【Part 2:経営戦略論 – 医療現場で活かす戦略的思考】

前回は、病院が競争優位性を築くための戦略として、差別化戦略とブルーオーシャン戦略について解説しました。今回は、病院経営において非常に重要な分析ツールであるSWOT分析について、より実践的な視点から解説します。

SWOT分析とは

SWOT分析とは、組織の内部環境と外部環境を分析し、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つの要素を洗い出すフレームワークです。

SWOT分析を行うことで、病院の現状を客観的に把握し、強みを活かし、弱みを克服し、機会を捉え、脅威を回避するための戦略を策定することができます。

SWOT分析のフレームワーク

1.内部環境分析
  • 強み(Strengths)
    医療技術:高度な医療技術、専門性の高い医師、最新の医療設備、 特定分野における実績・症例数、医療ミス発生率の低さ
    人材:優秀な医療従事者、専門性の高い看護師、経験豊富なスタッフ、 チームワーク、人材育成システム
    施設・設備:充実した医療設備、快適な入院環境、アクセスの良さ、 最新のITシステム
    経営: 経営の安定性、資金力、ブランド力、地域社会からの信頼
    その他:患者満足度、待ち時間の短さ、医療サービスの質の高さ、 独自の医療サービス、地域貢献活動
  • 弱み(Weaknesses)
    医療技術:特定分野の専門性の不足、医療設備の老朽化、医療ミスの発生率
    人材:医師・看護師不足、スタッフのスキル不足、人材育成の不足、 離職率の高さ
    施設・設備:施設の老朽化、設備の不足、アクセスの悪さ、IT化の遅れ
    経営: 経営の不安定性、資金不足、知名度の低さ、ブランド力の弱さ
    その他:患者満足度の低さ、待ち時間の長さ、医療サービスの質の低さ、 クレームの多さ
2. 外部環境分析
  • 機会(Opportunities)
    社会:高齢化社会、健康志向の高まり、医療ニーズの多様化、 医療費増加、医療制度改革
    技術:医療技術の進歩、AI・IoTの活用、オンライン診療の普及
    経済:地域経済の活性化、医療ツーリズム
    競合:競合病院の経営状況、競合病院のサービス
  • 脅威(Threats)
    社会:少子高齢化、医療費削減、患者意識の変化、感染症の流行
    技術:医療技術の進化による陳腐化、サイバー攻撃のリスク
    経済:地域経済の低迷、医療費抑制政策
    競合:競合病院の増加、競合病院の新規サービス、競合病院の価格競争
医療機関におけるSWOT分析の活用事例
  • 地域の中核病院
    強み:高度な医療技術、豊富な診療科、救急医療体制
    弱み:待ち時間の長さ、職員の負担増加
    機会:高齢化社会、在宅医療ニーズの増加
    脅威:医療費削減、競合病院の増加

→戦略事例
・強みを活かし、専門性の高い医療を提供することで患者満足度を高める。
・弱みを克服するため、オンライン診療や予約システムを導入し待ち時間削減に取り組む。
・機会を捉え、在宅医療サービスを拡充する。
・脅威に対応するため、経営効率化を図り、コスト削減を進める。

  • クリニック
    強み:特定疾患の専門性、患者との密なコミュニケーション
    弱み:知名度の低さ、限られた医療設備
    機会:健康意識の高まり、予防医療ニーズの増加
    脅威:競合クリニックの増加、オンライン診療の普及

→戦略事例
・強みを活かし、専門性をさらに高め、特定疾患の患者に特化したサービスを提供する。
・弱みを克服するため、ホームページやSNSを活用し、積極的に情報発信を行う。
・機会を捉え、健康診断や予防接種などのサービスを充実させる。
・脅威に対応するため、オンライン診療を導入し、利便性を向上させる。

分析結果に基づいた戦略策定のポイント

  • クロスSWOT分析:強みと機会を組み合わせた「積極戦略」、弱みと機会を組み合わせた「転換戦略」、強みと脅威を組み合わせた「防御戦略」、弱みと脅威を組み合わせた「撤退戦略」の4つの戦略を検討する。
  • 優先順位をつける: 多くの戦略候補の中から、自院にとって最も重要な戦略に資源を集中させる。
  • 具体的施策を検討する:戦略を実行するための具体的な施策を検討する。
  • 実行と評価:戦略を実行し、定期的に評価を行い、必要があれば修正する。

まとめ

SWOT分析は、医療機関の現状を把握し、未来を創造するための羅針盤となる重要なツールです。内部環境と外部環境を分析し、4つの要素を明確にすることで、病院は自らの進むべき道をより明確に描くことができます。

【次回予告】医療機関を取り巻く外部環境を分析するためのフレームワークであるPEST分析について

次回は、医療機関を取り巻く外部環境を分析するためのフレームワークであるPEST分析について解説します。

  • PEST分析のフレームワークを解説
  • 医療政策、医療技術、社会環境などの変化を分析
  • 分析結果を踏まえた経営戦略への活用方法を解説

医療機関の経営において、外部環境の変化を的確に捉え、対応していくことは非常に重要です。次回もぜひご一読ください。


著者:鎌形博展
医師、株式会社EN 代表取締役、医療法人社団季邦会 理事長、東京医科大学病院 非常勤医師

東京都出身。埼玉県育ち。
明治薬科薬学部を卒業後、中外製薬会社でMRとなるも、友人の死をきっかけに脱サラして、北里大学医学部へ編入する。
卒業後は東京医科大学病院救命救急センターにて救急医として従事。2017年には慶應義塾大学大学院にて医療政策を学び、MBAを取得。東北大学発医療AIベンチャー、東京大学発ベンチャーを起業した他、医療機器開発や事業開発のコンサルティングも経験。2019年、うちだ内科医院を継承開業。以降、2020年に医療法人季邦会(美谷島内科呼吸器科医院)を継承し、2021年には街のクリニック 日野・八王子を新規開業。2023年には株式会社EN創業。国際緊急援助隊隊員・東京DMAT隊員・社会医学系専門医。趣味はBBQ。43歳で剣道・フェンシングを再開

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