この記事は、医療法人社団 静恒会 理事長/本多病院 院長 医師 石川 輝 氏 へ
ProDoctors運営が独自に取材した内容に基づく記事の【前編】です。

取材・撮影・文/ProDoctors運営

医療法人社団 静恒会 理事長/本多病院 院長 医師 石川 輝 氏

2015年聖マリアンナ医科大学卒。自治医大さいたま医療センター、さいたま市民医療センターを経て、現東京科学大学大学院総合診療医学分野臨床准教授、医療法人社団 静恒会理事長・本多病院院長。

30代で院長に就任し、中小規模病院の経営と臨床の両立に挑み続ける現場の実践者。臨床医として個々の患者に寄り添うとともに、地域社会と密にコミュニケーションを図りながら地域医療の持続可能性をいかに守るかという視点で、病院の進むべき道の新たな舵取りに挑んでいる。

ある小児科医との出会いが、医師という職業を「特別なもの」にしなかった

私は高校まで、埼玉県さいたま市の浦和区で育ちました。幼稚園の年長の頃、身長が低かったことをきっかけに病院を受診し、“成長ホルモン分泌不全症”であることが分かりました。親が病院に連れて行ってくれたんです。その時に診てくださった先生が、人生で最初に出会った「医師」という存在です。そこから高校2年生まで、ずっと同じ小児科医に診てもらっていました。長い年月を通して医師と関わる中で、私にとって「医師」は、特別な職業というよりも、身近な存在になっていました。

転機となったのは、高校最後の外来受診のときです。長年診てくれていた小児科医から、「将来何になりたいの?」と尋ねられました。正直、何も考えていなくて「あまり考えたことがないです」と答えたんです。すると先生は、「医者に向いていると思うよ」と言ってくださいました。この一言が強く心に残り、医学部に進み、そして小児科医を志しました。

「患者さんに寄り添う」より、「患者さんからも寄り添いたいと思ってもらえる医師」

この小児科医の存在は、今の自分の価値観にも大きく影響しています。
よく「患者さんに寄り添う」という言葉が使われますが、私はその表現に、どこか少し上から目線のニュアンスを感じてしまうことがあります。それよりも「この先生に寄り添いたい」と、患者さんからも思ってもらえる存在でありたい。そう思う背景には、私自身が患者として、「この人に頼りたい」と医師と向き合ってきた経験があるからかもしれません。

あとは「信頼できる第三者」という言葉がすごく好きです。家族以外の信頼できる相手がいるという意味で、自分はそういう、“信頼できる第三者”としての医師になれたらいいなと思っています。

初期研修医2年目、小児科で感じた違和感

聖マリアンナ医科大を卒業した後、地元が埼玉だったので、初期研修は埼玉県にある病院で行いました。当初は「小児科医になろう」と心に決めていたので、周りにも「小児科医になります」と言いながら研修を過ごしていました。
ですが初期研修2年目の夏、一番楽しみにしていた小児科を回っているときに、強い違和感を覚えました。
子どもが大好きだからこそ、医師として接することが難しいと感じたんです。

「本当に自分がやりたい医療は何だろう」と悩んでいた時、初期研修先の病院の副院長であり、現在の師匠でもある石田岳史(いしだ・たけし)先生に声をかけていただきました。副院長という立場の先生が、いち研修医の私に「飲みにいかないか」と声をかけてくださるとは思ってもいなかったので、驚きましたが、とても嬉しかったことを覚えています。一緒にお酒を飲みながら、石田先生は「君が本当にやりたいことは何だろうね」と問いかけてくださったんです。石田先生は自治医科大学出身で、地域医療を長く実践されてきた方でした。

石田先生から「総合診療や地域医療が合っているかもしれないね」と言われた時、初めて腑に落ちる感覚がありました。もともと「患者さんだけでなく、ご家族、さらにその周囲の地域まで含めて元気になってくれたら嬉しいな」という視点が自分の中に自然とあったので、「総合診療という道が合っているかもしれない」と言われたときに、「総合診療が自分のやりたいことだ」と気づいた瞬間でした。

首都圏を離れ、兵庫県の地域医療へ
ー「カサゴを踏んだ」という患者さんの診察も、新鮮だった。

私は初期研修を終えて、そのまま師匠についていく形で埼玉県にある病院で専攻医プログラムを受けました。そこのプログラムでは、へき地での研修に行くという決まりがありました。行き先にはいくつかの選択肢があったのですが、ちょうど当時の上司の先生が兵庫県出身で、「俺が30年前に勤めた病院が兵庫にあるから、そこを元気にしてこい」と言われて、チャレンジ精神で「わかりました!」とお返事しました。

それまで首都圏でしか生活したことがなかったので、西日本で暮らすのは初めてでした。
実際に生活してみると、方言や文化の違いなど、いわゆる“カルチャーショック”もありましたが、それがとても新鮮でした。山と海に囲まれた自然は、日本国内でありながら異国の地に来たような感覚で、毎日が楽しかったですね。診る疾患も、これまでとは大きく違いました。

例えば海が近いので、釣り針が刺さったまま来院される患者さんに「釣り針を取ってくれ!」と言われて、「診たことないな」と思っていたら、看護師さんが「先生こうやるんだよ」って処置の仕方を教えてくれたり。「カサゴを踏んで足が腫れた!」という患者さんもいたり。都市部では経験できない医療が、とても楽しかったです。月に3〜4回は各町を定期的に出向いて健康講話をしたり、集落のような小さな町に行ったりもしましたね。
在宅診療でご自宅に行くと、病院では見えなかった生活背景が見えてきます。患者さんの表情が、まったく違うんです。これは、急性期病院では全く経験できなかったことだと思っています。

その地域にいる医師が限られているからこそ背負った葛藤

もちろん楽しいばかりでなく悩んだこともありました。「最後は生まれ育ったこの町で最期を迎えたい」という若いがん患者さんのことは今でも覚えています。医師4年目の時でした。その地域で診療にあたることのできる医師は限られており、「ひとりで頑張らなければいけない」という思いを抱えていたのだと思います。「自分に何ができるのだろうか」と考える一方で、「本当に自分でいいのだろうか」と迷うこともありました。患者さんの抱える思いが複雑であればあるほど、「何が正解なのだろう」と葛藤は深まっていきました。
それでもあの時に本気で患者さんと向き合い、悩み抜いた経験は、今も確実に自分の中に生きています。

地域に歩み寄る中で生まれた信頼と広がりー観光大使就任という思いがけない経験

地域の方々との関わりを大切にしていく中で、少しずつ距離が縮まり、気付けば町の人たちから声をかけてもらえるようになっていました。病院の外で顔を合わせると、「先生、今度田植えのイベントがあるから来なよ」「藍染め体験があるけど来る?」「釣りやるけど一緒にどう?」と、そんな何気ない誘いをいただくことが増えていったんです。
特別なことをしようと思っていたわけではなく、ひとつひとつのご縁にありがたく参加させていただいているうちに、自然と地域の方々とのつながりが広がっていきました。医師として地域に関わるというより、一人の人間として町に受け入れてもらっている感覚に近かったかもしれません。

ある時、赴任先で始めた趣味のカメラで撮った風景写真を、外来の待合に飾ってみたことがありました。「待ち時間を少しでも心地よく感じてもらえたら」という、ささやかな取り組みだったのですが、町の方々から「あ、この写真はあそこだね」「自分たちの町って、こんなにきれいだったんだ」と声をかけていただき、想像以上に反響があったんです。
その評判を聞きつけた新聞社の方が取材に来てくださるなど、思いがけず話が広がっていき、結果的にそれがきっかけとなって、観光大使のお話をいただくことになりました。

今振り返ると、学生時代からもともと「コミュニティに関わること」「人と一緒に何かを作り上げること」は好きだったのだと思います。

さまざまなエピソードが重なり、その土地そのものを好きになっていきました。私は県外から来た人間でしたが、外から来たからこそ見える景色や価値があった。医師として役割を全うすることはもちろん、ひとりの人としての気づきを積極的に発信し、それを地域の方々に受け取ってもらえた結果が、観光大使という形につながったのかもしれません。


選択したのは元々目指していた小児科医ではなく“総合診療医”の道。
『コミュニティに関わっていく』——その行動力が、理事長・院長のオファーや若手医師支援の活動へとつながっていきます。

次回【後編】では、東京都内にある本多病院への理事長・院長就任までの経緯、そして、その枠に留まらず現在積極的に取り組んでいる「若手医師支援活動」とそれにかける思いについて、本人の言葉で掘り下げます。



医療法人社団 静恒会 本多病院(設立:1935年)HP:https://www.seikou-kai.jp/
内科、外科、整形外科などを有し、一般急性期病床と地域包括ケア病床を備えるケアミックス病院。『質の良い 安全な医療を 地域の皆さまに提供する』を理念に掲げ、コミュニティ&コミュニティホスピタルとして、地域に密着し、地域に必要とされ、地域に貢献する医療サービスの提供を目指している。


メディカルジョブアワード2026は 2月28日(土)に開催

石川 輝先生のお話を直接会場で伺える「メディカルジョブアワード2026」は2026年2月28日に開催いたします。ぜひ、お申込みの上でご参加ください。

※企業様のご参加は、スポンサーの方のみ受け付けています。
info@med-pro.jpまでご連絡ください。

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