国際的な環境で育ち、中国のトップ医学部で学ぶ韓国人医学生。見据えるのは、美容皮膚科医としてアジアをまたにかけた活躍。留学のリアルから将来の夢まで、たっぷり語っていただきました。
プロフィール
小さい頃からインターナショナルスクールに通い、英語と中国語を学んできました。現在は、中国国内の医学部の中でもトップクラスの大学に在学しており、6年制の課程のうち現在は5年生です。
卒業後は中国の医師国家試験を受験し、アジア圏で皮膚科医としての勤務を予定しています。
趣味は料理で、よく周囲の人のために美味しい料理をふるまってくれます。下の写真は実際に作った料理の数々で、どれもお店で出せるほどの絶品です。





医学部を目指した理由と背景
医学部を目指すようになったのは、どんな経験や思いがあったからですか?
小さい頃、車のドアに手を挟んでしまい、救急で病院に運ばれたことがありました。とても痛くて怖くて泣き続けていた私に対して、担当してくださった先生は一度も怒ることなく、優しく手を縫ってくれました。おかげで今では指も問題なく動かせるようになり、当時の感謝の気持ちは今でも忘れられません。 そのとき、「こんなふうに人を助けられる医師って、なんてかっこいいんだろう」と思い、私も将来、誰かの力になれる医師になりたいと強く思うようになりました。
今の大学を選ぶときに大切にしていたこと、こだわったポイントはありますか?
大学を選ぶ際に私が大切にしていたのは、「どうすれば優秀な医師になれるか」という視点でした。中国で有名な大学の一つである清華大学には医学部がなく、進路を真剣に考えた結果、医学部を有し、かつ中国トップクラスの総合大学である現在の大学を選びました。優秀な学生たちと切磋琢磨しながら、最高水準の教育環境で学べることが大きな魅力でした。
現在通っている大学の医学部に入るということは、その名誉と期待を背負うことでもあります。「所属する医学部の学生」としての責任感が常に自分を律してくれ、それが自らを成長させる原動力となり、日々の学びへのモチベーションにもつながっています。
なぜ中国の医学部を選んだのですか?
もともと、父方の祖母が「これからは中国語が大事になる」と言って、華僑や台湾出身の生徒が多い韓国のインターナショナルスクールに通わせてくれました。そのような環境の中で、自然と中国語に触れる機会が増えていきました。
せっかく中国語を学んできたのなら、この言語を活かして学びたいと思い、中国の大学で医学を学ぶという進路を選びました。
学生生活での苦労と工夫
医学部生活で一番苦労したこと、それをどう乗り越えたかを教えてください。
医学部生活で苦労したことは、大きく4つあります。
1つ目は、生活環境への適応です。中国では空気が悪い日もあり、交通量も非常に多いため、車やバイクが危険に感じられる場面が多々ありました。また、騒音や渋滞にも悩まされ、慣れるまでに時間がかかりました。空気清浄機を活用したり、混雑する時間帯を避けて外出するなど、自分なりの工夫を重ねて、徐々に環境に順応していきました。
2つ目は、食生活です。中国の料理は油分が多く、当初は体調を崩すこともありました。そこで、自炊を始め、なるべく胃に優しい料理や、慣れ親しんだ韓国料理、好物を取り入れることで、健康を維持しながら学業にも集中できるようになりました。
3つ目は、試験と実習の両立です。特に「统考(中国版CBTのような試験)」では、占める単位数が多く、2科目以上落とすと退学の可能性もある厳しい試験です。実習と並行して、外国語で4科目を一度に受験しなければならず、心身ともに大きな負担となりました。そんな時、自分の好きなウィスキーの瓶を机に置き、「試験が終わったら一杯飲もう」と決めて、それを励みに乗り越えることができました。
4つ目は、言語面での苦労です。インターナショナルスクール時代は繁体字が中心だったため、正式に入学してから簡体字への切り替えに苦労しました。ですが、授業や日常生活の中で一つひとつ地道に学び、今では問題なく使いこなせるようになりました。 これらの経験を通して、異文化や環境の違いに柔軟に対応する力、そして困難に直面しても前向きに工夫しながら乗り越える力を培うことができたと感じています。
勉強や実習で自分なりに工夫していること、モチベーションを保つコツがあれば教えてください。意識して身につけようとしているスキル・能力は?
勉強や実習において私が工夫していることの一つは、「同じ内容を繰り返し見て頭に入れる」という学習法です。一度に完璧に覚えようとするのではなく、隙間時間にも同じ資料に何度も触れることで、無理なく知識を定着させるよう心がけています。
モチベーションの維持に関しては、退学に対する危機感が大きな原動力になっています。実際に、统考に合格できずに退学してしまった友人がいて、その姿を目の当たりにしたことで、大きなショックと同時に、「自分も継続的に努力をしなければ同じ結果になりかねない」という強い自覚が芽生えました。退学してしまえば、医師になるという目標も絶たれてしまいます。そのため、「絶対に退学は避けたい」という気持ちが、今の学習への強い動機づけとなっています。 また、現在特に意識して身につけようとしているのは「言語力」です。日本語・中国語・英語という三つの言語を活かして、将来的には国際的な場でも活躍できる医師を目指しています。日々の実習や学びの中でも、語学力の向上を常に意識しながら取り組んでいます。
医療現場での印象的な体験
実習や見学の中で、今でも心に残っている出来事があれば教えてください。
実習や見学の中で、今でも心に深く残っている出来事が2つあります。
1つ目は、初めてがんの患者さんと接したときのことです。病棟で毎日見かけていた方が、ある日突然姿を見せなくなり、不思議に思って先生に尋ねたところ、「亡くなられた」と聞きました。ほんの数日前まで笑顔で過ごしていた方が、突然この世を去られたという現実に、言葉を失うほどの衝撃と胸の痛みを感じました。医療の現場では、人の命の重さと真正面から向き合う覚悟が求められるのだと、強く実感した出来事でした。
2つ目は、整形外科の問診で対応した患者さんのケースです。カップルの間で喧嘩があり、その中で一方が自傷行為を行い、皮下脂肪層まで達する深い傷を負っていました。その傷の写真を見たとき、自傷という行為が単なる外傷ではなく、深い精神的苦痛の表れであることを痛感しました。身体の治療に加え、心のケアの重要性にも目を向けなければならないと、改めて考えさせられました。
これらの経験を通して、医師に求められるのは医学的な知識や技術だけではなく、患者さんの「生と死」、そして「心の痛み」にも寄り添う姿勢であると強く感じました。これからもそのような視点を大切にして学び続けていきたいと思っています。
人柄・価値観がわかる問い
あなたが大切にしている信念や、「こんな人間でありたい」という思いがあれば教えてください。
患者さんに副作用などの負担が生じないよう最善を尽くし、たとえ再び治療に訪れることがあっても、その方の人生に責任を持つ覚悟で、継続的に診療にあたっていきたいです。また、患者さん一人ひとりの背景や価値観を理解し、医学的な最善だけでなく、その人にとっての最善を見つけられる医師でありたいと思います。
将来のビジョン
将来、どんな分野や地域で、どんなふうに患者さんと関わりたいと考えていますか?
【希望する分野】
皮膚科(特に美容領域)を志望しています。スキントリートメントなど、美容皮膚科における施術に関心があります。
【希望する地域】
将来的には、韓国(派遣では東南アジアやアラブ地域に行く可能性)または中国での勤務を考えています。
韓国では、現地に拠点を置きながら、東南アジアやアラブ地域に短期間派遣される形で、美容目的の自由診療に携わりたいと考えています。
一方、中国では、まずは美容クリニックの常勤医として経験を積んだ後、韓国式の美容病院を中国で開設することも視野に入れています。
【患者さんとのコミュニケーション】
患者さんとのコミュニケーションにおいては、医学部でのOSCEで学んだスキルを基に、信頼関係を築くことを大切にしています。相手の話をしっかりと傾聴し、納得のいく説明と丁寧な対応を心がけています。
母国で医師免許を取得する予定はありますか?
現在、中国の医学部を卒業した人は韓国で医師国家試験を受けることができません。そのため、私は韓国では国家試験を受ける予定はなく、中国で医師国家試験を受験するつもりです。
中国の医師免許を取得すれば、韓国に住みながらでも、東南アジアやアラブ地域などへの短期派遣医師として働くことは可能だと考えています。
中国の医療
今の中国医療現場で、医師に最も求められている力は何だと感じますか?
私は中国の医療現場での経験を通じて、医師に最も求められるのは「継続して学び続ける力」だと実感しています。
医療は日々進歩し、新しい知識や技術が次々と生まれています。そのため、常に最新の医療情報の収集に努め、自分の知識や技術を更新し続けることが、これからの時代にはますます重要になると感じています。
私自身も、学び続ける姿勢と継続力を意識的に養いながら、信頼される医師を目指していきたいと思います。
中国で医師として活躍するために必要だと感じる能力や素質について教えてください。また、学生のうちに身につけておくべきスキルや考え方があればあわせて教えてください。
中国で医師として活躍するために必要だと感じる能力や素質は、大きく5つあります。
1つ目は、「確かな専門知識と技術」です。診断・治療の正確さを支える基盤として、常に自分の知識と技術を磨き続ける姿勢が欠かせません。
2つ目は、「高い職業倫理」です。患者さんの利益を最優先に考え、誠実で責任ある姿勢で医療に向き合うことが、信頼される医師には求められると感じます。
3つ目は、「強靭な精神力」です。中国の医療現場は非常に多忙で、ストレスも大きいため、冷静な判断力と精神的なタフさが不可欠です。
4つ目は、「必要な医療を見極める判断力」です。中国の医療保険制度には制限があり、限られた医療資源の中で、無駄のない、患者さんにとって本当に必要な医療を提供する力が重要です。実際に実習の中で、経済的に厳しい状況にある患者さんに対して、医師が最小限の検査と治療で最大限の効果を目指して尽力している姿を目にし、深く心を打たれました。そうした判断力と思いやりの両方が求められるのだと実感しました。
5つ目は、「柔軟なコミュニケーション力」です。中国は地域によって方言や文化的背景が大きく異なるため、患者さんに応じた適切なコミュニケーション方法を見つける能力が必要だと感じています。
また、学生のうちに身につけておくべきスキルとしては、上級医から積極的に学ぶ姿勢、病気の見方や臨床思考、そして患者さんとの信頼関係を築くコミュニケーション力が挙げられます。加えて、現場で目にした「好ましくない対応」や「非効率な点」に対して、自分ならどう改善できるかという視点を持ち、常に問題意識を持って学ぶ姿勢を大切にしていきたいと考えています。
中国の医療現場では、どのような医師が”信頼される”“評価される”と感じますか?
私の考えでは、信頼される医師とは、しっかりした専門知識だけでなく、優れたコミュニケーション能力も備えている人です。患者さんの声に耳を傾け、病状を丁寧に説明し、精神的な支えを提供し、患者さんの緊張を解きほぐすことが信頼の鍵だと思います。 また、中国の医療現場では、効率性と質の両立を図れる医師が高く評価される傾向があると感じています。多くの患者さんを診察しながらも、一人ひとりに適切な医療を提供する能力が重視されているように思います。
近年の中国医療の変化(AI導入、地域医療の発展など)を学生としてどう感じていますか?
近年の中国医療の変化について、学生として特に印象に残っているのは、AI技術の導入とその進展です。
放射線科(画像診断科)の見学の際、担当の先生から「中国では著名な医師の知識や診断能力をAIが学習し、今はまだ小さな結節でも、将来的にがん化する可能性があるかどうかを予測できる技術が開発されている」と聞き、大変驚きました。こうした実例を通して、中国の医療AIは想像以上に進んでいると実感しました。
同時に、AI技術が今後さらに発展していく中で、医師としてそれを正しく理解し、適切に活用する能力が不可欠であると痛感しました。AIを補助的なツールとして使いこなし、最終的な判断を人間が責任を持って下すという姿勢を、学生のうちから意識して学んでいきたいと思っています。
日本をはじめとする他国の医学生と交流したことがあれば、その経験を通じて感じた違いや学びについて教えてください。
私の学んでいる環境には、中国・日本・アメリカ・アフリカ・ヨーロッパなど、世界中から医学生が集まっており、日々多様な国の学生と交流する機会があります。
こうした交流を通じて、各国の医療に対する考え方や、問題解決のアプローチの違いを学ぶことができました。その経験を通して、「問題の解決方法は一つではない」という柔軟な視点が身につき、困難に直面したときも、さまざまな角度から解決策を考えられるようになりました。
また、各国の医療観や価値観を知ることで、将来、異なる国籍や文化的背景を持つ患者さんに対応する際にも、それぞれに寄り添った医療を提供する力が養われたと感じています。
その他
母国の医学部にも、日本人留学生が在籍しているケースはありますか?
韓国の医学部は、あまり海外からの留学生を受け入れていない印象があります。少なくとも私自身は、これまでに日本人留学生と出会ったことはありません。
母国の医療機関に、日本人医師が勤務していることはありますか?
韓国には、日本人医師が勤務している医療機関はごく少数のように感じます。現在、仁川近郊にインターナショナル病院が新設される計画があり、将来的には各国から医師を招く可能性もあることから、日本人医師が勤務する可能性もあるかもしれません。
ただし、インターネットなどで調べる限り、英語を話せる外国人医師は一定数見かけるものの、日本人医師はかなり少ない印象です。背景には、たとえ日本で医師免許を持っていたとしても、韓国で医師として働くには韓国の医師国家試験に合格する必要があるという制度的なハードルがあることも関係していると思います。
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