中国では医療のデジタル化とAI活用が近年急速に進んでいます。政府の推進策や新型コロナウイルス流行を背景にオンライン診療の利用が爆発的に拡大し、オンライン医療機関(インターネット病院)の数もここ数年で桁違いに増加。またAI技術も医療画像の解析や診断支援などに本格的に活用され始めています。本記事では、AIを活用した画像診断の実例、オンライン診療の発展、人気医療アプリ「平安好医生(Ping An Good Doctor)」、そして医学生から見た課題と可能性について解説します。
AIを活用した画像診断の実例
中国では放射線科医不足や都市部と農村部の医療資源の格差といった課題もあり、AIによる画像診断支援が注目されています。例えば医療AIスタートアップのInfervision社は、肺CTなどの医用画像にディープラーニング技術を適用し、CT画像上の病変部位を自動検出して放射線科医の読影をサポートするシステムを開発しました。同社のAIを若手医師が利用したところ、病変発見率が従来比で約2倍に向上する成果が確認されています。 糖尿病網膜症や緑内障などを検出できる上海Airdoc社のAI眼底診断システムは、中国全土の医療機関へ導入が進み、専門医が不足する地域でも効率良く眼疾患を早期発見できます。また、中国の大手IT企業アリババの研究機関達磨院は、一つのモデルで8種類のがんを同時に検出・診断できるAIモデルを発表しました。複数の臓器にまたがる腫瘍を一括で見落とさず発見でき、放射線科医への強力な支援となると期待されています。
オンライン診療の発展と規模
インターネットを介したオンライン診療(遠隔医療)も中国で急成長しています。2020年には中国のオンライン医療サービス市場規模が約1960.9億元に達し、前年から46.7%拡大。新型コロナ禍で対面診療が制限される中、政府はオンライン診療を公的医療保険の適用対象に加え、遠隔診療の監督管理に関する方針を次々と打ち出して制度整備を進めました。その結果、各地の病院でオンライン診療システムが整備され、2021年までにインターネット病院の数は1600以上となり、オンライン診療件数も2019年比で20倍以上に増加しました。
具体的な例として、中国最大級のオンライン医療プラットフォーム「平安好医生」(Ping An Good Doctor)では、新型コロナ流行初期の2020年1月下旬〜2月上旬に新規登録ユーザー数が平常時の10倍、オンライン診療件数も9倍に急増。オンライン診療は、患者が自宅からスマホで医師に相談したり処方を受けたりできる利便性から、感染症流行後も日常的な医療アクセス手段として定着しつつあります。
スマホアプリ「平安好医生」の紹介
「平安好医生」(ピンアン・グッドドクター)は、中国平安保険グループ傘下のオンライン医療アプリです。スマホで24時間いつでも医師に相談でき、症状に応じて受診すべき診療科の案内や専門医のオンライン予約、医療機関・医師の検索、処方薬のネット購入・1時間配送、健康情報の提供などワンストップのヘルスケアサービスを提供しています。2019年末時点で登録ユーザー数は約3億1500万人、月間アクティブ利用者数は約6690万人。さらに2022年には有料会員数が4000万人を超え、年間提供したオンライン医療サービス件数は13億回以上に達しました。
同アプリの収益源は、オンライン診療の利用料や会員費、アプリ内での医薬品・ヘルスケア商品の販売、保険商品の提供などです。競合にはアリババ系の「阿里健康」(AliHealth)や京東系の「京東健康」(JD Health)、テンセント系の「微医(WeDoctor)」などがありますが、平安好医生は先行する知名度と利用者基盤を活かして市場をリードしています。


医学生から見た課題と可能性
将来の医師にはAIを使いこなす素養が求められ、中国では広東医科大学が国内初の「AI医学院」を設立するなど教育現場でも動きが始まっています。「医師の最も重要な役割は、病を治し、人を救うことです。AI時代の医師は、AIや内視鏡、放射線治療などの最先端医療技術を修得し、さらに国際的な先端知識にも対応する必要があります。」という提言もあります。
一方、テクノロジーが進んでも医療の人間味を損なわないことも重要です。AIは膨大なデータ分析や高度な診断支援が可能ですが、患者への共感や寄り添いはできません。中国でも「AIが医師を代替できるか」が議論されていますが、専門家は「診療や手術は依然として医師が担うべきで、AIはあくまで助手に過ぎない」と強調しています 。上海交通大学医学院の范先群院長は「医学は科学であると同時に人間の学問であり、どんな高度な技術が登場しても医師は患者への慈悲の心を忘れてはならない」と述べ、技術進歩に人文精神を融合させる重要性を指摘しています。
参考文献・情報源
- 中国のインターネット病院、今年6月現在で1600カ所超に
- 【Infervision 日本支社代表インタビュー】画像診断AIは人間の眼を超えるか?
- Santen とAirdoc、AI活用で中国における眼疾患の診断率向上に向けて提携
- 8種類のがんを同時検出するAI画像診断モデル、アリババの最先端研究機関が発表
- 中国のオンライン医療サービス市場の現状
- オンライン診療から薬の1時間配達まで。ユーザー3億人超えの中国医療サービス「平安好医生(Ping An Good Doctor)」徹底解説|テクノ大仏
- https://36kr.jp/199034/
- 人工智能赋能医学教育新范式,神州医疗助力全国首个AI医学院启动
- 专访范先群:期待医学教育拥抱人工智能,DeepSeek不能替代医生
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