医療法人社団焔 理事長・TEAM BLUE 代表 安井佑氏へ
ProDoctors運営が独自に取材した内容に基づく記事の【後編】です。

取材・撮影・文/ProDoctors運営

医療法人社団焔 理事長・TEAM BLUE 代表 安井 佑 氏

2005年東京大学医学部卒。医療法人社団 焔(ほむら)理事長/TEAM BLUE代表。

2007年NPO法人ジャパンハートに所属し、ミャンマーにて国際医療支援に従事。その後、杏林大学病院形成外科、東京西徳洲会病院形成外科を経て東日本大震災では被災地支援を経験。震災支援を機に在宅医療の志を立て「やまと在宅診療所高島平」(現:やまと診療所)を開設。「おうちでよかった。訪看」「ごはんがたべたい。歯科」「おうちにかえろう。病院」を開設。

震災が教えてくれた、「医療は生活に入っていく」という現実


2011年に東日本大震災が発生した時、現地に行かないという選択肢は、私の中にはありませんでした。
被災地に入ったのは、震災から10日ほど経った頃です。その頃になると、医療は急性期対応から「生活ケア」へと移行していく段階に入ります。多くの医療者とともに被災地に入り、現場ではプロジェクトマネージャーのような役割を担っていました。

一方で、当時の東京では、若者が現地に行くこと自体に、どこかブレーキがかかっていました。”僕たちは行っちゃいけない”という空気感です。でも、実際に現地に立った私からすると、何百年に一度の災害が、車で数時間の距離で起きているのに、若者が自分の目で見ないのは、直感的に「よくない」と思ったんです。

現地の人たちと話す中で、「温かいものを食べていない」という声が出てきました。それなら、被災地の人たちが少しでも明るくなることをやろう、と考え、お祭りを企画しました。
東京の医療者ではない若者も巻き込み、お金を集めて、毎月バスで被災地に通い、現地でお祭りを開くという活動は、人生を決定づけたというより、「一つのきっかけとして動き出した」という感覚に近いですね。

“箱物ではない医療のカタチ”
ー在宅医療との出会いは、「地域の医療をどうするのか」という問いから


被災地でのお祭りのイベントを1年ほど続ける中で、次第に視点は「この地域の医療をどうするか」という問いへと移っていきました。若手医師が交代で東北の病院の当直を担う、という新しい仕組みも試しました。
目的意識としては、『世の中づくり』という大きなテーマへの関心がありましたし、大きな組織や社会に対して、より良い影響を与えられる立場でありたいという思いはもともとありました。

ただ、議論を重ねる中で出てきたのは、「立派な病院を山の上に建て直すことが、本当に正解なのか?」という問いでした。町の人口は減り、ほとんどが高齢者。立派な箱物をつくっても、維持する人がいない。では、どんな形の医療が、この地域に合っているのか。

その議論の中で出てきたキーワードが、『在宅医療』でした。

被災地支援活動で一緒に動いてくれたメンバーの一人に、在宅クリニックの事務長がいて、彼を通じて、初めて「在宅医療」という言葉を知りました。日本の在宅医療は保険でできると彼から聞き、情報を集めていくうちに、在宅医療は「箱物ではない医療のカタチ」だと感じるようになりました。そしてそれは、ミャンマーで体験してきた「生きる・死ぬ」ということへの向き合い方と、強く重なっていったんです。

“死をネガティブに捉え、医療で遠ざけるのではなく、死も含めて自分の生を考える。その過程を、医療が支える。“
その価値観に、在宅医療はぴったり合っていました。

「患者さんのストーリーを支える」
ーそのために新たな役割や教育システムが必要だった


板橋区で在宅医療をやると決め、同時に相方(現・医療法人社団やまと理事長)の田上佑輔(たのうえゆうすけ)氏が宮城県登米市で在宅医療を始め、週の半分ずつ入れ替わって診療するという、普通の在宅医療とは、かなり違う形でした。

「患者さんのストーリーを支える」ことを大切にしていたのですが、その仕組み上、私は週の半分は東京にいません。日曜から水曜まで患者さんや家族とじっくり話してストーリーをつくるけれど、木曜から土曜のいない間に話が途切れたり、変わってしまうこともありました。そこで生まれたのが、PAという役割です。

在宅医療PA®(Physician Assistant:フィジシャンアシスタント:以下、PA)
ーアメリカの国家資格「PA (Physician Assistant) 制度」を参考に、医療法人社団焔 やまと診療所独自で育成しているスタッフ。未来の在宅医療を支える人として、人とのコミュニケーションを最も大切にしながら、「医師のサポート」「他事業所の方との連携業務」「意思決定支援・環境調整」を行う。ー

PAを仕組みとして整えていく中で、患者さんの数が増え、ドクターとPAが複数の車で周るようになると、「この先生ならこうなった」「別の先生なら、また違う結果になった」という状況が生まれてきました。結果が変わること自体が悪いわけではなく、それが十分な情報と選択のもとで、患者さんや家族が選んだものなのか。そこが一番大事だと考えるようになりました。

最初から再現性の高いモデルを作ろうと思っていたわけではありません。
目の前の一つひとつを積み上げていく中で、必要になったのが、やまと診療所の教育システムだったんです。

チームは、常にチャレンジできる状態をつくり、成功確率を上げるための“戦略”。


チームは、僕らにとってとても大事な言葉です。「チームは戦略」だと思っています。病院でも、訪問診療でも、現場のメンバーが患者さん・ご家族のストーリーを見るために、正解のない問いに一緒に向き合うことを大事にしています。それは、医療者としてやりがいでもあり、醍醐味でもあるけれど、正直しんどい作業でもあります。毎回、出会う人のストーリーが違い、何が正解かわからない。

EBM(Evidence-Based Medicine)の世界では、答えは一つです。専門性の高い医師の指示のもと、みんなで同じ方向を向く。でも、僕らがやっている「ストーリーを見る医療」は違う。分岐点がいくつもあり、どれを選ぶかを考え続ける世界です。

誰が一番良い後押しができるかは、状況によって毎回違うと思っています。だからこそ、アプローチする人を固定しないためにも、チームが必要です。それは『疲弊しないため』というより、『常にチャレンジできる状態を保つため』のものだと思っています。チームをつくるというのは、仲良くなるためではなく、プロとしての成功確率を上げるための戦略です。

規模が大きくなったのは、あくまで結果。“面白い”と思ってくれる人たちが関わってくれるようになった。


当初3人で在宅医療をスタートしましたが、12年で約500人規模の組織になりました。最初からスキームを作ろうとか、大きくするために人脈を広げよう、という発想があったわけではなく、その時々の状況で、「どうやったらベストを尽くせるか」を、みんなで考えて、ひたすらやり続けてきただけです。

その結果として、仲間が集まってきた。

毎回、“面白い“と思ってくれる人たちが関わってくれるようになった。
学生時代から付き合いのある友人が参画してくれたこともありますが、最初から想定していたわけではありません。その時々の出会いを、大切にしてきただけです。

チームで働くことに対して、「自分はそんなにいい人じゃない」「言語化が得意じゃない」という人もいますが、チームで働くための姿勢は後から身につければいいと伝えています。当事者意識というのも、仕事上で身につけるべきチームブルーのメンバーとしての姿勢です。

最初から持っていてほしいのは、「人が好きであること」。そして、仕事を通じて人と良い関係をつくりたい。「私たちは、もっとよくなれる」と思える世界観を持っているかどうか。それだけです。

在宅医療・包括ケアの面白さ


私たちが向き合っているのは、患者さんやご家族一人ひとりのストーリーです。『亡くなる』という出来事に対して、時間が有限であることが、はっきりと見えている方々です。その限られた時間を、どう『いい時間』にしていくかを、一緒に考える。それが、私たちの仕事です。

在宅医療は、『いい時間』をつくるために、医療をどう使うかを考えるための道具だと思っています。急性期医療とは、考え方のベースがまったく違います。人の人生に関わりたい人にとって、地域包括ケアは、本当に面白い領域だと思います。

若い医師へ伝えたいこと


若い医師は、「キャリアの多様性」という言葉に悩みがちです。
でも、社会人経験10年以内の人がやるべきことは、シンプルです。
それは、自分の可能性を広げるための「修行」をすること。

昔は医局一択だった修行の場が、今はさまざまな選択肢に広がっています。
ただ大事なのは、「どこで修行するか」という視点。
楽な場所を選ぶと、長いキャリアの可能性を、自分で狭めてしまう。

だからこそ、自分の可能性を広げる修行ができる場所を選んでほしいと思っています。


東日本大震災から始まった、目の前の人のストーリーに向き合い、死も含めて生を支える医療のカタチ。
「私たちは、もっとよくなれる」——正解のない問いに向き合うチームと、ベストを尽くすための試行錯誤を重ねています。

前回の【前編】では、「もっと広い世界を見たい」と考えていた安井先生が、ジャパンハートで感じたこととは。その“コンプレックス”も振り返っています。



医療法人社団 焔(設立:2013年4月)HP:https://teamblue.jp/
「『温かい死』を通して、『人が人を想う』気持ちを大切にできる世界を作る。」をミッションに掲げ、「やまと診療所」「おうちでよかった。訪看」「ごはんがたべたい。歯科」「おうちにかえろう。病院」を運営。TEAM BLUEとして、目の前の患者さんとご家族の「ストーリーを支える」ことを大切に、地域医療における『最期まで自宅で過ごせる社会』の実現に貢献している。


メディカルジョブアワード2026は 2月28日(土)に開催

安井先生のお話を直接会場で伺える「メディカルジョブアワード2026」は2026年2月28日に開催いたします。ぜひ、お申込みの上でご参加ください。

※企業様のご参加は、スポンサーの方のみ受け付けています。
info@med-pro.jpまでご連絡ください。

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