄弟姉妹の健康状態・死亡理由など |
この構成は、中国医学生や研修医が問診を行う際に使う公式テンプレートや教科書、病院の書式に基づいており、全国で共通的に使用されています。
検査・処置編
採血や点滴、検査などの処置場面で使うフレーズをまとめました。検査・処置では患者さんへの声かけ(実施する内容の説明や注意喚起)が大切です。ここでは採血・注射、静脈点滴、レントゲン検査といった場面ごとの実用フレーズを紹介します。日本語と構造が似た表現も多いので、動作の指示は落ち着いて伝えましょう。
採血・注射の場面で
我来给您抽血,请坐在这儿
(Wǒ lái gěi nín chōuxuè, qǐng zuò zài zhèr)
–採血しますので、ここに座ってください。
ポイント:「抽血(chōuxuè)」は「採血する」の意味です。
把胳膊露出来,握紧拳头
(Bǎ gēbo lù chūlái, wò jǐn quántóu)
–腕を出して、拳を握ってください。
ポイント:「胳膊(gēbo)」=腕、「拳头(quántóu)」=拳。
请您松开拳头。
(Qǐng nín sōngkāi quántóu)
–力を抜いて手を開いてください。
ポイント:「松开」は「リラックスさせて開く」の意。採血後に言うとスムーズです。
大约三分钟按住这里
(Dàyuē sān fēnzhōng àn zhù zhèlǐ)
–約3分間ここを押さえていてください。
ポイント:「按住(àn zhù)」は押さえること。止血の指示として定番です。
您以前有没有晕针或晕血史?
(Nín yǐqián yǒu méiyǒu yūn zhēn huò yūn xuè shǐ?)
–注射や血で気を失ったことはありますか?
ポイント:「晕针」「晕血」はそれぞれ注射や血を見て気絶した経験のこと。
您对酒精消毒有过敏吗?
Nín duì jiǔjīng xiāodú yǒu guòmǐn ma?)
–アルコール消毒にアレルギーはありますか?
ポイント:「酒精」=アルコール、「过敏(guòmǐn)」=アレルギー。
点滴・処置の場面で
我们现在开始点滴(输液),请您躺在这张床上。
(Wǒmen xiànzài kāishǐ diàndī (shūyè), qǐng nín tǎng zài zhè zhāng chuáng shàng)
–これから点滴を始めます。このベッドに横になってください。
ポイント:「输液」は医学用語、「点滴」は日常語。両方知っておくと便利です。また、地域背景に応じて点滴(北方)や吊水(南方)を使い分けるのも重要です。
请把胳膊伸出来
Qǐng bǎ gēbo shēn chūlái)
–腕を伸ばして出してください。
ポイント:「伸出来」は「伸ばして出す」というニュアンスを含みます。
点滴(输液)部位有疼痛吗?
(Shūyè (diàndī) bùwèi yǒu téngtòng ma?)
–点滴部位に痛みはありますか?
ポイント:「疼痛(téngtòng)」は医学用語で「痛み」。
输液大约需要两小时,期间请不要随意移动手臂
(Shūyè dàyuē xūyào liǎng xiǎoshí, qíjiān qǐng búyào suíyì yídòng shǒubì)
–点滴は約2時間かかります。その間、腕を動かさないでください。
ポイント:「随意移动」は「勝手に動かす」の意味。丁寧に制止できます。
レントゲン・検査時の指示
请站在仪器正前方,双手握住这个扶手
(Qǐng zhàn zài yíqì zhèng qiánfāng, shuāngshǒu wò zhù zhège fúshǒu)
–機械の正面に立ち、両手でこの手すりを握ってください。
ポイント:「扶手(fúshǒu)」は手すり、「握住」=握る。
请保持不动
(Qǐng bǎochí búdòng)
–動かないでください。
ポイント:「保持」=維持、「不动」=動かない。レントゲンや処置中の基本声かけ。
请深呼吸,然后屏住呼吸
(Qǐng shēn hūxī, ránhòu bǐng zhù hūxī)
–大きく息を吸って、息を止めてください。
结束了,放松一下。辛苦了!
(Jiéshù le, fàngsōng yíxià. Xīnkǔ le)
–終わりました。お疲れさまでした。
ポイント:「辛苦了」は患者さんへの労いの一言として中国でもよく使います。
検査・処置場面では、事前に何をするか伝える(例:「これから点滴をします」)ことと、患者さんに協力をお願いする表現(例:「動かないでください」「ゆっくり深呼吸してください」)が中心となります。日本語と同様に「~してください(请~)」で丁寧に依頼しつつ、必要に応じて時間や痛みの程度についても説明しましょう。中国語には「输液(shūyè)」という「点滴をする」専門用語もありますが、会話では上記のように「点滴」という言葉がそのまま通じたりします 。状況に応じて簡単な表現を選ぶと良いでしょう。
病棟・外来での日常会話
入院患者さんとの日常的なやりとりや、外来でのちょっとした会話に使えるフレーズを紹介します。朝の挨拶や体調確認、ケアの合間の声かけなど、親しみやすいコミュニケーションに役立つ表現を中心にまとめました。病棟実習では患者さんとの何気ない対話も貴重な学びの機会です。簡単な一言でも中国語で伝えてみましょう。
早上好 昨晚休息得怎么样?/睡得好吗?
(Zǎoshang hǎo! Zuówǎn xiūxi de zěnmeyàng?)/(Shuì de hǎo ma)
–おはようございます!昨晩はよく休めましたか?/よく眠れましたか?
ポイント: 朝の挨拶。「早安(zǎo’ān)」よりも一般的な表現です。
您身体感觉怎么样?
(Nǐn shēntǐ gǎnjué zěnmeyàng)
–ご気分はいかがですか?
ポイント: 直訳は「体の感じはどうですか?」で、容体を優しく尋ねるフレーズです。
请量一下体温。
(Qǐng liáng yíxià tǐwēn)
–体温を測ってください
ポイント: 「量体温(liáng tǐwēn)」で「体温を測る」。検温の際のお願い表現です。
现在帮您测一下血压,请放松。
(Xiànzài bāng nín cè yíxià xuèyā, qǐng fàngsōng)
–これから血圧を測りますね。リラックスしてください。
ポイント:帮您(bāng nín): あなたのお手伝いをします(敬語表現)というニュアンスになります。
三餐按时吃了吗?有没有特别想吃的?
(Sān cān ànshí chī le ma? Yǒu méiyǒu tèbié xiǎng chī de?)
–3食きちんと食べましたか?何か特に食べたいものはありますか?
早饭/午饭/晚饭吃了多少?
(Zǎofàn/wǔfàn/wǎnfàn chīle duōshao)
–朝食/昼食/夕食はどのくらい食べましたか?
ポイント: 食事量の確認。「多少(duōshao)」は「どれくらい」を尋ねる言葉です。
全部/半分/很少。
(quánbù / bànfèn / hěn shǎo)
–全部/半分/少し(※患者の回答例)
ポイント: 食事量を答える際の表現例。「很少(hěn shǎo)」は「ほんの少し」を意味します。
你吃药了吗?
(Nǐ chī yào le ma)
–お薬は飲めましたか?
ポイント: 朝・食後などに服薬状況を確認するフレーズ。「吃药(chī yào)」で「薬を飲む」です。
如果你有任何问题,随时可以问我哦。
(Rúguǒ nǐ yǒu rènhé wèntí, suíshí kěyǐ wèn hùshi o)
–わからないことがあったらいつでも私に聞いてくださいね。
ポイント: 「随时(suíshí)」は「いつでも」、「任何问题(rènhé wèntí)」は「どんな問題(疑問)でも」です。語尾の「哦(ó)」は柔らかいニュアンスを加ます。
病棟や外来での会話では、挨拶や気遣いの言葉をかけることで患者さんとの距離が縮まります。「痛みは大丈夫か」「食事や睡眠は取れているか」など、日本語で普段聞く内容は中国語でもほぼ同じ表現で伝わります。発音に自信がなくても笑顔でゆっくり伝えれば気持ちは届くものです。中国語では語尾に「〜吗?(ma)」を付けて質問にするなど基本的なルールがありますので、シンプルなフレーズでも丁寧な語尾を意識しましょう。また、「ありがとうございます」は「谢谢(xièxie)」、「すみません/失礼します」は「不好意思(bù hǎoyìsi)」などの基本表現も合わせて使えると、より円滑なコミュニケーションが図れます。
医学生・研修医向けのコツ
最後に、中国で実習中の医学生や研修医の方向けにコミュニケーションのコツをまとめます。語学力に不安があっても大丈夫。大切なのは積極的に中国語を使おうとする姿勢と、学び続ける意欲です。
我是来自日本的医学生,现在这里实习。
(Wǒ shì láizì Rìběn de yīxuéshēng, xiànzài zhèlǐ shíxí)
–私は日本から来た医学生で、こちらで実習しています。
ポイント:自己紹介フレーズ。医師であれば「医师(yīshī)」、研修医なら「研修医(実習医生)」といった表現も使えます。初対面の患者さんや同僚に名乗るときに便利です。
请说慢一点。
(Qǐng shuō màn yīdiǎn)
–少しゆっくり話してください。
ポイント:会話についていけないときに使えるフレーズです。「請~」で丁寧にお願いする形になっています。
谢谢您的配合。
(Xièxie nín de pèihé)
–ご協力ありがとうございます。
ポイント:処置や診察に協力してくれた患者さんにお礼を伝えるフレーズです。「配合(pèihé)」は「協力・ご協力」の意味で、フォーマルな場でもよく使われます。
コツ①
専門用語は無理に中国語にせず英語を活用する手もあります。中国の病院では英語が堪能な医師もおり、難しい医学用語は英語で伝えた方が通じる場面もあります。中国語+英語のハイブリッドでコミュニケーションできる柔軟性も大事です。
コツ②
発音(四声)を軽視しないこと。 特に医薬品名や症状の名称は、声調を間違えると通じなくなる恐れがあります。例えば「疼痛(téngtòng)=痛み」は第二声と第四声、「发烧(fāshāo)=発熱」は第一声と第一声です。ピンインの声調記号もしっかり確認し、難しい音は同僚に発音チェックしてもらいましょう。
コツ③
現場で使えるフレーズを徹底的に音読して身につける。 語学はトレーニングです。今回紹介したようなフレーズ集を何度も声に出して練習し、口を慣らしておきましょう。忙しい実習の合間でも、移動時間や休憩中にシャドーイングするだけでも効果的です 。毎日コツコツ取り組めば、必ず現場で役立つ武器になります。
コツ④
ミスを恐れず積極的に話す姿勢。 患者さんやスタッフは、多少文法や発音が間違っていても汲み取ろうとしてくれます。大事なのは「伝えたい」という気持ちです。拙い中国語でも一生懸命話せば信頼関係の構築につながりますし、現場で教わることで上達も早まります。
以上のポイントを踏まえつつ、今後も語学と医療の両面で着実に研鑽を積んでいってください。 日本人医学生にとって、中国での実習は決して容易な挑戦ではありませんが、その分、得られる経験と成長は非常に大きなものと感じています。語学の壁を乗り越え、現地や中国語を話す医療関係者との関わりで多くを学び取ることが、きっと将来の大きな糧になるはずです。
参考資料・学習サイトなど
1.https://nskinoko-room.com/chinese-phrases-for-medical-interview/
2. https://paochai.jp/media/yiyuan
3. https://www.funfunchina.net/phrases-for-hospital/
4. 关于印发《病历书写基本规范(试行)》的通知 ……………… 卫生部、中医药局 病历书写基本规范(试行)__2003年第15号国务院公报_中国政府网
5. https://www.xin-health.cn/tips/722?utm_source=chatgpt.com
6. 【医疗质控|住院病历书写要求】
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