中国の医療体制を理解するうえで欠かせないキーワードに「三甲病院」があります。これは中国の病院ランク制度における最高ランクの病院のことで、都市部の大病院と地方の小規模病院では医療水準に大きな開きがあります 。本記事では、中国の病院ランク制度(特に三甲病院)とは何かを解説し、その背景にある医療格差の現状や、実習で見た現場のリアル、さらに中国政府の政策と今後の展望について述べます。

中国の病院ランク制度(三甲病院)とは

中国には病院を等級で格付けする制度があります。病院は三級、二級、一級の3つのレベルに分類され、それぞれの級はさらに甲・乙・丙に細分されています 。中でも「三甲病院」(正式名称:三級甲等医院)は、医療の質や設備・サービスにおいて国家が最高レベルに分類した病院を指します。主に大都市に位置し、500床以上の病床と高度な診療科などあらゆる条件を備えた総合病院がこのランクに該当します。また、2022年末時点で中国全土に三甲病院は1716施設存在し、これは全国の病院約3.7万施設のうちわずか4%程度にすぎません。このように三甲病院は数も限られており、中国医療におけるトップ層を形成しています。

三級病院(三甲・三乙・三丙)

高度先進医療を提供する大規模病院。大学病院や専門病院を含み、医師数・設備ともに最も充実している。

二級病院

中規模の地域医療の中核などとなる病院。一般的な診療科を備えるが、規模や専門性は三級に劣る。

一級病院

小規模な病院や診療所などのレベル。地域の基礎的な医療サービスを担う。

医療格差の背景と現状

中国では都市と農村、そして大病院(三級)と中小病院(一級・二級)の間で医療格差が顕著です。多くの患者が「少しでも良い治療を受けたい」と都市部の三甲病院に集中し、地方の病院には患者が集まらない傾向があります。その背景にはいくつかの要因があります

医療水準と人材の偏在

沿岸部の大都市にある三級病院は先進国と遜色ない高度な医療設備・専門医を備えています。一方、地方や小規模病院では、医師・看護師の数や経験が不足し、高度医療機器を扱える人材も限られるため、サービスの質に差が生じています。患者も地元の小さな病院より、大都市の有名病院で診てもらいたいと考えるため、紹介状なしで自由に大病院へ受診できる中国では皆が三甲病院に殺到するのです。

「看病難、看病貴」の問題

中国では「病院にかかるのが難しく、かかれても医療費が高い」という意味の「看病難、看病貴」という言葉が社会問題として語られています。実際、北京など大都市の有名病院では朝早くから診察券を求めて徹夜行列ができ、数百円の整理券が数万円で転売されるような事態も報告されています。これは良質な医療資源が限られ、人々が何とかしてでも三甲病院で診てもらおうとする現状を物語っています。

大病院の過負荷と小病院の空洞化

こうした傾向により、三甲病院には患者が集中し常に満床状態です。ある報告によれば、中国の上級病院(三級)の病床稼働率は100%を超えるとされます。反対に基礎レベルの医療機関は患者が少なく、設備はあっても十分に活用されていないケースもあります。このように、医療資源と患者が一極集中する構造が、中国の医療格差を一層深刻なものにしています。

実習先で見た現場のリアル

筆者(医学生)は中国の三甲病院で臨床実習を行う機会に恵まれ、その現場で中国医療の最前線を肌で感じました。三甲病院には中国でも特に優秀な医師の方々が多く勤務されており、実習先でも指導医の先生方や先輩研修医の多くが、中国トップクラスの医学部を卒業・在籍されていました。毎日多くの患者さんが訪れ、遠方の農村から泊まりがけで来院される方も少なくありませんでした。
院内には最新の医療機器や専門チームが揃い、高度な治療が次々と行われていく様子は本当に圧巻で、医学生として大きな刺激を受けました。一方で、こうした高水準の医療が都市部に集中しているからこそ、地域によって医療を取り巻く環境が大きく異なることも感じました。この経験を通じて、中国の医療の力強さと、今後の医療のあり方について考えるきっかけをもらうことができました。

国の政策と今後の展望

医療格差を是正するために、中国政府も近年さまざまな政策を打ち出しています。2009年の医療改革(新医改)以降、農村部や内陸部での病院新設・拡充が進められ、沿岸部との医療水準格差を埋める取り組みが行われてきました。具体的には、分級診療制度(患者の病状に応じて適切なレベルの医療機関で診療を行う仕組み)の整備が重視されています。従来のようにすべての患者が直接大病院に押し寄せるのではなく、まず基礎的な医療は社区医院(コミュニティクリニック)や県病院で受け、専門的治療が必要な場合に上位病院に紹介する体制を目指しています。また、遠隔医療(オンライン診療)の推進や、農村部での健康啓蒙活動なども進められ、地方にいながら高度医療の指導を受けられる環境整備も図られています。

加えて、地方の医療水準底上げのため県級病院の格上げにも力を入れています。2018年には県級病院の総合能力向上計画が策定され、2020年までに500の県病院を三級水準に引き上げる目標が掲げられ、2021年からは「千県工程」として2025年までに1000の県病院を三級病院レベルに到達させるプロジェクトが始動しました。その成果も現れつつあり、2024年初頭時点で県級の三甲病院は全国で83箇所に達しています。

中国は今後ますます高齢化が進み、医療需要の増大が予想されます。医療格差の是正には時間がかかりますが、政府の取り組みにより少しずつ改善の兆しが見え始めており、今後の動向が注目されます。

参考資料
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  2. https://shvoice.com/learning/82457.html
  3. https://finance.sina.cn/stock/med/2023-10-12/detail-imzqwnec2587326.d.html
  4. 保健省および主要医療機関の概要・基礎情報-中国における医療機関の概要
  5. https://view.inews.qq.com/k/20240130A06KNS00?web_channel=wap&openApp=false
  6. https://www.oecd.org/en/topics/health.html
  7. 【三甲医院是什么意思 | 百度健康·医学科普】
  8. 【三级甲等医院_百度百科】
  9. 【医院等级划分标准_百度百科】
  10. 【一级医院_百度百科】
  11. 【二级医院_百度百科】

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