この記事は、獨協医科大学 総合診療医学 主任教授/獨協医科大学病院 総合診療科 診療部長 医師 志水 太郎 氏 へ
ProDoctors運営が独自に取材した内容に基づく記事です。

取材・撮影・文/ProDoctors運営

獨協医科大学 総合診療医学 主任教授/獨協医科大学病院 総合診療科 診療部長 医師 志水 太郎 氏

1997年愛媛大学医学部卒業。獨協医科大学 総合診療医学 主任教授/獨協医科大学病院 総合診療科 診療部長。

著書『診断戦略 診断力向上のためのアートとサイエンス』『NHKドクターG』などを通じ、臨床医として実践的診断学を中心に国内外で診断教育をリードするとともに、数多くの研修医・学生を育ててきた。医師のキャリアが多様化する時代において、「すべての患者さんのケースは素晴らしい学びの機会である」という信念のもと、日常の診療から学びを得る大切さを教育者として伝えている。

苦難を経験して今思うことーーもし「あの時」がなければ、今の自分はいない

初期研修のマッチング、一個もなかったんですよ。本当に、どこにも決まらなかった。アンマッチって、嫌なこと以外の何ものでもないですよね。すごく嫌なことです。少なくとも一晩は嫌な気持ちでした。でも、よくよく考えると、目の前に患者さんがいれば医者として向き合うことができる。医師免許がなくなるわけでもない。だったらいいかな、って思いました。あとは、いつまで環境に甘えてるんだって。当時、もう20年、25年生きてきて、何甘えてんだって、自分に対して思いました。

実は私は、大学を三浪してるのですが、三浪した意味があったのかって言われたら、あったと思っています。それだけ長い期間、頑張ったというのは事実ですから。そこに価値がある。結果よりもプロセスが大事だということです。
さらに遡ると、大学受験の前に母が亡くなり、とても悲しい思いをしました。でもその経験によって得られたことは、たくさんあります。母親がいない人の気持ちとか、母親が急に亡くなった人の気持ちが分かるわけです。
その理解をしながら医者をやっているっていうこと自体に、すごく大きな意味があると思ってます。

いま思うことは、挫けそうになった時、乗り越えなくてもいいと思うんです。そのまま折れなかったということ自体が、明日への自分の自信になる。
苦難が目の前にある時には「頑張れ」という話ではないと思います。もうみんな、頑張ってるので。だから、考え方次第なのではないかな、と思います。

実際に私は、アンマッチを経験して良かったと今では思ってます。強がりではなく、もしあの時アンマッチになってなかったら、その後の人生、全部違うものになりますから。

個人的な行動の根本にあるのが、絶対的な楽観主義なのだと思います。目の前で起こっていることは、表面的に嫌なことでも確実に意味があるし、「絶対に後で返ってくる何かのきっかけだ」と思っています。「禍福は糾える縄の如し」という言葉がありますよね。嫌なことがあれば、いいこともあるわけです。

はっきり言えることは、自分の中で悔いが残る選択はしてきてない。

私は常に、「昨日より自分が強くなってるか」それしか見ていません。

総合診療医というプロフェッショナルーリスクゼロ・リターン無限のキャリア

総合診療科という仕事に対するリスクは、ゼロだと思ってます。逆に、なんでみんなやらないのかなって思うくらい。まだまだ人数が少ないので、完全に売り手市場ですよね。キャリアもポストも、いくらでもある。
「ここまではやる、ここからはやらない」というビジョンがあれば、リスクはゼロで、リターンは無限にあると思います。患者さんを断ることなく、診られる能力を身につけることができる。それが、最大のリターンじゃないでしょうか。

医師としての診断力に関しては、努力で到達できるものです。時間と、適切な訓練が必要なだけ。
手技が訓練で上達していくように、診断にも訓練が必要です。
それは総合診療に限らないと思います。ただ、そこから抜きん出てリーダーになるには、才能がいると思いますね。

「診断にAIは使わない」ー適切な距離感と使い方

診断においてAIは使わないですね。書籍を書く時にも使っていないです。仮にAIで書いてみても、自分の言葉ではないので、ろくなものはできないと思います。
ルーティンワーク、例えば文字起こしとか、客観的な視点が欲しい時のアイデアの壁打ちでは使います。敵として遠ざけるわけでもなく、共同作業の相手として問題のない範囲で使います。

若手医師や医学生へ伝えたいことープロとして丁寧に振る舞い、恩を忘れないことが、キャリアを広げる

キャリアを最短距離で作っていく上では、人脈、つまり人との繋がりが全てだと思っています。
大事なことは、恩を忘れず裏切らないことです。私自身も恩師に助けてもらった経験がありますので、人との出会いや繋がりは大切にしています。自分ひとりで一生懸命やったとしても、できることは限られているので、キャリアを広げたいと思ったら、絶対に人の助けが必要になるということを忘れてはいけないと思います。
そして、人との繋がりにおいてはプロとして、当たり前の日頃の行いや振る舞い、つまり、挨拶をする、相手の名前を覚えるといったことを丁寧に行うことが大切です。

これは患者さんに対しても一緒です。立場の上下は当然ないわけですから。自分の家族に言われたら嫌な言葉を使ってはいけません。患者さんにタメ語を使うこともNGです。人はどこかで見られているし、取り繕っているかどうかも分かります。特に僕ら上級医は見られているということを自覚すべきです。そして「若手医師は成長過程だから仕方ない」ということでもありません。
医療現場の空気感は独特で、高揚感もありますが、空気に飲まれてしまうのはよくないと思っています。自分がその場にいたら必ず修正をかけますね。とても重要なことだと思っています。

より自分がステップアップしていくにはー憧れで終わらせないために

とにかく会いたい人には実際に会った方がいいです。オンラインでもいいのかもしれないですけど、実際に会ってできる限り一緒に行動する。そして、その立ち振る舞いを、実際に目にすることですよね。臨床現場ではそれで感動して「すごいなこの人」と思うわけじゃないですか。 

「この人みたいになりたい」という人を見つけたら、何に憧れているのかをまず要素分解します。もしかしたら全部かもしれませんが、臨床技術、人柄、振る舞い、などと分解していきます。そして、要素それぞれに対してその差分を、毎日少しずつ埋めていく。つまり、「インストールしたい自分」と「今の自分」を比較して、その違う部分を埋めていくという作業です。

そして、自分がやったことに対して「何が良かったのか」考える。悪かったことがあったのであれば、修正していけるように、自分の中で振り返っていくことですよね。「セルフリフレクション」って言うんですけど、これを繰り返すことが、僕は個人的には医者のキャリアの中で重要な毎日のルーティーンなのではないかなと思ってます。

そして目の前の患者さんに対して、自分は彼ら(憧れの人)がやってるようにできてるのかを問うわけです。
できなくて悩んだり、「僕はこう考えてこう動いたんだけど、これで良かったんでしょうか」と、助言を求めてもいいと思います。「分かんないな」って言われたら、自分で考えるしかないですが。

前提として、やっぱり僕ら医者って当然ですが患者さんがいないと仕事として成り立ちません。患者さんを鏡として学ぶんですよね。すごいシンプルですが忘れてはいけないことだと思います。勉強するのに、本とかネットを参照するのもいいですが、結局、目の前の患者さんに対して、自分自身が持っている知識や情報が、適切なのかどうなのか、というのは自ら考えていかなければいけないと思います。

学びにおける軸としては、恩師に対して「いつか追い越す」ということを目標にすればブレません。ありがたいことに、私は医師1年目の時に恩師と出会うことができました。アメリカと日本に1人ずついます。恩師と出会ったことで、軸が完全に決まったんです。だから全くブレませんでした。

今もその恩師たちとは日常的にやり取りをしていますが、「志水、お前はブレてないな」「ブレずに生きてるな」と言っていただけます。やっぱりこれまでその時々でベストな選択をしてきたと思っているので、こうした恩師の言葉を聞くと「自分のやってきたことは、客観的に見てもブレてなかったんだな」と実感します。

恩師を追い越していくのは、弟子としての使命だとも思っていますから、「何をやれば恩師たちに追いつくことができるのか」「追い越していけるのか」。それは私自身、今でも毎日、考えて行動しています。


キャリアの荒波を「折れずに」進むための秘訣は、技術以上にその振る舞いと志にありました。

「恩を忘れず、人を裏切らない」ーー人としての土台を大切にしながら、自己をアップデートし続ける。その視線の先には常に、自らを導いてくれた恩師への敬意と、それを超えていこうとするプロとしての誇りがあります。



獨協医科大学 総合診療医学講座 / 獨協医科大学病院 総合診療科(開講:2016年10月)
HP:https://shindangaku.com/

「診断戦略(診断学)の拠点」として、国内でも有数の教育・臨床体制を誇る総合診療科。志水太郎主任教授のもと、「臨床推論(Clinical Reasoning)」を軸とした高度な診断能力を武器に、原因不明の症状や複雑な併存疾患を持つ患者の診療にあたっている。
大学病院としての高度な専門性を維持しつつ、優れた診断医を育成する教育機関としての側面も強く、エビデンスに基づいた論理的かつ情熱的なアプローチで、日本の総合診療・診断学の標準化と発展を牽引している。


メディカルジョブアワード2026は 2月28日(土)に開催

志水 太郎先生のお話を直接会場で伺える「メディカルジョブアワード2026」は2026年2月28日に開催いたします。ぜひ、お申込みの上でご参加ください。

※企業様のご参加は、スポンサーの方のみ受け付けています。
info@med-pro.jpまでご連絡ください。

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